晩夏光、忘却の日々

佐々森りろ

文字の大きさ
上 下
17 / 72
第一章 蝉時雨の出逢い

16

しおりを挟む

 西澤くんがあたしを見つけてくれて、たくさん話を聞いてくれて、一緒になって失恋を悲しんでくれて、あたしを励まそうとしてくれて。
 嬉しかった。
 花火に誘ってくれたことだって、あたしは嬉しかった。
 本当は、行ってみたいって思った。素直に頷けたらよかった。嘘をついてもいいのなら。
 だけど、それであたしがここから出られずに現れなかったら、きっと西澤くんのことを傷つけてしまうんだ。
 だったら、やっぱり最初から誘いにのってはいけないんだ。

 図書室にいる間、いろんなことを考えた。きっと、ひとりぼっちだったら泣いていたと思う。毎日毎日、泣いたって仕方がないと思いながらも、寂しくて死にきれなくて、泣いて泣いて、泣き喚いていたかもしれない。
 それがなかったのは、きっと西澤くんがあたしを見つけてくれたからだ。

「楽しかった、だからもう、いいかな……」

 外の蝉の声に負けてしまうくらいに小さくなっていく自分の声に、力なく笑った。

「泣けよ!!」

 蝉の聲にも負けない西澤くんの叫びが、あたしに風をおこすように届いた。今まで感じたことがなかった風が、あたしの髪の毛を一瞬だけ高く舞い上がらせる。

「泣けって!! 泣いて泣いて、うるさいくらいに泣き喚け! それしかないだろう? 気づいてもらえ! なんもしないで終わりを迎えるなんて、そんなの悲しすぎるだろ!」

 西澤くんと出逢って、たくさん話をして、時間や日付けを知って、それから、今日で七日目。尽きる命があるなら、きっと今日なのかもしれない。

「うるさいなって嫌がられるくらいにちゃんと泣けよ! いいんだよ泣いたって! 杉崎さんには後悔してほしくない! 俺だって前向きになろうって思えたんだ! 君のおかげなんだよ。だから……」

 目の前で泣き叫ぶ西澤くんの姿に、胸がぎゅっと苦しくなった。高鳴っていく心臓の音が全身に伝わってくる。背中から受けていた日差しが、熱を感じさせる。
 風のような柔らかい空気が、あたしを西澤くんの前まで運んでくれた。俯いた頭をそっと撫でてみた。気持ちは触れているはずなのに、やっぱり触れることが、できない。
 あたしは、ここに居るべきじゃない。

「……西澤くん、ありがとう。君に見つけてもらえて、よかった」

 嬉しいと涙が出るんだ。頬に流れていく涙を感じることが出来る。西澤くんの額に光る大粒の汗と涙が、日差しに照らされて、キラキラと煌めいて見えた。

「ちゃんと、生きている時に出逢いたかったな」

 もう叶わないと知っていても、口に出してみる。後悔したって、もうあたしにはどうしようもないから。
 目の前が徐々に白さを増していって、眩しさに目を細めたけれど、開けていられないほどの閃光に、あたしは目を、閉じた。

 さっきまで鳴いていた蝉は、みんな死んでしまったんだろうか、あんなにうるさかった蝉の聲が、今はもう聴こえない。
 閉じた瞳の前は真っ暗で、耳鳴りがするほどに静かになった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...