上 下
55 / 105
第5章 展開する物語の章

第55話 シルザールの街で気が付いてしまった

しおりを挟む
「ボワール伯爵の居場所を知っている様だな」

 ダンテの感は鋭いし正確だ。俺に協力的なこと以外は普通の優秀な魔法士に見える。

「判った。『赤い太陽の雫』はワリスさんは持っていないと思うし、俺が説得してみるから城で待っててくれないか?ちゃんと連れて行くから」

 そんな提案を受け入れるべき理由はダンテには無い。

「いいだろう。ちゃんと連れて来いよ。言っておくが私はボワール伯爵のような魔法使いではない人は探せないが、お前のような巨大なマナの魔法使いはシルザールに居ればすぐに判るという事を覚えておけ」

 なんだよ、俺の居場所は丸判りなのか。それで初対面なのに俺のことを何だか知っているかのような反応だったのか?マシューあたりには出来ない芸当なのかもしれない。ダンテ、我が儘マシューの配下にしておくには勿体ない優秀な魔法使いだ、三顧の礼で引き抜くかな。

「勿論判っているとも。では少しだけ時間をくれ。先に城に戻っててくれ」

 俺はダンテの馬車が屋敷を出て行くのを確認してからワリスさんのところを訪れた。

「あなたは伯爵を売ったのですか?」

 キサラが睨みつけている。さっきの上での会話を聞いていたのだ。キサラの存在も気が付いていたのに城に戻って行ったダンテは、ちょっと何考えているのか判らなくなってくるな。

「ちゃんと聞いていたか?伯爵が犯人ではないということを言ってただろ?」

「キサラ、いいよ。そろそろ出ていく頃合いだと思っていたから、まあちょうどいい。コータロー君、一緒に城に出向こうか」

「旦那様、よいのですか?」

 ルアーノ執事が心配顔で主人に問う。

「いいんだ。ずっとここに居る訳にも行かないだろう。ベルドアも私のことを無碍にはしないと思う」

 それなら何故隠れたりしたんだ?という疑問が残るが、話が急展開したので情報収集や商人として色々と手を打つ時間を稼ぎたかった、というところか。俺の中ではワリス黒幕説がまだ消えてはいないのだが考えても仕方ない。簡単に尻尾を掴ませる玉ではない。

 俺はワリスさんの従者ということで一緒にベルドア・シルザールの居城へと向かった。

「お待ちしておりましたボワール伯爵様、どうぞこちらへ」

 城に着くと直ぐにダンテが現れて客間の一つに通された。しばらくここで待つように、とのことだ。

「ワリスさん、大丈夫ですか?」

 色んないみで、大丈夫なのか、を聞いてみた。

「大丈夫だよ。何も問題ない」

 ワリスさんは笑顔で応える。全て大丈夫のようだ。

「ボワール伯爵様、どうぞ、ご領主様がお待ちです」

 俺とルアーノ執事がついて行こうとするとダンテに泊められた。伯爵お一人で、ということらしい。仕方なしに俺たちは通された部屋で待っていた。

 抜け出して城の中でジョシュアやセリスを探そうと思ったがルアーノに止められた。主人が無事戻ってからにしてほしい、ということだ。俺は素直に従った。迷惑は掛けられない。

 1時間少し経ったとき、ワリスさんが戻って来た。

「帰ろうか」

 少し疲れた何とも不思議な表情で帰宅を促した。領主との話は上手く行ったのだろうか。

 ルアーノは全く口を開かず馬車を駆って主人を乗せて屋敷へと向かう。帰宅する間も一言も発しない。その空気に俺も飲まれてしまって何も話せず何も聞けなかった。

 屋敷に戻ると

「疲れてので、これで休ませてもらうよ」
 
 ワリスさんはそう言うと自室に引き込んだ。屋敷には既に使用人やメイドたちが戻ってきている。俺が居た時と何一つ変わらない風だった。ただ魔法士はキサラ以外は誰も戻っていない。

 オメガ・サトリームが『赤い太陽の雫』を盗んだ犯人だと特定されたことにより、叛意が無いことを示すため一人を残して全員を解雇せざるを得なかったのだ。

「ワリスさんは大丈夫なんですかね?」

 ルアーノに問いかけると、執事の顔色が暗くなった。

「何も仰ってくださいますな。何もお聞きくださいますな。私もこれで休ませていただきます」

 そういうと執事も自室に戻ってしまった。

 仕方なしに俺も元居た部屋に戻る。とこでやっと気が付いた。

「あっ」

 ベルドア・シルザールとワリス・ボワールとの関係。そうか、そうだったのか。年齢は10歳ほどは離れていそうだが、そういうことか。確かに男色だとは聞いていたが。

 二人の関係がそういうことであるのなら、元々問題は無かったのかも知れない。

 ベルドアが正妻としてシンシア・ウォーレンを迎え第二夫人としてセリス・ウォーレンを迎えたことは二人の関係に亀裂を入れなかったか。二人の間のことは二人にしか判らない、と俺は考えることを止めた。

 いずれにしても、やはり男色家として名を馳せていたベルドアが正妻や第二夫人を迎えたことには違和感がある。何か別の理由があるように思える。

 ジョシュアとセリスを探すついでに、その辺りのことも探る必要がありそうだ。セリスの姉シンシアにしても納得して嫁いできた訳ではないだろう。

 ベルドアの本当の目的が知りたい。それによっては正式にセリスを開放してもらえる可能性も出てくるはずだ。

「お屋敷が元に戻ったのはあなたのお陰です、ありがとうございました」

 キサラからお礼を言われた。お礼を言われるには俺のやった事は割と自分勝手で自分の都合でやった事でしかない。

「何も大してことはしていない。君は主人思いのいい魔法使いだね」

 本心からの言葉だった。

「伯爵様は孤児だった私を引き取って魔法の修行をするよう手配してくださったのです。私はその恩に報いるため魔法の修行に励んでいるのです。オメガ様や他の魔法使いの方は全然私の相手をしてくださいませんでしたが。私にはあまり才能がないといつも言われていました」

 ワリスさんがキサラを引き取って育てた理由はよく判らない。ボワール家に勤めていた魔法使いたちからも疎まれていたようだ。俺から見ると若くて可愛い、守ってあげたくなるような魔法使いなんだが。

「俺が魔法を教えてあげようか?」

 ついついそんなことを言ってしまう気になる子だった。

「本当ですか」

「いや、実は俺もまだまだ修行中の身だから教えられることなんてあまりないけどね」

「それでもいいです。宜しくお願いします」

 お願いされたら仕方がない。ただし、セリスの件をなんとか解決してから、ということになるか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!

黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。 登山に出かけて事故で死んでしまう。 転生した先でユニークな草を見つける。 手にした錬金術で生成できた物は……!? 夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...