晩夏光、忘却の日々

佐々森りろ

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第三章 ラムネとかき氷

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「あ! まりん! 今日こそ部活に顔出しなよー!」
「ごめぇん! これからデートなのっ♪」

 葉ちゃんが教室に入ってきたと思ったら、陽気な猫撫で声ですぐに返事をして、走り去っていく女の子の後ろ姿を見送った。

「もぉー、あの子全然部活する気ないでしょ。もうやめたらいいのに」

 怒り気味であたしの目の前まで来た葉ちゃん。

「今のって……」
「三組の高橋まりんだよ。一応バスケ部」
「だよ、ね」

 ちょっと混乱しているのは、あたしの知っている高橋まりんちゃんとは少しだけ……いや、だいぶ違うような気がしたから。

 喋り方は元々あんな感じでおっとりとしていたけれど、髪も真っ直ぐで黒かったし、眼鏡をかけていて真面目な、どちらかと言うとあまり目立たないような雰囲気の子だった気がする。だから、今目の前にいたのは一瞬、誰だろうかと疑問に思ってしまった。

「あー! そっか!」

 思い出したように、葉ちゃんが頷く。

「あの子、夏休み中に彼氏出来て変わっちゃったんだよ! そのせいで部活はまったく来なくなっちゃうし」

 はぁ、と呆れるようにため息を吐き出して、葉ちゃんは椅子に座った。
 やっぱり。あたしの知っているまりんちゃんとはイメージが違いすぎたから、さっきは混乱したんだ。
 だけど、たまにあたしを気にかけてくれる優しさは前から変わらない気がする。

『ため息って、幸せ逃げるんだよ』

 幸せなんて、あいにく持ち合わせていない。だから、逃げる幸せなんてものはない。あたしのため息は空っぽだ。失うものなんて何もないんだよ。

「彼氏出来て変わっちゃう典型だよ。友達付き合いも悪くなったし」
「……そう、なんだ」
「涼風は彼氏出来ても変わらずにあたしといつも通りに接してくれてたし、嬉しかったんだよー。こんな良い子フルとか、古賀くん見る目なさすぎ」

 何故か古賀くんへの暴言に変わって、葉ちゃんは「また明日ね」と教室を出て行った。
葉ちゃんの古賀くんへの評価が日に日に下がりすぎている気がする。まぁ、仕方ないのかもしれないけれど。

「あ! まーりーんっ! わりぃ、これから部活のミーティングだって! 待ってられる?」

 突然、廊下から男の子の大きな声が聞こえてきた。

「うん、大丈夫だよ。リュウくんのことなら、まりんいくらでも待てちゃうから」
「ぐはぁ! なにそれ! やば、可愛すぎるでしょ。抱きしめていい?」
「えっと、後でね。ミーティング頑張って!」
「うん! 頑張るー! 待っててー」

 なんとも甘いやり取りの一部始終が聞こえてきて、あたしは開いた口が塞がらないでいた。
 すると、教室にまりんちゃんがまた戻ってきた。
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