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第2章 回り始める物語の章

第13話 ルスカナの街に向かうことにした

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 ルスカナへの道は今のところ順調だった。誰も襲って来ない。順調すぎてダラケてしまう。あの男たちで全員だったのだろうか。途中の街でゼノンに連絡をしてもらう手配をしたから、もしかしたら捕まってるかも知れないが死んでなかったら逃げているだろう。

 ルスカナに1日の距離まで近づいた時、急にセリスがケルンに戻りたいと言い出した。理由を聞いても言わない。襲われたことが原因の一つではあるのだろうが、それにしてもここまで来て、とは思う。

「どうするんだ?本当にケルンに戻るというんだな?」

「ええ。戻っていただけますか。やはりルスカナには行けません。」

 セリスはルスカナに戻るとは言わなかった。もう故郷だとか自分の家だとかとも思っていないのだろうか。

「ケルンに戻ったら、また連れ戻しに来るんじゃないか?」

 確かにそれは否定出来ない、という表情でセリスは黙り込んでしまった。

「俺はどっちでもいいよ。ジョシュアも君が行くところに付いてくるだろうし。」

「なんでだ。俺は彼女を送り届けたらケルンに帰るつもりだぞ。」

「またまたぁ、心にもないこと言うなって。なんとか彼女のそばに仕えられるように話をしてもらえばいいじゃないか。お前だけルスカナに残っても誰も責めないさ。」

「元々誰も責めていないだろう。俺はちゃんと責務を果たしているし、それは十分評価されていたはずだ。」

「評価していたさ。でもそれはお前を犯罪者で無くす代償だったんじゃないか。」

 セリスに聞こえないようにそう言ってはみたが、俺としてもジョシュアをずっと縛り付ける気もなかった。

 ゼノンが身元を保証してやればウォーレン家に仕えることもできるかも知れない。ましてやセリスの推挙とあれば可能性は高くなるはずだ。

 俺の処遇はいずれにしても二の次だ。ただ、またケルンに戻るとなると話は別になる。ゼノンもいつまでもセリスを匿ってはおけないだろう。 

「ケルンに戻って一生身を隠した生活を送るのかい?」

 セリスに判断させるのは些か酷だとはおもうが彼女の一生の話だ、自分で納得いく結論を出すしかない。なんか俺も偉そうなこと言ってるな、元の世界では何一つ決められないチキンだったくせに。

 セリスは相当悩んでいるようで決断できないでいた。俺はジョシュアを嗾けてみた。

「セリスと一緒に居たいんだろ?ケルンでは面が割れているからルスカナで暮らす方がいいんじゃないか?」

 ジョシュアはまんまと乗せられてセリスを説得しに行った。どうな話をしたのか知らないが納得した顔で二人は戻って来た。

「ルスカナに行きます。それでお二人とも、私を助けてくださいますか?」

「助けるって何をどうしたらいいんだい?」

「俺は必ず命に代えても守りと約束する。」

「おいおい、ジョシュア、待て待て。なにから守らなければいけないのか判って言っているのか?」

「関係ない。どんなものからも誰であろうと彼女を守るだけだ。」

 こいつは駄目だ、何一つ見えていない。恋は盲目とはよく言ったものだ。チンピラにしては聡い奴だと買っていたんだがな。

「お前はそれでもいいけど、俺はそうもいかないさ。理由や詳細を聞かせてくれないと何も判らないんでは守り様もないしな。」

 俺は彼女を守って死んでもかまわないとも思っていた。でも何で死ぬのかは知りたいのだ。

 セリスはもう決心がついているようだ。ルーデシアと結婚させられそうになった事以外の裏の状況を話し始めた。

「私は前にも言いましたがルスカナ領主のガルド・ウォーレンの次女でシンシアという姉が一人います。母はマリアと言って後妻で姉とは母親が違うのです。前妻は姉を産んですぐに亡くなったそうです。そして1年後に母が後妻として迎えられて私が生まれました。姉とは5歳違いになります。」

 ここで一息ついた。後妻ではあるが実の母が今のウォーレン夫人なら、その線は無いな。

「姉は近々に嫁ぐことが決まっています。シルザール領主のベルドア公爵様です。」

「えっ。」

 ジョシュアが思わず声を出した。なんだ、有名人なのか。

「本当にベルドア公爵なのか?」

「本当です。姉は25歳、侯爵は45歳。爵位も公爵と侯爵令嬢なので身分的にも年齢的にも問題ありません。」

 45歳で25歳と結婚するのは普通なのか。貴族は貴族で色々とあるんだろうな。

「なんだよ、ベルドアってのは有名人なのか。」

 セリスもジョシュアも言い難そうにしている。悪い意味で有名なのだろう。

「ある意味有名人ではあります。もちろん悪い意味です。ベルドア公爵は、その、男色家として有名なのです。それで今までご結婚しておられないのだと。」

 ああ、それでか。それは確かに悪い意味で有名だろう。元居た世界でも最近は色々と認められてはいたが、俺個人としては関わりたくはなかった。独身を貫いていたのは勿論別の理由があったのだ。まあ、ただ単に出会いが無く持てなかっただけなのだが。

「そうか。でもそれなのに何で結婚という話になったんだ?」

「ベルドア様から申し込みがあったのだそうです。それは正式なものだったので、こちらとしてもお断りする訳にはいかなかったのです。公爵家から侯爵家への申し出です。お断りするにはそれ相応の理由が必要で。男色家の噂がある、ということではお断りできないのです。」

 公から侯へ、ということでは確かに断りにくいだろう。また確証もなく男色家として決めつける訳にも行かない。嫌々承知したのだろう。でも、それとセリスの件が結びつかない。

「それで結婚の運びとなったのだろう?それが君とどう繋がるんだ?」

「それが、ベルドア様は私も姉の御付として所望されたのです。」

 姉妹で嫁いで来い、ということか。それはそれで意味が判らないな。何か裏の事情がありそうだが想像も付かない。

「それは流石に父も母もお断りするお考えでした。それで実はケルン子爵家に嫁ぐことが決まっているのだとご返答されたのです。」

 そこに繋がるのか。でも確かケルン家に異世界から来た(まあ俺のことだが)男が居てアステアを支配できる、とかなんとか言っていなかったか?

「私は何も聞かされずただケルン子爵と結婚してもらうことになったとだけ言われたので、慌てて逃げ出した、という次第なのです。」

 何かちょっと話が繋がらないような気もするが、気のせいだという事にしておこう。


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