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第一章 蝉時雨の出逢い
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「そっちこそ」
「え?」
「そっちこそ、いるのかよ? 毎日毎日ここに来てるし彼氏がいればこんなとこ来ないでしょ?」
怒ったかと思えば、あたしにも彼氏の存在がないんだろうと決めつけてくるから、少しだけムッとしてしまう。
「いるよ? あたしの彼氏、バスケ部エースの古賀くんだよ」
もう、フラレちゃってはいるけれど。
「へ!? あのイケメン古賀!?」
目を見開いて驚く西澤くんの反応が、なんだか嬉しい。
「そうそう、あの、イケメン古賀くん」
男子からもイケメンだと認知されているのは知っていたけど、西澤くんの口からイケメンと言う言葉が出てきたのが面白かった。思わずクスッと笑ってしまう。
「へ、へぇ……古賀ねぇ、ふーん」
あたしにも彼氏がいないで欲しかったのか、仲間だと思ったのに裏切られたみたいな顔をしているから、さらに笑ってしまう。
「お似合いじゃん? 美男美女で。頭もいいし、スポーツも出来るし、なんだよ、どこも欠点ねーじゃん」
不貞腐れるみたいに口を尖らせる西澤くん。
普段だったら、きっと、と言うよりも、絶対に言わないんだけど、なんでだろう。自分が生きているのか死んでいるのかもわからないし、明日があるかもわからないからかな。なんだって暴露したくなってしまった。
「……でもね、もう。ダメかな……」
「……え?」
きっとこんな話、もう聞いてくれるのは西澤くんしかいないのかもしれない。もしかしたら、あたしは蟠りを残したまま成仏できずにいるのかもしれない。だったら、いっそ全部、吐き出してしまえたら楽になるのかもしれない。そう思うと、止まらなくなる。
「別れようって、言われたんだ……まだ付き合って一ヶ月も経ってなかったのに。これから夏が来るって時に。やりたいことたくさんあったのになぁ。花火とか、プールとか、かき氷デートとか! あーあ、ほんっと、残念」
あの日、思い描いていた彼氏との最高の夏休みが、全て打ち砕かれたんだ。ゆらゆら揺れる陽炎の古賀くんは、あたしの目の前から消えていなくなった。
いや、居なくなったのは、あたしの方か……
悲しい。よりも、悔しいが残るな。だから、未練がましく幽霊になってしまったのかな。
ため息を吐き出して、ふと西澤くんに視線をあげると、ものすごく気まずそうな顔をしていた。
あたしは言いたいことが言えて少しだけスッキリ出来たから、まさか西澤くんがそんな顔をしてくれるなんて思わなくて、驚いた。
「……それは、辛かったな。だから俺のこと引き留めたのか。ようやくなんか、繋がった」
「……え?」
納得する様に、西澤くんが長めの前髪をかきあげる。
「だって、そもそもこんなとこに毎日来てる理由も分かんなかったし、友達多いはずなのに俺以外にはここにいること教えたりしてないんでしょ? 失恋の痛手ってやつ? 一人になりたい時だってあるよな」
あたしの辛い思いを分かってくれようとしているのか、西澤くんが言葉を濁しながらあたしを気遣ってくれるから、なんだか気まずい。
黙り込んでしまうと、途端に外の蝉の聲がまたうるさいくらいに室内に響いてきた。
「もっと、言いたいことあるなら吐き出していいぞ」
「……え?」
「なんか、まだ言い足りないって顔してる」
「え……ほんと?」
思わず自分の顔に両手を当てて、あたしは俯いた。あまり素直に吐き出しすぎちゃったのかもしれない。きっと、西澤くんは言いふらしたり揶揄ったりはしてこないんだろう。真面目な顔を向けてくるから、なんだか嬉しかった。
だから、古賀くんとのことを、自然と話してしまっていた。
「え?」
「そっちこそ、いるのかよ? 毎日毎日ここに来てるし彼氏がいればこんなとこ来ないでしょ?」
怒ったかと思えば、あたしにも彼氏の存在がないんだろうと決めつけてくるから、少しだけムッとしてしまう。
「いるよ? あたしの彼氏、バスケ部エースの古賀くんだよ」
もう、フラレちゃってはいるけれど。
「へ!? あのイケメン古賀!?」
目を見開いて驚く西澤くんの反応が、なんだか嬉しい。
「そうそう、あの、イケメン古賀くん」
男子からもイケメンだと認知されているのは知っていたけど、西澤くんの口からイケメンと言う言葉が出てきたのが面白かった。思わずクスッと笑ってしまう。
「へ、へぇ……古賀ねぇ、ふーん」
あたしにも彼氏がいないで欲しかったのか、仲間だと思ったのに裏切られたみたいな顔をしているから、さらに笑ってしまう。
「お似合いじゃん? 美男美女で。頭もいいし、スポーツも出来るし、なんだよ、どこも欠点ねーじゃん」
不貞腐れるみたいに口を尖らせる西澤くん。
普段だったら、きっと、と言うよりも、絶対に言わないんだけど、なんでだろう。自分が生きているのか死んでいるのかもわからないし、明日があるかもわからないからかな。なんだって暴露したくなってしまった。
「……でもね、もう。ダメかな……」
「……え?」
きっとこんな話、もう聞いてくれるのは西澤くんしかいないのかもしれない。もしかしたら、あたしは蟠りを残したまま成仏できずにいるのかもしれない。だったら、いっそ全部、吐き出してしまえたら楽になるのかもしれない。そう思うと、止まらなくなる。
「別れようって、言われたんだ……まだ付き合って一ヶ月も経ってなかったのに。これから夏が来るって時に。やりたいことたくさんあったのになぁ。花火とか、プールとか、かき氷デートとか! あーあ、ほんっと、残念」
あの日、思い描いていた彼氏との最高の夏休みが、全て打ち砕かれたんだ。ゆらゆら揺れる陽炎の古賀くんは、あたしの目の前から消えていなくなった。
いや、居なくなったのは、あたしの方か……
悲しい。よりも、悔しいが残るな。だから、未練がましく幽霊になってしまったのかな。
ため息を吐き出して、ふと西澤くんに視線をあげると、ものすごく気まずそうな顔をしていた。
あたしは言いたいことが言えて少しだけスッキリ出来たから、まさか西澤くんがそんな顔をしてくれるなんて思わなくて、驚いた。
「……それは、辛かったな。だから俺のこと引き留めたのか。ようやくなんか、繋がった」
「……え?」
納得する様に、西澤くんが長めの前髪をかきあげる。
「だって、そもそもこんなとこに毎日来てる理由も分かんなかったし、友達多いはずなのに俺以外にはここにいること教えたりしてないんでしょ? 失恋の痛手ってやつ? 一人になりたい時だってあるよな」
あたしの辛い思いを分かってくれようとしているのか、西澤くんが言葉を濁しながらあたしを気遣ってくれるから、なんだか気まずい。
黙り込んでしまうと、途端に外の蝉の聲がまたうるさいくらいに室内に響いてきた。
「もっと、言いたいことあるなら吐き出していいぞ」
「……え?」
「なんか、まだ言い足りないって顔してる」
「え……ほんと?」
思わず自分の顔に両手を当てて、あたしは俯いた。あまり素直に吐き出しすぎちゃったのかもしれない。きっと、西澤くんは言いふらしたり揶揄ったりはしてこないんだろう。真面目な顔を向けてくるから、なんだか嬉しかった。
だから、古賀くんとのことを、自然と話してしまっていた。
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