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第3章 飛躍する物語の章

第43話 シルザールの街を後にした

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「あなたの捕縛に疑問を持っていたからです。『赤い太陽の雫』の件はヴァルドア様を含めてあなたの嫌疑も晴れています。それなのにあなただけ再度捕まった。その理由は判っていますか?」

「ルスカナの件だろ?」

「そのようです。ご領主様はウォーレン家から正妻としてシンシア様をお迎えになり、側室としてシンシア様の妹気味であるセリス様を迎えられるおつもりでした」

 そこまでは聞いている。でも側室ではなく御供の一人とか言っていなかったか?

「それがセリス様はルーデシア・ケルン子爵様とのご婚約が成立している、とのことでウォーレン侯爵様よりお断りのご連絡をいただいたのです」

 なんだかシルザールで起こっていることは全てダンテに聞けば判るのではないか?とすら思えてくる。

「それは多分ウォーレン侯爵様が体よくお断りになろうとして吐かれた嘘ではないかと私は思っていました。ただ正妻としてはシルザール公爵家との婚姻は望むところであった筈です。二人の娘を二人ともシルザール家に出してしまうとウォーレン家が断絶してしまいかねません」

 それはケルン家に嫁いでも同じことだろう。但し、ケルン子爵家をウォーレンン家に吸収してしまうと言う手があるのか。相手がシルザール家ではそうもいかないだろう。

「だから何なんだ?」

「セリス様がケルン子爵様のところに嫁ぐことになった本当の理由はあなたということです」

 なんか、そんな話を聞いた覚えがある。ではダンテは俺の正体すら知っているというのか。まあ、特に隠している訳ではないが情報・通信手段が発達していないこの世界でダンテの情報網は異常なのかもしれない。

「もしあなたにそれ程の価値があるのだとしたらご領主様も手に入れたいと思われたでしょう。ところがケルン子爵の話ではあなたに特別な力が有る訳ではない、ということでウォーレン家との縁談も破棄になってしまいました」

 本当になんでも知っているな、ダンテ。

「それならば、やはり二人ともシルザール家へと再度申し入れしていたところセリス様の行方が判らなくなってしまったのです」

 行方不明、というかジョシュアとの逃避行というか。まあ、その責任の一端は確かに俺にあるのは間違いない。

「なんで公爵様は二人とも妻に迎えることにこだわっているんだ?」

 男色で有名な公爵が侯爵令嬢の姉妹を二人とも所望とは少し異常なことに思える。

「それはあなたには話せない」

 何か秘密がある、と白状してくれるダンテだった。

「それで何で俺の存在を報告しないでくれたんだ?」

「ご領主様はあなたを殺そうとしています。そけほどの罪があなたにあるとは思えなかったからです。今回の件は少しご領主様の方に否があると認めざるを得ないでしょう」

 おいおい、そんな事を軽々しく言って大丈夫なのか?

「それで俺を庇ってくれると?あんたはそれで問題にされないのか?」

「私かあなたを逃がしたことは私とあなたしか知りません。あなたか話さない限り誰も知り得ないことです」

 ああ、ごめんダンテ、もう一人実はここにはいるんだわ。ただ、オメガも態々ダンテのことを話す機会もないだろう。というか、まだそこにオメガは居るのだろうか?俺の探知魔法はダンテよりも拙いのでダンテが気が付いていないことは当然俺にも判らない。

「それで本当のところを話してくれませんか?」

「本当の事?」

「ルスカナでセリス様が消えた経緯です」

 うーん、ダンテには色々と世話になったから正直に話してやりたいのは山々なんだがジョシュアの件は当然離せない。仕方ない、中途半端になるがジョシュアの存在を消して話すか。

「経緯と言っても特別なことは何もないんだがな。セリスを屋敷から連れ出した、って言うだけだ。その後はセリスとは別れて師匠と一緒にシルザールに来たから、本当にセリスの行方は知らないんだ」

「そうですか。ではなぜあなたがセリス様を連れ出す役を?」

「偶然出会って、ケルン子爵の件も聞いたんだよ。なんだか俺の所為かとも思ったんでな。あの子は自由で居て欲しい、幸せに暮らして欲しい、ただそれだけだ」

 その思いに嘘は無い。ジョシュアと一緒に、という言葉を飲み込んだだけだ。

「それだけで下手をすると命を落としかねない、実際に先日は毒殺されかかったと聞いていますが、そんな危険な目に遭うかも知れないのにセリス様を連れ出したと?何かの報酬を約束されたとか?」

 報酬か、それ忘れてた。なんかもっと吹っ掛けておけばよかったか。ジョシュアの件を誤魔化せる理由になったかもしれない。

「報酬は特に何も。目の前で困っている妙齢の女性がいたら助けないか?」

 ダンテは少し呆れ顔だった。本当の理由を話す気が無い、と判断したようだ。

「判った。もうそれでいい。セリス様は無事で幸せなのだな?」

「それは大丈夫だと思う。というか、あんたセリスを知っているのか?」

「ご領主様からの求婚の申し入れに同行していた時、お見かけしたのだ」

 こいつ、もしかしてセリスが好きだったのか。それは少し悪いことをしたかも知れないが、まあ仕方ない。

「そうか。綺麗な娘だったな。芯の強さを兼ね備えたいい子だった。俺がやった事は間違ってないと思っているよ」

「いい。もういい。それ以上何も言うな。で、これからどうするのだ?」

「どうしようか。ボワール家にも戻れないしシルザールには居場所はないな」

 これはダンテというよりはオメガに向けて言った。オメガもボワール家には戻れないのだ。

「何かあてはるのか?」

「まあ、なんとかするさ。ダンテ、あんたも気を使いすぎて身体を壊すなよ」

「あなたに心配される謂れはない。さっさと消えるがいい。ああ、もう消えているか」

 ダンテが冗談?スベったのでスルーしておこう。

「判った。探さないでくれ」

 俺はそう言うとまだ空いていた門から外に出た。ダンテが手配しておいてくれたようだ。

 外に出るとオメガが話しかけてきた。一人で逃げてはいなかったようだ。

「おい、それでこれからどうするつもりだ?」

「あんたこそ、どうするんだ?当てはあるのか?」

「私はヴァルドア様が帰宅されるのを待つ。『赤い異様の雫』の利用方法をご教授いただくのだ」

「あの師匠が素直に教えてくれる訳がないと思うがな」

「そうなのか?」

「下手したら『赤い太陽の雫』を奪われたうえで犯人として差し出される、ということも十分考えられそうだ」

「それは拙いな」

「まあ、俺はどうでもいいがな」

「なんだ、当てがありそうだな」

「まあ、行きたいところはある、かな」

「付いて、」

「来るなよ。連れて行かないからな。師匠によろしく言っておいてくれ」

 俺はそういうと隠形魔法を掛けたままオメガと別れた。別れたと思う。但し、付いてきていても俺には判らない。付いてきていないよな?

 俺は細心の注意を払い、時折攻撃系の魔法を四方に放ったりしながら目的の場所へと向かうのだった。






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