晩夏光、忘却の日々

佐々森りろ

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第四章 自分じゃない自分

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 次の日、学校の手前のコンビニ前で古賀くんの姿を見つけた。目が合うなり手を振ってくるから、あたしは辺りを見回してから自分に振っているんだと気が付いて、足取りがゆっくりになる。

「おはよう、涼風」
「……おはよう」
「昨日はありがとな。嬉しかった!」

 満面の笑みで話しかけられて、古賀くんが学校へと歩き出す。
 これは、付き合っていた時の朝の登校と同じパターンだけど、今は付き合っていないし、友達でもないし、フラれてるし、なのに一緒に登校するってよく分からないよね?
 一度立ち止まって、古賀くんから距離を取る。
 あたしが着いてきていないことに気がついたのか、古賀くんが振り返った。

「どうした?」

 いや、どうした?、じゃないよね?
 あたし、もうフラれて彼女じゃないし、古賀くんと一緒に歩く権利ないし、恋の応援はするとは言ったけど、友達になるとは言ってないし。
 頭の中で色々と考えて返答に困ってしまうと、隣に誰かの気配を感じた。目の前にラムネサイダーのペットボトルが差し出されて驚く。

「おはよ。なんか、揉めてる?」

 ラムネサイダーを持つ腕を辿って顔を上げると、西澤くんが困った様な顔であたしを見ていた。

「……あ、西澤くん」
「古賀、俺杉崎さんに課題教えてもらわなきゃないから、連れてくねー」
「え、」

 ラムネサイダーをもう片方の手に持ち替えて、あたしの手を取る西澤くんの手のひらは冷えたペットボトルのせいかひんやりと冷たくて少し湿っていた。
 古賀くんの横を手を繋がれて通り過ぎる。驚いた様に目を見開く古賀くんの顔が、一瞬だけ視界に入った。
 昇降口まで来ると、思い出した様に西澤くんがあたしから手を離した。

「あ、ごめん、つい」
「ううん」

 そのまま靴を脱いで、上履きに履き替えている西澤くんの顔が赤く見える。
 ひんやり感じたのは一瞬で、強くて暖かい手のひらの感触がまだ右手に残っていて、ドキドキする。

「……古賀と、なんかあった?」

 心配そうに聞かれて、あたしはどう説明したら良いのか分からずに黙ってしまった。

「ごめん、なんか杉崎さんが困ってる様な顔してたから、強引に連れてきちゃったけど、古賀に勘違いされたらまずいよな。後で俺からフォローしとくから。ごめん」

 謝る西澤くんに、あたしはようやく靴を脱いで上靴に履き替えた。

「謝らなくていいよ」
「……でも」

 困っていたのは本当だから、西澤くんがきてくれて安心したのは本当だ。悪いことなんて何もないから、謝ってほしくない。

「とりあえず、まだ大丈夫だから。心配しないで」

 西澤くんより先に教室を目指して歩き出す。
 何かはあったけど、べつに何もない。
 だから、まだ大丈夫。西澤くんに心配されるようなことはない。
 教室に入れば、前の席で振り返った葉ちゃんがジトっとした目であたしを見ている。
 何が言いたいのかは分からないけど、たぶん怒っているような、気がする。

「お、おはよう、葉ちゃん」
「おはよう……」

 カバンを置いて椅子に座るあたしに、何か言いたげにいるけど、挨拶の後の言葉は続かない。
 あたしが何かを伝えなければならないのだろうかと思って、とりあえず笑ってみる。

「……涼風さ、昨日古賀くんといた?」
「……え?」

 ようやく視線を合わせた葉ちゃんが話し出す。

「帰りにたまたま通った公園のベンチに、二人が座って話してるのが見えたんだよね」

 葉ちゃんは洞察力が高い。前にも花火大会で古賀くんと七美が一緒のところを見たと言っていたけど、よく人を見ている。確かめるように聞いてくるけど、確信を持ってあたしと古賀くんだったと言って聞いてきている気がする。
 確かに昨日、公園のベンチであたしは古賀くんと話していたから。

「……偶然、古賀くんと会って、それで、呼び止められて」
「謝られたの?」
「……うん、謝ってた」

 ごめんって、言われた。でも、なんだかあたしの全部を否定されたみたいで悲しかった。
 元カノと友達になってほしいとか、付き合っていたことを無かったことにしてとか、よく分からないことを言い出す古賀くんに困惑した。だけど、結局は。

「古賀くんの恋の応援をすることになった」
「……は!?」

 ポツリと漏らしたあたしの言葉に、葉ちゃんが勢いよく立ち上がった。教室が一瞬だけシンッと静まって、またすぐにザワザワと元に戻る。
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