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第6章 魔法学校の章

第69話 王都で昇級試験だ

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 キサラの昇級試験対策は順調だった。マナの量は思ったほど伸びなかったが、それぞれの魔法は熟練していった。

 キサラは攻撃魔法よりは防御魔法が得意のようだ。そして、俺の希望もあったが移動魔法のスキルを上げて行った。隠密行動を一人で熟す、忍者の様な存在になって欲しいのだ。

 あとは実はレアな探知魔法を習得してくれると申し分ない。

 実際のところエル・ドアンの攻撃魔法に対抗できる防御魔法の習得は難しい。少なくとも自分の身をなんとか守れる程度になってくれれば有難いところだ。

 俺と言えば、相変わらず例の薬でマナの量を増やすことと攻撃魔法を連発することに専念していた。一つ一つの魔法が弱くても数で押し切ろうという考えだ。

 火球や風刃はそこそこの物になってきている。特に物量頼みの火球よりは硬度を磨きに磨いた風刃は自慢の魔法た。風刃の連発は我ながら超強力だと思う。但し誰とも戦ったことが無いので本当のところは判らないが。

 そして試験日を迎えた。

「どうだ、緊張しているか?」

「はい、中級試験の時よりもずっと緊張しています」

 キサラは初級、中級と試験を受けているので三回目だが、何回受けても試験なんて慣れる筈がない。

 俺も初級を受けさせてもらえることになっているので先に会場に入った。

「はい、はい、注目!」

 三十人ほどの受験生が集まる中で一段高い所に見覚えのある顔が立った。スージール・ローウンだ。確かに試験官もやっていると言ってたな。

「では今から初級魔法士の試験を開始する」

 初級試験は基本魔法のいくつかを実際に使えるかどうかの実技と、それをクリアした者だけが受けられる学科があるらしい。学科は各種魔法の詠唱の筆記や薬学、魔法史とかもあるらしい。俺の課題は勿論学科だ。

 受験者が次々と得意な魔法を使って試験をクリアしていく。ただ緊張からか失敗する者も居た。ほとんどの受験生は基礎の基礎である火球を放つ。威力は様々だが俺の火球とは全然違う。これはもしかしたら本気で火球を打ってはいけないパターンか?
 
 そして俺の番が来た。

「何の魔法でもいいのか?」

 試験官であるスージールに問う。

「なんでもいい。まあ大抵は火球だがな」

 そう言われてしまうと火球以外は出しにくい。仕方なしに俺は威力を極力抑えて火球を放った。それでも先にやった受験生の倍では効かなかった。これ以上は抑えられなかったのだ。

「おお、凄いな。今年の試験では勿論一番だ。過去例がないほどの威力だな」

 スージールに褒めてもらっても嬉しくないが、抑えに抑えた魔法が過去一だと言われてもな。

「いやいや、もっと凄い人がいたでしょう。例えば若き天才エル・ドアンとか」

 そう言うとスージールは少し嫌な顔をした。その名前は聞きたくなかった、という感じだ。

「アレは例外だ。ただの化け物だな。アレは試験など受けておらん。校長推薦で免除だ、免除」

 同僚でもあるエル・ドアンをアレ扱いだ。若き天才は敵も多いのかも知れない。多分本人は何一つ気にしていないとも思うが。

「化け物なんですか。一度お会いしたいですね、その化け物さんと。俺の場合はたまたまですよ、たまたま。今日は調子が良かっただけです」

 魔法にたまたまなんて無いのだが、俺は悪目立ちしたくないので誤魔化した。誤魔化せたか?

「アレに関わるとロクなことは無いぞ」

「そうなんですか。そう言われると逆に興味が湧いてしまうじゃないですか。ぜひ紹介してください」

 俺は一応シーザールにエル・ドアンに紹介してもらう確約を得た。

 俺とスージ―ルが親し気に話をしているのを他の受験生は不思議そうに、若しくは怪訝な顔で見ていたが、俺の特大の(俺からすればかなり小さい)火球を見ているので誰も何も言わなかった。

 今回の初級の実技合格者は俺を含めて12人だった。半数以上が基準を満たす程度の火球や風刃を放てなかったのだ。全く使えない者も居た。おいおい、そいつらは何しに来たんだ?

「では実技試験合格者は明日学科試験を受けてもらう。明日も同じ時間にここに集まるように」

 とりあえず合格はほっとしたが、半年に一回しか昇級試験が無いのなら上級までまだ一年は掛かることになる。俺はちょっと面倒くさくなってきていた。資格を持っていても俺にはあまりメリットは無い気がするからだ。

 俺はそのままキサラの試験を待っていた。少し待っていると上級試験が終わってキサラが出てきた。

「コータロー様、お待たせしました、今終わりました」

 キサラの顔は解放感に溢れている。これは大丈夫だった時の顔だ。

「その顔は合格、ってことだな?」

「はい、お陰様で一回で合格出来ました。普通は上級試練は五回か六回受けてやっと合格する人が多いのですが、私の様に一階での合格は珍しいようです」

 キサラの顔は自信で溢れていた。俺との修行で十分実力は上級に達しているとは自覚していたようだが、いざ試験となると勝手も違う。緊張で実力を出せないこともあるからだ。

「防御魔法だけなら上級を超えているとお褒めの言葉をいただきました。ただ攻守のバランスは少し悪いので、もっと攻撃魔法の精度を上げた方がいい、とも言われました」

 キサラの防御特化は俺の指示なので悪いことをしたかも知れない。

「できればそのまま防御魔法を極めて欲しいんだがな」

「判っています。コータロー様や伯爵のお役に立つにはそれが最適だと思っています」

 どちらかと言うと俺の役に立つだけなのだが。エル・ドアンに対抗するためには色々と手を打っておきたい。

「明日の学科は大丈夫なのか?」

「はい、コータロー様よりは大丈夫だと」

 そうなのだ、問題は俺だ。この世界での会話は不自由しなくなっているし、文字も読むことは大丈夫なのだが、あまり上手く書けないのだ。パソコンやスマホの時代で入力することはできても字を書くことがほとんど無くなってしまっていた元の世界同様、この世界でも書くことがほとんど無かったのだ。

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