『絶対防御が結局最強』異世界転生って若い奴らの話じゃなかったのかよ、定年間近にはキツイぜ!

綾野祐介

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第6章 魔法学校の章

第73話 王都で学園生活だ

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 それから暫らくは普通にエル・ドアンや他の教師の授業を受けていた。流石は王都魔法学校だ、教え方が適切で、これなら直ぐに魔法も上達出来るだろう。

 俺は最初のうちは使える魔法も使えないと嘘を吐いて初級を受けに来た、という本当の話の証拠にしていた。

 俺が本気で火球なんて打ったら、そこに居る生徒たちは丸焦げになってしまう。

 ただ本当に修行をしたければ本気でエル・ドアンに向かって火球を打つ、とかの方が有効だろう。それはエル・ドアンの攻撃魔法を俺が防御する、とかでもいい。

 実際、休みの日には誰にも見られない所でキサラに向かって火球を打ちまくっている。キサラの防御魔法の精度や強度を上げるためだ。

 ちゃんと授業を受けていることもあってキサラの防御魔法は日に日に上達していた。俺は五割の力で打った火球はもうキサラには通用しない。

「強くなったな、キサラ」

「コータロ―様のお陰です。マナ切れがないので、いつまでもお付き合いいただけますから」

「キサラのマナも相当増えたんじゃないか。それはお前の努力の賜物だと思うよ」

「ありがとうございます」

 俺は約束通りキサラの魔法の修行が出来て喜んでいた。これでボワール家にも恩返しができると言うものだ。

 エル・ドアンというかジョシュアたちの件が片付いたらキサラはボワール家に戻すつもりでいた。ワリス・ボワール伯爵の下で幸せになってほしいものだ。

 一番若い生徒の一人、ノート・クリスとは教室で唯一の庶民の子供だった。奨学金で学費は全額免除だから入れたのだが、寮での生活費も全額学校負担だった。

 他の生徒も名目は学校負担になっていて生徒から直接徴収はされないのだが実際には各々の実家からの寄付が多額になるので、それで潤っているのだ。

 ただノートの他に俺とキサラも全額免除になっている。エル・ドアンには学校も逆らえないのだ。ただ学校としても優秀な上級魔法士は喉から手が出るほど欲しい。

 優秀な生徒が揃っている王都魔法学校でも上級魔法士に合格する者は年に数人だけなのだ。

 今年の上級試験はエル・ドアン教室から17歳、18歳の6名と他の教室から5名、他の学校から3名の合計14名が受験して合格したのはそれ以外のキサラと俺の二人だけだった。

「ノート、どうした?」

 ノートは何か話しかけようとしているようだが、なかなか切っ掛けが掴めない、という様子だったので俺から声を掛けてみた。

「あ、ああ、いや、別に」

 ノートは話し難そうにしている。元々饒舌な方ではないのだ。

「何か聞きたいことでも有るのか?」

 ノートはあまり話しかけてこない。自分が優秀であることを自覚しているようで、また庶民の出であることを引け目にも感じている。

 ただ貴族でもない俺がエル・ドアンの推薦で上級に合格したことには、とても関心があるはずだ。

「何もないならいいけどな」

「あ、いや、無いこともない、かな」

 ノートはやっと決心して話しかけることにしたようだ。

「コータロー、君は貴族の子弟でもキサラのように貴族付きの魔法使いでもない。一体何者なんだ?」

 そこを聞いてきたのはノートが初めてだった。皆俺がどうしてエル・ドアンの推薦を受けられたかについては色々と聞いてくるが、そもそも俺が何者なのかについては誰も関心が無い。

「俺か、俺はただの旅人だよ」

「旅人?なんだよ、それ。言えない、ってことなの?」

 俺が異世界から来たことは、最近は出来る限り言わない方向で考えている。だからエル・ドアンにも話していない。まあ、エル・ドアンは関心がなさそうだったが。

 旅人、と言うのも強ち嘘だとも思っていない。異世界からの旅人、ということだ。

「言えない、というか、まあ旅人にも色々とあるからな」

「ふーん、まあいいや。ところで君がドアン先生の推薦を受けられた理由、なんとなく判ったんだけど」

 マジか?マナの量を探知する魔法は相当レアな筈だが、王都魔法学校でも一番優秀なエル・ドアン教室の生徒であれば一人くらいは使える者が居ても可笑しくないか。

「本当か?それは凄いな」

 ノートの話が本当ならば超レアな探知魔法の使い手になるだろう。エル・ドアンから直ぐにでも上級魔法士に推薦してもらえるはずだ。本来であれば15歳のノートはあと2年は修行しないと上級試験は受けられない。

 しかし、そうそうエル・ドアンも推薦ばかりで試験を蔑ろにする訳にも行かないとは思うのだが約束は守るだろう。ノートが本当に俺のマナの量を探知できるのであれば上級になれる公算は高い。

「君がドアン先生の推薦を受けられた理由は」

「あっ、ちょっと待って、ここでは駄目だ。ドアン先生のところに直接行って二人だけで話をする方がいいい」

「なるほど、他の生徒には聞かせられない、って事だね、判った、じゃあ行ってくる」

 そう言うとノートはエル・ドアンの控室に向かった。

「ちょっと、今の何?ノートは何か見つけたのかしら?」

 エル・ドアン教室に二人いる女子の一人サシャ・ネール16歳だった。

「さあ、どうでしょう」

「惚けるのね。いいわ、戻ったらノートに直接聞くから」

 それだけ言うとサシャは去って行った。やはり推薦での上級合格は相当巧い話なのだ。

 生徒たちは入れ替わり立ち代わり俺のところに何かヒントは無いかと話しかけてくる。だが、今のところ誰一人手掛りすら見つけられていない。唯一ノート・クリストが『なんとなく』ではあるが見つけただけだ。

 本来は一番年上で首席と言っていいヨーレル・ツイートも、あれ以来絡んでこない。

「コータロー様、今日もですか?」

「ああ、悪だくみだ。そろそろ準備が整うから、楽しみにしていてくれ」

 俺はまた夜の街に出かけるのだった。
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