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第7章 王立図書館の章
第84話 王立図書館への道②
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翌日、俺とサーリールは朝から王都魔法学校に向った。授業がある日なのでキサラも一緒だ。
問題はエル・ドアンに会わないように、ということだった。
「キサラ、今日の授業はどうなっている?」
「朝からドアン先生は古代魔法学の授業で忙しくしておられると思います。私はその講義は取っていませんので動けます」
「そうか。では俺とサーリールは校長に会って来るからドアンを見張っていてくれ」
「判りました」
こうして俺はサーリールと連れだってゾルダン校長を訪ねた。
「すいません、今少しよろしいでしょうか?」
「なんだ、確かドアン先生のところのコータローとか言ったか。私に何の用かね?」
校長は突然訪ねて来た俺を警戒しているようだ。特にドアンの生徒はあまりいいように思われてはいない。
「校長先生を知っている、と言う方をお連れしたのですが」
「私を知っている?誰だね、それは」
そこで校長室にサーリールを招き入れた。
「私ですよ、ゾルダン家の末っ子」
「ん?あなたは誰です?どうも見ても見覚えはない」
またか。サーリールが知っている、というのは本当に当てにならない。
「私に見覚えが無いと?あなたの父親にはとても世話を焼いてあげたものですが」
「父のことをご存知ですか?」
「ドムール・ゾルタンがあなたの父親であればな」
「ドムールは確かに父の名です」
「であるのなら、その末っ子も私は知っていますよ、当然幼子の頃のことですが」
サーリールは校長が覚えていない幼子の時に父親の世話をした、と確認が取れないことを言っているのだ。当時の事を憶えている人がいれば確認されてしまうが、そうでなければ確認のし様がない。
「そうですか、それはお世話になりました。亡くなった父もサーリールさんに感謝していることと思います。実家の者に聞いてみましょう。それで今日はどのような御用で来られたのですか?」
校長は言葉を選んで答えた。とても信用している風には見えないが相手の目的を確認しようとしているようだ。
「実は王立図書館に用があってね。それで口添えを頼めないかと」
校長は閲覧不可の希覯書を見れるようにならないか、ということだと直ぐに察したようだ。
「なるほど。失礼ですが私が覚えていない以上サーリールさん、あなたのことを実家の者が覚えているかどうかを確認した上でないと、そのご依頼にはお応えできないと思います。確認している間、お待ちいただくことは可能でしょうか?」
校長は本当に昔世話になっていたら、という一抹の不安もあるのだろう。ただ確認して本当だと判ったらどうするつもりなのだろうか。
「いいでしょう。時間は有ります、お待ちしていますので、よろしく」
そういうとサーリールは俺を放置して出て行ってしまった。
「コータロー君、今の人は一体何者なんだ?」
「ゾルタン校長、申し訳ありません。僕も頼まれただけでよくは知らないのです。ただ出会ったのはロングウッドの森でした」
俺は自分の目的のことは棚に上げておいて、ロングウッドの件は正直に話した。校長が身元確認のような事をするのであれば直ぐにバレることだと思ったからだ。
「なんとロングウッドの魔法使いなのか。ロングウッドには多くの特級や伝説級魔法士たちがそれぞれの結界の中で暮らしているとは聞いているが、私には知り合いはいないな。ロングウッドに出入りしている魔法士で知り合いと言えばヴァルドア・サンザールくらいのものだ」
「ヴァルドア師匠をご存知でしたか」
「なんだ、君はヴァルドアの弟子だったのか。道理で初級を受けに来ていた者を上級合格にさせてくれとドアン先生が言い出す訳だ」
「いや、弟子と言ってもほとんど修行は付けてもらっていませんが、一時期少し行動を共にしていました。シルザールで別れてそれキリですが」
それから暫らくは師匠の話で盛り上がってしまった。入学してから校長とは殆ど話をしたことが無かったのだが、結構親しく成れたんじゃないか。サーリールでなくても俺が頼めばもしかしたら、とも思ったがそれは保険として残しておくことにした。
それよりも校長の推挙があったとしても本当に見たい希覯書が閲覧可能かどうかは別の話になる。そしてやはり問題になるのは元の世界に戻る方法が記載されているかどうかだ。
「それと、これはオフレコでお願いしたいのですが」
「オフレコ?」
「ああ。申し訳ありません。他言無用でお願いしたいのですが」
「うむ。それはいいのですが、一体何の話ですが?」
「ドアン先生の件です。ドアン先生からさっきの話と同じように王立図書館の希覯書を見れるよう頼まれたことはありませんか?」
校長は少し考えてから応えた。
「そういえば少し前に頼まれたことがありましたね。結局彼の希望には添えませんでしたが」
「添えなかったのですか?」
「ええ。彼が探しているという希覯書は私がお願いして許された保管所には無かったようです。私には全ての保管所への立ち入り許可を得られる権限はありません」
そうか、校長でも駄目だったのか。ドアンが見つけられなかったのだ、校長の手配で入室が許可される保管所には無いのだ。
「そうでしたか。ではドアン先生は目的を達せられなかったということですね」
それはそうだろう。もし彼の目的が達成していたとしたら既にこの世界には居ない筈だ。
「彼はそう言って落胆していましたね。ただまだ可能性はあるとも言っていました。私の権限では無理だったことを彼が何らかの方法で成し得るとしたら、彼の目的は達することが出来るでしょう」
校長は何処まで知っているのだろうか。ドアンや俺たちが何をするために希覯書を探しているのか、全部理解した上で言っているのだろうか。
「ドアン先生の希望が叶うといいですね。では僕はこれで失礼します」
俺は心にも無いことを言って校長室を辞した。サーリールの目的は判らないが俺にとっては校長の力を借りても無駄なことが判った。
サーリールがどうするのか、確認しなければならない。
問題はエル・ドアンに会わないように、ということだった。
「キサラ、今日の授業はどうなっている?」
「朝からドアン先生は古代魔法学の授業で忙しくしておられると思います。私はその講義は取っていませんので動けます」
「そうか。では俺とサーリールは校長に会って来るからドアンを見張っていてくれ」
「判りました」
こうして俺はサーリールと連れだってゾルダン校長を訪ねた。
「すいません、今少しよろしいでしょうか?」
「なんだ、確かドアン先生のところのコータローとか言ったか。私に何の用かね?」
校長は突然訪ねて来た俺を警戒しているようだ。特にドアンの生徒はあまりいいように思われてはいない。
「校長先生を知っている、と言う方をお連れしたのですが」
「私を知っている?誰だね、それは」
そこで校長室にサーリールを招き入れた。
「私ですよ、ゾルダン家の末っ子」
「ん?あなたは誰です?どうも見ても見覚えはない」
またか。サーリールが知っている、というのは本当に当てにならない。
「私に見覚えが無いと?あなたの父親にはとても世話を焼いてあげたものですが」
「父のことをご存知ですか?」
「ドムール・ゾルタンがあなたの父親であればな」
「ドムールは確かに父の名です」
「であるのなら、その末っ子も私は知っていますよ、当然幼子の頃のことですが」
サーリールは校長が覚えていない幼子の時に父親の世話をした、と確認が取れないことを言っているのだ。当時の事を憶えている人がいれば確認されてしまうが、そうでなければ確認のし様がない。
「そうですか、それはお世話になりました。亡くなった父もサーリールさんに感謝していることと思います。実家の者に聞いてみましょう。それで今日はどのような御用で来られたのですか?」
校長は言葉を選んで答えた。とても信用している風には見えないが相手の目的を確認しようとしているようだ。
「実は王立図書館に用があってね。それで口添えを頼めないかと」
校長は閲覧不可の希覯書を見れるようにならないか、ということだと直ぐに察したようだ。
「なるほど。失礼ですが私が覚えていない以上サーリールさん、あなたのことを実家の者が覚えているかどうかを確認した上でないと、そのご依頼にはお応えできないと思います。確認している間、お待ちいただくことは可能でしょうか?」
校長は本当に昔世話になっていたら、という一抹の不安もあるのだろう。ただ確認して本当だと判ったらどうするつもりなのだろうか。
「いいでしょう。時間は有ります、お待ちしていますので、よろしく」
そういうとサーリールは俺を放置して出て行ってしまった。
「コータロー君、今の人は一体何者なんだ?」
「ゾルタン校長、申し訳ありません。僕も頼まれただけでよくは知らないのです。ただ出会ったのはロングウッドの森でした」
俺は自分の目的のことは棚に上げておいて、ロングウッドの件は正直に話した。校長が身元確認のような事をするのであれば直ぐにバレることだと思ったからだ。
「なんとロングウッドの魔法使いなのか。ロングウッドには多くの特級や伝説級魔法士たちがそれぞれの結界の中で暮らしているとは聞いているが、私には知り合いはいないな。ロングウッドに出入りしている魔法士で知り合いと言えばヴァルドア・サンザールくらいのものだ」
「ヴァルドア師匠をご存知でしたか」
「なんだ、君はヴァルドアの弟子だったのか。道理で初級を受けに来ていた者を上級合格にさせてくれとドアン先生が言い出す訳だ」
「いや、弟子と言ってもほとんど修行は付けてもらっていませんが、一時期少し行動を共にしていました。シルザールで別れてそれキリですが」
それから暫らくは師匠の話で盛り上がってしまった。入学してから校長とは殆ど話をしたことが無かったのだが、結構親しく成れたんじゃないか。サーリールでなくても俺が頼めばもしかしたら、とも思ったがそれは保険として残しておくことにした。
それよりも校長の推挙があったとしても本当に見たい希覯書が閲覧可能かどうかは別の話になる。そしてやはり問題になるのは元の世界に戻る方法が記載されているかどうかだ。
「それと、これはオフレコでお願いしたいのですが」
「オフレコ?」
「ああ。申し訳ありません。他言無用でお願いしたいのですが」
「うむ。それはいいのですが、一体何の話ですが?」
「ドアン先生の件です。ドアン先生からさっきの話と同じように王立図書館の希覯書を見れるよう頼まれたことはありませんか?」
校長は少し考えてから応えた。
「そういえば少し前に頼まれたことがありましたね。結局彼の希望には添えませんでしたが」
「添えなかったのですか?」
「ええ。彼が探しているという希覯書は私がお願いして許された保管所には無かったようです。私には全ての保管所への立ち入り許可を得られる権限はありません」
そうか、校長でも駄目だったのか。ドアンが見つけられなかったのだ、校長の手配で入室が許可される保管所には無いのだ。
「そうでしたか。ではドアン先生は目的を達せられなかったということですね」
それはそうだろう。もし彼の目的が達成していたとしたら既にこの世界には居ない筈だ。
「彼はそう言って落胆していましたね。ただまだ可能性はあるとも言っていました。私の権限では無理だったことを彼が何らかの方法で成し得るとしたら、彼の目的は達することが出来るでしょう」
校長は何処まで知っているのだろうか。ドアンや俺たちが何をするために希覯書を探しているのか、全部理解した上で言っているのだろうか。
「ドアン先生の希望が叶うといいですね。では僕はこれで失礼します」
俺は心にも無いことを言って校長室を辞した。サーリールの目的は判らないが俺にとっては校長の力を借りても無駄なことが判った。
サーリールがどうするのか、確認しなければならない。
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