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第8章 戦乱の兆し
第100話 戦乱の兆し②
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「では、エル・ドアンの説得とロングウッドの森の掌握、そしてその前にケルンの動向を探る、というところでいいですか?」
「うむ、それでよかろう」
よかろう、って師匠、随分偉そうだ。前はそれ程では無かったと思うんだが。
俺は取り急ぎエル・ドアンの元に向かった。一番近いし手っ取り速い。
一連のことをエル・ドアンに話す。
「そういうことですか。どうしましょうね」
「どうしましょう、って手伝ってくれないのか?」
「どうして僕が?」
「この国を乗っ取ろうとしているんだぞ?」
「この国がどうなったっていいじゃないですか。僕やあなたに関係ないと思いますよ」
エル・ドアンはこういう奴だった。元の世界に戻って世界征服でもやるつもりだったのか。
「そうだ、お前の目的は元の世界に戻ることだったよな」
「そうですが、それが何か?」
「だったら、それが出来るのはケルンのストラトス家の者しか居ないじゃないか」
「そうですね」
「だが、そのストラトス家の召喚魔法なら元の世界からお前をここに戻することが出来る」
「そう言う話ですが、それが何か?」
エル・ドアンの機嫌は頗《すこぶ》る悪かった。
「ストラトス家に元の世界に戻る魔法を教えてもらって、その後にストラトス家を捕まえる、というのはどうだ?」
我ながら杜撰《ずさん》な話だ。
「なるほど、そう言う手もありますね」
もしかしたらエル・ドアンは頭が悪いのか?まあ、本人が納得してくれたのであればいいんだが。
「じゃあ手伝ってくれるか?」
「いいでしょう。何をすればいいですか?」
「もし、直ぐに動けるのであればケルンの様子を調べて来て欲しいんだが」
「判りました。明日には立てると思います」
思いのほかあっさりとエル・ドアンは説得できた。念のためキサラを同行させることにする。
「えっ、私ですか?」
「頼むよ、エル・ドアンには監視が必要だから」
「コータロー様はどうされるのですか?」
「俺は師匠とロングウッドだ。だからキサラはケルンには最短距離の南周りで行ってもらうけど、帰りはシルザールを経由して北周りで戻って来て欲しいんだ。俺はロングウッドが片付いたらシルザールに向かうつもりだから」
ロングウッドの森の魔法使いたちを参戦させることに成功したらシルザールの魔法使いたちも仲間に引き入れる。マシュー・エンロールやダンテ・ノルン、特にダンテは役に立つはずだ。
ケルン側の魔法使いたちの規模は判らないが戦線が拮抗して膠着してしまった場合に、それを打破できる参謀的存在が必要だ。
本当ならジョシュアが居れば任せたいのだが、ジョシュアは魔法が使えない。それにセレスと幸せに暮らしているのなら巻き込みたくない。ジョシュアの代わりはダンテなら務まるだろう。
「では俺は師匠と明日ロングウッドに向かうからキサラはエル・ドアンとケルンに立ってくれ」
「判りました」
とりあえず段取りを整えて俺は王都の守りをお願いしにワンナー・ツースール王立図書館長
を訪ねた。稀覯書探しに協力してもらったことと、やはり伝説級魔法士であることは大きい。
ワルク・ゾルダン魔法学校長やカールーズ・トルレン魔法省大臣は特級魔法士ではあるがやはり頼りになるのはワンナー館長だろうと思う。
「判った。王都は任せておいてもらってよい。ただ」
「ただ?」
「王と王女に説明をしてからにしてもらおう」
「王と王女、ですか?」
それはそうだろう。王国を乗っ取る気でいるかもしれないケルン一党の動向だ、気にならない筈がない。もし本当なら王国を挙げて対抗しなければならないのだ。
「でも、相手は転生人軍団を組織しているかも知れないんですよ、魔法使いでないと対抗できないんじゃないですか?」
「騎士団ではどうしようもないであろうな」
「では王都魔法士隊あたりの出番ですか?」
王都の魔法士隊は王都魔法学校の卒業生が名を連ねる最低でも上級魔法士しか居ないアステア国最強の魔法士部隊らしい。俺も噂でしか知らない。
「王都魔法士隊か、あれは駄目だ。実戦を経験して者がほとんど居ないからな」
「館長は実戦の経験が?」
「昔な。お前の師匠やサーリールとはやり合ったことはある。一緒に戦ったこともな。ただ王国と対外的な戦争はもう数十年なかった。それで今の魔法士は実戦を知らない」
実戦を知っているのと知らないのでは、やはり相当差が生じてしまうのだろう。それは俺にもエル・ドアンにも言えることだし、相手のケルン一党にも言えるだろう。
「では国王に会いに一緒に行こう」
「判りました、よろしくお願いします」
こうして俺とワンナー館長は城へと向かうのだった。
「うむ、それでよかろう」
よかろう、って師匠、随分偉そうだ。前はそれ程では無かったと思うんだが。
俺は取り急ぎエル・ドアンの元に向かった。一番近いし手っ取り速い。
一連のことをエル・ドアンに話す。
「そういうことですか。どうしましょうね」
「どうしましょう、って手伝ってくれないのか?」
「どうして僕が?」
「この国を乗っ取ろうとしているんだぞ?」
「この国がどうなったっていいじゃないですか。僕やあなたに関係ないと思いますよ」
エル・ドアンはこういう奴だった。元の世界に戻って世界征服でもやるつもりだったのか。
「そうだ、お前の目的は元の世界に戻ることだったよな」
「そうですが、それが何か?」
「だったら、それが出来るのはケルンのストラトス家の者しか居ないじゃないか」
「そうですね」
「だが、そのストラトス家の召喚魔法なら元の世界からお前をここに戻することが出来る」
「そう言う話ですが、それが何か?」
エル・ドアンの機嫌は頗《すこぶ》る悪かった。
「ストラトス家に元の世界に戻る魔法を教えてもらって、その後にストラトス家を捕まえる、というのはどうだ?」
我ながら杜撰《ずさん》な話だ。
「なるほど、そう言う手もありますね」
もしかしたらエル・ドアンは頭が悪いのか?まあ、本人が納得してくれたのであればいいんだが。
「じゃあ手伝ってくれるか?」
「いいでしょう。何をすればいいですか?」
「もし、直ぐに動けるのであればケルンの様子を調べて来て欲しいんだが」
「判りました。明日には立てると思います」
思いのほかあっさりとエル・ドアンは説得できた。念のためキサラを同行させることにする。
「えっ、私ですか?」
「頼むよ、エル・ドアンには監視が必要だから」
「コータロー様はどうされるのですか?」
「俺は師匠とロングウッドだ。だからキサラはケルンには最短距離の南周りで行ってもらうけど、帰りはシルザールを経由して北周りで戻って来て欲しいんだ。俺はロングウッドが片付いたらシルザールに向かうつもりだから」
ロングウッドの森の魔法使いたちを参戦させることに成功したらシルザールの魔法使いたちも仲間に引き入れる。マシュー・エンロールやダンテ・ノルン、特にダンテは役に立つはずだ。
ケルン側の魔法使いたちの規模は判らないが戦線が拮抗して膠着してしまった場合に、それを打破できる参謀的存在が必要だ。
本当ならジョシュアが居れば任せたいのだが、ジョシュアは魔法が使えない。それにセレスと幸せに暮らしているのなら巻き込みたくない。ジョシュアの代わりはダンテなら務まるだろう。
「では俺は師匠と明日ロングウッドに向かうからキサラはエル・ドアンとケルンに立ってくれ」
「判りました」
とりあえず段取りを整えて俺は王都の守りをお願いしにワンナー・ツースール王立図書館長
を訪ねた。稀覯書探しに協力してもらったことと、やはり伝説級魔法士であることは大きい。
ワルク・ゾルダン魔法学校長やカールーズ・トルレン魔法省大臣は特級魔法士ではあるがやはり頼りになるのはワンナー館長だろうと思う。
「判った。王都は任せておいてもらってよい。ただ」
「ただ?」
「王と王女に説明をしてからにしてもらおう」
「王と王女、ですか?」
それはそうだろう。王国を乗っ取る気でいるかもしれないケルン一党の動向だ、気にならない筈がない。もし本当なら王国を挙げて対抗しなければならないのだ。
「でも、相手は転生人軍団を組織しているかも知れないんですよ、魔法使いでないと対抗できないんじゃないですか?」
「騎士団ではどうしようもないであろうな」
「では王都魔法士隊あたりの出番ですか?」
王都の魔法士隊は王都魔法学校の卒業生が名を連ねる最低でも上級魔法士しか居ないアステア国最強の魔法士部隊らしい。俺も噂でしか知らない。
「王都魔法士隊か、あれは駄目だ。実戦を経験して者がほとんど居ないからな」
「館長は実戦の経験が?」
「昔な。お前の師匠やサーリールとはやり合ったことはある。一緒に戦ったこともな。ただ王国と対外的な戦争はもう数十年なかった。それで今の魔法士は実戦を知らない」
実戦を知っているのと知らないのでは、やはり相当差が生じてしまうのだろう。それは俺にもエル・ドアンにも言えることだし、相手のケルン一党にも言えるだろう。
「では国王に会いに一緒に行こう」
「判りました、よろしくお願いします」
こうして俺とワンナー館長は城へと向かうのだった。
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