晩夏光、忘却の日々

佐々森りろ

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第二章 忘れていること

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「古賀のことまだ好きでも良い。杉崎さんが古賀のこと諦められないって言うなら協力もする。だから、俺が杉崎さんのことを想っててもいいかだけ、聞いておきたかったんだ」

 ──どうして?
 なんで、初めから想いが叶わないようなことを言うんだろう。あたしが古賀くんのことを好きなのは本当だけど。
 フラれてしまってもどうして? と諦めきれずにいるのも事実だ。だけど、あたしはこれ以上古賀くんには近寄る気はない。突き放されるのが怖いから。だから、好きだけど、仕方ないって、諦めるんだ。
 西澤くんだって、ここであたしが無理ですって断ったら、すぐに諦めるんでしょ。
 なんだか今のあたしは、中途半端だ。

 古賀くんのことは好きだけど追いかけない。西澤くんの気持ちにはよく分からなすぎて答えられない。中途半端にするくらいなら、初めから要らない。
 後で後悔するなら、初めから関わったりしたくない。

「……あたしは、もう誰とも付き合う気、ないかな」

 苦しいのを押し込んで唇を噛んだ。精一杯に笑顔を向けて、西澤くんの気持ちに断りを入れる。

「仕方ないって、思ってない?」
「……え?」
「泣いても仕方ないって、思ってない?」

 どうして、西澤くんがそれを言うんだろう。

「良いんだよ、泣いたって。辛いこと溜め込まなくたって。諦めなくてもいいんだよ」

 なんで? どうして、西澤くんはあたしのほしい言葉をそんなふうに真っ直ぐに並べるの?
 そんなこと言われたら、ずっと蓋をしてきた気持ちが、また溢れてしまう。溢れないように気をつけながら、そっとそっと抱えてきた気持ちが。

「……ほんと、ごめん」

 震える声と、涙がこぼれ落ちる寸前の瞳を西澤くんから背けて、あたしは図書室から飛び出した。
 誰にも打ち明けたくなかった。
 あたしが諦めれば、仕方がないって思いとどまれば、物事はうまく行っていた。
 なのに、西澤くんの言葉に、全部吐き出してしまいそうになった。
 仕舞い込んでいたこれまでのことが、溢れ出てしまうところだった。

 誰もいない薄暗い廊下の壁に、あたしは寄りかかってようやく、止めていた息を吐き出す。
 「はぁ」と、たっぷりのため息と感情が外に吐き出るのと同時に、ボロボロと涙が頬を伝った。

 病院で目が覚めた時、今更心配そうにあたしの名前を呼ぶ母がいた。何の未練もなく別れを告げて元カノと花火大会を楽しむ古賀くんがいた。慰めてくれる葉ちゃんがいた。あたしのそばにいて欲しい人が放つ言葉全部に、あたしは泣き叫びたいくらい苦しかった。
 なんにも知らないはずの西澤くんの告白が、あたしの地雷を思い切り踏んだ。

 声を殺して必死に泣くのを堪えた。溢れてしまった分は仕方がない。グッと手の甲で拭い去って、残りの悲しみにはしっかりと蓋を閉めた。そして、心の奥底にまたしまい込んだ。
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