13 / 105
第2章 回り始める物語の章
第13話 ルスカナの街に向かうことにした
しおりを挟む
ルスカナへの道は今のところ順調だった。誰も襲って来ない。順調すぎてダラケてしまう。あの男たちで全員だったのだろうか。途中の街でゼノンに連絡をしてもらう手配をしたから、もしかしたら捕まってるかも知れないが死んでなかったら逃げているだろう。
ルスカナに1日の距離まで近づいた時、急にセリスがケルンに戻りたいと言い出した。理由を聞いても言わない。襲われたことが原因の一つではあるのだろうが、それにしてもここまで来て、とは思う。
「どうするんだ?本当にケルンに戻るというんだな?」
「ええ。戻っていただけますか。やはりルスカナには行けません。」
セリスはルスカナに戻るとは言わなかった。もう故郷だとか自分の家だとかとも思っていないのだろうか。
「ケルンに戻ったら、また連れ戻しに来るんじゃないか?」
確かにそれは否定出来ない、という表情でセリスは黙り込んでしまった。
「俺はどっちでもいいよ。ジョシュアも君が行くところに付いてくるだろうし。」
「なんでだ。俺は彼女を送り届けたらケルンに帰るつもりだぞ。」
「またまたぁ、心にもないこと言うなって。なんとか彼女のそばに仕えられるように話をしてもらえばいいじゃないか。お前だけルスカナに残っても誰も責めないさ。」
「元々誰も責めていないだろう。俺はちゃんと責務を果たしているし、それは十分評価されていたはずだ。」
「評価していたさ。でもそれはお前を犯罪者で無くす代償だったんじゃないか。」
セリスに聞こえないようにそう言ってはみたが、俺としてもジョシュアをずっと縛り付ける気もなかった。
ゼノンが身元を保証してやればウォーレン家に仕えることもできるかも知れない。ましてやセリスの推挙とあれば可能性は高くなるはずだ。
俺の処遇はいずれにしても二の次だ。ただ、またケルンに戻るとなると話は別になる。ゼノンもいつまでもセリスを匿ってはおけないだろう。
「ケルンに戻って一生身を隠した生活を送るのかい?」
セリスに判断させるのは些か酷だとはおもうが彼女の一生の話だ、自分で納得いく結論を出すしかない。なんか俺も偉そうなこと言ってるな、元の世界では何一つ決められないチキンだったくせに。
セリスは相当悩んでいるようで決断できないでいた。俺はジョシュアを嗾けてみた。
「セリスと一緒に居たいんだろ?ケルンでは面が割れているからルスカナで暮らす方がいいんじゃないか?」
ジョシュアはまんまと乗せられてセリスを説得しに行った。どうな話をしたのか知らないが納得した顔で二人は戻って来た。
「ルスカナに行きます。それでお二人とも、私を助けてくださいますか?」
「助けるって何をどうしたらいいんだい?」
「俺は必ず命に代えても守りと約束する。」
「おいおい、ジョシュア、待て待て。なにから守らなければいけないのか判って言っているのか?」
「関係ない。どんなものからも誰であろうと彼女を守るだけだ。」
こいつは駄目だ、何一つ見えていない。恋は盲目とはよく言ったものだ。チンピラにしては聡い奴だと買っていたんだがな。
「お前はそれでもいいけど、俺はそうもいかないさ。理由や詳細を聞かせてくれないと何も判らないんでは守り様もないしな。」
俺は彼女を守って死んでもかまわないとも思っていた。でも何で死ぬのかは知りたいのだ。
セリスはもう決心がついているようだ。ルーデシアと結婚させられそうになった事以外の裏の状況を話し始めた。
「私は前にも言いましたがルスカナ領主のガルド・ウォーレンの次女でシンシアという姉が一人います。母はマリアと言って後妻で姉とは母親が違うのです。前妻は姉を産んですぐに亡くなったそうです。そして1年後に母が後妻として迎えられて私が生まれました。姉とは5歳違いになります。」
ここで一息ついた。後妻ではあるが実の母が今のウォーレン夫人なら、その線は無いな。
「姉は近々に嫁ぐことが決まっています。シルザール領主のベルドア公爵様です。」
「えっ。」
ジョシュアが思わず声を出した。なんだ、有名人なのか。
「本当にベルドア公爵なのか?」
「本当です。姉は25歳、侯爵は45歳。爵位も公爵と侯爵令嬢なので身分的にも年齢的にも問題ありません。」
45歳で25歳と結婚するのは普通なのか。貴族は貴族で色々とあるんだろうな。
「なんだよ、ベルドアってのは有名人なのか。」
セリスもジョシュアも言い難そうにしている。悪い意味で有名なのだろう。
「ある意味有名人ではあります。もちろん悪い意味です。ベルドア公爵は、その、男色家として有名なのです。それで今までご結婚しておられないのだと。」
ああ、それでか。それは確かに悪い意味で有名だろう。元居た世界でも最近は色々と認められてはいたが、俺個人としては関わりたくはなかった。独身を貫いていたのは勿論別の理由があったのだ。まあ、ただ単に出会いが無く持てなかっただけなのだが。
「そうか。でもそれなのに何で結婚という話になったんだ?」
「ベルドア様から申し込みがあったのだそうです。それは正式なものだったので、こちらとしてもお断りする訳にはいかなかったのです。公爵家から侯爵家への申し出です。お断りするにはそれ相応の理由が必要で。男色家の噂がある、ということではお断りできないのです。」
公から侯へ、ということでは確かに断りにくいだろう。また確証もなく男色家として決めつける訳にも行かない。嫌々承知したのだろう。でも、それとセリスの件が結びつかない。
「それで結婚の運びとなったのだろう?それが君とどう繋がるんだ?」
「それが、ベルドア様は私も姉の御付として所望されたのです。」
姉妹で嫁いで来い、ということか。それはそれで意味が判らないな。何か裏の事情がありそうだが想像も付かない。
「それは流石に父も母もお断りするお考えでした。それで実はケルン子爵家に嫁ぐことが決まっているのだとご返答されたのです。」
そこに繋がるのか。でも確かケルン家に異世界から来た(まあ俺のことだが)男が居てアステアを支配できる、とかなんとか言っていなかったか?
「私は何も聞かされずただケルン子爵と結婚してもらうことになったとだけ言われたので、慌てて逃げ出した、という次第なのです。」
何かちょっと話が繋がらないような気もするが、気のせいだという事にしておこう。
ルスカナに1日の距離まで近づいた時、急にセリスがケルンに戻りたいと言い出した。理由を聞いても言わない。襲われたことが原因の一つではあるのだろうが、それにしてもここまで来て、とは思う。
「どうするんだ?本当にケルンに戻るというんだな?」
「ええ。戻っていただけますか。やはりルスカナには行けません。」
セリスはルスカナに戻るとは言わなかった。もう故郷だとか自分の家だとかとも思っていないのだろうか。
「ケルンに戻ったら、また連れ戻しに来るんじゃないか?」
確かにそれは否定出来ない、という表情でセリスは黙り込んでしまった。
「俺はどっちでもいいよ。ジョシュアも君が行くところに付いてくるだろうし。」
「なんでだ。俺は彼女を送り届けたらケルンに帰るつもりだぞ。」
「またまたぁ、心にもないこと言うなって。なんとか彼女のそばに仕えられるように話をしてもらえばいいじゃないか。お前だけルスカナに残っても誰も責めないさ。」
「元々誰も責めていないだろう。俺はちゃんと責務を果たしているし、それは十分評価されていたはずだ。」
「評価していたさ。でもそれはお前を犯罪者で無くす代償だったんじゃないか。」
セリスに聞こえないようにそう言ってはみたが、俺としてもジョシュアをずっと縛り付ける気もなかった。
ゼノンが身元を保証してやればウォーレン家に仕えることもできるかも知れない。ましてやセリスの推挙とあれば可能性は高くなるはずだ。
俺の処遇はいずれにしても二の次だ。ただ、またケルンに戻るとなると話は別になる。ゼノンもいつまでもセリスを匿ってはおけないだろう。
「ケルンに戻って一生身を隠した生活を送るのかい?」
セリスに判断させるのは些か酷だとはおもうが彼女の一生の話だ、自分で納得いく結論を出すしかない。なんか俺も偉そうなこと言ってるな、元の世界では何一つ決められないチキンだったくせに。
セリスは相当悩んでいるようで決断できないでいた。俺はジョシュアを嗾けてみた。
「セリスと一緒に居たいんだろ?ケルンでは面が割れているからルスカナで暮らす方がいいんじゃないか?」
ジョシュアはまんまと乗せられてセリスを説得しに行った。どうな話をしたのか知らないが納得した顔で二人は戻って来た。
「ルスカナに行きます。それでお二人とも、私を助けてくださいますか?」
「助けるって何をどうしたらいいんだい?」
「俺は必ず命に代えても守りと約束する。」
「おいおい、ジョシュア、待て待て。なにから守らなければいけないのか判って言っているのか?」
「関係ない。どんなものからも誰であろうと彼女を守るだけだ。」
こいつは駄目だ、何一つ見えていない。恋は盲目とはよく言ったものだ。チンピラにしては聡い奴だと買っていたんだがな。
「お前はそれでもいいけど、俺はそうもいかないさ。理由や詳細を聞かせてくれないと何も判らないんでは守り様もないしな。」
俺は彼女を守って死んでもかまわないとも思っていた。でも何で死ぬのかは知りたいのだ。
セリスはもう決心がついているようだ。ルーデシアと結婚させられそうになった事以外の裏の状況を話し始めた。
「私は前にも言いましたがルスカナ領主のガルド・ウォーレンの次女でシンシアという姉が一人います。母はマリアと言って後妻で姉とは母親が違うのです。前妻は姉を産んですぐに亡くなったそうです。そして1年後に母が後妻として迎えられて私が生まれました。姉とは5歳違いになります。」
ここで一息ついた。後妻ではあるが実の母が今のウォーレン夫人なら、その線は無いな。
「姉は近々に嫁ぐことが決まっています。シルザール領主のベルドア公爵様です。」
「えっ。」
ジョシュアが思わず声を出した。なんだ、有名人なのか。
「本当にベルドア公爵なのか?」
「本当です。姉は25歳、侯爵は45歳。爵位も公爵と侯爵令嬢なので身分的にも年齢的にも問題ありません。」
45歳で25歳と結婚するのは普通なのか。貴族は貴族で色々とあるんだろうな。
「なんだよ、ベルドアってのは有名人なのか。」
セリスもジョシュアも言い難そうにしている。悪い意味で有名なのだろう。
「ある意味有名人ではあります。もちろん悪い意味です。ベルドア公爵は、その、男色家として有名なのです。それで今までご結婚しておられないのだと。」
ああ、それでか。それは確かに悪い意味で有名だろう。元居た世界でも最近は色々と認められてはいたが、俺個人としては関わりたくはなかった。独身を貫いていたのは勿論別の理由があったのだ。まあ、ただ単に出会いが無く持てなかっただけなのだが。
「そうか。でもそれなのに何で結婚という話になったんだ?」
「ベルドア様から申し込みがあったのだそうです。それは正式なものだったので、こちらとしてもお断りする訳にはいかなかったのです。公爵家から侯爵家への申し出です。お断りするにはそれ相応の理由が必要で。男色家の噂がある、ということではお断りできないのです。」
公から侯へ、ということでは確かに断りにくいだろう。また確証もなく男色家として決めつける訳にも行かない。嫌々承知したのだろう。でも、それとセリスの件が結びつかない。
「それで結婚の運びとなったのだろう?それが君とどう繋がるんだ?」
「それが、ベルドア様は私も姉の御付として所望されたのです。」
姉妹で嫁いで来い、ということか。それはそれで意味が判らないな。何か裏の事情がありそうだが想像も付かない。
「それは流石に父も母もお断りするお考えでした。それで実はケルン子爵家に嫁ぐことが決まっているのだとご返答されたのです。」
そこに繋がるのか。でも確かケルン家に異世界から来た(まあ俺のことだが)男が居てアステアを支配できる、とかなんとか言っていなかったか?
「私は何も聞かされずただケルン子爵と結婚してもらうことになったとだけ言われたので、慌てて逃げ出した、という次第なのです。」
何かちょっと話が繋がらないような気もするが、気のせいだという事にしておこう。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
女王直属女体拷問吏
那羽都レン
ファンタジー
女王直属女体拷問吏……それは女王直々の命を受けて、敵国のスパイや国内の不穏分子の女性に対して性的な拷問を行う役職だ。
異世界に転生し「相手の弱点が分かる」力を手に入れた青年セオドールは、その能力を活かして今日も囚われの身となった美少女達の女体の弱点をピンポイントに責め立てる。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる