上 下
18 / 105
第2章 回り始める物語の章

第18話 ルスカナの街で手紙を書いた

しおりを挟む
「それで?」

 ジョシュアの集めてきた情報を整理してみた。屋敷に奉公人は多い。毎日買い物も数人でていくし外の人間も数多く入って行くらしい。服屋や宝飾商、旅の一座まで種々雑多の人々が出入りしている。これなら何かに紛れて入り込むことも容易かも知れない。執事やメイドの顔見知りばかりだけではないだろうから。

「なるほど、そこは何とかなりそうだな。で、何かちゃんと当てはあるんたろうな?」

「勿論だ。寝具の業者に求人があったから応じておいた。明日から働くことになる。ここは領主の屋敷にも頻繁に出入りしている店だ。」

「抜かりないねぇ。で、俺の分は?」

「お前は歳が行き過ぎているから、ちょっとまだ当てがない。自分でなんとかしろ。」

「冷たいなぁ、お前の為にセリスを助けに行くんだぞ。」

「それはそうなんだが。」

「まあいい、とりあえずお前だけでも屋敷に入り込んで信頼を得ておくんだな。じゃ、行こうか。」

 ジョシュアと二人、ロンの店に向かう。ロンは普通に店を開けていた。

「おい、説明してもらおうか。」

「お、え、何の話だ。それにしてもお前よく生きているな。」

「確実に殺したはずなのに、というのにな。手下の教育がなってないんじゃないか?」

「そんな訳あるか。あの血だぞ、死なない訳がない。」

 それは確かに俺もそう思う。でも、ちょっとだけ心当たりがある。忘れたころに出てくる奴がうっとおしい。

「死んでないんだから仕方ないだろ。で、何で俺を殺そうとした?」

「言わないと今度はお前の命が無いと思え。」

 ジョシュアが凄む。一応元プロだ。

「わっ、判った。言うよ。でも言ったら後で殺されるかも知れん。。」

「まあ、今死ぬか、少し後で死ぬか、だな。選べ。」

「判ったって。そういや、あんたたちケルンから来たって言ってたな。それは本当か?」

「本当だ。俺はケルンの守護隊騎士長の屋敷の居候だ。」

 自慢できる身分ではない。

「そして、こいつは小間使いだ。」

「おい、俺の話はいい。さっさと話をしろ。」

「待て待て。話た後ケルンに逃げるからその騎士長様を紹介してくれないか?」

「紹介してもいいが、極悪人としての身元しか保証しないぞ。」

「それは流石に困る。一週間だけ滞在させてくれればいい。その間にどこかの商店に潜り込むから、一週間だ下寝泊まりできればいい。」

「判った、三日だな。」

「いや、一週間だって。」

「じゃあ五日だ。」

「仕方ない、五日で手を打とう。」

 何か競りのようなことになってしまった。

「それで手紙を書いてやろう。で、全部話せよ。」

 ロンの話は、それほど予想外なことは無かった。領民からの搾取、中央への徴税の隠蔽、横行する賄賂、それらは代々行われてきたことで、今の領主であるガルド・ウォーレンが始めたことではない。

 時折中央からは隠密に巡検士の査察が入って追徴することが恒例化すらしている。それか数年に一度くらいはあるのだが、巡検士が不慮の事故で戻らない年もあるのだ。それが不慮なのか故意なのかは別として。そして、そのような場合は追徴を免れてしまう時もある。

 ロンたちは巡検士のように領主のことを嗅ぎまわっている者を見付けると排除するよう言い遣っていた。報償は破格だ。俺はその巡検士に間違われたようだ。

「でもどうやって巡検士かどうかを見割れるんだ?」

「あいつらは身分証を持っているんだよ。それがあれば地方の領主は領内や屋敷内を自由に探らせなければならない。アステア国の紋章入りの身分証だよ。」

「俺はそんな物、持っていないぞ。」

「だろうな。吃驚して探せなかったが、普通は死体からそれだけを回収するんだ。巡検士は行方不明、ということになるようにな。」

「陰で色々とやってる領主様だな。でも、どこでもそんなものなのか。」

「どこでも大なり小なりあるだろう。でも、ここの領主様はちょっと他とは違う。」

「何が違うんだ?」

「使用人が消える話はしたんだったか?」

「ああ、新規で採用されても誰も出て行かない、とかなんとか。」

「それだ。屋敷には新しい使用人が何人も入るのに、実際に働いている使用人の数はほとんど変わらない。その意味が解るか?」

「さて、どこに行ったんだ、その使用人たちは。」

「どこにも行ってはいない。」

「というと。」

「屋敷の中で居なくなったんだよ、全員な。」

 ちょっと何を言っているのか判らない。

「どういうことだ。」

「そういうことだよ。」

「だからちゃんと説明しろ、どういうことだと言うんだ。」

「屋敷の中でそれだけの人数が死んでいる、という訳さ。」

「死んでいるのか?」

「ああ、確かだ。墓を掘るのが大変だと愚痴っていた使用人が居たんだ。そいつも直ぐに居なくなってしまったがな。」

「なんで死ぬんだ、殺されているのか。」

「それは知らん。そこに入り込むと儂の命も危ないのでな。」

 それはそうだろう。そんな秘密を共有できる筈もない。

 俺はロンにゼノン宛の手紙を書いてやり、ロンの店を辞した。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

役立たず王子のおいしい経営術~幸せレシピでもふもふ国家再建します!!~

延野 正行
ファンタジー
第七王子ルヴィンは王族で唯一7つのギフトを授かりながら、謙虚に過ごしていた。 ある時、国王の代わりに受けた呪いによって【料理】のギフトしか使えなくなる。 人心は離れ、国王からも見限られたルヴィンの前に現れたのは、獣人国の女王だった。 「君は今日から女王陛下《ボク》の料理番だ」 温かく迎えられるルヴィンだったが、獣人国は軍事力こそ最強でも、周辺国からは馬鹿にされるほど未開の国だった。 しかし【料理】のギフトを極めたルヴィンは、能力を使い『農業のレシピ』『牧畜のレシピ』『おもてなしのレシピ』を生み出し、獣人国を一流の国へと導いていく。 「僕には見えます。この国が大陸一の国になっていくレシピが!」 これは獣人国のちいさな料理番が、地元食材を使った料理をふるい、もふもふ女王を支え、大国へと成長させていく物語である。 旧タイトル 「役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~」

転生勇者の異世界見聞録

yahimoti
ファンタジー
ゲームのメインストーリーが終わったエンドロール後の異世界に転生したのは定年後の会社員。体は子供だけど勇者としての転生特典のチートがある。まあ、わしなりにこの剣と魔法の異世界を楽しむのじゃ。1000年前の勇者がパーティメンバーを全員嫁さんにしていた?何をしとるんじゃ勇者は。わしゃ知らんぞ。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...