上 下
33 / 105
第3章 飛躍する物語の章

第33話 シルザールの街で深夜徘徊してみた

しおりを挟む
 その夜、師匠は深夜に戻って来た。

「どこ行ってたんですか。ワリスさんも心配していましたよ」

「それは無いな。あの男が儂を心配する訳がない」

 うむ。尚更二人の関係はよく判らなくなった。信頼しているのか、それとも例えばヘマをして捕まってもいいと思っているのか。

「少なくとも俺は心配していましたよ」

「お前は儂がいないと単純に困るからだろうて。まあいい、少しくらいは修行をしておったのであろうな?」

 師匠はお見通しだ。というか、俺がだらだらとサボって無聊な時間を過ごしていたとは思っていないのだ。そんな信頼は要らないのだが。

「今日はまだ始めただけですよ。ちゃんと教えてください」

 俺は深夜からでも修行をするなら、そのつもりだった。倒れるように眠ることが多いのだが、死にはしない。
 なんだか前世で徹夜続きだったことを思い出して嫌な気持ちにはなるが、今はなんだか少し楽しい。やったらやっただけちゃんと成果が出る。だから言われるまでもなく修行を続けるのだ。

 修行ハイというやつかも知れない。そんな言葉があるかどうかは知らないが。

 その夜はとりあえず隠形魔法を完璧にしたいので、それ修行だ。師匠からも隠れられるようになれば俺の隠形魔法は超一流だと言える。

 隠形魔法を使いながら、師匠の後ろからそっと近づく。隠形魔法は触れているものも隠せるので当然服や持っている剣なども隠れる。

 後ろから剣を振り上げて打ち込む。頭を勝ち割るくらいの強さでだ。当然師匠は躱してしまうと思ってのことだが、万が一当たってしまったら大怪我するかもしれない。

「おっと」

 師匠は難なく避ける。老人にしては動きが早い。俺のことが認知できているのだ。ただ、やはり年齢なのか余裕をもってではなくギリギリで避けている。

「おい、儂を怪我させるつもりか、今本気で打ち込んだだろう」

「はい。当然です。師匠なら避けると信じていましたから」

「まあ、避けられるのは違いないが。それにしても強く打ちすぎていないか?」

「いいえ、大丈夫です。師匠ならちゃんと避けられますから」

 俺は少し意地悪く言う。判っていても避けられないこともあるのだ。

「今度はどうですかね」

 俺は今までの隠形魔法に闇属性の魔法を混ぜ込んで黒い隠形魔法とも言うべき魔法を使ってみた。

「うむ。なんだから格段によくなったな。儂からは隠れないが、そこらの上級であれば気づかれないかも知れん」

「本当ですか。では打ち込んでも?」

「いやいや、それはもうよい。今の魔法を無詠唱で使えるようにしておくように。闇属性をもっと強くできれば暗く深い隠形になるであろう」

 まさか、師匠が避けられるかどうか心配になってくるくらい俺の隠形魔法は上手くなってきているのだろうか。師匠はああいったが、内緒で打ち込んでみるか。

「ちょっと、このまま出てきます」

 俺はそう言うと、師匠に判り易いようにドアを開けて、部屋からは出ないでまた閉めた。

 そして、そおっと師匠に近づく。後ろで束ねられた師匠の髪を後ろから引っ張ってみた。

「痛っ、なんだ」

「すいません師匠、俺です」

 師匠は全く気が付いていなかった。

「おい、今出て行ったんじゃなかったのか」

「そのまま部屋にいました」

「うむ、油断してしもうたわ。油断だ、油断」

「すいません、今度は本当に行ってきます」

 俺は少し笑いを堪えながら今度は本当に部屋を出た。師匠にも気づか れない、ということは、特級でも大丈夫ということか。

 俺はワリスの居る屋敷を出て、別棟に行ってみた。そこはお抱え魔法士がいる屋敷だ。何人かはワリスと同じ屋敷でワリスの隣の部屋に待機しているのだが、普段はこの別棟の一つに居ると聞いている。

 俺はその屋敷の部屋を一つ一つ探索することにした。この屋敷には使用人たちが多く暮らしている。ここに居るのは主に庭師や馬車の御者たちだ。他にも幾つも建物が建ち並んでいる。全部で多分百人は超えているらしい。

 一階の右側から順番に部屋に入る。当然鍵は掛かっているが問題は無い。最初の部屋には顔見知りの御者が眠っていた。

 眠っている時に悪いとは思ったが、鼻を摘まんでみる。御者は一旦起きたが、周りに誰も居ないことを確認し不思議そうな顔をしてそのまま寝てしまった。うん、魔法使いでなければ全く気が付かれない。

 次の部屋には庭師がいたが、やはり起きても気が付かない。大丈夫だ。

 どうも一階には魔法士がいないようなので2階へと向かう。ここには多分10人の中級や3人の上級がいる筈だ。特級魔法士のオメガ・サトリームはワリスと同じ屋敷なのでここには居ない。

 2階に上がると一番手前の部屋に入る。いかにも魔法士の屁や、という感じの部屋だ。魔法士独特のローブや杖のようなものも置いてある。

 この杖が、いいものであれば相当高いらしい。そして高ければ高いほど自らが発する魔法を増幅してくれる機能があるのだ。師匠も持っているが、片時も手を離さない所を見ると相当な優れものの杖だと判る。

 中級か上級かは判らなかったが、魔法士には違いないので、やはり鼻を摘まむ。魔法士は飛び起きた。

「だっ、誰だ?」

 やはり俺には全く気が付かない。

「オメガ様ですか?悪戯は止めてください、眠れるときにちゃんと眠ることも仕事のうちだと仰ったのはオメガ様じゃないですか、いつもいつも勘弁してください」

 どうも特級魔法士のオメガも夜中に度々配下の魔法士の部屋を訪れて悪戯をしているようだ。

「もう寝ますから出て行ってくださいね」

 そういうと、その魔法士はまたベッドに入った。完全にラムダの悪戯だと思っている。オメガであれば認知できなくとも仕方ない、という感じだ。うん、なんだか大成功のようだ。

 他にも数人試してみたが、ほぼ全員か同じ反応だった。どうもラムダは相当悪戯好きのようだ。

 俺は一旦部屋に戻って最後の難関であるオメガの部屋に行くことにした。ここで上手く行けば俺の隠形魔法は完成だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

王家から追放された貴族の次男、レアスキルを授かったので成り上がることにした【クラス“陰キャ”】

時沢秋水
ファンタジー
「恥さらしめ、王家の血筋でありながら、クラスを授からないとは」 俺は断崖絶壁の崖っぷちで国王である祖父から暴言を吐かれていた。 「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」 「黙れ!お前のような無能が我が血筋から出たと世間に知られれば、儂の名誉に傷がつくのだ」 俺は爺さんにより谷底へと突き落とされてしまうが、奇跡の生還を遂げた。すると、谷底で幸運にも討伐できた魔獣からレアクラスである“陰キャ”を受け継いだ。 俺は【クラス“陰キャ”】の力で冒険者として成り上がることを決意した。 主人公:レオ・グリフォン 14歳 金髪イケメン

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...