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第四章 自分じゃない自分
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ご飯を食べて部屋に戻ると、置きっぱなしにしていたスマホを手に取った。
通知が何件か来ている。その中に、古賀くんの名前を見つけた。
心臓がドキリと鳴る。
ずっと、ここに古賀くんの名前が表示されたら良いのにと思っていたはずなのに、今はこのメッセージになにが書かれているのか、見るのが少し怖くなる。
今日、古賀くんと話して、古賀くんのお願いを受け入れなかったことを思い返すと、胃が痛む。
今までみたいに良いよって言えなかった自分に、今更後悔している。
ほらね、こうやって後悔するんだから、いつもみたいに相手に合わせておけば良かったんだ。
メッセージを表示して、あたしは驚いた。
》さっきは変な頼み事してごめん。よく考えたら涼風のことなんも考えてなかった
画面を閉じることなくスマホをそっとテーブルの上に置いた。
しゃがみ込んで、ベッドサイドに寄りかかる様に小さくなって膝に顔を埋める。
泣いちゃダメだ。
だけど、なんか寂しい。
葉ちゃんに言われた時も思ったけど、やっぱり古賀くんは、あたしのことなんてなにも考えてなかったんだ。
本人の言葉を見て、実感が湧く。
溢れてきそうな涙を必死に心の奥底に押し込んだ。
泣かない。泣いたって仕方ない。
腕を伸ばしてスマホを取ると、文字を打つ。
《気にしてないよ
一言だけが限界だ。あとはもう知らない。古賀くんとはこれで終わりだ。そう思ったのに、画面にはすぐに返信が返ってくる。
》良かった! また七美となんかあったら相談しても良いか?
「はぁ?」
思わず、切なくなっていた涙の波が引き潮の様にさぁっと引いていった。
相談? あたしに? なんで?
《いや、相談されても困るし
冷静に、無心でスマホに文字を打ち込む。
》涼風にしか七美のこと話してないし、聞いてくれると嬉しいんだけど
「いや、待て待て待て。なんかおかしいよね? 絶対おかしいよね?」
ついに、スマホに向かって突っ込んでしまった。
さっき、後悔するくらいにしっかり断ったはずなんだけどな。全然響いてないってこと? 古賀くんって、儚げ王子に見えていたのに、実は神経図太い?
人と深く接してこなかったから、もちろん古賀くんのことも彼氏ではあったけれど、何一つ分からない。本当に好きだったのかなとまで、自分のことを疑ってしまいたくなる。
何に対しても、上辺だけしか見ていないからかもしれない。
もう、これは古賀くんの恋の応援をするしか道はない様な気もしてくるのだが。
《古賀くんって、友達いる?
失礼覚悟で聞いてみる。
だって、あたしにしか頼めないとか、選択肢無さすぎるでしょ。モテるんだからもっと良い相談相手の女の子とかいるんじゃないのかな? 男友達だってきっとたくさんいるだろうし。彼女の話くらいしても良いと思うんだけどな。
》えー、友達? 七美よりはいると思うけど
古賀くんからの返信に、もはや呆れてしまって、あたしはポッカリと開いてしまった口を数秒経ってからハッとして閉じた。
いや、なんで七美基準?
なんでも七美、七美って。どんだけ七美のこと考えてんの?
《七美のこと、好きすぎじゃない?
》うん、めっちゃ好き
なにそれ。
スマホの画面には、あたしが古賀くんから欲しかった言葉が表示されている。
だけど、それはあたしに送られた文字であっても、言っているのは七美に対してだ。
なんだろう、このやりきれない気持ちは。
もうなんか、あたし古賀くんのことちょっと嫌いになりかけてるかもしれない。
胸の中で、ズキズキと切り刻まれるような痛みをしていた心臓は、すっかり元通りになってむしろ平常心を保っている。ドキドキもなければウキウキもない。ただ、生きるためだけに動いている。
自分勝手。ああ、そうだ。この言葉が今の古賀くんにはぴったりかもしれない。
あたしの気持ちなんてお構いなしに自分の気持ちだけを満たそうとしている。自分勝手だよ。身勝手。
でも、まりんちゃんを見ていても思ったけど、あんな風に自分のことに一生懸命になれるって、羨ましいかもしれない。
どうしてこんな風に思う様になってしまったのか。
なんだか、他にも自分の好きなことを貫く誰かの言葉に影響された様な気もするけれど、それが誰だったのか、何だったのかは思い出せない。
ただ一つ。自分のやりたい様にやるって、大事なことなのかもしれない。
《分かった。古賀くんの恋、応援する
》え! まじ? 嬉しい!
やけにテンションの高い古賀くんの返信に、思わず笑ってしまう。
ほんと、古賀くんって、こんな人だった? あたし、何も知らないで古賀くんのこと好きになってたんだな。付き合ってたんだな。そう思うと、なんか、フラれたことが腑に落ちるし、フラれて良かったとまで思えてきてしまった。
》今度七美とも会ってやって
「……それは……ちょっと考えるなぁ」
返信に困ってしまって、あたしはその後なにも送らずにスマホを手放した。
通知が何件か来ている。その中に、古賀くんの名前を見つけた。
心臓がドキリと鳴る。
ずっと、ここに古賀くんの名前が表示されたら良いのにと思っていたはずなのに、今はこのメッセージになにが書かれているのか、見るのが少し怖くなる。
今日、古賀くんと話して、古賀くんのお願いを受け入れなかったことを思い返すと、胃が痛む。
今までみたいに良いよって言えなかった自分に、今更後悔している。
ほらね、こうやって後悔するんだから、いつもみたいに相手に合わせておけば良かったんだ。
メッセージを表示して、あたしは驚いた。
》さっきは変な頼み事してごめん。よく考えたら涼風のことなんも考えてなかった
画面を閉じることなくスマホをそっとテーブルの上に置いた。
しゃがみ込んで、ベッドサイドに寄りかかる様に小さくなって膝に顔を埋める。
泣いちゃダメだ。
だけど、なんか寂しい。
葉ちゃんに言われた時も思ったけど、やっぱり古賀くんは、あたしのことなんてなにも考えてなかったんだ。
本人の言葉を見て、実感が湧く。
溢れてきそうな涙を必死に心の奥底に押し込んだ。
泣かない。泣いたって仕方ない。
腕を伸ばしてスマホを取ると、文字を打つ。
《気にしてないよ
一言だけが限界だ。あとはもう知らない。古賀くんとはこれで終わりだ。そう思ったのに、画面にはすぐに返信が返ってくる。
》良かった! また七美となんかあったら相談しても良いか?
「はぁ?」
思わず、切なくなっていた涙の波が引き潮の様にさぁっと引いていった。
相談? あたしに? なんで?
《いや、相談されても困るし
冷静に、無心でスマホに文字を打ち込む。
》涼風にしか七美のこと話してないし、聞いてくれると嬉しいんだけど
「いや、待て待て待て。なんかおかしいよね? 絶対おかしいよね?」
ついに、スマホに向かって突っ込んでしまった。
さっき、後悔するくらいにしっかり断ったはずなんだけどな。全然響いてないってこと? 古賀くんって、儚げ王子に見えていたのに、実は神経図太い?
人と深く接してこなかったから、もちろん古賀くんのことも彼氏ではあったけれど、何一つ分からない。本当に好きだったのかなとまで、自分のことを疑ってしまいたくなる。
何に対しても、上辺だけしか見ていないからかもしれない。
もう、これは古賀くんの恋の応援をするしか道はない様な気もしてくるのだが。
《古賀くんって、友達いる?
失礼覚悟で聞いてみる。
だって、あたしにしか頼めないとか、選択肢無さすぎるでしょ。モテるんだからもっと良い相談相手の女の子とかいるんじゃないのかな? 男友達だってきっとたくさんいるだろうし。彼女の話くらいしても良いと思うんだけどな。
》えー、友達? 七美よりはいると思うけど
古賀くんからの返信に、もはや呆れてしまって、あたしはポッカリと開いてしまった口を数秒経ってからハッとして閉じた。
いや、なんで七美基準?
なんでも七美、七美って。どんだけ七美のこと考えてんの?
《七美のこと、好きすぎじゃない?
》うん、めっちゃ好き
なにそれ。
スマホの画面には、あたしが古賀くんから欲しかった言葉が表示されている。
だけど、それはあたしに送られた文字であっても、言っているのは七美に対してだ。
なんだろう、このやりきれない気持ちは。
もうなんか、あたし古賀くんのことちょっと嫌いになりかけてるかもしれない。
胸の中で、ズキズキと切り刻まれるような痛みをしていた心臓は、すっかり元通りになってむしろ平常心を保っている。ドキドキもなければウキウキもない。ただ、生きるためだけに動いている。
自分勝手。ああ、そうだ。この言葉が今の古賀くんにはぴったりかもしれない。
あたしの気持ちなんてお構いなしに自分の気持ちだけを満たそうとしている。自分勝手だよ。身勝手。
でも、まりんちゃんを見ていても思ったけど、あんな風に自分のことに一生懸命になれるって、羨ましいかもしれない。
どうしてこんな風に思う様になってしまったのか。
なんだか、他にも自分の好きなことを貫く誰かの言葉に影響された様な気もするけれど、それが誰だったのか、何だったのかは思い出せない。
ただ一つ。自分のやりたい様にやるって、大事なことなのかもしれない。
《分かった。古賀くんの恋、応援する
》え! まじ? 嬉しい!
やけにテンションの高い古賀くんの返信に、思わず笑ってしまう。
ほんと、古賀くんって、こんな人だった? あたし、何も知らないで古賀くんのこと好きになってたんだな。付き合ってたんだな。そう思うと、なんか、フラれたことが腑に落ちるし、フラれて良かったとまで思えてきてしまった。
》今度七美とも会ってやって
「……それは……ちょっと考えるなぁ」
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