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第2章 回り始める物語の章
第19話 ルスカナの街で薬屋に立ち寄ってみた
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その夜。俺が寝ようと床についた時だった。
「あっ。」
出た。もう慣れてきた。こいつは何回これを繰り返すつもりなんだろうか。閻魔小百合はぼぉっと現れた。
「あ、じゃねえよ。今度はなんだ。まあ何となくは想像つくけどな。」
「やっぱり?だったら説明はいいですよね。」
「おいおい、そこはちゃんとしろよ。それで何で俺は死ななかったんだ?どんな能力か説明してくれないと何が何だか判らないじゃないか。」
「死ぬところだったんですか?」
「それで来たんじゃないのか?」
「まあ、そうなんですけど。だったら死ななかった、と言うか死ねなかったのは確認済みなんですね。それは良かった。」
「良くないって。説明は?」
「えっとですね、死ねなかったのは当然寿命が尽きていないからです。前回は寿命が来ていないのに死んでしまったので、もう本当の寿命までは死ねないのですよ。びっくりですよねぇ。」
「びっくりですよねぇ、じゃないだろ。それで本当の寿命は何歳なんだ?」
「馬鹿ですねぇ、そんなこと言える訳ないじゃですか。この世界であなたは寿命で死ぬ、そうじゃなければ死ねない、それだけが伝えられることです。」
整理すると単純な話だ。寿命が来るまで死なない、ただそれだけだった。まだ寿命が尽きていないので死なないのだ。
「とすると死ぬような目に遭っても絶対に死なないんだな。それはチート能力なのか?ちょっと違う気がするぞ。」
「誰もチート能力を与えるなんて言ってないじゃないですか。」
「もうちょっと俺を優遇しろよ。それと死にそうになった時はかなり痛かったけど、痛みとかはそのままなのか?」
「寿命でしか死なないだけなので痛みとかは軽減されませんよ、当たり前です。」
もう閻魔小百合には何も期待しないでおこう。死なないのに死ぬほどの痛みは感じるなんて、何の拷問だよ。
いつの間にか閻魔小百合は消えていた。俺は思う所は色々とあったが考えても仕方ないので寝ることにした。明日のことは明日考えよう。
次の朝、ジョシュアは寝具店で働くために出て行った。とりあえずは死なないことが判ったので俺はそれほど自分の身の安全を考えなくていいのは有難かった。
ロンの店の前を通るともう閉まっていた。既にケルンに向けて発った後だろう。
ジョシュアが寝具店に馴染んで領主の屋敷に出入りできるまで少しはかかるだろう。その間にセリスの身に危険が及ばなければいいのだが。俺は俺で何か方法を考えて屋敷に入り込めないか考えてはいるが今のところいい案は浮かんでいなかった。
最後は死なないことを武器に強行突破か、とも思っていたが、それは最後の手段だ。痛みが無くならないのはかなりの問題だった。痛みで気絶でもしたら目も当てられない。
拘束されても死なないのだろうが食事をとらなければずっと飢餓状態で生き続けなければならない。死なないことを相手に気取られてはならない。
水に沈められたりコンクリート詰めにされたら窒息の苦しさを死ぬまでずっと味わってしまう。なんだか考えれば考えるほど酷い目に遭っているかのように思えてきた。チートどころか弱点じゃないのか?
街を歩いていても特に新しい情報を得られなかった。後はジョシュア頼みか。
いまさら剣の修行をしても還暦間際の体力ではどうしようもない。持久力も瞬発力も無いし目が悪いので動体視力も無いし、相手の剣がそもそも見えないのだ。
魔法の方はこの世界の溢れているマナと呼ばれる力を使役する方法だ。これには自らの中にあるマナと世界中の様々に物の中に大なり小なり存在するマナを融合させるらしい。その方法は学べるが、より強い魔法を使うにはやはり備え持ったマナの多寡が重要になる。
転生者の俺にはマナなんて無いと思っていたが、どうやら誰でも少しはあるものらしい。ただ生まれつきのマナの量はほとんど変わらないとのことなので俺のマナはもう増える可能性は無い。その少ない限られたマナをいかに有効に世界に溢れるマナたちと融合できるかどうかは技術の問題になる。それには血の滲む様な鍛錬が必要だ。俺にはその気力と根気と意欲が無かった。
特にやることもないので、商店が並ぶ大通りから少し細い路地に入ってみた。死なないと判ったら大胆になれるものだ。
狭くて少し薄暗い裏通りは夜しかやっていない飲み屋や占い屋、如何わしい薬物を売っている店など胡散臭そうな店がいくつも軒を並べている。
一軒の店が俺の目に留まった。ドラッグの店だ。普通の解熱剤から惚れ薬まで様々な薬を扱っているようだが見るからに胡散臭い。それを売り物にしているかのように薄暗かった。その中で俺が気になった物が一つ。それは「魔法のマナ増強剤」という物だった。
「マナを増強してくれる?それなら俺にも魔法が使えるようになるんじゃないか?」
誰に話すでもなく、ただの独り言だが、自分でも驚くほど大きな声が出ていた。周りに誰も居ない所為だ。
俺は店に入ってみた。店内はそれほど広くはないが表側以外の三方の壁一面に様々な薬剤が並んでいる。品揃えはいい店のようだ。
「店主さんかい?」
カウンター越しに初老の老人に声を掛けてみた。
「いや、私はここの主人の知り合いで店番をしているだけだよ。何か用かい?」
「うん、ちょっと外の貼り紙が気になってね。マナを増強してくれる薬があるって書いてあるけど本当かい?」
「あ、あの薬か。悪いことは言わん、止めときな。」
「なんでだよ、売りたいための宣伝じゃないのか?」
「そりゃそうなんだが、まあ止めときなっていうのは儂の個人的な意見というか感想じゃ。」
「だから、なんで止めた方がいいのか、その理由を教えてくれよ。」
初老の店番は少し考えてから応えた。
「いや、あの薬は確かにマナの量をかなり増強してくれる効果はあるんじゃが、如何せん何人か副作用が強すぎて命を落としているんじゃよ。」
「何だよ、そんな危ない薬、売るんじゃないよ。」
「店主は儲けが大事だから気にせず売っているようじゃが、儂が店番をしている時間はみんなに止めた方がいいとお節介をしているんじゃ。」
どうもこの世界は製造者責任はあまり追及されず、使用者責任の方が重いらしい。
「待てよ、死んでしまう人がいるけど効果は抜群なのか。」
「まあそうじゃな。効果は凄いらしいぞ。薬の効果が出ている間ならアステアールの魔術協会の高位魔術師にも引けを取らないくらいに魔法が使えるようになるらしい。まあ、儂も自分で試した事は無いから本当のところは判らんがな。」
「それの効果が続く時間はどのくらいなんだ?」
「個人差はあるが大体4~5時間くらいじゃな。」
「約半日は持つんだな。それなら結構行けるんじゃないか。」
「行けるとはどういう意味だ?」
「いや、こっちの話だ、気にしないでくれ。」
俺は一錠がランチ1回分くらい値段なので、それほど大量には買えなかったが約1か月分くらいの量を買えた。
「毎日なんて飲み続けたら確実に死んでしまうぞ。3日置きに1錠が限度だと思った方がいい。」
「判った、判った。」
俺は店番の案内をあまり聞かずに俺は宿へと戻るのだった。
「あっ。」
出た。もう慣れてきた。こいつは何回これを繰り返すつもりなんだろうか。閻魔小百合はぼぉっと現れた。
「あ、じゃねえよ。今度はなんだ。まあ何となくは想像つくけどな。」
「やっぱり?だったら説明はいいですよね。」
「おいおい、そこはちゃんとしろよ。それで何で俺は死ななかったんだ?どんな能力か説明してくれないと何が何だか判らないじゃないか。」
「死ぬところだったんですか?」
「それで来たんじゃないのか?」
「まあ、そうなんですけど。だったら死ななかった、と言うか死ねなかったのは確認済みなんですね。それは良かった。」
「良くないって。説明は?」
「えっとですね、死ねなかったのは当然寿命が尽きていないからです。前回は寿命が来ていないのに死んでしまったので、もう本当の寿命までは死ねないのですよ。びっくりですよねぇ。」
「びっくりですよねぇ、じゃないだろ。それで本当の寿命は何歳なんだ?」
「馬鹿ですねぇ、そんなこと言える訳ないじゃですか。この世界であなたは寿命で死ぬ、そうじゃなければ死ねない、それだけが伝えられることです。」
整理すると単純な話だ。寿命が来るまで死なない、ただそれだけだった。まだ寿命が尽きていないので死なないのだ。
「とすると死ぬような目に遭っても絶対に死なないんだな。それはチート能力なのか?ちょっと違う気がするぞ。」
「誰もチート能力を与えるなんて言ってないじゃないですか。」
「もうちょっと俺を優遇しろよ。それと死にそうになった時はかなり痛かったけど、痛みとかはそのままなのか?」
「寿命でしか死なないだけなので痛みとかは軽減されませんよ、当たり前です。」
もう閻魔小百合には何も期待しないでおこう。死なないのに死ぬほどの痛みは感じるなんて、何の拷問だよ。
いつの間にか閻魔小百合は消えていた。俺は思う所は色々とあったが考えても仕方ないので寝ることにした。明日のことは明日考えよう。
次の朝、ジョシュアは寝具店で働くために出て行った。とりあえずは死なないことが判ったので俺はそれほど自分の身の安全を考えなくていいのは有難かった。
ロンの店の前を通るともう閉まっていた。既にケルンに向けて発った後だろう。
ジョシュアが寝具店に馴染んで領主の屋敷に出入りできるまで少しはかかるだろう。その間にセリスの身に危険が及ばなければいいのだが。俺は俺で何か方法を考えて屋敷に入り込めないか考えてはいるが今のところいい案は浮かんでいなかった。
最後は死なないことを武器に強行突破か、とも思っていたが、それは最後の手段だ。痛みが無くならないのはかなりの問題だった。痛みで気絶でもしたら目も当てられない。
拘束されても死なないのだろうが食事をとらなければずっと飢餓状態で生き続けなければならない。死なないことを相手に気取られてはならない。
水に沈められたりコンクリート詰めにされたら窒息の苦しさを死ぬまでずっと味わってしまう。なんだか考えれば考えるほど酷い目に遭っているかのように思えてきた。チートどころか弱点じゃないのか?
街を歩いていても特に新しい情報を得られなかった。後はジョシュア頼みか。
いまさら剣の修行をしても還暦間際の体力ではどうしようもない。持久力も瞬発力も無いし目が悪いので動体視力も無いし、相手の剣がそもそも見えないのだ。
魔法の方はこの世界の溢れているマナと呼ばれる力を使役する方法だ。これには自らの中にあるマナと世界中の様々に物の中に大なり小なり存在するマナを融合させるらしい。その方法は学べるが、より強い魔法を使うにはやはり備え持ったマナの多寡が重要になる。
転生者の俺にはマナなんて無いと思っていたが、どうやら誰でも少しはあるものらしい。ただ生まれつきのマナの量はほとんど変わらないとのことなので俺のマナはもう増える可能性は無い。その少ない限られたマナをいかに有効に世界に溢れるマナたちと融合できるかどうかは技術の問題になる。それには血の滲む様な鍛錬が必要だ。俺にはその気力と根気と意欲が無かった。
特にやることもないので、商店が並ぶ大通りから少し細い路地に入ってみた。死なないと判ったら大胆になれるものだ。
狭くて少し薄暗い裏通りは夜しかやっていない飲み屋や占い屋、如何わしい薬物を売っている店など胡散臭そうな店がいくつも軒を並べている。
一軒の店が俺の目に留まった。ドラッグの店だ。普通の解熱剤から惚れ薬まで様々な薬を扱っているようだが見るからに胡散臭い。それを売り物にしているかのように薄暗かった。その中で俺が気になった物が一つ。それは「魔法のマナ増強剤」という物だった。
「マナを増強してくれる?それなら俺にも魔法が使えるようになるんじゃないか?」
誰に話すでもなく、ただの独り言だが、自分でも驚くほど大きな声が出ていた。周りに誰も居ない所為だ。
俺は店に入ってみた。店内はそれほど広くはないが表側以外の三方の壁一面に様々な薬剤が並んでいる。品揃えはいい店のようだ。
「店主さんかい?」
カウンター越しに初老の老人に声を掛けてみた。
「いや、私はここの主人の知り合いで店番をしているだけだよ。何か用かい?」
「うん、ちょっと外の貼り紙が気になってね。マナを増強してくれる薬があるって書いてあるけど本当かい?」
「あ、あの薬か。悪いことは言わん、止めときな。」
「なんでだよ、売りたいための宣伝じゃないのか?」
「そりゃそうなんだが、まあ止めときなっていうのは儂の個人的な意見というか感想じゃ。」
「だから、なんで止めた方がいいのか、その理由を教えてくれよ。」
初老の店番は少し考えてから応えた。
「いや、あの薬は確かにマナの量をかなり増強してくれる効果はあるんじゃが、如何せん何人か副作用が強すぎて命を落としているんじゃよ。」
「何だよ、そんな危ない薬、売るんじゃないよ。」
「店主は儲けが大事だから気にせず売っているようじゃが、儂が店番をしている時間はみんなに止めた方がいいとお節介をしているんじゃ。」
どうもこの世界は製造者責任はあまり追及されず、使用者責任の方が重いらしい。
「待てよ、死んでしまう人がいるけど効果は抜群なのか。」
「まあそうじゃな。効果は凄いらしいぞ。薬の効果が出ている間ならアステアールの魔術協会の高位魔術師にも引けを取らないくらいに魔法が使えるようになるらしい。まあ、儂も自分で試した事は無いから本当のところは判らんがな。」
「それの効果が続く時間はどのくらいなんだ?」
「個人差はあるが大体4~5時間くらいじゃな。」
「約半日は持つんだな。それなら結構行けるんじゃないか。」
「行けるとはどういう意味だ?」
「いや、こっちの話だ、気にしないでくれ。」
俺は一錠がランチ1回分くらい値段なので、それほど大量には買えなかったが約1か月分くらいの量を買えた。
「毎日なんて飲み続けたら確実に死んでしまうぞ。3日置きに1錠が限度だと思った方がいい。」
「判った、判った。」
俺は店番の案内をあまり聞かずに俺は宿へと戻るのだった。
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