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第一章 蝉時雨の出逢い
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特別本が好きとか、読みたい本があるわけじゃなかったけれど、図書室は好きだった。
静かで落ち着くし、本を開いていれば誰もあたしに話しかけてこない。人と距離を置きたい時は、決まってここに来ていた。
古賀くんと出逢ったのも、図書室だった。
普段はバスケ一筋で、授業の移動時間に教科書とノートを脇に挟むと、廊下の向こうにゴールを定めて右手首を返す姿を見ては、かっこいいなと思っていた。
昼休みもバスケットボールをそばに置いて、食べ終わるとすぐに中庭に向かって行って友達とパスやドリブル練習をしていた。
そんな古賀くんが、ボールの代わりに一冊の本を手にして、椅子にも座らずにその場で立ち尽くして本を読む姿に、あたしは驚いたのと同時に、胸がギュッとなった。
「古賀くんって……本、読むんだ」
思わず声をかけてしまって、驚いた古賀くんが照れたように笑うと人差し指を口元に置いた。
「俺が図書室いたこと、内緒な、杉崎」
爽やかな微笑みに、あたしは一気に恋に落ちた。
古賀くんには彼女がいると、噂では聞いていた。だから、あたしは芽生えてしまったこの気持ちはそっと胸の奥にしまっていた。
気が付けば目が古賀くんを追っていて、見えないところでは何をしているんだろう? 今どこにいるんだろう? 誰と話しているんだろう? 彼女と一緒なのかな? って、頭の中がいっぱいになってしまって、仕方がなかった。
完全なる、あたしの片想いだった。
彼は誰にでも優しいしモテるし、狙っている女子は先輩後輩関係なくたくさんいた。
そんな中、またとない吉報が友達の口から語られる。
「古賀くん、彼女と別れたらしいよ」
チャンスだと思った。
だって、古賀くんが図書室に来ることはあまり知られていない。
毎週水曜日。バスケ部の練習が早く終わる日、彼は必ず図書室に現れる。
ここまでくると、ちょっとストーカーぽい気もするが、そこは恋する乙女の情報収集だから、仕方ないと割り切ってほしい。
思惑通りに水曜日の放課後、彼は図書室にいた。いつも手にしている本は何だろうかと、気になっては聞けずにいた。もしも、古賀くんと付き合えることになったら聞けばいい。それを楽しみにしておくのも悪くない。そう思いながら。
そうして、高校二年の春、彼女と別れた古賀くんが本も持たずに哀しげな顔で図書室の隅に座っているのを見つけて、声をかけた。
「古賀くん。あたし、ずっと古賀くんのこと気になってて……それで……」
いざ、本人を目の前にすると、肝心な言葉が出てこない。一気に恥ずかしくなって、顔に熱が集中するのを感じた。でも、言うなら今しかないと思った。
「好き……です!」
古賀くんの顔がちゃんと見れなくて、視線を古賀くんの手元に落としたまま、あたしはキュッと両手を握りしめた。
「……まだ傷心中なんだけど、それでもいい?」
「……え!」
「俺、杉崎にそばにいてほしいかも」
視線を古賀くんへあげると、泣きそうな彼の笑顔に心臓を撃ち抜かれた。
大好きだ。ほんと、カッコ良すぎる。
そうして、古賀くんはあたしの彼氏になった。
まだ夏は始まったばかりだった。
それなのに、どうして?
『やっぱ涼風じゃないなって思ったんだよ。だから、ごめん。別れて』
やっぱりってなに? あたしじゃないって、それって、誰かと比べていたってこと? 全然古賀くんの気持ちが分からない。
だけど、あたしが告白した日、「傷心中だけどいい?」って問いに、あたしは頷いたんだ。
まだ、元カノとの傷が癒えていなかったのかもしれない。だから、仕方ない。うん、仕方ないんだよ。そんなの諦めるしかない。もう追いかけることだって出来ないんだから。
気がつけば、古賀くんを好きになったところから別れて事故に遭う直前のことまで全部、話してしまっていた。
特別本が好きとか、読みたい本があるわけじゃなかったけれど、図書室は好きだった。
静かで落ち着くし、本を開いていれば誰もあたしに話しかけてこない。人と距離を置きたい時は、決まってここに来ていた。
古賀くんと出逢ったのも、図書室だった。
普段はバスケ一筋で、授業の移動時間に教科書とノートを脇に挟むと、廊下の向こうにゴールを定めて右手首を返す姿を見ては、かっこいいなと思っていた。
昼休みもバスケットボールをそばに置いて、食べ終わるとすぐに中庭に向かって行って友達とパスやドリブル練習をしていた。
そんな古賀くんが、ボールの代わりに一冊の本を手にして、椅子にも座らずにその場で立ち尽くして本を読む姿に、あたしは驚いたのと同時に、胸がギュッとなった。
「古賀くんって……本、読むんだ」
思わず声をかけてしまって、驚いた古賀くんが照れたように笑うと人差し指を口元に置いた。
「俺が図書室いたこと、内緒な、杉崎」
爽やかな微笑みに、あたしは一気に恋に落ちた。
古賀くんには彼女がいると、噂では聞いていた。だから、あたしは芽生えてしまったこの気持ちはそっと胸の奥にしまっていた。
気が付けば目が古賀くんを追っていて、見えないところでは何をしているんだろう? 今どこにいるんだろう? 誰と話しているんだろう? 彼女と一緒なのかな? って、頭の中がいっぱいになってしまって、仕方がなかった。
完全なる、あたしの片想いだった。
彼は誰にでも優しいしモテるし、狙っている女子は先輩後輩関係なくたくさんいた。
そんな中、またとない吉報が友達の口から語られる。
「古賀くん、彼女と別れたらしいよ」
チャンスだと思った。
だって、古賀くんが図書室に来ることはあまり知られていない。
毎週水曜日。バスケ部の練習が早く終わる日、彼は必ず図書室に現れる。
ここまでくると、ちょっとストーカーぽい気もするが、そこは恋する乙女の情報収集だから、仕方ないと割り切ってほしい。
思惑通りに水曜日の放課後、彼は図書室にいた。いつも手にしている本は何だろうかと、気になっては聞けずにいた。もしも、古賀くんと付き合えることになったら聞けばいい。それを楽しみにしておくのも悪くない。そう思いながら。
そうして、高校二年の春、彼女と別れた古賀くんが本も持たずに哀しげな顔で図書室の隅に座っているのを見つけて、声をかけた。
「古賀くん。あたし、ずっと古賀くんのこと気になってて……それで……」
いざ、本人を目の前にすると、肝心な言葉が出てこない。一気に恥ずかしくなって、顔に熱が集中するのを感じた。でも、言うなら今しかないと思った。
「好き……です!」
古賀くんの顔がちゃんと見れなくて、視線を古賀くんの手元に落としたまま、あたしはキュッと両手を握りしめた。
「……まだ傷心中なんだけど、それでもいい?」
「……え!」
「俺、杉崎にそばにいてほしいかも」
視線を古賀くんへあげると、泣きそうな彼の笑顔に心臓を撃ち抜かれた。
大好きだ。ほんと、カッコ良すぎる。
そうして、古賀くんはあたしの彼氏になった。
まだ夏は始まったばかりだった。
それなのに、どうして?
『やっぱ涼風じゃないなって思ったんだよ。だから、ごめん。別れて』
やっぱりってなに? あたしじゃないって、それって、誰かと比べていたってこと? 全然古賀くんの気持ちが分からない。
だけど、あたしが告白した日、「傷心中だけどいい?」って問いに、あたしは頷いたんだ。
まだ、元カノとの傷が癒えていなかったのかもしれない。だから、仕方ない。うん、仕方ないんだよ。そんなの諦めるしかない。もう追いかけることだって出来ないんだから。
気がつけば、古賀くんを好きになったところから別れて事故に遭う直前のことまで全部、話してしまっていた。
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