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第7章 マゼランの三騎竜
剣の道
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第7章 マゼランの三騎竜
剣の道
エンセナーダから東に向かうとマゼランの街が見えてくる。馬車で三日の距離だ。道中は何事もなくグロウスが用意してくれた御者付きの馬車で悠々と旅が出来た。これほど静かな旅は初めてだったが、なんだか少し拍子抜けしてしまっているのが不思議だった。
このマゼランという街はシャロン公国でも特異な街だった。街全体が剣の修行の場なのだ。剣の修行のために公国全土から若者たちが集まって来ている。聖都騎士団も含めて各州の騎士団入隊候補や候補ではないが騎士団に入りたい者も沢山いた。ここで認められて騎士団に採用されることがあるのだ。
腕に覚えがある者は剣一本で身を立てる目的で夢を追って集まっている。ただ、本当に騎士団に採用される者は少なかった。年に十数人というところだ。それもノスメニア砂漠やアンタレア湖沼群などを有するバウンズ=レア騎士団がほとんどだった。バウンズ=レアはその過酷な自然状況から騎士団員の成り手が少なかったのだ。
バウンズ=レアの奥地、レアナ山脈の麓にあるシュタールには魔道におけるマゼランのような街シュタールがあり、その街を守護することも重要な任務だった。バウンズ=レア騎士団に入りシュタールに赴任して魔道の修行も並行して行う猛者も少なからずいるのだ。
マゼランで修業しているのは聖都騎士団の若者が多い。それだけで千人を超える。貴族の子弟がほとんどだか剣の腕だけで聖都騎士団に採用されたような者の子弟も居る。ロック=レパードの父、バーノンは貴族ではなかったが剣の腕だけで聖都騎士団副団長であり大将軍を拝命するまで上り詰めている。ロックがマゼランで修行するのは、十分あり得ることなのだ。
聖都騎士団とガーデニア州騎士団を除くと、マゼランに騎士団員を派遣するには多くの資金が必要であり、期待されている少数精鋭だけが集まっている。いずれ各州の騎士団を担う者たちだ。
「宿は決まっているんだっけ?」
「ちゃんとグロウス先輩が手配してくれているはずさ。ああ見えて気配りのできる先輩なんだ。」
「学生時代は楽しかったんだろうね。公太子も交えて。」
「あの人が一番悪かったさ。俺やグロウス先輩は公太子を、当時は立太子されていなかったんで、ただのレイズ=レークリッドだったけどな。あの人に振り回されていただけだ。」
悪だくみを考えるのがレイズの役目だった。グロウスは実行役だ。そして、ロックは後始末役だった。ただし、逃げ足は一番早かったのだ。三人の悪戯はほとんどバレなかった。要領が良すぎて誰も気が付かないこともあった。それでは詰らないので態とバラすことがあったくらいだ。ただそれは犯行声明のような方法で結局誰も犯人と判らないようにしていたのだが。
「まあ、バレてもレイズ公太子なら怒られなかっただろうけどね。」
「いや、先生たちはレイズを特別扱いしてなかった。生徒は生徒として平等に扱っていたな。ただ証拠を残さないんで怒られなかっただけだ。」
セイクリッド青年学校は自由な校風ではあったが締める所はちゃんと締めていて公太子であろう公爵家の子息であろうと成績が悪ければ落第させられるような学校だった。レイズは学年でも常に5位以内だったのでそんな心配は皆無だったが。
「レイズは成績も良かったしな。」
「ロックはどうだったの?」
ミロが興味津々で聞いてくる。
「俺は剣では誰にも負けなかったさ。」
「ロック、ミロは剣の話はしてないよ。」
「成績は、まあ、それなりだったさ。落第は一度もしてない。」
「その分だとギリギリで落第は免れたみたいね。」
「煩いな、俺は剣が命なんだよ。剣だけ強ければいいんだ。シャロン公国一をめざしているんだから。」
ロックが言うと強ち夢ではない気がする。シャロン公国内の強者全てと立会したい、というのがロックの夢であり目標なのだ。そして、その最初の舞台がこのマゼランだった。
剣の道②
三人と一匹はとりあえず宿に落ち着いた。
「今日はもう遅いから明日からあちこちの道場巡りだな。」
ロックはやる気満々だ。
「僕はどうしようかな。」
「なんだよ、ルークも一緒に修行するんじゃないのか?」
「ロックが居るのに僕がこれ以上剣の修行する意味がないじゃないか。」
「いや、俺はいずれルークとも正式に試合うつもりでいるんだから、ちゃんと修行しろよ。」
ロックの練習にいつもルークは付き合っていたのでロックの強さは身に染みている。自分がいくら修行しても追いつけないだろうと思っていた。元々人並み以上には使えるのだから修行するなら魔道の方だと思っていた。マゼランは魔道の修行ができる環境にはない。
「駄目よルーク。ロックは言い出したら聞かないでしょ。どうせやることないんだから一緒に修行に付き合ってあげなさいよ。」
ミロが無責任なことを言いだす。自分に火の粉が掛かるとは思っていないのだ。
「何言っているんだ、ミロも一緒だぞ。」
「えっ、なんで?」
「何回も何回も捕まっただろう。お前が少し剣が使えれば自分で切り抜けられるかも知れないじゃないか。」
ロックの頭には全て剣が基本にある。修行して強くなるのが当たり前なのだ。
「そんな。私は料理の修行でもして待っているわよ。」
「駄目だ、三人一緒に行くんだ。明日は早いぞ、もう寝ることだ。」
そう言うとロックは先に寝てしまった。
「ルーク、なんとかしてよ。」
「ミロも僕を嵌めようとしたんだから自業自得だよ、諦めることだね。」
「そんなぁ。」
ミロは不満たらたらで部屋に戻って行った。
(なんだか色々とお前たちも大変じゃの。)
「ジェイも剣の修行する?」
(する訳ないじゃろ。)
「判っているよ。それよりもジェイ、頼みたいことがあるんだけど。」
(なんじゃ。)
「ガルド老師は無理だとしても、ソニー=アレスがマゼランに居ないか、探っておいてほしいんだ。」
(確かにマゼランから来た、と言っておったの。また舞い戻っている可能性があるのじゃな、判った探索しておこう。但し、ガルドは駄目だ。近寄れん。)
「それは判っているよ。味方とは思えないしね。この間は何か向こうの都合で手伝ってくれただけみたいだし。頼んだよ。」
ルークもやっと寝ることにした。明日は気の進まない道場探しだと思うと寝つきも悪かった。
剣の道③
渋々の二人を連れて、ロックはいくつもいくつも道場を回った。しかし、中々これといった道場には当たらない。一行は昼食を取りながら作戦会議を開くことにした。
「闇雲に探しても無理だと思うよ、ロック。先にどこかで情報を得てからいくつかに絞って見学に行ってみたらどう?」
正論だった。最初からそうすればよかったのだ。
「あちこち歩き回って疲れたわ。私はここで待ってる。それか宿に戻るわ。」
「判ったって。単純に連れまわした俺が悪かった。でもミロの道場も探さないと駄目なんだから本人が居ないと話にならない。それより情報は良いけど、どこでそんなことが聞けるんだ?」
ルークは店主に話しかけた。
「おじさん、ちょっと聞きたいんだけど、マゼランで今一番有名な道場ってどこなのかな?」
「一番かい、それは少し難しいな。聖都騎士団の専属道場が有名なんだが他にも各州の騎士団が修行している道場も競い合っているしな。人によってはグロシア州騎士団傘下のランドルフ道場が最強だと言うし、人によってはガリア州騎士団傘下のルトア道場が強いというし。我がガーデニア州傘下は数が多くてどの道場が強いとはなかなか言えないしな。」
こういうことは商売人に聞くのが一番だ。
「そうなんだ。じゃあ、マゼランで一番強い剣士って言ったら誰なんだろうね。」
「そうだなぁ、まあ一番有名なのはマゼランの三騎竜だろうな。」
「マゼランの三騎竜?」
「そうさな。ピティアス=シェア、ガスピー=ジェイル、そしてクリフ=アキューズ。その三人を総じてマゼランの三騎竜と呼ぶんだよ。」
ロックの眼が輝き出す。
「その三騎竜って人はどこに行ったら会えるんだ?」
「彼らはガーデニア州騎士団所属なんだが他の道場にも教えに行っているから、どこに居るかは判らないな。聖都騎士団も教えているし。あのリード=フェリエスにも引けを取らない剣士様だわな。」
「リード=フェリエスって、あのホーラ長官の?」
「そうだよ、剣聖ヴォルフ=ロジック狼公の跡を継ぐと言われているお方だよ。」
ロックは興味津々に訊いている。リード=フェリエスは今シャロン公国一と言われている最強の剣士だ。公国の情報機関、ホーラの長官を務めている。聖都騎士団では准将軍待遇だった。いずれ試合たいと熱望している相手だ。現役当時のヴォルフ伯父とどっちが強いかと聞いたらリードだろう、と答えられた。謙遜もあるだろうがヴォルフ伯父が認めていることは確かだ。
「それは強そうだ。で、どこに行けば一番会えそうかな。」
「会う、ってお前たち、会ってどうするんだ?」
「試合う。強ければ教えを請う。」
「試合うだって?無理だよ、そんなの。彼らはあちらこちらの道場で教えるのに忙しい。お前たちのような素人の相手なんてしてくれないよ。」
ロックは少し見栄っ張りなところがある。というか正当な評価を求める、ということに敏感だった。
「俺は今年の御前会議で優勝しているんだが、それでも無理か?」
「なんと、そうか、聞いたことがある。聖都騎士団のレパード副団長の息子だとか。」
「そう。俺がロック=レパードだよ。それとこいつは剣聖ヴォルフ=ロジックの養子だ。」
「まさか。そんな話は聞いてないな、ロジック狼公に養子だと?確かに狼公は独り身だとは聞いていたが養子をとったとは聞いていないぞ。お前たち、俺を騙そうとしていないか?」
「あんたを騙しても何の得にもなりゃしないさ。確かにルークの養子の話は世間では知られていないだろうしな。だが俺がロック=レパードというのは本当のことだ。だからその三騎竜の居そうな場所を教えてくれないか。」
店主は不審そうにはしていたが、教えても何か出来る訳でもないと心当たりの場所を教えてくれた。
「ロック、僕の話はあんまりしちゃだめだよ。不要な厄介ごとに巻き込まれかねないんだから。」
「悪い、悪い、ついな。じゃ、早速行こう。」
一行は教えられた聖都騎士団傘下の道場に向かうのだった。
剣の道④
『聖都騎士団御用達クレイオン道場』
そう看板には書かれていた。いくつかある聖都騎士団御用達の道場の何でも一、二を争う道場だった。この道場ではリード=フェリエスが一時期所属していた、というのが最近の自慢だった。道場主のプラクト=クレイオンも、リードを弟子と言って吹聴しているし、リードも否定はしなかった。ただ本当の所はリードは道場を修行の場として使わせてもらっていただけでクレイオンの教えを請うたことは一度もなかった。
但し、それはクレイオン道場が弱いという事ではない。リードが教えを請いたいと思うほどではなかった、というだけだ。マゼランで修業している剣士たちの中で、クレイオン道場は確実に上位の実力を備えてはいたのだ。
ロックたちが訪ねると道場は活気で溢れていた。今の時間は強い剣士たちの修行の時間帯ではないようだ。初心者とは言わないが、ロックが見てもまだまだ修行が足りない者たちが多い。その中で一際目立つ剣士が教えている。道場の師範か師範代だろうか。
「すいません、見学させてもらっていいですか?」
ロックが声を掛けたが、誰も反応してくれない。聖都騎士団はシャロン公国の貴族の子弟が多い。正式に騎士団に入るには当然身元の確認も必要で、一般の修行者が入れる騎士団ではないのだ。そしてこの道場は聖都騎士団御用達なので部外者が突然入門してくることなど在り得なかった。普段は誰も見学になど来ないのだ。
「すんませーん。見学させてもらえませんかー。」
ロックが焦れて大声で叫ぶ。数人がこちらを向いたが、やはり誰も対応はしてくれなかった。
「ここは見学を許していないんだよ。」
突然後ろから声がした。
「悪いですね、ここは聖都騎士団員か騎士団に入る見込みの者しか入れないから見学して入門する者は居ないんですよ。」
一目で一門の剣士だと知れる、ロックたちとはそれほど歳も離れていないの青年がそこに立っていた。ロックもルークも、声を掛けられるまでその存在を認識できなかった。相当な使い手だ。
「そうか、それは残念だな。俺は聖都騎士団に入る気がないからなぁ。」
その青年はロックの言葉に少し引っかかったようだ。
「入る気がない?入れるけど、その気がない、と言っているように聞こえますが。」
「そうだな。俺が入ると言えば入れるんじゃないかな。」
青年は怪訝な表情を浮かべる。そう易々と入れるわけがないのだ。
「あなたは一体なにものですか?」
「俺はロック、ロック=レパード。聖都騎士団の副団長は俺の父親だから普通は聖都騎士団に入れと言われるだろうな。まあ、言われても断った筈だが。」
「バーノン=レパード副団長のご子息でしたか。それは失礼しました。正式に入門を申し出ていただければ、すぐに許可も出るでしょう。確か御前試合で優勝されたとか。」
「そうだな。それはそうと君も相当な使い手の様だけど何者なんだ?」
「申し遅れました。私は当道場の道場主であるプラクト=クレイオンの孫で師範代を務めておりますマシュ=クレイオンと申します。以後お見知りおきを。」
「マシュ=クレイオンか。師範代という事ならここに入門したら君と立合えるとなると少し興味が出て来た。ルーク、どうする?とりあえず、ここでもいいかもな。」
ここでも、というロックの言葉にマシュの眉が少し反応したのをルークは見逃さなかった。
「僕は聖都騎士団には入れないからここに入門するのはちょっとね。」
「ごめんなさい、そちらのお方は?」
「ああ。こいつはルーク=ロジック。狼公の養子だ、今一緒に旅をしていいるんだ。」
「ロジック公の養子?そんな話はお聞きしていませんね。」
「ああ、まだ一般には知られていない話さ。ガーデニア公やグロウス先輩は知っていることだがな。」
「グロウス先輩とはクレイ男爵様のことですか?ということはガーデニア州には御触れがあったのですね。」
「先日黒鷹城に使者が来ていたみたいだよ。この間一緒にクレイ公にもお目に掛った。」
「そうでしたか。それでは確かに聖都騎士団に入ることは無理でしょうね。」
「俺は君と立合えれば何でもいいけどな。」
当初の目的とは別の獲物を見つけたロックは、楽しそうだった。
剣の道⑤
「私は当道場の師範代ですから、他の道場の方とは基本的には立ち合いません。年に一回のマゼラン剣士祭で道場対抗の試合があるとき以外はね。うちは去年優勝させていただきました。」
ロックの眼が輝いた。剣士祭、なんていい響きなのだろう。
「そうなんだ。ではここじゃなくて別の道場から出て君と試合うことにしようかな。」
マシュは少し慌てた。ロックに別の道場に入られてはうかうかと強敵を作ることになってしまう。
「いや、私と立合うならこの道場でいいのではないですか?」
「ルークと一緒に入れないなら、その選択はないな。ありがとう、いいことを聞いた。」
ロックは呆気に取られているマシュを残してさっさと歩き出してしまった。
「ロック、よかったのかい?なんだか入門して欲しそうだったけど。」
「いいさ、あいつとは同門じゃなくて敵として真剣に試合いたい、それほどの腕だと見込んでのことだ。」
ロックは徹底している。剣を交えるなら真剣がいい、とすら思っているのだ。剣士祭というくらいだから真剣はないだろうが木刀でもちゃんと熱の入った試合がしたい。御前試合は真剣だったからロックはとても嬉しかったのだ。
「しまった、三騎竜が居たのかどうか確認するのを忘れた。」
一人、かなりの腕と見える師範か師範代のような人がいたのは確かだ。あの人が三騎竜の一人だったのかも知れない。今となっては戻って確かめる訳にも行かないが。
「聖都騎士団や各州の御用達道場は俺とルークが一緒に入ることは出来なさそうだな。誰でも入れる自由道場を探そう。」
結局手当たり次第に道場を見学させてもらう元の状況に戻ってしまった。但し、剣士祭に出場できるくらいの道場、という限定付きだ。聞くと、あまりの弱小道場には出場資格がないらしい。団体戦があるので最低でも五人は強い剣士が必要だ。ロックとルークは別とすると後は三人強い剣士が揃っている道場が望ましい。
ロックは剣士祭でクレイオン道場に勝てる道場を探すつもりでいた。
「ロック、もしかして優勝するつもり?」
「もちろん。剣士祭は二か月後みたいだから十分間に合う。」
誰の基準で十分と言うのだろう、とルークは思ったが言い出したら聞かないロックなので諦めている。それならやはり早く道場を決めないと、間に合わなくなってしまう。
「今度はここにしよう。」
ロックは少し小さい道場を選んだ。それまでは大きな道場ばかり探していたのだったが、どうもロックとしてはシックリこない気がしていた。小さい道場にも強い剣士が居るかもしれない、と思ったのだ。ただ、強い剣士が居る道場は必然的に人が多く集まり大きな道場になる、というのが普通だろうから、あまり期待はできないんじゃないかとルークは思っていた。
「ルーク。」
道場に入るなりロックがルークを呼んだ。
「みろよ、あの人。」
そこには一人の剣士が木刀を振るっていた。道場には他に人は居なかった。何度も何度も上段から木刀を振り落とす。その速さが半端なかった。常人には木刀が消えたように見えるだろう。上段で構えた木刀がいきなり正面に現れるのた。ルークでは目で追うのがやっとだった。ロックにはちゃんと見えているようだ。ミロには全く何をやっているのか判らなかった。
「ここにしよう。」
他に何も見ず、何も聞かないでロックは入門する道場を決めてしまった。入門を断られる事は考えていないのだ。
道場には『ローカス自由道場』と達筆だか誰にでも読める優しい字で書かれていた。
剣の道⑥
「頼もう。」
時代錯誤の掛け声と共にロックが許しも請わずに道場の中に入って行った。
しかし、応えはない。一人、木刀を振っている青年は、こちらに全く注意も払わず一心不乱に木刀を振り続けている。それは見ている者に少し恐怖を与え、狂気を感じさせるものだった。
仕方に無しにロックはその青年の肩をトントンと叩いた。
「うっうわぁ、何ですか、あなたたちは。」
青年はその時初めてこちらの存在に気が付いた。
「さっきから声を掛けていたんだけどね。」
「ああ、そうなんですね。申し訳ありません、僕は集中すると周りが見えなくなってしまうみたいで。」
本当にそうなら凄い集中力だ。そして木刀を振る速さは尋常ではなかった。
「凄い素振りだったね。どうだろう、俺をここに入門させてくれないだろうか?」
「ほっ、本当ですか。入門してくださるんですか。嘘じゃないですよね。僕を騙してます?もしかして揶揄いに来たとか?」
「騙したりなんかしないよ。君の素振りを見て、ここに入りたいと思ったんだ。駄目なのか?」
「いいえ、いいえ、駄目だなんてとんでもない。実は長い間、入門希望者なんて誰も来なかったものですから。」
それから青年はローカス自由道場の現状について話始めた。
かつてローカス自由道場はマゼランに数ある自由道場の中でも有数の道場だったらしい。弟子も百人近くを数えて正規の道場に次ぐ繁盛ぶりだった。
ところがある時、道場主であり師範だったウォード=ローカスが闇夜に襲撃されて腕と足を骨折してしまい、二度と満足に立ち会えなくなってしまった。
それでも教えることはできたのだが、剣士祭でもウォード一人に掛かっていた負担が大きく、ウォードが出られなくなってからは一度も勝てなくなってしまったのだ。そして弟子たちは一人減り、二人減り、ついには自分以外誰も居なくなってしまった、というのだった。
「どうして君は一人残ったんだい?それに君がいれば剣士祭でも勝てるんじゃないのかな?」
「僕はウォードの息子ですから、辞める訳にはいかないのです。申し遅れました、僕の名前はクスィー=ローカス、この道場のたった一人の塾生です。」
クスィーは道場主の一人息子だった。だが、あの素振りで勝てないのは妙だ。
「そうか、君は道場主の息子だったんだね。俺の名前はロック=レパード。こいつはルーク=ロジック。それとミロ=スイーダ。あとジェイかな。」
(なんじゃ、儂も紹介してくれるのか。)
「わぁ、なんですか。」
突然姿を現したジェイを見てクスィーは驚いた。さっきから驚いてばかりだ。
「俺たちと一緒に旅をしている使い魔だよ、害はないから仲良くしてやってくれ。」
「わ、判りました。でも、ロック=レパードと言う名前は聞き覚えがあるのですが。」
「今年の御前試合で優勝させてもらったからな、それでじゃないか?」
「ああ、確かに御前試合の優勝者のお名前がロック=レパードでした。でも、そうだとしたら聖都騎士団の副団長の御子息だと聞いたのですが。」
「そうだよ、それで合っている。」
「だったら聖都騎士団の専属道場がいくつもあります。うちに入門されるのは不自然だと思うのですが。」
「俺は聖都騎士団には入らないよ。だから全然問題ないと思うんだが。」
クスィーの疑念は晴れなかった。塾生が自分以外全員辞めてしまった過程で色々とあったからだ。少し人間不信になってしまっている。
「それで入門は許してもらえるのかな?三人一緒に、なんだが。」
そのロックの申し出をミロは手を振って否定するのだった。
剣の道⑦
「それで、なんであの素振りの感じで、君一人でも勝てなかったんだ?」
「僕は、剣士祭には一度も出たことがありません。」
「えっ、どうしてだ?」
理由を聞いてみるとクスイーは子供ころから道場に出入りしていたが大きくなるまではちゃんと教えてももらえず、ただ素振りを繰り返していたらしい。その速さがどんどん増すので塾生たちが面白がってもっともっとと素振りをどんどんやらせたそうだ。
そうして素振りの達人になったまでは良かったのだが、素振り以外が全く覚えられなかった、というのだ。縦に振る速さは尋常ではないが、それ以外の角度では木刀を触れなかった。また、相手の剣を受けることが全くできなかったのだ。
「そんなことが有るものなのか?とりあえず、立合ってみたいんだが。」
「それはいいですけど、多分相手になりませんよ。」
二人が立合うと、確かに全く相手にならなかった。クスイーが一振り、上段から振り落とす剣をロックが避ければそれで終わりだ。最初の一太刀以外は全くいいところがなかった。
「君の実力は判った。でもあの素振りの速さは尋常じゃない。俺だから避けたけど、あれが当たれば勝ちだと思うな。その一太刀を確実に当てる方法を考えれば勝てるんじゃないか。それと普通の剣もちゃんと習得することだ。さすがに他が弱すぎるよ。」
ミロが見ていても判るくらい躱されたあとのクスイーは弱すぎた。ミロでも勝てるんじゃないか、と思わせるほどに。ただ、ミロは今でも剣の修行をする気が無かったが。
「よし、やっぱりここで決めた、いいよな。」
ロックは意気揚々と宣言した。こうなったらもう誰のいう事も聞かない。ルークとミロは渋々承諾したがミロは剣ではなく皆の食を担当するつもりでいた。
クスイーには異存がなかった。塾生が増えることは単純にうれしいことなのだ。
元々は大勢塾生が居たので泊る場所はたくさんある。一行はすぐに移ることにした。
「いいところが見つかってよかったな。」
ロックは上機嫌だった。ルークには意味がよく判らなかった。修行という事で言えば、もっと大勢の塾生がいる道場の方がいいのではないかと思う。剣士祭に出るにも人数すら揃えられない道場では出場自体が危うい。ミロは出ないだろうから少なくともあと二人は必要なのだ。もちろんジェイが出る訳にも行かない。
「ロック、どうするつもりなの?彼とロックと僕であと二人足りないよ。」
「ミロが居るからあと一人じゃないか。」
「私は絶対出ないわよ。無理やり出そうとしても当日逃げるから。」
ミロに剣の修行をさせるのは至難の業の様だ。
「わかったよ。じゃあ、あと二人だ。」
「でも、彼はあの調子で大丈夫なの?」
「俺に任せてくれたら、相当な使い手にできると思う。彼は経験がないだけで、いくらでも強くなるさ。俺もうかうかできないくらいに。」
ロックのクスイーに対する評価は高かった。実際に立ち合った経験から言うのだ、間違いないだろう。マゼランに来て二人の剣士を見付け、マシュとは敵としてクスイーとは同門として接することになった。その違いはルークには判らなかった。
三人が荷物を取りに行くため徒歩で宿に戻っている途中。路地からいきなり人が出て来てルークにぶつかった。
「いてっ。」
ルークは少し飛ばされて尻餅をついてしまった。
「痛いなぁ、なんですか、あなたは。」
それは女性だった。少女と言ってもおかしくないくらいの若い女性だ。
「ごめんなさい、追われていて。」
彼女の後ろから数人の男たちが出て来た。
「おい、その女を渡せ。」
そんなことを言われて、はいどうぞ、なんていうロックたちではない。水を得た魚の様にロックの眼が輝いた。
剣の道⑧
「渡さないとどうなると言うんだ?」
ロックはやる気満々だ。ルークとミロは少女を連れて少し離れた。ロックの邪魔になってしまうからだ。相手は剣士風ではあるが、それほどの腕とも思えない五人。ロックの敵ではない。
「痛い目に遭う、という事が判らないのか?」
「判らないなぁ、教えてくれるかい?」
「ええい、やってしまえ。」
リーター格の男が嗾けた。四人が一斉に剣を振るう。
一人躱し、一人を盾にして一人を倒す。また一人を躱し一人を盾して一人を倒す。あっという間に四人ともが地面に転がった。残るはリーダー格一人。ロックの動きを見て到底敵わないとみると手下たちを置いて一人逃げてしまった。
「お、覚えてろよ。」
「うん、覚えているからまたおいで。」
ロックは完全に揶揄っていた。
「お嬢さん、もう大丈夫だ。怪我はないかい?」
「ありがとうございます。強いんですね。どこかの道場の剣士様ですか?」
「ああ、確か、えっとルーク、なんていったっけあの道場。」
「ローカス自由道場だよ。」
「そうそう、それ。」
「道場の名前を憶えてないんですか?」
「さっき入ったところだからね。今から荷物を持って入塾するところなんだ。」
「そうでしたか。それにしてもローカス自由道場ですか。」
少女の顔が少し暗くなった。何かあるのだろうか。
「ローカス道場に何かあるのかい?」
「いえ、今は誰も塾生が居ないとお聞きしていましたので。」
少女は少しはマゼランの道場の状況を知っているようだ。どこかの道場の関係者だろうか。
「それよりどうして追われていたの?あの男たちは誰かな?」
少女は少し話し難そうにしている。ロックは厄介ごとに積極的に首を突っ込むタイプだ。どうしても事情を聞く気だった。
「ロック、ここでは。」
「そうだな、俺たちの宿で事情を聞かせてくれるかい。力になるよ。」
少女はまだ決めかねているようだ。
「俺の名前はロック=レパード。聖都騎士団の副団長は俺の父だ。そしてこいつはルーク=ロジック、アゼリア州太守ロジック狼公の養子だ。変な奴じゃないから心配はいらないよ。それと彼女はミロ=スイーダ、俺たちの旅の同行者だ。最後におい、ジェイ。」
どちらかと言うとルークよりはロックの方が変な奴に見えるとは思うがロックはそう紹介した。
(儂を最後のオチにしておらぬかお主。)
「きゃっ、ネズミ。」
(失礼な奴じゃ。儂は齧歯類ではない。誇り高き猛禽類の王ブラウン=ジェンキンだ。)
少女は少し落ち着いてきたようだ。一行に不信感もない。
「判りました、お話しします。」
少女を連れて一行は宿へと戻るのだった。
剣の道⑨
「さて、話してもらえるかな?」
ロックが優しい声で聴く。ルークとミロは笑いを堪えている。こんなロックはそうそう見れるものではない。
「はい。私の名前はアイリス、アイリス=シュタインと申します。ルトア道場の師範をしているムルトワの娘です。」
「ルトア道場っていうと?」
確か聞いた覚えがあった。強い道場の一角だったはずだ。
「ルトア道場はガリア州騎士団の方や騎士団員候補の方々を中心とした道場になります。マゼランでも一、二を争っていると自負しております。」
「というと、君も剣士なのかい?」
「勿論です。私もいずれガリア州騎士団に入るつもりで日々修行をしています。」
歳は多分ロックたちよりも少し若い。レイラと同じくらいか。
「君の素性は判ったとして、どうして追われていたんだい?」
「あの人たちは直接ではないのですがランドルフ道場の息の掛かった者たちなのです。私を拐して剣士祭にうちの道場が出られないようにさせようと、ずっと狙ってきているのです。」
「剣士祭って二か月後だろ?今からそんな物騒なことを始めているのか。」
「剣士祭は二か月後ですが、参加の申し込みはあと少しで締め切ってしまうからです。」
そうか、参加申し込みが必要なのか。知らなかったら間に合わない所だ。まあ、クスイーが把握しているだろうが。
「なるほど、その締め切りに間に合わないと出場できないとなると、今このタイミングが一番ということか。狡賢い奴らだ。で、そのランドルフ道場っていうのは?」
「本当に何もご存じないのですね。ランドルフ道場は聖都騎士団御用達の道場を除くとマゼラン一を謳っているグロシア州騎士団中心の道場です。魔道士と剣士が同等に扱われるガリア州と違ってグロシア州は剣士が重宝されるお国柄ですから、それは熱心に修行されているのです。それはいいのですが、私どものような他州の騎士団の道場を目の敵にしておられるので本当に困っているのです。」
州によって魔道士と剣士の立場は様々に違いがあるようだ。魔道士が上位なのはプレトリア州くらいで、あとはガリア州とジャスメリアは同等、他はほぼ剣士の方が格上だった。あとはバウンズ=レアのみが魔道士の修行の聖地シュタールを有している分、少しだけ魔道士も認められてはいたが。
「いつもは数人の塾生たちと一緒に出掛けるのですが、今日は少し道場の用事が早く済んだので荷物を持って塾生を先に帰らせて私用の買い物をしていたところを狙われてしまったのです。本当に助かりました、ありがとうございました。」
「礼なんかいいよ。剣士祭に締め切りがあることを教えてくれただけで。」
「えっ、まさか剣士祭に出場されるのですか?」
「そのつもりだけど?」
アイリスは少し考えて告げる。
「お止めらなられた方が無難かと思います。ロック様がお強いのは見せていただきましたが、剣士祭出場には最低でも五人必要です。ローカス道場の跡取り息子は今まで一回も剣士祭に出場したことが無い弱虫だと評判ですし人数も揃わないでしょう。」
痛い所を突かれた。確かに人数は足りていない。クスイーも試合に出場するには時間が掛かるだろう。
「塾生を二人貸しては、」
「無理です。」
食い気味に断られた。
「出場申し込みの締め切りはいつなんだ?」
「明後日までです。」
ルークもミロも無理、と思ったがロックの手前、口にはしなかった。
「ミロ、」
「嫌よ。」
ミロにも食い気味に断られた。
「とりあえず君を道場まで送って行ってあげるよ。俺たちはローカス道場に戻って作戦会議だ。」
ロックはまだ全然諦めていない。
剣の道⑩
アイリスを無事ルトア道場に送り届けた。その際、アイリスを攫った犯人と間違われて、全く聞き耳を持たないムルトワの弟子たちと一触即発な状況になりかけたが、アイリスがなんとか止めてくれた。
ロックとしてはルトア道場の様子が知れるので立合ってもよかったのだが、アイリスの方がロックに塾生を打ちのめされたくなかったのだ。
「ランドルフ道場に行ってみようか、さっきの奴らが居るかも知れない。」
ロックは楽しそうだった。付き合う方は溜まったものではない。特にミロは自分を守る術がないのだ。
「先にローカス道場に行ってミロを預けないと僕たちも身動きできないって。」
ロックは渋々承諾した。だからミロにも修行してほしいのに、という思いが表情にでている。
「やらないわよ。」
ミロは重ねて言う。荒事に長ける気はないのだ。
道場ではクスイーがまだ素振りをやっていた。
「本当に来てくださったんですね。揶揄って居られるのかと思っていました。」
「そんな訳ないじゃないか。今日からお世話になります、先輩。それはそうと、さっき実はルトア道場のアイリスって娘を助けたんだけど。」
「えっ、それは本当ですか。それでアイリスさんは無事なんですか。」
クスイーの表情が変わった。アイリスの名前を聞いた途端、ロックに詰め寄ってきたのだ。
「大丈夫さ、ちゃんと道場まで送って行ったから。それで君はなんでそんなにアイリスのことになると向きになるんだ?」
「え、あっ、それは、その。」
「知り合いなのか?」
ロックは無神経に聞くことを止めない。ロックとミロはお手上げの表情をしている。
「はい、あの、小さい頃は父親が剣士同士で仲が良かったので、よく二人で遊んだりしていました。歳は僕の方が四つほど上なのですが、剣では一度も彼女に勝てませんでした。」
クスイーは今のままではアイリスどころか誰に勝てないだろう。実際道場が盛況のころ、大勢の塾生と立合ったが一度も勝ったことが無かった。
「あの娘も剣士だったのか。ミロに教えてくれないかな。」
「だから、やらないって。今からも行かないわよ、クスイーと留守番しているわ。」
「え、どこかに行くんですか?」
ロックはかいつまんで事情を説明した。
「それでランドルフ道場に乗り込もうと?なんて無茶な、あの道場は塾生だけでも数百人、名のある剣士も十ではききませんよ。そんなところに乗り込んだら大変なことになります。」
「どうなるんだ?」
「袋叩きになりますよ、間違いなく。」
「そうか、袋叩きになるのか、それは面白い。」
ロックの瞳が輝き出す。クスイーは、そんなことを言ったらロックには逆効果だという事がまだ判っていない。
「じゃ、行こうか。」
「聞いてましたか、ロックさん。行ったらどうなっても知りませんよ。」
「クスイー、ロックに言っても無駄だよ。余計意地になって行くことになる。まあ、ミロと大人しく待っててくれればいいから。」
ルークは逃れられないと諦めていた。実はロックもルークも怒っているのだ。剣士祭と言うのなら堂々と剣で優劣を決めるべきだし、女の子を攫って有利に事を運ぼうとする行為が気に入らなかった。ミロで何回も経験しているのだ。許しがたい行為だとルークもロックに負けないくらい憤慨しているのだ。
「僕も行きます。」
三人が三人とも驚いてしまった。クスイーがそんなことを言いだすとは思ってもいなかったからだ。
剣の道
エンセナーダから東に向かうとマゼランの街が見えてくる。馬車で三日の距離だ。道中は何事もなくグロウスが用意してくれた御者付きの馬車で悠々と旅が出来た。これほど静かな旅は初めてだったが、なんだか少し拍子抜けしてしまっているのが不思議だった。
このマゼランという街はシャロン公国でも特異な街だった。街全体が剣の修行の場なのだ。剣の修行のために公国全土から若者たちが集まって来ている。聖都騎士団も含めて各州の騎士団入隊候補や候補ではないが騎士団に入りたい者も沢山いた。ここで認められて騎士団に採用されることがあるのだ。
腕に覚えがある者は剣一本で身を立てる目的で夢を追って集まっている。ただ、本当に騎士団に採用される者は少なかった。年に十数人というところだ。それもノスメニア砂漠やアンタレア湖沼群などを有するバウンズ=レア騎士団がほとんどだった。バウンズ=レアはその過酷な自然状況から騎士団員の成り手が少なかったのだ。
バウンズ=レアの奥地、レアナ山脈の麓にあるシュタールには魔道におけるマゼランのような街シュタールがあり、その街を守護することも重要な任務だった。バウンズ=レア騎士団に入りシュタールに赴任して魔道の修行も並行して行う猛者も少なからずいるのだ。
マゼランで修業しているのは聖都騎士団の若者が多い。それだけで千人を超える。貴族の子弟がほとんどだか剣の腕だけで聖都騎士団に採用されたような者の子弟も居る。ロック=レパードの父、バーノンは貴族ではなかったが剣の腕だけで聖都騎士団副団長であり大将軍を拝命するまで上り詰めている。ロックがマゼランで修行するのは、十分あり得ることなのだ。
聖都騎士団とガーデニア州騎士団を除くと、マゼランに騎士団員を派遣するには多くの資金が必要であり、期待されている少数精鋭だけが集まっている。いずれ各州の騎士団を担う者たちだ。
「宿は決まっているんだっけ?」
「ちゃんとグロウス先輩が手配してくれているはずさ。ああ見えて気配りのできる先輩なんだ。」
「学生時代は楽しかったんだろうね。公太子も交えて。」
「あの人が一番悪かったさ。俺やグロウス先輩は公太子を、当時は立太子されていなかったんで、ただのレイズ=レークリッドだったけどな。あの人に振り回されていただけだ。」
悪だくみを考えるのがレイズの役目だった。グロウスは実行役だ。そして、ロックは後始末役だった。ただし、逃げ足は一番早かったのだ。三人の悪戯はほとんどバレなかった。要領が良すぎて誰も気が付かないこともあった。それでは詰らないので態とバラすことがあったくらいだ。ただそれは犯行声明のような方法で結局誰も犯人と判らないようにしていたのだが。
「まあ、バレてもレイズ公太子なら怒られなかっただろうけどね。」
「いや、先生たちはレイズを特別扱いしてなかった。生徒は生徒として平等に扱っていたな。ただ証拠を残さないんで怒られなかっただけだ。」
セイクリッド青年学校は自由な校風ではあったが締める所はちゃんと締めていて公太子であろう公爵家の子息であろうと成績が悪ければ落第させられるような学校だった。レイズは学年でも常に5位以内だったのでそんな心配は皆無だったが。
「レイズは成績も良かったしな。」
「ロックはどうだったの?」
ミロが興味津々で聞いてくる。
「俺は剣では誰にも負けなかったさ。」
「ロック、ミロは剣の話はしてないよ。」
「成績は、まあ、それなりだったさ。落第は一度もしてない。」
「その分だとギリギリで落第は免れたみたいね。」
「煩いな、俺は剣が命なんだよ。剣だけ強ければいいんだ。シャロン公国一をめざしているんだから。」
ロックが言うと強ち夢ではない気がする。シャロン公国内の強者全てと立会したい、というのがロックの夢であり目標なのだ。そして、その最初の舞台がこのマゼランだった。
剣の道②
三人と一匹はとりあえず宿に落ち着いた。
「今日はもう遅いから明日からあちこちの道場巡りだな。」
ロックはやる気満々だ。
「僕はどうしようかな。」
「なんだよ、ルークも一緒に修行するんじゃないのか?」
「ロックが居るのに僕がこれ以上剣の修行する意味がないじゃないか。」
「いや、俺はいずれルークとも正式に試合うつもりでいるんだから、ちゃんと修行しろよ。」
ロックの練習にいつもルークは付き合っていたのでロックの強さは身に染みている。自分がいくら修行しても追いつけないだろうと思っていた。元々人並み以上には使えるのだから修行するなら魔道の方だと思っていた。マゼランは魔道の修行ができる環境にはない。
「駄目よルーク。ロックは言い出したら聞かないでしょ。どうせやることないんだから一緒に修行に付き合ってあげなさいよ。」
ミロが無責任なことを言いだす。自分に火の粉が掛かるとは思っていないのだ。
「何言っているんだ、ミロも一緒だぞ。」
「えっ、なんで?」
「何回も何回も捕まっただろう。お前が少し剣が使えれば自分で切り抜けられるかも知れないじゃないか。」
ロックの頭には全て剣が基本にある。修行して強くなるのが当たり前なのだ。
「そんな。私は料理の修行でもして待っているわよ。」
「駄目だ、三人一緒に行くんだ。明日は早いぞ、もう寝ることだ。」
そう言うとロックは先に寝てしまった。
「ルーク、なんとかしてよ。」
「ミロも僕を嵌めようとしたんだから自業自得だよ、諦めることだね。」
「そんなぁ。」
ミロは不満たらたらで部屋に戻って行った。
(なんだか色々とお前たちも大変じゃの。)
「ジェイも剣の修行する?」
(する訳ないじゃろ。)
「判っているよ。それよりもジェイ、頼みたいことがあるんだけど。」
(なんじゃ。)
「ガルド老師は無理だとしても、ソニー=アレスがマゼランに居ないか、探っておいてほしいんだ。」
(確かにマゼランから来た、と言っておったの。また舞い戻っている可能性があるのじゃな、判った探索しておこう。但し、ガルドは駄目だ。近寄れん。)
「それは判っているよ。味方とは思えないしね。この間は何か向こうの都合で手伝ってくれただけみたいだし。頼んだよ。」
ルークもやっと寝ることにした。明日は気の進まない道場探しだと思うと寝つきも悪かった。
剣の道③
渋々の二人を連れて、ロックはいくつもいくつも道場を回った。しかし、中々これといった道場には当たらない。一行は昼食を取りながら作戦会議を開くことにした。
「闇雲に探しても無理だと思うよ、ロック。先にどこかで情報を得てからいくつかに絞って見学に行ってみたらどう?」
正論だった。最初からそうすればよかったのだ。
「あちこち歩き回って疲れたわ。私はここで待ってる。それか宿に戻るわ。」
「判ったって。単純に連れまわした俺が悪かった。でもミロの道場も探さないと駄目なんだから本人が居ないと話にならない。それより情報は良いけど、どこでそんなことが聞けるんだ?」
ルークは店主に話しかけた。
「おじさん、ちょっと聞きたいんだけど、マゼランで今一番有名な道場ってどこなのかな?」
「一番かい、それは少し難しいな。聖都騎士団の専属道場が有名なんだが他にも各州の騎士団が修行している道場も競い合っているしな。人によってはグロシア州騎士団傘下のランドルフ道場が最強だと言うし、人によってはガリア州騎士団傘下のルトア道場が強いというし。我がガーデニア州傘下は数が多くてどの道場が強いとはなかなか言えないしな。」
こういうことは商売人に聞くのが一番だ。
「そうなんだ。じゃあ、マゼランで一番強い剣士って言ったら誰なんだろうね。」
「そうだなぁ、まあ一番有名なのはマゼランの三騎竜だろうな。」
「マゼランの三騎竜?」
「そうさな。ピティアス=シェア、ガスピー=ジェイル、そしてクリフ=アキューズ。その三人を総じてマゼランの三騎竜と呼ぶんだよ。」
ロックの眼が輝き出す。
「その三騎竜って人はどこに行ったら会えるんだ?」
「彼らはガーデニア州騎士団所属なんだが他の道場にも教えに行っているから、どこに居るかは判らないな。聖都騎士団も教えているし。あのリード=フェリエスにも引けを取らない剣士様だわな。」
「リード=フェリエスって、あのホーラ長官の?」
「そうだよ、剣聖ヴォルフ=ロジック狼公の跡を継ぐと言われているお方だよ。」
ロックは興味津々に訊いている。リード=フェリエスは今シャロン公国一と言われている最強の剣士だ。公国の情報機関、ホーラの長官を務めている。聖都騎士団では准将軍待遇だった。いずれ試合たいと熱望している相手だ。現役当時のヴォルフ伯父とどっちが強いかと聞いたらリードだろう、と答えられた。謙遜もあるだろうがヴォルフ伯父が認めていることは確かだ。
「それは強そうだ。で、どこに行けば一番会えそうかな。」
「会う、ってお前たち、会ってどうするんだ?」
「試合う。強ければ教えを請う。」
「試合うだって?無理だよ、そんなの。彼らはあちらこちらの道場で教えるのに忙しい。お前たちのような素人の相手なんてしてくれないよ。」
ロックは少し見栄っ張りなところがある。というか正当な評価を求める、ということに敏感だった。
「俺は今年の御前会議で優勝しているんだが、それでも無理か?」
「なんと、そうか、聞いたことがある。聖都騎士団のレパード副団長の息子だとか。」
「そう。俺がロック=レパードだよ。それとこいつは剣聖ヴォルフ=ロジックの養子だ。」
「まさか。そんな話は聞いてないな、ロジック狼公に養子だと?確かに狼公は独り身だとは聞いていたが養子をとったとは聞いていないぞ。お前たち、俺を騙そうとしていないか?」
「あんたを騙しても何の得にもなりゃしないさ。確かにルークの養子の話は世間では知られていないだろうしな。だが俺がロック=レパードというのは本当のことだ。だからその三騎竜の居そうな場所を教えてくれないか。」
店主は不審そうにはしていたが、教えても何か出来る訳でもないと心当たりの場所を教えてくれた。
「ロック、僕の話はあんまりしちゃだめだよ。不要な厄介ごとに巻き込まれかねないんだから。」
「悪い、悪い、ついな。じゃ、早速行こう。」
一行は教えられた聖都騎士団傘下の道場に向かうのだった。
剣の道④
『聖都騎士団御用達クレイオン道場』
そう看板には書かれていた。いくつかある聖都騎士団御用達の道場の何でも一、二を争う道場だった。この道場ではリード=フェリエスが一時期所属していた、というのが最近の自慢だった。道場主のプラクト=クレイオンも、リードを弟子と言って吹聴しているし、リードも否定はしなかった。ただ本当の所はリードは道場を修行の場として使わせてもらっていただけでクレイオンの教えを請うたことは一度もなかった。
但し、それはクレイオン道場が弱いという事ではない。リードが教えを請いたいと思うほどではなかった、というだけだ。マゼランで修業している剣士たちの中で、クレイオン道場は確実に上位の実力を備えてはいたのだ。
ロックたちが訪ねると道場は活気で溢れていた。今の時間は強い剣士たちの修行の時間帯ではないようだ。初心者とは言わないが、ロックが見てもまだまだ修行が足りない者たちが多い。その中で一際目立つ剣士が教えている。道場の師範か師範代だろうか。
「すいません、見学させてもらっていいですか?」
ロックが声を掛けたが、誰も反応してくれない。聖都騎士団はシャロン公国の貴族の子弟が多い。正式に騎士団に入るには当然身元の確認も必要で、一般の修行者が入れる騎士団ではないのだ。そしてこの道場は聖都騎士団御用達なので部外者が突然入門してくることなど在り得なかった。普段は誰も見学になど来ないのだ。
「すんませーん。見学させてもらえませんかー。」
ロックが焦れて大声で叫ぶ。数人がこちらを向いたが、やはり誰も対応はしてくれなかった。
「ここは見学を許していないんだよ。」
突然後ろから声がした。
「悪いですね、ここは聖都騎士団員か騎士団に入る見込みの者しか入れないから見学して入門する者は居ないんですよ。」
一目で一門の剣士だと知れる、ロックたちとはそれほど歳も離れていないの青年がそこに立っていた。ロックもルークも、声を掛けられるまでその存在を認識できなかった。相当な使い手だ。
「そうか、それは残念だな。俺は聖都騎士団に入る気がないからなぁ。」
その青年はロックの言葉に少し引っかかったようだ。
「入る気がない?入れるけど、その気がない、と言っているように聞こえますが。」
「そうだな。俺が入ると言えば入れるんじゃないかな。」
青年は怪訝な表情を浮かべる。そう易々と入れるわけがないのだ。
「あなたは一体なにものですか?」
「俺はロック、ロック=レパード。聖都騎士団の副団長は俺の父親だから普通は聖都騎士団に入れと言われるだろうな。まあ、言われても断った筈だが。」
「バーノン=レパード副団長のご子息でしたか。それは失礼しました。正式に入門を申し出ていただければ、すぐに許可も出るでしょう。確か御前試合で優勝されたとか。」
「そうだな。それはそうと君も相当な使い手の様だけど何者なんだ?」
「申し遅れました。私は当道場の道場主であるプラクト=クレイオンの孫で師範代を務めておりますマシュ=クレイオンと申します。以後お見知りおきを。」
「マシュ=クレイオンか。師範代という事ならここに入門したら君と立合えるとなると少し興味が出て来た。ルーク、どうする?とりあえず、ここでもいいかもな。」
ここでも、というロックの言葉にマシュの眉が少し反応したのをルークは見逃さなかった。
「僕は聖都騎士団には入れないからここに入門するのはちょっとね。」
「ごめんなさい、そちらのお方は?」
「ああ。こいつはルーク=ロジック。狼公の養子だ、今一緒に旅をしていいるんだ。」
「ロジック公の養子?そんな話はお聞きしていませんね。」
「ああ、まだ一般には知られていない話さ。ガーデニア公やグロウス先輩は知っていることだがな。」
「グロウス先輩とはクレイ男爵様のことですか?ということはガーデニア州には御触れがあったのですね。」
「先日黒鷹城に使者が来ていたみたいだよ。この間一緒にクレイ公にもお目に掛った。」
「そうでしたか。それでは確かに聖都騎士団に入ることは無理でしょうね。」
「俺は君と立合えれば何でもいいけどな。」
当初の目的とは別の獲物を見つけたロックは、楽しそうだった。
剣の道⑤
「私は当道場の師範代ですから、他の道場の方とは基本的には立ち合いません。年に一回のマゼラン剣士祭で道場対抗の試合があるとき以外はね。うちは去年優勝させていただきました。」
ロックの眼が輝いた。剣士祭、なんていい響きなのだろう。
「そうなんだ。ではここじゃなくて別の道場から出て君と試合うことにしようかな。」
マシュは少し慌てた。ロックに別の道場に入られてはうかうかと強敵を作ることになってしまう。
「いや、私と立合うならこの道場でいいのではないですか?」
「ルークと一緒に入れないなら、その選択はないな。ありがとう、いいことを聞いた。」
ロックは呆気に取られているマシュを残してさっさと歩き出してしまった。
「ロック、よかったのかい?なんだか入門して欲しそうだったけど。」
「いいさ、あいつとは同門じゃなくて敵として真剣に試合いたい、それほどの腕だと見込んでのことだ。」
ロックは徹底している。剣を交えるなら真剣がいい、とすら思っているのだ。剣士祭というくらいだから真剣はないだろうが木刀でもちゃんと熱の入った試合がしたい。御前試合は真剣だったからロックはとても嬉しかったのだ。
「しまった、三騎竜が居たのかどうか確認するのを忘れた。」
一人、かなりの腕と見える師範か師範代のような人がいたのは確かだ。あの人が三騎竜の一人だったのかも知れない。今となっては戻って確かめる訳にも行かないが。
「聖都騎士団や各州の御用達道場は俺とルークが一緒に入ることは出来なさそうだな。誰でも入れる自由道場を探そう。」
結局手当たり次第に道場を見学させてもらう元の状況に戻ってしまった。但し、剣士祭に出場できるくらいの道場、という限定付きだ。聞くと、あまりの弱小道場には出場資格がないらしい。団体戦があるので最低でも五人は強い剣士が必要だ。ロックとルークは別とすると後は三人強い剣士が揃っている道場が望ましい。
ロックは剣士祭でクレイオン道場に勝てる道場を探すつもりでいた。
「ロック、もしかして優勝するつもり?」
「もちろん。剣士祭は二か月後みたいだから十分間に合う。」
誰の基準で十分と言うのだろう、とルークは思ったが言い出したら聞かないロックなので諦めている。それならやはり早く道場を決めないと、間に合わなくなってしまう。
「今度はここにしよう。」
ロックは少し小さい道場を選んだ。それまでは大きな道場ばかり探していたのだったが、どうもロックとしてはシックリこない気がしていた。小さい道場にも強い剣士が居るかもしれない、と思ったのだ。ただ、強い剣士が居る道場は必然的に人が多く集まり大きな道場になる、というのが普通だろうから、あまり期待はできないんじゃないかとルークは思っていた。
「ルーク。」
道場に入るなりロックがルークを呼んだ。
「みろよ、あの人。」
そこには一人の剣士が木刀を振るっていた。道場には他に人は居なかった。何度も何度も上段から木刀を振り落とす。その速さが半端なかった。常人には木刀が消えたように見えるだろう。上段で構えた木刀がいきなり正面に現れるのた。ルークでは目で追うのがやっとだった。ロックにはちゃんと見えているようだ。ミロには全く何をやっているのか判らなかった。
「ここにしよう。」
他に何も見ず、何も聞かないでロックは入門する道場を決めてしまった。入門を断られる事は考えていないのだ。
道場には『ローカス自由道場』と達筆だか誰にでも読める優しい字で書かれていた。
剣の道⑥
「頼もう。」
時代錯誤の掛け声と共にロックが許しも請わずに道場の中に入って行った。
しかし、応えはない。一人、木刀を振っている青年は、こちらに全く注意も払わず一心不乱に木刀を振り続けている。それは見ている者に少し恐怖を与え、狂気を感じさせるものだった。
仕方に無しにロックはその青年の肩をトントンと叩いた。
「うっうわぁ、何ですか、あなたたちは。」
青年はその時初めてこちらの存在に気が付いた。
「さっきから声を掛けていたんだけどね。」
「ああ、そうなんですね。申し訳ありません、僕は集中すると周りが見えなくなってしまうみたいで。」
本当にそうなら凄い集中力だ。そして木刀を振る速さは尋常ではなかった。
「凄い素振りだったね。どうだろう、俺をここに入門させてくれないだろうか?」
「ほっ、本当ですか。入門してくださるんですか。嘘じゃないですよね。僕を騙してます?もしかして揶揄いに来たとか?」
「騙したりなんかしないよ。君の素振りを見て、ここに入りたいと思ったんだ。駄目なのか?」
「いいえ、いいえ、駄目だなんてとんでもない。実は長い間、入門希望者なんて誰も来なかったものですから。」
それから青年はローカス自由道場の現状について話始めた。
かつてローカス自由道場はマゼランに数ある自由道場の中でも有数の道場だったらしい。弟子も百人近くを数えて正規の道場に次ぐ繁盛ぶりだった。
ところがある時、道場主であり師範だったウォード=ローカスが闇夜に襲撃されて腕と足を骨折してしまい、二度と満足に立ち会えなくなってしまった。
それでも教えることはできたのだが、剣士祭でもウォード一人に掛かっていた負担が大きく、ウォードが出られなくなってからは一度も勝てなくなってしまったのだ。そして弟子たちは一人減り、二人減り、ついには自分以外誰も居なくなってしまった、というのだった。
「どうして君は一人残ったんだい?それに君がいれば剣士祭でも勝てるんじゃないのかな?」
「僕はウォードの息子ですから、辞める訳にはいかないのです。申し遅れました、僕の名前はクスィー=ローカス、この道場のたった一人の塾生です。」
クスィーは道場主の一人息子だった。だが、あの素振りで勝てないのは妙だ。
「そうか、君は道場主の息子だったんだね。俺の名前はロック=レパード。こいつはルーク=ロジック。それとミロ=スイーダ。あとジェイかな。」
(なんじゃ、儂も紹介してくれるのか。)
「わぁ、なんですか。」
突然姿を現したジェイを見てクスィーは驚いた。さっきから驚いてばかりだ。
「俺たちと一緒に旅をしている使い魔だよ、害はないから仲良くしてやってくれ。」
「わ、判りました。でも、ロック=レパードと言う名前は聞き覚えがあるのですが。」
「今年の御前試合で優勝させてもらったからな、それでじゃないか?」
「ああ、確かに御前試合の優勝者のお名前がロック=レパードでした。でも、そうだとしたら聖都騎士団の副団長の御子息だと聞いたのですが。」
「そうだよ、それで合っている。」
「だったら聖都騎士団の専属道場がいくつもあります。うちに入門されるのは不自然だと思うのですが。」
「俺は聖都騎士団には入らないよ。だから全然問題ないと思うんだが。」
クスィーの疑念は晴れなかった。塾生が自分以外全員辞めてしまった過程で色々とあったからだ。少し人間不信になってしまっている。
「それで入門は許してもらえるのかな?三人一緒に、なんだが。」
そのロックの申し出をミロは手を振って否定するのだった。
剣の道⑦
「それで、なんであの素振りの感じで、君一人でも勝てなかったんだ?」
「僕は、剣士祭には一度も出たことがありません。」
「えっ、どうしてだ?」
理由を聞いてみるとクスイーは子供ころから道場に出入りしていたが大きくなるまではちゃんと教えてももらえず、ただ素振りを繰り返していたらしい。その速さがどんどん増すので塾生たちが面白がってもっともっとと素振りをどんどんやらせたそうだ。
そうして素振りの達人になったまでは良かったのだが、素振り以外が全く覚えられなかった、というのだ。縦に振る速さは尋常ではないが、それ以外の角度では木刀を触れなかった。また、相手の剣を受けることが全くできなかったのだ。
「そんなことが有るものなのか?とりあえず、立合ってみたいんだが。」
「それはいいですけど、多分相手になりませんよ。」
二人が立合うと、確かに全く相手にならなかった。クスイーが一振り、上段から振り落とす剣をロックが避ければそれで終わりだ。最初の一太刀以外は全くいいところがなかった。
「君の実力は判った。でもあの素振りの速さは尋常じゃない。俺だから避けたけど、あれが当たれば勝ちだと思うな。その一太刀を確実に当てる方法を考えれば勝てるんじゃないか。それと普通の剣もちゃんと習得することだ。さすがに他が弱すぎるよ。」
ミロが見ていても判るくらい躱されたあとのクスイーは弱すぎた。ミロでも勝てるんじゃないか、と思わせるほどに。ただ、ミロは今でも剣の修行をする気が無かったが。
「よし、やっぱりここで決めた、いいよな。」
ロックは意気揚々と宣言した。こうなったらもう誰のいう事も聞かない。ルークとミロは渋々承諾したがミロは剣ではなく皆の食を担当するつもりでいた。
クスイーには異存がなかった。塾生が増えることは単純にうれしいことなのだ。
元々は大勢塾生が居たので泊る場所はたくさんある。一行はすぐに移ることにした。
「いいところが見つかってよかったな。」
ロックは上機嫌だった。ルークには意味がよく判らなかった。修行という事で言えば、もっと大勢の塾生がいる道場の方がいいのではないかと思う。剣士祭に出るにも人数すら揃えられない道場では出場自体が危うい。ミロは出ないだろうから少なくともあと二人は必要なのだ。もちろんジェイが出る訳にも行かない。
「ロック、どうするつもりなの?彼とロックと僕であと二人足りないよ。」
「ミロが居るからあと一人じゃないか。」
「私は絶対出ないわよ。無理やり出そうとしても当日逃げるから。」
ミロに剣の修行をさせるのは至難の業の様だ。
「わかったよ。じゃあ、あと二人だ。」
「でも、彼はあの調子で大丈夫なの?」
「俺に任せてくれたら、相当な使い手にできると思う。彼は経験がないだけで、いくらでも強くなるさ。俺もうかうかできないくらいに。」
ロックのクスイーに対する評価は高かった。実際に立ち合った経験から言うのだ、間違いないだろう。マゼランに来て二人の剣士を見付け、マシュとは敵としてクスイーとは同門として接することになった。その違いはルークには判らなかった。
三人が荷物を取りに行くため徒歩で宿に戻っている途中。路地からいきなり人が出て来てルークにぶつかった。
「いてっ。」
ルークは少し飛ばされて尻餅をついてしまった。
「痛いなぁ、なんですか、あなたは。」
それは女性だった。少女と言ってもおかしくないくらいの若い女性だ。
「ごめんなさい、追われていて。」
彼女の後ろから数人の男たちが出て来た。
「おい、その女を渡せ。」
そんなことを言われて、はいどうぞ、なんていうロックたちではない。水を得た魚の様にロックの眼が輝いた。
剣の道⑧
「渡さないとどうなると言うんだ?」
ロックはやる気満々だ。ルークとミロは少女を連れて少し離れた。ロックの邪魔になってしまうからだ。相手は剣士風ではあるが、それほどの腕とも思えない五人。ロックの敵ではない。
「痛い目に遭う、という事が判らないのか?」
「判らないなぁ、教えてくれるかい?」
「ええい、やってしまえ。」
リーター格の男が嗾けた。四人が一斉に剣を振るう。
一人躱し、一人を盾にして一人を倒す。また一人を躱し一人を盾して一人を倒す。あっという間に四人ともが地面に転がった。残るはリーダー格一人。ロックの動きを見て到底敵わないとみると手下たちを置いて一人逃げてしまった。
「お、覚えてろよ。」
「うん、覚えているからまたおいで。」
ロックは完全に揶揄っていた。
「お嬢さん、もう大丈夫だ。怪我はないかい?」
「ありがとうございます。強いんですね。どこかの道場の剣士様ですか?」
「ああ、確か、えっとルーク、なんていったっけあの道場。」
「ローカス自由道場だよ。」
「そうそう、それ。」
「道場の名前を憶えてないんですか?」
「さっき入ったところだからね。今から荷物を持って入塾するところなんだ。」
「そうでしたか。それにしてもローカス自由道場ですか。」
少女の顔が少し暗くなった。何かあるのだろうか。
「ローカス道場に何かあるのかい?」
「いえ、今は誰も塾生が居ないとお聞きしていましたので。」
少女は少しはマゼランの道場の状況を知っているようだ。どこかの道場の関係者だろうか。
「それよりどうして追われていたの?あの男たちは誰かな?」
少女は少し話し難そうにしている。ロックは厄介ごとに積極的に首を突っ込むタイプだ。どうしても事情を聞く気だった。
「ロック、ここでは。」
「そうだな、俺たちの宿で事情を聞かせてくれるかい。力になるよ。」
少女はまだ決めかねているようだ。
「俺の名前はロック=レパード。聖都騎士団の副団長は俺の父だ。そしてこいつはルーク=ロジック、アゼリア州太守ロジック狼公の養子だ。変な奴じゃないから心配はいらないよ。それと彼女はミロ=スイーダ、俺たちの旅の同行者だ。最後におい、ジェイ。」
どちらかと言うとルークよりはロックの方が変な奴に見えるとは思うがロックはそう紹介した。
(儂を最後のオチにしておらぬかお主。)
「きゃっ、ネズミ。」
(失礼な奴じゃ。儂は齧歯類ではない。誇り高き猛禽類の王ブラウン=ジェンキンだ。)
少女は少し落ち着いてきたようだ。一行に不信感もない。
「判りました、お話しします。」
少女を連れて一行は宿へと戻るのだった。
剣の道⑨
「さて、話してもらえるかな?」
ロックが優しい声で聴く。ルークとミロは笑いを堪えている。こんなロックはそうそう見れるものではない。
「はい。私の名前はアイリス、アイリス=シュタインと申します。ルトア道場の師範をしているムルトワの娘です。」
「ルトア道場っていうと?」
確か聞いた覚えがあった。強い道場の一角だったはずだ。
「ルトア道場はガリア州騎士団の方や騎士団員候補の方々を中心とした道場になります。マゼランでも一、二を争っていると自負しております。」
「というと、君も剣士なのかい?」
「勿論です。私もいずれガリア州騎士団に入るつもりで日々修行をしています。」
歳は多分ロックたちよりも少し若い。レイラと同じくらいか。
「君の素性は判ったとして、どうして追われていたんだい?」
「あの人たちは直接ではないのですがランドルフ道場の息の掛かった者たちなのです。私を拐して剣士祭にうちの道場が出られないようにさせようと、ずっと狙ってきているのです。」
「剣士祭って二か月後だろ?今からそんな物騒なことを始めているのか。」
「剣士祭は二か月後ですが、参加の申し込みはあと少しで締め切ってしまうからです。」
そうか、参加申し込みが必要なのか。知らなかったら間に合わない所だ。まあ、クスイーが把握しているだろうが。
「なるほど、その締め切りに間に合わないと出場できないとなると、今このタイミングが一番ということか。狡賢い奴らだ。で、そのランドルフ道場っていうのは?」
「本当に何もご存じないのですね。ランドルフ道場は聖都騎士団御用達の道場を除くとマゼラン一を謳っているグロシア州騎士団中心の道場です。魔道士と剣士が同等に扱われるガリア州と違ってグロシア州は剣士が重宝されるお国柄ですから、それは熱心に修行されているのです。それはいいのですが、私どものような他州の騎士団の道場を目の敵にしておられるので本当に困っているのです。」
州によって魔道士と剣士の立場は様々に違いがあるようだ。魔道士が上位なのはプレトリア州くらいで、あとはガリア州とジャスメリアは同等、他はほぼ剣士の方が格上だった。あとはバウンズ=レアのみが魔道士の修行の聖地シュタールを有している分、少しだけ魔道士も認められてはいたが。
「いつもは数人の塾生たちと一緒に出掛けるのですが、今日は少し道場の用事が早く済んだので荷物を持って塾生を先に帰らせて私用の買い物をしていたところを狙われてしまったのです。本当に助かりました、ありがとうございました。」
「礼なんかいいよ。剣士祭に締め切りがあることを教えてくれただけで。」
「えっ、まさか剣士祭に出場されるのですか?」
「そのつもりだけど?」
アイリスは少し考えて告げる。
「お止めらなられた方が無難かと思います。ロック様がお強いのは見せていただきましたが、剣士祭出場には最低でも五人必要です。ローカス道場の跡取り息子は今まで一回も剣士祭に出場したことが無い弱虫だと評判ですし人数も揃わないでしょう。」
痛い所を突かれた。確かに人数は足りていない。クスイーも試合に出場するには時間が掛かるだろう。
「塾生を二人貸しては、」
「無理です。」
食い気味に断られた。
「出場申し込みの締め切りはいつなんだ?」
「明後日までです。」
ルークもミロも無理、と思ったがロックの手前、口にはしなかった。
「ミロ、」
「嫌よ。」
ミロにも食い気味に断られた。
「とりあえず君を道場まで送って行ってあげるよ。俺たちはローカス道場に戻って作戦会議だ。」
ロックはまだ全然諦めていない。
剣の道⑩
アイリスを無事ルトア道場に送り届けた。その際、アイリスを攫った犯人と間違われて、全く聞き耳を持たないムルトワの弟子たちと一触即発な状況になりかけたが、アイリスがなんとか止めてくれた。
ロックとしてはルトア道場の様子が知れるので立合ってもよかったのだが、アイリスの方がロックに塾生を打ちのめされたくなかったのだ。
「ランドルフ道場に行ってみようか、さっきの奴らが居るかも知れない。」
ロックは楽しそうだった。付き合う方は溜まったものではない。特にミロは自分を守る術がないのだ。
「先にローカス道場に行ってミロを預けないと僕たちも身動きできないって。」
ロックは渋々承諾した。だからミロにも修行してほしいのに、という思いが表情にでている。
「やらないわよ。」
ミロは重ねて言う。荒事に長ける気はないのだ。
道場ではクスイーがまだ素振りをやっていた。
「本当に来てくださったんですね。揶揄って居られるのかと思っていました。」
「そんな訳ないじゃないか。今日からお世話になります、先輩。それはそうと、さっき実はルトア道場のアイリスって娘を助けたんだけど。」
「えっ、それは本当ですか。それでアイリスさんは無事なんですか。」
クスイーの表情が変わった。アイリスの名前を聞いた途端、ロックに詰め寄ってきたのだ。
「大丈夫さ、ちゃんと道場まで送って行ったから。それで君はなんでそんなにアイリスのことになると向きになるんだ?」
「え、あっ、それは、その。」
「知り合いなのか?」
ロックは無神経に聞くことを止めない。ロックとミロはお手上げの表情をしている。
「はい、あの、小さい頃は父親が剣士同士で仲が良かったので、よく二人で遊んだりしていました。歳は僕の方が四つほど上なのですが、剣では一度も彼女に勝てませんでした。」
クスイーは今のままではアイリスどころか誰に勝てないだろう。実際道場が盛況のころ、大勢の塾生と立合ったが一度も勝ったことが無かった。
「あの娘も剣士だったのか。ミロに教えてくれないかな。」
「だから、やらないって。今からも行かないわよ、クスイーと留守番しているわ。」
「え、どこかに行くんですか?」
ロックはかいつまんで事情を説明した。
「それでランドルフ道場に乗り込もうと?なんて無茶な、あの道場は塾生だけでも数百人、名のある剣士も十ではききませんよ。そんなところに乗り込んだら大変なことになります。」
「どうなるんだ?」
「袋叩きになりますよ、間違いなく。」
「そうか、袋叩きになるのか、それは面白い。」
ロックの瞳が輝き出す。クスイーは、そんなことを言ったらロックには逆効果だという事がまだ判っていない。
「じゃ、行こうか。」
「聞いてましたか、ロックさん。行ったらどうなっても知りませんよ。」
「クスイー、ロックに言っても無駄だよ。余計意地になって行くことになる。まあ、ミロと大人しく待っててくれればいいから。」
ルークは逃れられないと諦めていた。実はロックもルークも怒っているのだ。剣士祭と言うのなら堂々と剣で優劣を決めるべきだし、女の子を攫って有利に事を運ぼうとする行為が気に入らなかった。ミロで何回も経験しているのだ。許しがたい行為だとルークもロックに負けないくらい憤慨しているのだ。
「僕も行きます。」
三人が三人とも驚いてしまった。クスイーがそんなことを言いだすとは思ってもいなかったからだ。
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