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第6章 魔法学校の章

第74話 王都で悪巧みだ

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「いったい毎晩どちらにお出かけなのですか?」

 キサラに何度も聞かれたが、こればっかりは正直には答えられない。軽蔑されるのがオチだ。

「まあ、気にするな」

 俺は自分でもよく判らない返事をするだけだった。

 俺はその夜も繁華街に出ていた。王都には大きな歓楽街がある。居酒屋のような大衆的な店もあれば高級な貴族しか入れない飲み屋もある。そして娼館もあった。

 俺が通っていたのは娼館の一つ『黒蝶の館』という店だ。この店は比較的若い娼婦が多い。ただその技は熟練の娼婦に引けを取らないと評判の店だった。

 『黒蝶の館』で俺はラム・シーリンと言う娼婦を毎回指名している。ラムは18歳だが背も低いのでもう少し幼く見える。多分15歳と言っても通用するだろう。だが俺がロリコンだと言う訳ではない。ラムを指名しても時間いっぱい話をするだけだ。

 俺はずっとラムにあることをレクチャーしている。勿論ある悪巧みのためだ。

 そして悪巧みにはもう一つ重要な準備があった。それはエル・ドアンの日常の行動パターンを完璧に知ることだ。

 俺は学校が休みの時は必ずエル・ドアンの行動を追っていた。だが、ほとんどの休みをエル・ドアンは自室と図書館で過ごしている。学校から出ることが無いのだ。

「これは前途多難だな」

 エル・ドアンには外出してもらわないと、俺の悪巧みが成立しない。俺は事あるごとにエル・ドアンを誘って王都の様々な場所に連れ出すことにした。

 エル・ドアンはどこの出身なのかは何故か教えてくれなかったが王都の出身ではないことは確かだ。だが殆ど街に出たことが無いので王都の名所旧跡は行ったことが無い。

 勿論俺も行ったことが無いのでキサラや他の生徒も誘って王都観光に休みの度に連れ出した。

 最初は嫌がっていたエル・ドアンだったが徐々に楽しそうに見えるようになった。授業も課外授業と称して外で行うことが増えた。

 そして、エル・ドアンが一人で出かけるのを見かけたことで俺の作戦は始まった。

「ラム、準備はいいか?」

 エル・ドアンが出かけたことを確認してラムを待機させている。漫画のような出会いを演出するのだ。

「ホントにやるんですか?」

 ラムは今だに半信半疑だったが、俺は真剣だ。

「やるんだよ、本当に。ちゃんと話をしただろう?」

「それはそうなんですけど、なんだか気が引けるというか」

「気にするな。言われた通りやればいいんだ」

「わかりました」

 そして歩いてくるエル・ドアンにタイミングを計って横道からラムを飛び出させた。

「どん!」

「痛たたたた」

 エル・ドアンとラムはぶつかって二人とも転んでしまった。計画通りだ。ラムは食パンを咥えてはいないが、それはまあ仕方ない。

「あっ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」

 ラムがエル・ドアンに駆け寄って起こす。

「ああ、大丈夫です。あなたは大丈夫ですか?」

 エル・ドアンが他人を気遣う所を初めて見た。学校で例えば生徒とぶつかっても知らん顔で行ってしまうことが普通なのだ。

「はい、私は大丈夫、あ、痛っ」

 ラムは肘を少し擦り?いていた。実際には、擦り?いたように見えるよう特殊メイクをしていた。

「大変だ、医者に見せないと」

「いえ、これくらいなら大丈夫です。心配させてしまって申し訳ありません」

 二人の押し問答がなかなか終わらない。

「でも」

「本当に大丈夫です、では私はこれで」

 ラムが立ち去ろうとするとエル・ドアンが慌てて止める。

「僕は王都魔法学校のエル・ドアンといいます。もし何かありましたら訪ねてきてください」

「はい、ありがとうございます、私の名前はラムといいます。なにかありましたら是非お訪ねさせていただきますね」

 そう言うとラムはエル・ドアンから離れた。その後ろ姿をエル・ドアンはずっと見つめていた。何か感じる所があった様子だ。上手くいったか。

 俺は隠蔽魔法で陰から見守っていたのだが、俺の大量のマナはエル・ドアンに探知されてしまう。俺が王都魔法学校に入って一番苦労したのは自分のマナの量も含めて隠蔽魔法で探知できなくすることだった。

 王都魔法学校の図書館には大量の魔法書・魔道書が保管されており、その中にマナの量も含めた隠蔽の方法が書かれた魔法書もあった。普段は使えることを隠さないといけないのでマナの量はそのままにしてあるが、こんなときは完全な隠蔽魔法を使用できるようになったのだ。

「あれでよかったの?」

「ああ、絶妙だったよ、十分だ」

「それで、これからどうするの?」

「あとは次の休みにエル・ドアンを訪ねて王都魔法学校に来てくれればいい。彼を誘いだして普通に公園にでも出かけてくれれば」

「それで色仕掛けであの人を落とせばいいのね。でもそれってどんな意味があるの?」

「特に意味は無い。ただ彼が王都から離れたくない、という気持ちを持ってくれれば成功なんだ」

「ふぅん、そんなんでいいんだ。まあ、私はお金がいただければ問題ないんだけど」

「ただ普通に楽しく遊んでいてくれればいいよ」

 エル・ドアンはどうみても恋愛経験は無さそうだ。そこに少しでも親しい異性が現れれば簡単に遠くまで単身で出かけようとはしないだろう。我ながら質の悪い悪巧みだったが、どんな手も打っておくに越したことは無いと思っていた。
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