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ツァトゥグアの恐怖
10 それぞれの試練①
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ひとり残された形になってしまった岡本浩
太だったが、ただ黙って待つのは彼の性に合
わない。
ツァトゥグアとアブホースに関する情報を
インターネットで検索をしてみた。日本国内
のサイトにはほとんど情報はなかった。小説
の題材として取り上げられているものに関す
る情報は種々掲載されているのだが、現実の
ツァトゥグアやアブホースについての情報は
皆無であった。
それはそうだろう。日本国内のクトゥルー
神話関連の研究機関や協会などは「神話」と
して捉えているだけで、アーカム財団のよう
に現実の問題として把握している団体はなか
った。
そして、そのアーカム財団にしてもツァト
ゥグアの情報は何も持ち合わせてはいないの
だった。また、持ち合わせているとしても、
果たして桂田の命を救うためだけにツァトゥ
グアやアブホースの封印を解く方法を教えて
くれるだろうか。探すのを手伝ってくれるだ
けでも考えられなかった。
それにしても、どうして自分はこうも危機
的な状況に追い込まれてしまうのだろう。前
回のクトゥルーの時は伯父である岡本優治の
行方が知れず、捜索をしている過程で関わっ
てしまった。
今回は桂田にしても自業自得の面はあるの
だが、自らが撒いた種、という意味では自分
も違いはない。どうしても桂田の命を救う方
法を考え出さなければならないと思った。
綾野と橘がそれぞれ旅立って行ってからも
う一週間が経とうとしていたが、二人とも現
地に着いた旨の連絡がメールされて来た後、
連絡が取れなくなっていた。調査が何処まで
進んでいるのか、皆目見当がつかない。それ
どころか、何らかの事件に巻き込まれている
可能性もあった。綾野の方は何度も訪れてい
る場所であり、ミスカトニック大学付属図書
館の館長は旧知の人だという話なので、手間
はとらないと言って出かけたのだが、どうも
心配だ。
橘助教授の方は留学先の恩師が大英博物館
の関係者なので、無理を承知で頼んでみると
言っていた。本来の理由を話して理解しても
らえるとは二人とも考えてはいない筈だった。
浩太はとりあえず、一つの方法として綾野
先生の蔵書を調べてみることにした。前に見
せて貰ったとき、翻訳途中のものや、暗号解
読が済んでいないものが結構あったことを思
い出したのだ。綾野先生の部屋や講師控え室
の鍵は預かっている。浩太は早速講師控え室
にこもって蔵書を調べだした。
ルドウィク・プリンの『妖蛆の秘密』やダ
レット伯爵の『屍食教典儀』、フェォン・ユ
ンツトの『無名祭祀書』、作者不明の古代文
書である『ルルイエ異本』、『ヨス写本』、
『ナコト写本』、そして『エイボンの書』
等々。
その殆どが写本であり、彼方此方綻んでい
るものを何とか解読しようとしている最中の
ものばかりなので、浩太ではどうしようもな
かった。
特に『ヨス写本』、『ナコト写本』、『エ
イボンの書』の3冊はツァトゥグアについて
の言及が多いとされている文書なので、期待
が出来る筈なのだが、解読しようとしている
文書その物の真偽が問われるようなものも多
く、解読は進んでいない、と綾野先生は溢し
ていた。
先にクトゥルーの復活方法を解読したとき
は、元の文書自体は確りとした記述があった
ので如何に解読するか、ということに気を使
えばよかったのだが、此処にあるものについ
ては、元の文章についても擦り切れていたり、
破損していたりと完全ではなかった。解読以
前の問題なのだ。
それでも、綾野先生は独自にある程度の解
読を進めていたらしく、文書別にノートを作
って解読途中の経過やメモが記載されている
ものが数冊あった。結婚もせずにこんなこと
ばかりを部屋にこもってやっていると、精神
衛生上好くないとは思うのだが、性分なので
仕方がない、とよく綾野先生は言っていた。
暗いと言われても仕方ないだろうな、と浩太
は思った。綾野先生の部屋は本に埋もれてお
り、到底女性を通せることができるような、
スペースは見つけられそうもなかった。
さらに、その辺りにあるノートをパラパラ
と捲っていると、ノートの間から一枚の便箋
が落ちた。つい最近書かれたような新しいも
のらしかったが、その内容はアーカム財団の
プロヴィデンス支部長、和田圭一郎氏への手
紙の下書きだった。反故にしようとして忘れ
ていたのだろうか。
その手紙の内容は、あの発見された縦穴を
調査しないように強く勧めるものだったが、
その理由は実に驚くべきものだった。
鈴貴産業の拝藤という女性からの申し出と
いうか、情報提供によるものだったが、それ
は確かに調査を再開する訳にはいかないと納
得できるものだった。特に今、この状況下に
置かれている浩太にとっては身にしみて判る
のだ。浩太はつくづく、自分と桂田の軽率な
行動を悔やんだのだった。
文章の内容は、今岡本浩太達が置かれてい
る状況をそのまま予言しているものだった。
ツァトゥグアの封印を解くために必要なもの
を探させるために、人間、特に綾野先生や橘
助教授たちをあのヴーアミタドレス山に誘き
寄せようとして空けられた穴だったのだ。
そのためにどういう方法で造ったのかは判
らないが、旧家の床に在り得ないコンクリー
トの縦穴を開けたのだ。人間の仕業とは思え
なかった。ただ、ツァトゥグアにそれだけの
実世界に影響できる力が在るのなら、とうに
復活していても良さそうなものである。とな
ると違う何かの仕業であろうか。いずれにし
ても浩太の想像の域を大幅に逸脱していた。
太だったが、ただ黙って待つのは彼の性に合
わない。
ツァトゥグアとアブホースに関する情報を
インターネットで検索をしてみた。日本国内
のサイトにはほとんど情報はなかった。小説
の題材として取り上げられているものに関す
る情報は種々掲載されているのだが、現実の
ツァトゥグアやアブホースについての情報は
皆無であった。
それはそうだろう。日本国内のクトゥルー
神話関連の研究機関や協会などは「神話」と
して捉えているだけで、アーカム財団のよう
に現実の問題として把握している団体はなか
った。
そして、そのアーカム財団にしてもツァト
ゥグアの情報は何も持ち合わせてはいないの
だった。また、持ち合わせているとしても、
果たして桂田の命を救うためだけにツァトゥ
グアやアブホースの封印を解く方法を教えて
くれるだろうか。探すのを手伝ってくれるだ
けでも考えられなかった。
それにしても、どうして自分はこうも危機
的な状況に追い込まれてしまうのだろう。前
回のクトゥルーの時は伯父である岡本優治の
行方が知れず、捜索をしている過程で関わっ
てしまった。
今回は桂田にしても自業自得の面はあるの
だが、自らが撒いた種、という意味では自分
も違いはない。どうしても桂田の命を救う方
法を考え出さなければならないと思った。
綾野と橘がそれぞれ旅立って行ってからも
う一週間が経とうとしていたが、二人とも現
地に着いた旨の連絡がメールされて来た後、
連絡が取れなくなっていた。調査が何処まで
進んでいるのか、皆目見当がつかない。それ
どころか、何らかの事件に巻き込まれている
可能性もあった。綾野の方は何度も訪れてい
る場所であり、ミスカトニック大学付属図書
館の館長は旧知の人だという話なので、手間
はとらないと言って出かけたのだが、どうも
心配だ。
橘助教授の方は留学先の恩師が大英博物館
の関係者なので、無理を承知で頼んでみると
言っていた。本来の理由を話して理解しても
らえるとは二人とも考えてはいない筈だった。
浩太はとりあえず、一つの方法として綾野
先生の蔵書を調べてみることにした。前に見
せて貰ったとき、翻訳途中のものや、暗号解
読が済んでいないものが結構あったことを思
い出したのだ。綾野先生の部屋や講師控え室
の鍵は預かっている。浩太は早速講師控え室
にこもって蔵書を調べだした。
ルドウィク・プリンの『妖蛆の秘密』やダ
レット伯爵の『屍食教典儀』、フェォン・ユ
ンツトの『無名祭祀書』、作者不明の古代文
書である『ルルイエ異本』、『ヨス写本』、
『ナコト写本』、そして『エイボンの書』
等々。
その殆どが写本であり、彼方此方綻んでい
るものを何とか解読しようとしている最中の
ものばかりなので、浩太ではどうしようもな
かった。
特に『ヨス写本』、『ナコト写本』、『エ
イボンの書』の3冊はツァトゥグアについて
の言及が多いとされている文書なので、期待
が出来る筈なのだが、解読しようとしている
文書その物の真偽が問われるようなものも多
く、解読は進んでいない、と綾野先生は溢し
ていた。
先にクトゥルーの復活方法を解読したとき
は、元の文書自体は確りとした記述があった
ので如何に解読するか、ということに気を使
えばよかったのだが、此処にあるものについ
ては、元の文章についても擦り切れていたり、
破損していたりと完全ではなかった。解読以
前の問題なのだ。
それでも、綾野先生は独自にある程度の解
読を進めていたらしく、文書別にノートを作
って解読途中の経過やメモが記載されている
ものが数冊あった。結婚もせずにこんなこと
ばかりを部屋にこもってやっていると、精神
衛生上好くないとは思うのだが、性分なので
仕方がない、とよく綾野先生は言っていた。
暗いと言われても仕方ないだろうな、と浩太
は思った。綾野先生の部屋は本に埋もれてお
り、到底女性を通せることができるような、
スペースは見つけられそうもなかった。
さらに、その辺りにあるノートをパラパラ
と捲っていると、ノートの間から一枚の便箋
が落ちた。つい最近書かれたような新しいも
のらしかったが、その内容はアーカム財団の
プロヴィデンス支部長、和田圭一郎氏への手
紙の下書きだった。反故にしようとして忘れ
ていたのだろうか。
その手紙の内容は、あの発見された縦穴を
調査しないように強く勧めるものだったが、
その理由は実に驚くべきものだった。
鈴貴産業の拝藤という女性からの申し出と
いうか、情報提供によるものだったが、それ
は確かに調査を再開する訳にはいかないと納
得できるものだった。特に今、この状況下に
置かれている浩太にとっては身にしみて判る
のだ。浩太はつくづく、自分と桂田の軽率な
行動を悔やんだのだった。
文章の内容は、今岡本浩太達が置かれてい
る状況をそのまま予言しているものだった。
ツァトゥグアの封印を解くために必要なもの
を探させるために、人間、特に綾野先生や橘
助教授たちをあのヴーアミタドレス山に誘き
寄せようとして空けられた穴だったのだ。
そのためにどういう方法で造ったのかは判
らないが、旧家の床に在り得ないコンクリー
トの縦穴を開けたのだ。人間の仕業とは思え
なかった。ただ、ツァトゥグアにそれだけの
実世界に影響できる力が在るのなら、とうに
復活していても良さそうなものである。とな
ると違う何かの仕業であろうか。いずれにし
ても浩太の想像の域を大幅に逸脱していた。
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