晩夏光、忘却の日々

佐々森りろ

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第三章 ラムネとかき氷

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 いつも通りに教室に入って席に着いた。

「おはよう、杉崎さん」

 あたしに挨拶をしてくれるのは、決まって葉ちゃんが一番だった。それなのに、今日は目の前に西澤くんがいる。

「……あ、お、おはよう」

 驚きながらも返事を返すと、前の席の葉ちゃんが目を見開いて驚いた表情を全面的に出してしまっている。どうしようかとこの状況に困ってしまう。

「これ、杉崎さんが休んでた分の夏休みの課題。これだけやっておけば良いからって、さっき担任に渡すように頼まれたんだ」

 あ、なんだ。そう言うことか。
 差し出されたプリント数枚に、あたしがホッとしていると、葉ちゃんも苦笑いして笑っている。

「じゃあ、またね」
「あ、うん。ありがとう」

 すんなりと自分の席に戻って行った西澤くんの後ろ姿を見届けて、受け取ったプリントに視線を落とした。

『放課後楽しみにしてる』
 ふせんに書かれた文字に気が付いて、慌ててプリントをカバンの中にしまった。

「涼風? 急に慌ててどうしたの?」
「な、なんでもない」

 椅子に座って、深呼吸を一つした。

「西澤くんってさ、涼風のこと好きなのかな?」
「は!?」

 いきなり葉ちゃんがそんなことを言い出すから、あたしは思わず大きな声を出してしまう。

「だってさ、最近涼風、西澤くんの話ばっかりするじゃん?」

 それは、西澤くんがよく分からないことを言ってくるから、それで気になっているだけで。

「もしかして、告白とかされた? もしかして西澤くん、涼風が古賀くんと別れたの知って狙ってきたとか?」
「いやいやいや、そんなわけない」
「本当にぃー?」

 ジトーっと目を細めて疑ってくる葉ちゃんに、困ってしまう。
 西澤くんから告白された、なんて本当のことを言ったら、きっと葉ちゃんを悲しませてしまう。だから、これは葉ちゃんには内緒だ。言わなくてもいいことだって、知らなくてもいいことだって、あるんだし。
 だって、葉ちゃんは西澤くんのことが、好きなんだよね?

 ジッと葉ちゃんの横顔を見つめて、その視線の先を辿ってみる。やっぱり、サッカー部の仲間に囲まれている西澤くんの方を見ているから、思わず窓の外に視線を外して、小さなため息が溢れた。
 葉ちゃんとは気まずくなりたくない。

 放課後が近づくにつれて、憂鬱になる。
 鞄の中にしまったプリントに書かれていた文字を思い出して、あたしはもう一度深いため息をついた。

「ため息って、幸せ逃げるんだよ?」
「……え?」

 きっと、もう無意識のうちに今日は何度も出てしまっていたんだろう。
 何度目かもわからないため息を吐き出したあたしに、突然目の前にくるんっと綺麗に内側に巻かれた明るめの長い髪が揺れるのが視界に映り込んだ。
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