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ツァトゥグアの恐怖
3 調査隊
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翌週の月曜日6月24日の午前10時、綾
野と浩太は調査に行くという大阪府立城西大
学付属地質学研究所のスタッフと共に調査隊
の助手として例の穴の現場に居た。
その後の調査で穴の深さは約200m程度、
直径は3mでほぼ円筒状に続いているらしい。
力学上も地質学上もありえない穴だった。
そして、底には横穴が続いているようだ。
大型のクレーン車で吊り下げられたカーゴ
に乗って調査員達は次々に底へと降りていっ
た。一度には5名づつしか降りられないので、
綾野たちは5回目のカーゴに乗った。総勢2
4名の調査隊だ。記録用の撮影スタッフも4
名含まれているので、純粋の調査隊としては
18名となる。
調査隊の隊長は城西大学工学部の橘良平助
教授だった。彼は先日亡くなった帝都大学の
橘教授の孫で綾野の2年後輩だった。悪い言
い方をすれば、多少手を抜いて講師に留まっ
ていた綾野と違い橘は優秀な学者で、いずれ
帝都大学に戻って工学部教授になるだろう、
と噂されている。
綾野達最終のカーゴが底に着いた時には先
発隊が横穴に侵入を開始してから半時間が経
過していた。
「さあ、一緒に行きましょう綾野先輩。」
「先輩は止めてくれよ、お前は助教授でこの
調査隊の隊長なんだから。」
「でも僕にとっては昔世話になった先輩に変
わりはないですよ。祖父もよく先輩の話をし
てくれました。酒もタバコも女も全部先輩に
教えてもらった恩があります。」
「おいおい、生徒の前で何て話をするんだ。
それに確かに教えはしたが全部直ぐに止めて
しまったじゃないか。」
「一通り経験すれば、あとは特に興味が湧き
ませんでしたからね。でも本当に感謝してい
るのですよ。でなければ、今回の申し出もお
断りしていました。先輩だから受けたんです
から。悪いですが、岡本先輩からなら断って
いたでしょう。」
「誰の前で話をしていると思っているんだ、
彼は優治の甥なんだぞ。」
私の直ぐ後ろでバツの悪そうにしている浩
太君を紹介するときに優治のことを話してい
る暇が無かったので、橘隊長は知らないこと
だったのだ。彼は優秀な学者ではあるが、世
俗のことには多少鈍いところがあって、どう
も優治とも馬が合わないようだった。学生時
分から何かと言えば私に相談に来ていたので、
当然優治とも顔見知りだったのだが、自分か
ら優治に話し掛けたところを見たことが無い
程だった。
「そうだったんですか、彼が優治さんの甥ご
さんでしたか。橘です。はじめまして。」
「さっき上でご挨拶はさせていただきました
が、綾野先生の生徒で岡本浩太です。先生と
は教授のお葬式のときにお顔だけは拝見しま
した。」
私と浩太君と優治は橘教授の葬式に一緒に
参列していた。あのときは場合が場合でもあ
り、参列者が大勢いたので、特に孫の橘助教
授には声を掛けずに帰ったので、当然浩太君
も紹介が出来なかった。
「祖父の葬式に来てくれていたのですか。そ
れはありがとう。」
橘助教授は人柄はいたって素朴なのだ。他
人を嫌っているのではなく付き合うことが苦
手なだけなのだろう。私は教授のところによ
くお邪魔していたので、古くからの顔見知り
だったのだ。
とりあえず、二人の気まずくなりそうだっ
た雰囲気は回避できた。私達は調査隊の一番
後ろから横穴へと進んで行った。
横穴の直径も3mの円柱状のものが横に見
える範囲ではずっと続いている。先発隊から
の有線連絡では、100m以上進んでいるが、
様子は変わらないそうだ。穴は真西に向かっ
て延々と続いていた。
300mほど進んだところで、先発隊は立
ち止まっていた。後発隊を待っていたことも
あるのだが、そこでまた大きな穴が真下にあ
いていたのだ。底が見えないことと、持ち込
んだ装備では降りられない深さのようなので、
仕方なしにもう一度出直すことになってしま
った。
「3日後にもう一度、装備を整えて調査に入
ることにしよう。」
最終的に隊長である橘助教授が判断を下し
た。
地上に戻った綾野と浩太は仕方なしにとり
あえず、大学の講師室に戻った。
「結局何も判らなかったな。あの下には何が
あるんだろうか。」
「今度は僕も連れてってくださいよ。岡本だ
けじゃなくて。」
桂田も聞きつけてやって来た。
「二人でも説得するのに苦労したんだがな。
まあ、橘もああいう奴だから、私の言うこと
なら多少のことは大目に見てくれるかもしれ
ない。」
「だめですよ、綾野先生。本当は何か掴んで
いるんじゃないのですか。どうも昨日から様
子がおかしいように見えます。」
綾野の態度はどことなく調査隊を先に進め
たくないような口ぶりが浩太には感じられた。
橘助教授ももしかしたら感じていたのかも知
れない。だから新しい竪穴が見つかった段階
で直ぐに一旦撤退することを決めたのかも知
れない。
「かなわないな、君には。実はアーカム財団
から連絡があって、調査は慎重にやるように
指示が来たんだ。何かの情報を掴んだらしい。
詳しくは判らないんだが、やはりあの地下に
は何かが隠されていることは間違いない、と
いう報告だった。」
「そんなことだろうと思いましたよ。興味が
ないなら調査隊に加わらないだろうし、興味
があるのなら橘隊長が撤退を決める時に何か
云うはずだと思っていました。先生が何も言
わなかったのは撤退を望んでいたとしか思え
ませんから。それでどうするつもりなんです
か。」
綾野は直ぐに地下の調査についての報告を
財団にしたうえで、指示を受けた。その結果
城西大学の調査については、今日の時点で打
ち切りとし、後はアーカム財団関西支部(一
度壊滅された後、再興されつつある)に行わ
せることで全ての関係各所に指示を出すこと
になった。
調査は明後日、隊長は綾野が務めることに
なる。浩太は勿論、今回は特別に桂田利明も
参加する。綾野の助手として浩太が、さらに
浩太の助手として桂田という役割だ。
打ち合わせを一通り終えた綾野たちは帰路
に着いた。浩太と桂田のアパートまでは大学
から徒歩で10分とかからない。綾野のアパ
ートは少し離れているので自転車で毎日通っ
ている。それでも自転車で7,8分という距
離だった。大学と南彦根駅のほぼ中間ぐらい
の位置である。それぞれのアパートに向かっ
て反対方向に別れた。
野と浩太は調査に行くという大阪府立城西大
学付属地質学研究所のスタッフと共に調査隊
の助手として例の穴の現場に居た。
その後の調査で穴の深さは約200m程度、
直径は3mでほぼ円筒状に続いているらしい。
力学上も地質学上もありえない穴だった。
そして、底には横穴が続いているようだ。
大型のクレーン車で吊り下げられたカーゴ
に乗って調査員達は次々に底へと降りていっ
た。一度には5名づつしか降りられないので、
綾野たちは5回目のカーゴに乗った。総勢2
4名の調査隊だ。記録用の撮影スタッフも4
名含まれているので、純粋の調査隊としては
18名となる。
調査隊の隊長は城西大学工学部の橘良平助
教授だった。彼は先日亡くなった帝都大学の
橘教授の孫で綾野の2年後輩だった。悪い言
い方をすれば、多少手を抜いて講師に留まっ
ていた綾野と違い橘は優秀な学者で、いずれ
帝都大学に戻って工学部教授になるだろう、
と噂されている。
綾野達最終のカーゴが底に着いた時には先
発隊が横穴に侵入を開始してから半時間が経
過していた。
「さあ、一緒に行きましょう綾野先輩。」
「先輩は止めてくれよ、お前は助教授でこの
調査隊の隊長なんだから。」
「でも僕にとっては昔世話になった先輩に変
わりはないですよ。祖父もよく先輩の話をし
てくれました。酒もタバコも女も全部先輩に
教えてもらった恩があります。」
「おいおい、生徒の前で何て話をするんだ。
それに確かに教えはしたが全部直ぐに止めて
しまったじゃないか。」
「一通り経験すれば、あとは特に興味が湧き
ませんでしたからね。でも本当に感謝してい
るのですよ。でなければ、今回の申し出もお
断りしていました。先輩だから受けたんです
から。悪いですが、岡本先輩からなら断って
いたでしょう。」
「誰の前で話をしていると思っているんだ、
彼は優治の甥なんだぞ。」
私の直ぐ後ろでバツの悪そうにしている浩
太君を紹介するときに優治のことを話してい
る暇が無かったので、橘隊長は知らないこと
だったのだ。彼は優秀な学者ではあるが、世
俗のことには多少鈍いところがあって、どう
も優治とも馬が合わないようだった。学生時
分から何かと言えば私に相談に来ていたので、
当然優治とも顔見知りだったのだが、自分か
ら優治に話し掛けたところを見たことが無い
程だった。
「そうだったんですか、彼が優治さんの甥ご
さんでしたか。橘です。はじめまして。」
「さっき上でご挨拶はさせていただきました
が、綾野先生の生徒で岡本浩太です。先生と
は教授のお葬式のときにお顔だけは拝見しま
した。」
私と浩太君と優治は橘教授の葬式に一緒に
参列していた。あのときは場合が場合でもあ
り、参列者が大勢いたので、特に孫の橘助教
授には声を掛けずに帰ったので、当然浩太君
も紹介が出来なかった。
「祖父の葬式に来てくれていたのですか。そ
れはありがとう。」
橘助教授は人柄はいたって素朴なのだ。他
人を嫌っているのではなく付き合うことが苦
手なだけなのだろう。私は教授のところによ
くお邪魔していたので、古くからの顔見知り
だったのだ。
とりあえず、二人の気まずくなりそうだっ
た雰囲気は回避できた。私達は調査隊の一番
後ろから横穴へと進んで行った。
横穴の直径も3mの円柱状のものが横に見
える範囲ではずっと続いている。先発隊から
の有線連絡では、100m以上進んでいるが、
様子は変わらないそうだ。穴は真西に向かっ
て延々と続いていた。
300mほど進んだところで、先発隊は立
ち止まっていた。後発隊を待っていたことも
あるのだが、そこでまた大きな穴が真下にあ
いていたのだ。底が見えないことと、持ち込
んだ装備では降りられない深さのようなので、
仕方なしにもう一度出直すことになってしま
った。
「3日後にもう一度、装備を整えて調査に入
ることにしよう。」
最終的に隊長である橘助教授が判断を下し
た。
地上に戻った綾野と浩太は仕方なしにとり
あえず、大学の講師室に戻った。
「結局何も判らなかったな。あの下には何が
あるんだろうか。」
「今度は僕も連れてってくださいよ。岡本だ
けじゃなくて。」
桂田も聞きつけてやって来た。
「二人でも説得するのに苦労したんだがな。
まあ、橘もああいう奴だから、私の言うこと
なら多少のことは大目に見てくれるかもしれ
ない。」
「だめですよ、綾野先生。本当は何か掴んで
いるんじゃないのですか。どうも昨日から様
子がおかしいように見えます。」
綾野の態度はどことなく調査隊を先に進め
たくないような口ぶりが浩太には感じられた。
橘助教授ももしかしたら感じていたのかも知
れない。だから新しい竪穴が見つかった段階
で直ぐに一旦撤退することを決めたのかも知
れない。
「かなわないな、君には。実はアーカム財団
から連絡があって、調査は慎重にやるように
指示が来たんだ。何かの情報を掴んだらしい。
詳しくは判らないんだが、やはりあの地下に
は何かが隠されていることは間違いない、と
いう報告だった。」
「そんなことだろうと思いましたよ。興味が
ないなら調査隊に加わらないだろうし、興味
があるのなら橘隊長が撤退を決める時に何か
云うはずだと思っていました。先生が何も言
わなかったのは撤退を望んでいたとしか思え
ませんから。それでどうするつもりなんです
か。」
綾野は直ぐに地下の調査についての報告を
財団にしたうえで、指示を受けた。その結果
城西大学の調査については、今日の時点で打
ち切りとし、後はアーカム財団関西支部(一
度壊滅された後、再興されつつある)に行わ
せることで全ての関係各所に指示を出すこと
になった。
調査は明後日、隊長は綾野が務めることに
なる。浩太は勿論、今回は特別に桂田利明も
参加する。綾野の助手として浩太が、さらに
浩太の助手として桂田という役割だ。
打ち合わせを一通り終えた綾野たちは帰路
に着いた。浩太と桂田のアパートまでは大学
から徒歩で10分とかからない。綾野のアパ
ートは少し離れているので自転車で毎日通っ
ている。それでも自転車で7,8分という距
離だった。大学と南彦根駅のほぼ中間ぐらい
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