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第3章 飛躍する物語の章
第41話 シルザールの街で思い出した
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「僕がベルドア様を説得するのか?」
「お願いします」
マシューはいかにも嫌そうな顔をしている。領主のことは嫌いではないが好きでもないのだ。
マシューは自分はこんな田舎(マシューはそう思っているようだったが、俺からすると大都会だ)で燻っているような存在ではないと自負している。そのための踏み台としか考えていないのでベルドア・シルザール公爵その人にも何の忠誠心も持ち合わせて居ないのだ。
マシューは渋々領主の元にヴァルドア・サンザールの冤罪を晴らすことと、その力を借りることについて説得しに行った。ヴァルドアの力を借りるという事は自らの力不足を認めることにもなるので、やはりやりたくない筈だった。
但し、マシューは確かに隠形魔法や探知魔法に置いてオメガ・サトリームに一歩譲ってはいても天才には違いない。自分のプライドと犯人を捕まえることを天秤にかけて後者を選べる聡明さもある。
「しかし、どうしてオメガ・サトリームは『赤い太陽の雫』を盗んだりしたのだろう」
待っている間、俺は素朴な疑問をダンテに投げかけた。
「それかあれば無限にマナを供給できるのた、どんな魔法士でも欲しいに決まっているだろう」
ダンテの返事はありきたりのものだった。
「それはそうなんだが、バレたら寄ってたかって取り戻しに来るのは容易に想像できる筈だろう。その全てを相手にする気だったのかな?」
ダンテは少し考えている。
「確かに。シルザール中だけではなく、王都からも援軍が来るかも知れない。それら全てを相手にして無事で済むはずがないな。いくら無尽蔵にマナの供給が受けられるとしてもずっと戦い続けることはできない」
「それでも盗み出す意味があるのか?」
ダンテは再び考え込む。
「割に合わないな。『赤い太陽の雫』は敵対国との間で魔法戦争が勃発した時だけに国王とシルザール公爵の許可が出た時にだけ使われるものだ。だから厳重に封印されているし、個人で勝手に使用する様なものではない」
「もし持っていることがバレたら」
「相当拙いことになるな。そんなものに手を出すなんて信じられない。何か別の目的などがあるのかも知れない」
「別の目的?」
「いや、それは想像も付かない。もし捕まえられれば真実が明るみに出るだろう」
「確かに。俺にも見当が付かない」
そんな話をしているとき、マシューが戻って来た。
「おい、ちゃんと話を付けて来たぞ。直ぐにヴァルドアを迎えに行ってこい」
「判りました。それでワリス・ボワール伯爵の処遇はいかがいたしましょう」
「不問だ」
「えっ?」
「領主様は不問だと仰られた。だから不問だ」
「それはいったい」
「オメガ・サトリームが個人的な都合で行った単独犯、ということだ。ボワール伯爵が『赤い太陽の雫』を所望しているとは思えない、と仰っていた」
「それで不問ですか。でも雇い主としての責任があるのでは?」
俺でも不思議に思う決定だ。ダンテは納得がいかなさそうだった。
「それは借りを返す、と仰っていた。借りの内容は勿論聞けない。これ以上は詮索するな」
「判りました。では彼を連れてヴァルドア様を迎えに行って参ります」
「いや、この男は駄目だ。一緒に連れて行ってはいけない。こいつは地下牢に逆戻りだ」
「えっ?」
なんでだ?師匠に疑いは晴れたはずだが?
「理由は知らないが、領主様の指示だ。さっさと行け」
ダンテは慌てて出て行った。
「それで俺はまた地下か?」
「そうだ。大人しく地下に降りろ」
「理由は?」
「僕が知る訳ないだろう。ヴァルドアの件とは別、ということじゃないのか?」
「あっ」
「なんだ、心当たりがあるんじゃないか。さっさと地下牢に戻ることだな」
思い出した、セリスの件だ。そうだった、俺が毒殺されかかったのは師匠の件とは別だった。迂闊にもそれを忘れて城に来てしまったのだ。間抜けこの上ない。自業自得と言うものだ。
「なるほど、そういうことか」
「なんだ、何をやったのだ?」
マシューは少し興味があるようだ。
「話したら逃がしてくれるか?」
「そんな訳ないだろう」
「なら教えない」
そう言うと俺は最大のマナを費やしての隠形魔法を無詠唱で自分に掛けた。
「おい、消えてどうしようというのだ。まさか逃げる気か?」
逃げるに決まっているだろう。細心の注意を払えば少しの間はマシューにも気づかれないことは実証済だ。
「本気で逃げる気なら僕も本気にならざるを得ないがいいのか?」
さっきは明らかに脅しだったが、こんどは本気のようだ。俺のことを領主に報告してしまっているのだから逃げられれば失態になる。
「脅しじゃないぞ、判っているだろう」
そのマシューの言葉を俺は既に部屋の中では聞いていなかった。ダンテが扉を閉めて行かなかったお陰で壁抜けをする必要が無かったのだ。もしかしてダンテに助けられたのか?
「お願いします」
マシューはいかにも嫌そうな顔をしている。領主のことは嫌いではないが好きでもないのだ。
マシューは自分はこんな田舎(マシューはそう思っているようだったが、俺からすると大都会だ)で燻っているような存在ではないと自負している。そのための踏み台としか考えていないのでベルドア・シルザール公爵その人にも何の忠誠心も持ち合わせて居ないのだ。
マシューは渋々領主の元にヴァルドア・サンザールの冤罪を晴らすことと、その力を借りることについて説得しに行った。ヴァルドアの力を借りるという事は自らの力不足を認めることにもなるので、やはりやりたくない筈だった。
但し、マシューは確かに隠形魔法や探知魔法に置いてオメガ・サトリームに一歩譲ってはいても天才には違いない。自分のプライドと犯人を捕まえることを天秤にかけて後者を選べる聡明さもある。
「しかし、どうしてオメガ・サトリームは『赤い太陽の雫』を盗んだりしたのだろう」
待っている間、俺は素朴な疑問をダンテに投げかけた。
「それかあれば無限にマナを供給できるのた、どんな魔法士でも欲しいに決まっているだろう」
ダンテの返事はありきたりのものだった。
「それはそうなんだが、バレたら寄ってたかって取り戻しに来るのは容易に想像できる筈だろう。その全てを相手にする気だったのかな?」
ダンテは少し考えている。
「確かに。シルザール中だけではなく、王都からも援軍が来るかも知れない。それら全てを相手にして無事で済むはずがないな。いくら無尽蔵にマナの供給が受けられるとしてもずっと戦い続けることはできない」
「それでも盗み出す意味があるのか?」
ダンテは再び考え込む。
「割に合わないな。『赤い太陽の雫』は敵対国との間で魔法戦争が勃発した時だけに国王とシルザール公爵の許可が出た時にだけ使われるものだ。だから厳重に封印されているし、個人で勝手に使用する様なものではない」
「もし持っていることがバレたら」
「相当拙いことになるな。そんなものに手を出すなんて信じられない。何か別の目的などがあるのかも知れない」
「別の目的?」
「いや、それは想像も付かない。もし捕まえられれば真実が明るみに出るだろう」
「確かに。俺にも見当が付かない」
そんな話をしているとき、マシューが戻って来た。
「おい、ちゃんと話を付けて来たぞ。直ぐにヴァルドアを迎えに行ってこい」
「判りました。それでワリス・ボワール伯爵の処遇はいかがいたしましょう」
「不問だ」
「えっ?」
「領主様は不問だと仰られた。だから不問だ」
「それはいったい」
「オメガ・サトリームが個人的な都合で行った単独犯、ということだ。ボワール伯爵が『赤い太陽の雫』を所望しているとは思えない、と仰っていた」
「それで不問ですか。でも雇い主としての責任があるのでは?」
俺でも不思議に思う決定だ。ダンテは納得がいかなさそうだった。
「それは借りを返す、と仰っていた。借りの内容は勿論聞けない。これ以上は詮索するな」
「判りました。では彼を連れてヴァルドア様を迎えに行って参ります」
「いや、この男は駄目だ。一緒に連れて行ってはいけない。こいつは地下牢に逆戻りだ」
「えっ?」
なんでだ?師匠に疑いは晴れたはずだが?
「理由は知らないが、領主様の指示だ。さっさと行け」
ダンテは慌てて出て行った。
「それで俺はまた地下か?」
「そうだ。大人しく地下に降りろ」
「理由は?」
「僕が知る訳ないだろう。ヴァルドアの件とは別、ということじゃないのか?」
「あっ」
「なんだ、心当たりがあるんじゃないか。さっさと地下牢に戻ることだな」
思い出した、セリスの件だ。そうだった、俺が毒殺されかかったのは師匠の件とは別だった。迂闊にもそれを忘れて城に来てしまったのだ。間抜けこの上ない。自業自得と言うものだ。
「なるほど、そういうことか」
「なんだ、何をやったのだ?」
マシューは少し興味があるようだ。
「話したら逃がしてくれるか?」
「そんな訳ないだろう」
「なら教えない」
そう言うと俺は最大のマナを費やしての隠形魔法を無詠唱で自分に掛けた。
「おい、消えてどうしようというのだ。まさか逃げる気か?」
逃げるに決まっているだろう。細心の注意を払えば少しの間はマシューにも気づかれないことは実証済だ。
「本気で逃げる気なら僕も本気にならざるを得ないがいいのか?」
さっきは明らかに脅しだったが、こんどは本気のようだ。俺のことを領主に報告してしまっているのだから逃げられれば失態になる。
「脅しじゃないぞ、判っているだろう」
そのマシューの言葉を俺は既に部屋の中では聞いていなかった。ダンテが扉を閉めて行かなかったお陰で壁抜けをする必要が無かったのだ。もしかしてダンテに助けられたのか?
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