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第四章 自分じゃない自分
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「せーんぱーい、無理やりは良くないと思いますけど? その子、泣いてるじゃないすか」
こちら側からは古賀くんの姿しか見えなくて、階段下で何が起きているのかはよく分からない。だけど、泣いているって言うのは、きっとまりんちゃんのことだ。
辺りはほとんど人がいなくて、だけど、古賀くんの声に足を止める人もいる。
「良いんですか? 三年の大事な時期にこんなことして。将来有望な先輩が勿体無い」
「うるせぇ! 古賀に何が分かる!」
古賀くんよりも大きな声で飛び出してきた男子生徒が、走ってあたしの横を通り過ぎていった。
見たことがあるのは当たり前だった。近くで見てすぐに分かった。生徒会長だ。
「なーんもわかんねーんだけど」
先輩の走って行った方を向いて、呆れたように古賀くんが睨む。
「ねぇ、涼風、早くこっち来てよ」
「……あ」
頷いて、あたしは階段下まで急ぐ。
ぺたりと座り込んで小さく震えるまりんちゃんの姿に、愕然とした。
「まりんちゃん……?」
「涼風ちゃんっ! 怖かったよぉ……」
震える手であたしに抱きついてくるから、まりんちゃんをしっかり包み込んであげた。
「あれさ、彼氏かなんかなの?」
古賀くんが確認するみたいに聞いてくる。
まだ答える余裕のないまりんちゃんに変わって、あたしが顔を上げて代わりに答えた。
「違う。まりんちゃんの彼氏は別の人だよ」
「は? ならちゃんとそいつに言っとけ。こんな簡単に襲われるような見た目と格好させんじゃねぇって」
「……え?」
「噂立ってんだよ。二年の高橋まりんは誰とでもヤラせてくれるって。生徒会長までそんな噂間に受けて。バカだよな」
そんな噂、あたしは知らない。
「……え、そう、なの?」
俯いたままのまりんちゃんに聞くと、小さく首を振った。
「リュウくんは悪くない。あたしが変わりたかったからこんな格好してるんだよ。良いじゃん、可愛くなったって。周りがおかしいんだよ。なんでそんな目で見るの? あたしはリュウちゃんだけに可愛いって思ってもらえたらそれで良いのに」
「リュウちゃんって彼氏はさ、あんたの見た目だけが好きなの? ってか、見た目だけ好きになってほしいの? それっておかしくない?」
「そんなこと、言ってない」
「見た目なんて関係なくない? 好きなら中身を見ればいいのに……まぁ、別に俺には関係ないし。とりあえず気をつけなよ。今度はリュウちゃんって彼氏にちゃんと守ってもらいなー」
腑に落ちない顔を一瞬だけしてから、古賀くんは行ってしまった。
あたしが呼び止めて助けてもらったのに、お礼も言えなかった。そして、あたしはただ、まりんちゃんの肩をさすってあげることしか出来ない。
「……ごめんね、涼風ちゃん」
落ち着きを取り戻したまりんちゃんは小さくため息をついてから謝る。
「幸せ、逃げちゃうよ?」
「……あ、そっか、はは」
あんなに元気いっぱいなまりんちゃんが、今は落ち込んでいる。
「キャラ、作りすぎてたかも。可愛くメイクして、格好も派手にして、彼氏作って楽しくいようって、毎日頑張りすぎてたかも。まさか、生徒会長にまで襲われるとか、ないよね?」
また、小さく笑うから、あたしはまりんちゃんの隣に腰を下ろして座った。
「休み明けのテストで点数が思うように取れなかったって。ずっと勉強ばっかりで嫌になったからヤらせろって。意味わかんない」
ぎゅっと両腕で包み込むみたいに小さくなるまりんちゃんに、胸がギュッとなった。
やっぱり、自分を変えるってことは、今までの自分とは違うものを作り出すことなんだ。まりんちゃんが初めからこんな感じの子じゃなかったのを、あたしは知っている。きっと、自分を変えるって、相当勇気がいることだと思う。だって、絶対に疲れる。自分じゃない自分を作り出すなんて、そんなのあたしだったら絶対に……
そこまで考えて、あたしはふと、自分じゃない自分って言葉に違和感を感じた。
本当の自分ってものが、よく、分からない。
こちら側からは古賀くんの姿しか見えなくて、階段下で何が起きているのかはよく分からない。だけど、泣いているって言うのは、きっとまりんちゃんのことだ。
辺りはほとんど人がいなくて、だけど、古賀くんの声に足を止める人もいる。
「良いんですか? 三年の大事な時期にこんなことして。将来有望な先輩が勿体無い」
「うるせぇ! 古賀に何が分かる!」
古賀くんよりも大きな声で飛び出してきた男子生徒が、走ってあたしの横を通り過ぎていった。
見たことがあるのは当たり前だった。近くで見てすぐに分かった。生徒会長だ。
「なーんもわかんねーんだけど」
先輩の走って行った方を向いて、呆れたように古賀くんが睨む。
「ねぇ、涼風、早くこっち来てよ」
「……あ」
頷いて、あたしは階段下まで急ぐ。
ぺたりと座り込んで小さく震えるまりんちゃんの姿に、愕然とした。
「まりんちゃん……?」
「涼風ちゃんっ! 怖かったよぉ……」
震える手であたしに抱きついてくるから、まりんちゃんをしっかり包み込んであげた。
「あれさ、彼氏かなんかなの?」
古賀くんが確認するみたいに聞いてくる。
まだ答える余裕のないまりんちゃんに変わって、あたしが顔を上げて代わりに答えた。
「違う。まりんちゃんの彼氏は別の人だよ」
「は? ならちゃんとそいつに言っとけ。こんな簡単に襲われるような見た目と格好させんじゃねぇって」
「……え?」
「噂立ってんだよ。二年の高橋まりんは誰とでもヤラせてくれるって。生徒会長までそんな噂間に受けて。バカだよな」
そんな噂、あたしは知らない。
「……え、そう、なの?」
俯いたままのまりんちゃんに聞くと、小さく首を振った。
「リュウくんは悪くない。あたしが変わりたかったからこんな格好してるんだよ。良いじゃん、可愛くなったって。周りがおかしいんだよ。なんでそんな目で見るの? あたしはリュウちゃんだけに可愛いって思ってもらえたらそれで良いのに」
「リュウちゃんって彼氏はさ、あんたの見た目だけが好きなの? ってか、見た目だけ好きになってほしいの? それっておかしくない?」
「そんなこと、言ってない」
「見た目なんて関係なくない? 好きなら中身を見ればいいのに……まぁ、別に俺には関係ないし。とりあえず気をつけなよ。今度はリュウちゃんって彼氏にちゃんと守ってもらいなー」
腑に落ちない顔を一瞬だけしてから、古賀くんは行ってしまった。
あたしが呼び止めて助けてもらったのに、お礼も言えなかった。そして、あたしはただ、まりんちゃんの肩をさすってあげることしか出来ない。
「……ごめんね、涼風ちゃん」
落ち着きを取り戻したまりんちゃんは小さくため息をついてから謝る。
「幸せ、逃げちゃうよ?」
「……あ、そっか、はは」
あんなに元気いっぱいなまりんちゃんが、今は落ち込んでいる。
「キャラ、作りすぎてたかも。可愛くメイクして、格好も派手にして、彼氏作って楽しくいようって、毎日頑張りすぎてたかも。まさか、生徒会長にまで襲われるとか、ないよね?」
また、小さく笑うから、あたしはまりんちゃんの隣に腰を下ろして座った。
「休み明けのテストで点数が思うように取れなかったって。ずっと勉強ばっかりで嫌になったからヤらせろって。意味わかんない」
ぎゅっと両腕で包み込むみたいに小さくなるまりんちゃんに、胸がギュッとなった。
やっぱり、自分を変えるってことは、今までの自分とは違うものを作り出すことなんだ。まりんちゃんが初めからこんな感じの子じゃなかったのを、あたしは知っている。きっと、自分を変えるって、相当勇気がいることだと思う。だって、絶対に疲れる。自分じゃない自分を作り出すなんて、そんなのあたしだったら絶対に……
そこまで考えて、あたしはふと、自分じゃない自分って言葉に違和感を感じた。
本当の自分ってものが、よく、分からない。
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