上 下
103 / 105
第8章 戦乱の兆し

第103話 戦乱の兆し⑤

しおりを挟む
 シータ王女の守護隊の選抜や陣営は任せることとして俺たちより一週間後で出発してもらう。

 俺は先発してロングウッドの森に向かう。シルザールで合流する予定だが、問題はベルドア・シルザール公爵の動向だった。

 国王に次ぐ大貴族の公爵の影響力は大きい。お抱えの魔法士も多いし騎士団の規模も大きい。

 シルザール公爵の協力はワリス・ボワール伯爵の以来であれば可能かと思う。ワリスはヴァルドア師匠から頼めば多分大丈夫だ。

 まずはその前にロングウッドの森なのだが。

「師匠、準備はいいかい?」

「準備も何も、いつもの手荷物だけで他は要らんからな。それと馬車ではなく飛翔魔法で行くが付いてこれるのか?」

 俺は飛翔魔法をまだ使えない。覚えようとはしていたのだが間に合わなかったのだ。

「無理だよ師匠、俺は飛べない」

「なんだ、まだ使えなんだか。では仕方あるまい、お前は後で追いついて来い」

 そう言った途端、師匠の姿は空にあった。

「おいおい、気が早いな。まあ確かに仕方ない、俺は馬車で急ぐとしようか」

「コータローさん」

 馬車に乗り込もうとする俺に声を掛けてきたのは見知った顔だった。

「なんだ、どうしたんだ、ノート・クリスト」

 それはエル・ドアン教室の上級魔法士ノート・クリストだった。それにもう一人サシャ・ネール。

「それにサシャも。こんなところで何をしている?」

「コータローさん、僕たちも連れて行ってくれませんか?」

 どこで俺の行先や目的を知ったのか、二人は俺に付いてくると言う。

「駄目だ、お前たちはまだ学生じゃないか。王都の魔法士部隊も同行するんだ、お前たちの出番はないぞ」

「学生なのはコータローさんも同じじゃないですか」

 それはそうだ、俺とノートたちはエル・ドアン教室の同級生だ、学生と言えば学生に間違いない。

「それは詭弁だな。俺とお前たちは立場が違うし年齢も立場も違う。それはノート、お前が一番判っているんじゃないか?」

 ノートはマナの量を感知することが出来る。この能力は相当レアなものだ。

「コータローさんが異常なマナの量をお持ちなのは判っています。ただ魔法そのものはまだまだ、ということも確かですよね。単純に魔法を使う術なら僕の方がまだ使えると思います」

 ノートは俺を馬鹿にしている訳ではない。本気でそう思っているのだ。それにしても危険な戦場に赴く理由にはならない。

 確かにノートの方があらゆる魔法を上手く使えるだろう。ノート達エル・ドアン教室の生徒は天才ばかりだ。

「それに僕がコータローさんに付いていく意味があるんですよ」

「意味だと?」

「そうです。僕のエル・ドアン教室の研究内容は語損ではありませんか?」

「悪い、知らないな」

「知らなくて当然です。僕とサシャとエル・ドアン先生しか知りませんから」

 それなら俺が知っている訳がない。ノートは何が言いたいのか。

「この研究は他者に知られると悪用されてしまう可能性が高いから秘匿性の高い部屋で三人で研究していたのです」

「そう言うことか。それで、その研修がどうかしたのか?」

「その研究の成果が出た、ということです。これはドアン先生もまだ知りません。報告する前に旅立たれてしまいましたから」

 完成したのがつい数日前ということか。それにしても話が見えない。ノートは何か言いたいのだ。

「で、何の研究をしていた、と言うんだ?」

「第三者によるマナの利用、です」
 
 おいおい、それは他人のマナを勝手に使える、ということか。それは間違いなく悪用されるだろう。相手のマナで魔法を使って枯渇されてから自分のマナを使った魔法で攻撃する、なんてチートが過ぎるだろう。強制的にではなく相手の承諾が必要であれば問題ないのだが。

「それは危ない魔法だな。それで第三者のマナを使うには制限があるのか?」

「勿論ありますよ、無制限であればそれこそ問題しかないじゃないですか」

 よかった。元々魔法が使えないのであれば問題ないのだが魔法使いがマナを使い切ってしまったら暫らくは動けなくなってしまう。

「どんな制限があるんだ?」

「依頼と承認です。マナの使用をお願いして許可をもらえれば他人のマナが使えるのです。使えるマナの量も例えば半分だけとか四分の一だけとかの制限も付けられます」

 細かい制約、というか契約が必要、ということか。それだけマナの借用は高度な魔法だと言うわけだ。

「なるほどね、それで俺のマナをお前が使う、ってことか」

「そうです。攻撃魔法も防御魔法も僕の方が上手く使えます。サシャも防御魔法や移動魔法なら僕より上手です。ただあなたほど大量のマナが僕たちには無い」

「それで俺に同行しようと言うのだな」

「そうです。きっとお役に立てると思うのです」

 同行したい根拠は判ったが、同行したい理由が判らない、という感じだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...