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第6章 街道の要所エンセナーダ
暗躍
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第6章 街道の要所エンセナーダ
暗躍
グロウス=クレイは多忙だった。ガーデニア州太守である父カールの補佐としては兄のカシル=クレイがガーデニア州騎士団大将軍として居るのでグロウスの出る幕は無かった。
グロウスは入団一年で就いたガーデニア州騎士団の大隊長としての職務で手一杯だったのだ。自らの件の修行も疎かにできないし年上の部下の統率も必要だった。騎士団は警察機能も兼ねているので街の治安を担ってもいるのだ。
本当はもっと剣の修行に明け暮れたかった。ガーデニア州内は修行の聖地マゼランを有している。聖都騎士団も含めて各州の騎士団員が修行に訪れる街だ。グロウスもセイクリッドの青年学校在籍時に一度体験と言う形で訪れたことがある。幼年学校から通して、その時が一番楽しかった。
「グロウス様。」
グロウスは爵位としては男爵を授けられている。兄はいずれ公爵を継ぐのだが次男であるグロウスも既に爵位をもっていた。グロウスの住む屋敷は男爵家としては少し物足りない程度の屋敷であったが騎士団の詰所も近くあまり物事に頓着しないグロウスには十分な広さだった。使用人も執事と召使が一人づついるだけだった。
「おお、セバス、どうかしたのか。」
「お客様がいらしております。」
「客?聞いてないな。」
「はい、突然いらしたようです。ダーク=エルク様と仰るレイズ公太子の親衛隊の方だとか。」
「ダーク殿か、知り合いだ、よい、通せ。」
グロウスは騎士団に居るときは武人として接するようにしているが自宅では公爵の子息であり自らも男爵なので、あまり武人らしくはなかった。
執事が案内してきたのは確かに見知った顔だった。
「どうした、連絡もよこさずに突然。それにしても久しぶりだな。」
ダークとはセイクリッドでレイズの御付として知り合っていた。まあ、おもり役だな、とグロウスは見抜いていた。レイズは優秀だったし剣の腕もかなり使える方だったが抜き出たものがない、とグロウスは思っていた。それは自分も同じなのだが兄が居て太守を継ぐ必要がないグロウスと、いずれ公王を継ぐであろうレイズとは立場が違う。
「ご無沙汰しておりますクレイ男爵様。」
「なんだ、型苦しいな、いつもの通りグロウスと呼べばいいだろうに。」
「なかなか、そういう訳には行かないものですよ、男爵様。」
「俺がそう呼べ、というのだ、逆らうなよ。」
口調も表情も優しいのだが有無を言わせない石の強さがあった。
「判りましたグロウス様。」
「うむ。それで何用でエンセナーダまで来たのだ、レイズ公太子はどうした?」
ダークはいままで経緯とレイズを宿に待たせていることを掻い摘んで伝えた。
「レイズのやりそうなことだな。お前も大変だな。二人で一緒に来ればよかったものを。」
「さすがにそうは行きません。ただ、よろしければ直ぐに宿に公太子をお迎えに行き、こちらにお連れできればと思うのですが。」
「判った。うちの執事と一緒にすぐに迎えに行ってくれ。あいつも退屈しているだろう。」
ダークはクレイ男爵家の執事と連れだって馬車でレイズの居る宿に向かった。
エンセナーダでも中心にある大通りを走っているとダークたちの馬車は一台の馬車とすれ違った。街中の道を走るには速度が出過ぎていた。そして、その馬車を追うように速度を上げて走る馬車が一台。
「なにかあったのでしょうか。エンセナーダではよく見る光景ですか?」
「いえいえ、余程急いておられるようですね。先の馬車が逃げているのを後の馬車が追いかけているようです。」
「それは間違いありませんね。何かの事件でしょうか。いずれにしても、巻き込まれないようにしなければ。」
レイズがこの場にいれば二台の馬車を追いかけかねない。公太子は好奇心旺盛で自ら厄介ごとに首を突っ込んでいく性格だった。
「そうてせすね、我が主もあのようなものを見かけたら追いかけかねませんから。」
レイズとグロウスはそういう意味ではとても似ているのだ。ダークと執事は自らの苦労を思い顔を見合わせるのだった。
暗躍②
「もう逃げられないと観念しろよ。」
ロックたちは行き止まりの路地に馬車を追い込み出口を塞いだ。見たことがある顔の男が降りて来た。
「やはりあんたか。あの時色々と知っているようだったが。」
「お久しぶりですね。どうかされましたか?」
「いや、終焉の地からミロを攫っただろうに。」
「何のお話です?わたしどもはただの商人、それら様が突然追いかけて来られたので怖くて逃げた次第です。」
とぼけた男だった。こちらはジェイの報告でミロが居ることは確認している。
「理由や目的はどうでもいい、ミロを返してもらおうか。返してくれさえすれば、何も言わないと約束しよう。」
ロックは一旦下手に出ることにした。そこにいる数人を制するのは簡単だったが、ロックは強い相手と戦うことは望んでいても手練れでもない者たちと剣を交えたくはなかったのだ。
「そういう訳には行きません。ミロさんと言う人は、私どもとは無関係ですから。」
男の自信ありげな口調にルークが反応する。
「ジェイ!」
(うむ、確かにミロは居らんようだ)
「おい、いつのまにミロと別れた?」
「いえいえ、滅相もありません。元々、そのミロさんと言うお方は存じ上げないのです。お許しくださいませんか?」
男をこれ以上問い詰めることはできなかった。実際にミロが居ないのだ。それにしても、いつミロを別行動にできたのか。
(ついさっきまでは確かに居ったぞ)
責任を感じてジェイが言う。それはルークも感じていた。ジェイやルークに悟られずに相手はミロを移動させたのだ。魔道士の仕業としても、相当な使い手だろう。
ロックたちは一行を開放した。証拠がないので仕方なかった。形だけはロックたちが謝ることになってしまった。
「ジェイ、頼むぞ。」
ジェイに一行の跡を追わせることにして、ロックたちはエンセナーダでの落ち着き先を探すことにした。街に入ってすぐに一行を見つけ追いかけたので、今自分たちがどこにいるのか、皆目見当がつかなかった。
「ここは、とごなんだろう?」
「エンセナーダの中心街近くではあるようだね。ほら、あそこに騎士団詰所がある。」
確かにそこにはガーデニア州騎士団の詰所があった。
「強い奴は居るかな?」
ロックの興味はそれだけだった。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。」
「判っているって。でも血が騒ぐんだよ。さっきの奴らの腕はあまり大したことなかったしな。ただ、終焉の血よりは強かったみたいだから、あんな商人のなりをしていたけど正式に剣を学んでいたとは思うんだ。どこかの騎士団なのかも知れない。」
「ここの騎士団ではなくて?」
「ガーデニア州騎士団なら、あんな変装みたいなことはしないだろう。」
「そうだね。でもなんかあの男の人は引っかかるものがあったんだけど。」
「ルークもか。俺もちょっと引っかかっていたんだ。俺たちのこととも知っていたしな。」
「僕のことは知らなかったけどね。ただの商人じゃないことは間違いないよ。」
とりあえず二人は安宿を決めジェイの報告を待つことにした。
暗躍③
「何かあったようだな。」
レイズの好奇心は感度が尋常では無かった。揉め事など直ぐに感知してしまう。ダークと執事が迎えに行くと開口一番そう言われた。
「馬車が逃げているのを誰かが追いかけていたようです。」
「それは事件だろう。詳細は?」
「いえ、公太子をお迎えに戻らな向ければいけませんでしたので。」
「馬鹿か。私など放っておいて、そっちが優先だろう。詳細を確かめに行くぞ。」
こうなったらレイズ公太子はもう止まらない。仕方なしにさっきすれ違ったあたりに戻ることにした。グロウス男爵家に戻る道でもあるので寄り道にはならない。
「先ほどはこの辺りですれ違ったのですが、このまま真っ直ぐ通りを進むと騎士団詰所に当たります。もしかしたら何か知っているかも知れません。一度グロウス様の御屋敷に行って男爵に問い合わせしていただくのはどうでしょう。」
ダークは提案してみた。グロウスが止めてくれることも計算に入れての話だ。
「判った、その方がいいだろう。直ぐにグロウスの所に向おう。」
案外公太子は直ぐに同意してくれた。上手く行けば厄介ごとに巻き込まれなくて済む。
「おい、あの馬車じゃないのか?」
公太子が見つけた馬車は確かに追いかけていた方の馬車だった。
「止めて事情を聴いて来い。」
仕方なかった。ダークは馬車を戻して先ほどの馬車を追いかけた。今回はあまり速度を上げてはいなかったので直ぐに追いつき、前に出て馬車を停めた。
「すいません、少し話をお聞きしたいのですが。」
ダークは声を掛けてみた。直ぐに御者と中から一人青年が降りて来た。二人とも若い。
「何か御用ですか?」
御者だった青年が逆に尋ねる。
「ええ、あなたたちは先ほどこの通りで馬車を追いかけていませんでしたか?」
二人は顔を見合わせた。
「そうですが、あなたたちは誰です?」
「失礼、私は聖都騎士団のものですが、私の主が事情をお聞きしたいと申しまして。」
レイズ公太子の身分を明かす訳には行かない。と同時に自らが聖都騎士団親衛隊副隊長であることも明かしてしまう訳には行かなかった。但し嘘偽りを言う訳にも行かなかったので聖都騎士団とだけ伝えたのだ。
「聖都騎士団の方がなぜエンセナーダいいらっしゃるのですか?聖都騎士団の方が主様と言うと身分の高い方のようですが、そんな方がなぜ私たちのような者に興味を持たれたのですか?」
疑問は当たり前だ。公太子に振り回される役はいつものことだったが。
「申し訳ありません、お忍びなので身分を明かす訳には行かないのですが、主がとても心配しておりまして。」
少し誇張したが、ほぼ嘘は無かった。心配しているのではなく、単なる好奇心なのだが。
「それではこちらも込み入った事情をお話しする訳にも行きません、ご了承ください。」
その時馬車をレイズ公太子が執事の静止を聞かずに降りてきてしまった。
「ロック=レパードではないか。」
「レイズ公太子、どうしてここに公太子が。」
ロックとレイズは同年齢で青年学校の同期だった。但しロックの父親は聖都騎士団副団長で大将軍職ではあったが貴族ではなかったのでレイズとは友人などではなかった。ただお互い顔は知っている程度の同期生だったのだ。
「ちょうどよかった、付いて来い。」
ロックたちは無理やりグロウス男爵家の客人となってしまった。
暗躍④
「何だ、ロック=レパードではないか、どうして公太子と一緒に来たのだ?」
「グロウス男爵、お久しぶりです。そこで公太子に捕まったのですよ。」
「この者たちが泊る場所がない、というのでな。」
それはレイズ公太子も一緒だろう、とは誰も突っ込まない。
「まあいい、全部面倒は見よう。それで公太子はなぜエンセナーダへ来られたのだ?」
グロウスは在学中は普通に後輩として接していたのだが立場が変わって公太子と男爵になってしまった。どう接したらいいのか、決めかねていた。
「グロウス先輩、前のままでいいですよ。レイズと呼んでください。その方が楽ですから。」
「そうか、それは助かる。で、レイズ、どうしてここへ?」
結局聞きたいのはそこだった。何かの休養があるとも思えなかったからだ。
「単なる気まぐれです。それとロック=レパードの所為でもあります。」
「えっ、俺の所為?何かしましたか?」
ロックには全く心当たりがなかった。特に親しい間柄でもなく接点はないのだ。
「そう、君の所為だ。君は御前試合で優勝して見せた。私が出場を止められたのにもかかわらずだ。」
そういうことか、とロックは納得がいった。公太子は御前試合に出る気満々だったのだ。それが公王の親心で止められてしまって、そこで優勝したロックが羨ましかったのだろう。
そして、そこで負の感情が勝らないのが公太子だった。レイズは仲の良かったグロウスを訪ねて気晴らしがしたかっただけなのだ。公王の命もなくガーデニア州をつも周りも連れずに訪れる、という我が儘をやってみたかった。
「なるほど、そういう事でしたか。でも、それは俺の所為ではないのでは?なんとか言ってくださいよ、グロウス先輩。」
グロウスはロックと面識があった。グロウスは御前試合の準決勝で敗れたほどの腕前だったのでロックとは学内で面識があった。ロックとは何度か手合わせしたが一度も勝てなかったので年下だが一目置いていたのだ。
「レイズのことは判った。気のすむまでここに居るといいさ。それでロック、お前はなんでここに?それと、そこの青年をそろそろ紹介してくれないか。」
ルークは3人の会話には入らないようにしていた。セイクリッド青年学校時代の話で盛り上がっていたからだ。ジェイとの念話を時々交わしながら、場の雰囲気は壊さないように、と思っていた。
「俺たちは仲間が攫われたのを追って来たんです。それが途中で追っていた馬車から消えてしまったんで、とりあえず今のところ打つ手がない、というところなんです。」
「攫われただと?それは騎士団の死事だな、詳しく話せ、力になるぞ。」
ロックは今までの経緯を掻い摘んで説明した。
「そうか、それは高位の魔道士が絡んでいることは間違いないな。俺はそっちの方きからっきしだからあまり力にはなりないかも知れんが人数をそろえて人海戦術で行くならいくらでも手を貸そう。」
グロウスの申し出はありがたかった。ロックとルークの二人では限界があるのだ。
「それで君がヴォルフ公の養子だと?」
「そういうことになっています。ルーク=ロジックと申します。お見知りおきください。」
「私の元には、その話は入ってきていませんね。」
レイズ公太子はダークの方を見たがダークも首を横に振った。
「俺も聞いてはいないが、ロックが言うのだ、間違いないだろう。ヴォルフ公も災難だったな。」
ロックは他州の揉め事なので詳しくは言えなかったがルークが養子になった経緯を少しだけ説明したのだった。
「それあえず、そのジェイとやらの報告を待って、直ぐに行動を起こすとしよう。」
ロックたちはエンセナーダで強力な助っ人を得たのだった。
暗躍⑤
ジェイは間もなく戻って来た。
(潜伏先は確認して来たぞ)
「それで、あいつらは一体何者だったんだ?」
(それは判らん。ただ、あの男のことをシェラック様と呼んでおった。)
「シェラック、確かシェラック=フィットか。」
その名は聞き覚えがあった。だが顔が違った。見覚えのある顔ではなかった。
「多分顔を変えていたのだろうね。僕にもジェイにも気づかれない魔道、シェラックの名前が本当なら氷のノルンの仕業ということになる。」
「氷のノルン?何者だ、それは。俺は魔道の方は~っきりだから全く知らんわ。」
「グロウス、魔道も少しは勉強した方がいいぞ。剣で戦うにしても魔道に対応できていないと一方的に負けてしまうこともある。」
「そういうものか。公太子の命なら少しは魔道も修練してみるか。」
グロウスの腕で魔道も使えるとなると、なかなか強敵になる、ロックは変なところで期待を膨らませていた。
「氷のノルンは公国に12人しかいない数字持ちの魔道士の一人だ。確か序列順位があったはずだか。」
「氷のノルンは第9位ですね。ただ、この順位がそのまま魔道士としての強さとも限らないようです。数字持ちになれば、隠密の魔道を使用しなくても他の魔道士から所在を感知されることがなくなるといいます。僕の最初の師匠は序列第12位、時のクロークという魔道士でした。」
「おおそうなのか、ではルークとやら、お前は魔道がかなり使えるのだな。たしかロックも魔道は全く使えなかったと記憶している。二人ならいい同行者になるのだろう。」
「ルークは剣の腕も相当なものですよ、俺が保証します。」
「それなら俺と立ち会え。結局ロック=レパードには一度も勝てなかったしな。」
「そんなことをしている場合ではありません、男爵。僕たちはミロを探しに行かないと。」
「そうであった。俺が行くと目立ちすぎる、うちの家のものを呼ぶから連れていけ。」
グロウスは父親であるカール=クレイ公爵付きの騎士団員を20人ほど呼び寄せた。男爵家にはグロウス本人の希望で騎士団員は誰も詰めていなかったからだ。
レイズ公太子も付いて行くと言い出したが、さすがにそういう訳には行かないので、グロウス家で一緒に待っていてもらうことにした。但し、ダーク=エルクは公太子の強い希望で同行することになった。詳細を報告させるためだ。ダークは公太子と離れる訳には行かなかったが、同行したい公太子を止めるには仕方なかったのだ。
「ではお前たち、このロックの指示に従って誘拐犯を捕まえてこい、抜かるなよ。」
一行はジェイの案内でシェラックたちの潜伏している屋敷に向かった。どうも空家になっていた元貴族の屋敷を買い取って使っているらしい。
「騎士団の皆さんはそれぞれ分かれて2箇所ある出入り口を抑えてください。俺とルークとダークさんで正面から普通に訪ねてみます。ルーク、相手の顔を変える魔道は見破れるか?」
「最初からそうと判っているなら、そう難しいことじゃないよ、任せて。」
「ジェイ、ミロの居場所はまだ判らないか?」
(無理じゃな。今はもうここには居ないのかも知れん。)
「そうか。賭けだが仕方ない、突入しよう。」
ロックたちが屋敷に突入しようとした時だった。同じように屋敷に入ろうとしている一行が居た。その中に見知った顔があった。それは終焉の地、ルシア=ミストだった。
暗躍⑥
「あっ、ルシア!」
「何だあなたたちでしたか。」
「あなたたちでしたかじゃないだろう。、どうしてここにいる?」
「それは多分あなたたちと同じ理由でしょう。ミロさんを返してもらいに来ました。」
「返してもらうならこっちだろう。お前たちは再度攫うだけだろうに。」
「そうともいいますね。」
ルシアは少し面白がっていた、ミロを三つの勢力が奪い合う状況を。
「元々はお前が攫うように指示したくせに。」
「いいえ、それは私の指示ではありませんよ。うちの者が勝手にやったことです。私はここエンセナーダで待っていただけですから。」
ルシア=ミストはロックたちに追い詰められた時、師匠である大地のザトロスに救われてどこかに連れて行かれたのだった。それがエンセナーダで、終焉の地の部下たちが来るのを待っていたのだ。
「いずれにしてもミロはこちっに返してもらいますよ。それはそうと、あいつらの正体は判っていますか?」
ミロを救い出してからのことは別として、今屋敷を襲う事は共通していたから情報は共用しておきたかった。あくまでルークは冷静だった。もしかしたら相手側には氷のノルンが居るかもしれない。用心してし過ぎることは無かった。
「彼らはシェラック=フィットとそのご一行様ですね。シェラック=フィットとはグロシア州騎士団参謀長ラング=フィットの嫡男で自分も参謀だったはずです。グロシアでは有数の貴族、フィット伯爵家の跡取りですね。」
「そうか、グロシア州の。」
グロウス男爵を連れて来なくてよかった、とロックは思った。公けになればガーデニア州とグロシア州の外交問題になりかねない。騎士団員ならまだ攫われたミロの捜索に来た、と言い逃れられるだろう。シェラックが自らの身分を明かすこともない筈だった。
「ザトロス老師はどうしておられます?」
「師匠は自らの塒に戻られた。不肖の弟子に構っている暇はない、と仰られて。」
ノルン老師が居たとしたらザトロス老師に対抗してもらう、という案は無理なようだ。
「相手側に氷のノルン老師が居る可能性があるのですが。」
「それは大丈夫だと思う。もしそうなら師匠は戻らなかっただろう。ただ今エンセナーダには数字持ち魔道士はノルン老師ではなくガルド老師が居るらしいから気を付けるように、と言われましたが。」
「ガルド老師?」
「そう。序列6位、影のガルド。この近くに住んでいて自分の塒から出て来たらしい。ソニー=アレスと一緒に。」
「ソニーと?」
「アーク=ライザーはアストラッド州に戻っているはずだ。ソニー=アレスだけがディアック山に行った後エンセナーダに戻った。ガルド老師はディアック山に住んでいるのかも知れないな。」
ルシア=ミストは様々な情報をくれた。それが本当の事なのか、何か目的があるのかは判らなかったが。
「どうしてそんなに親切に色々と教えてくれるんだ?何か騙そうとしていないか?」
「そんなつもりはない。そもそも終焉の地は闇ギルドだが依頼があって初めて動く組織だ。あなたたちを殺せとは言われていない。」
「殺せと言われていない?依頼はルークの暗殺じゃなかったのか。」
「これ以上は言えませんが、まあ、あなたたちを襲ったのはただの私怨です。師匠に緊く戒められましたから、もう敵対する気はありませんよ。部下の仕出かしたことの責任を取るためにここに来たのです。」
何か雲行きが変わって来た。意訳するとミロを救うために協力する、と言っているような聞こえる。
「時間がもったいない、早く中へ。」
なぜかミストを先頭に屋敷の中に入ることになったしまった。
暗躍⑦
「ルシア、それで今は俺たちの味方、ということでいいんだな?」
ロックは確認せざるを得ない。ノルン老師をザトロス老師が抑えてくれているというのはルシアの出まかせかも知れない。シェラックと組んでロックたちを陥れようとしているかも知れないのだ。
「まあ、そう思っていただいて構わない。但し、事が終わったらすぐに私を捕まえる、というのは無しにしてもらおう、それが条件です。」
ロス黒死病の犯人を目の前にして捕まえられないことは忸怩たる思いはあるが背に腹は代えられない。ザトロス老師とノルン老師の二人を御し得るとは到底思えないのでザトロス老師の協力は大前提だった。
「さあ、入りましょう。」
ルシアは鍵を開けることもなく大きな扉を普通に開けた。何かの魔道や技術なのだろう。暗殺集団としては基本的な能力なのかも知れない。
屋敷に入ると薄暗かった。明かりは付いていない。玄関を入るとすぐに大きな吹き抜けのホールがあった。天井が高い。今のところ、人の気配はない。
ロックたちは1階と2階の二手に分かれて捜索を始めた。ロックとルーク、ダークは1階、ルシアたちは2階だ。
ロックがホールにある左手の扉を開けると長い廊下が続いていた。暫らくは部屋が無く廊下が続いている。廊下は右に曲がっていた。曲がると直ぐに部屋の扉があった。
中の様子を探りながらロックが扉を開けた。応接室のようなアンティークの調度品にあふれた部屋だった。中央にテーブルとソファがあるので、やはり応接室のようなものだろう。誰も居ないことを確認すると次の部屋に向かう。
次の部屋は壁一面に本棚が並んでいるような書斎だった。大きな机があるが、やはりここにも人はいなかった。
次の部屋も、その次の部屋にも人が居ない。廊下がまた右に曲がる。次の部屋は台所だった。使用した形跡がない。もしかして既に屋敷を後にしてしまったのだろうか。
いくつも部屋を確認したが、やはり誰も居ない。ロックたちは元の玄関ホールに戻ってきてしまった。
「ルシアたちの2階に居るんだろうか。」
するとルシア一行が階下に降りて来た。
「居ませんね。いた形跡もありませんでした。」
そもそも、この屋敷ではなかったのか。
「でも、多分ここで間違いないと思います。入ったことは確認してありますが出た形跡もありませんでしたから。」
「だとしたら、今でもこの何処かに居るんだな。こういう場合の定番は地下か。」
「でしょうね。地下へ降りる所は見つかりませんでしたか?多分そんな事だろうとあなたたちに譲ったのですが。」
なんだかルシアに見下されているような気がしてロックは少しむっとしたが見つけられなかったことには違いが無い。直ぐに思い直して地下へ降りられる場所探すことにした。
「定番は書斎の本棚の後ろ、あたりだよな。」
「そうですね、多分そのあたりでしょう。」
案の定、本棚の後ろに隠し扉があった。扉を開けると地下への階段があった。降りていくと地下の広い場所に出た。
「お待ちしていました。」
多分シェラック=フィットだ。
「おいでにならないのかと心配していましたよ。」
ルシアとは口調が似ている。共通して丁寧だが相手を少し小ばかにしたような物言いだった。
「おや、ロックさん、ルークさんの他にルシア=ミストまで。部下の失態を拭いに来ましたか。」
シェラックは正確にルシアの行動を見抜いていた。
「お前、顔を変えているのか?」
「さて、どうでしょう。」
しらばっくれてはいるがシェラックに間違いないだろう。
「なんでもいい、ミロを返してもらおうか。」
「だからミロさんと言う人は知りませんと言いませんでしたか?」
「ここに居る筈だ。どこに隠した?」
地下室は広いが他に扉は無かった。
「屋敷は全部探されたのでは?この部屋が最後の筈です。ここに居ないという事は、そういう事では在りませんが?」
シェラックは自信満々だった。やはりノルン老師が連れて行ってしまったのか。そうなれば最早追いかけることが出来ない。
「大丈夫ですよ、ロック=レパード、彼女は今ここに居ます。」
ルシアは自信ありげにそう言い放った。
暗躍⑧
「シェラック=フィット同様、ノルン老師に顔を変えられて身体は魔道で拘束されているだけです。そこの後ろにいる誰かが彼女で間違いありません。」
確かにシェラックの顔は本人とは別人に変えられている。口調は元々隠すつもりがないくらいにシェラックのままだった。ミロも同様に顔を変えられているというのか。
「なるほど、それで掛けられた魔道を解く方法はあるのか?」
「それがなかなか難しいのですよ。ルーク=ロジック、手伝っていただけますか。」
「判りました、僕でよければ手伝いますよ。ロックは何かしないようにシェラックを牽制しておいてくれますか。」
「任せろ。」
ロックは細剣を抜いてシェラックの前に立つ。流石にロックには敵わない、とシェラックも大人しくしているようだ。ノルン老師がザトロス老師に抑えられている今、この場を逃れられるとも思ってはいなかった。
ルシアとルークが一人一人シェラックの部下たちを見分して行く。魔道が掛けられている痕跡を探しているのだ。三人目の細身の男の所で二人は止まった。
「彼女ですね。」
それは身体すら変えられていたが所々に僅かだが魔道の痕跡があった。余程高位な魔道士にしか見つけられない程度の痕跡だったが、ルシアもルークもそれなりの魔道士であり二人で確認していることもあり、それは確信となった。確かにその男は身じろぎ一つしなかったのだ。
「間違いないみたいだけど、掛けられた魔道を解く方法は知っているんですか?」
「本来掛けたノルン老師に解いていただくことが一番なんですが、多分この近くにはいらっしゃらないと思います。同じように、というかそれが条件でザトロス老師もエンセナーダを離れてしまわれましたので私やルークさんでは解くのは難しいかも知れません。シェラックのように自分でなら解ける可能性もあるのですがミロさんは魔道を使えませんのでそれも無理でしょう。」
方法が無い。どうしたものか。同格の魔道士ならキスエル老師に頼るのも手かもしれないがロスはかなり遠い。
「シェラック=フィット、もう観念して彼女の魔道を解く方法を教えろ。」
剣を向けながらロックが問い詰める。
「シェラック、という名前は存じませんし、お聞きになられていることも答えを持ってはおりません。私はただの商人ですから勿論魔道にも長けておりませんので。」
「シェラックさん、もうやめた方がいいよ。」
シェラックの部下の一人が初めて口を開いた。背が低いので子供のようにも見える。その場には似つかわしくない存在だった。
「あなたは黙っていなさい。」
「でも、この人たちに彼女をちゃんと返してあげようよ。彼女を利用するなんて諦めて。エンセナーダでの目的は達した、と言ってたじゃないですか。核所のことは序でだとも。」
「べらべらと内情を話して何のつもりですか。あなたにそんなことを頼んだつもりはありませんよ。」
「でも、やっぱりもう無理だと思うんだ。シェラックさんも判っているでしょう。」
シェラックは諦めた。この青年の生真面目さは生来のものだ、今更変えようもない。
「判りましたよ、ユスティ。あなたを拾ってきたことが間違いでしたが拾ったものは仕方ありません。それにこの場を切り抜けるには彼女の魔道を解くことを切り札にするしかありませんからね。」
「ありがとう。みなさん、僕はユスティニアヌス=ローランといいます。ロンドニアから来て今はシェラックさんにお世話になっているただの学者です。ロックさんでしたか、あなたたちがロスでの黒死病を治めたとお聞きしました。僕も少し助力していたのですが一人ではどうしようもありませんでしたので本当に助かりました。シェラックさんにはかにらず彼女の魔道を解かせますので、ご安心ください。」
その青年は本当に誠実そうでシェラックとは正反対のように見えた。学者と聞いて確かにと納得できる容姿だった。シェラックは何故だか青年には逆らえないように見えた。それは意に反して、というよりは進んで無理を聴いて居る、という感じだった。
「シェラックさんは老師から魔道を解く方法を聞いていると思います。少しだけ時間をください。」
そういうとユスティはシェラックを促して、まず自らの顔を元に戻した。これは自ら掛けられたものなので割と簡単だった。ミロに掛けられた魔道は、まず身体の拘束をしているものを解いた。
「ふぅ~。やっと話せるようになったわ。ロック、ルークありがとう。でも少し遅いんじゃない?なんだか色んな人に捕まってしまったわ。」
「ミロ、攫われ体質なんじゃないか。」
「そんな体質、あるわけないでしょ。」
「煩いですね、黙ってじっとしていてください。でないと解けませんよ。」
シェラックが焦れて言う。しばらくすると見知ったミロの姿が現れた。この魔道で顔や身体を変えられたら別人に成り済ますことが容易になる。要注意だったが、その可能性を忘れなければ対処のし様があるはずだ。
シェラックとミロの顔も元に戻り、ミロを取り戻す目的は達したので一行は屋敷を後にすることにした。それ以外の各々の陣営への干渉はしない、という約束の元に。
「ミロが無事だったから、まあ今回は大目に見るが、ミロを傷つけるようなことがあったら次は無いと思っておけよ。ルシア、お前もだ。」
ロックが両陣営に釘を刺す。どちらもロックたちを利用するために人質としてミロを使うつもりだったはずだ。ロックたちに何をさせるつもりだったのかは敢えて聞かなかった。従うつもりが無いので聞く必要もなかったのだ。
ロックたち一行もグロウス=クレイ男爵宅に戻るのだった。
暗躍⑨
ロックたちがグロウス男爵家に戻っている途中だった。御者を務めていたロック=レパードを呼ぶ声がして慌てて馬車を停めた。
「ああ、やっぱりロック=レパードだ。」
それはソニー=アレスだった。
「ソニー、久しぶりだな、どうしてここに?」
そういえばソニー=アレスがエンセナーダに居るとルシアが言っていたことを思い出した。確か影のガルドと一緒にいるとか言っていなかったか?
「なんだか君たちが厄介ごとに巻き込まれていると聞いて手を貸そうかと来てみたんだよ。」
「それはありがとう。でももう解決してしまったから、礼だけ言っておくよ。」
「なんだ、そうか。まあ解決したのならいいさ。」
「ソニー、一人なのか?アークはどうした?」
「アークは先にアストラッドに戻ったんだ。僕は少しマゼランで用事かあって、それを済ませて一旦エンセナーダに戻って来たんだよ。でも、また直ぐにここも出てしまうけどね。」
「そうか、何だか忙しそうだな。それなのに俺たちに気を掛けてくれてありがとう。」
馬車が泊っているのでルークも顔を出した。
「あ、ソニー、どうとたの?」
「今ロックに話をしていたところだ。まあいずれにしてもよかった。」
「そうだね。あとソニー、老師にもよろしく言っておいてください。」
ソニーは一瞬、あっ、という顔をしたがすぐに
「判った、伝えておくよ。老師が出張る事態にならずに済んでよかった。」
「それは本当に良かった。数字持ちの老師は世俗のことに関わらないで貰えるとありがたいのですが。」
ロスではキスエル老師に散々世話になったにも関わらずルークは恩知らずなことを言った。
「老師たちの意向は計り知れないからね。では、僕はこれで。」
ソニーはそう言うと去っていった。エンセナーダで一人何をしていたのか。「エンセナーダを出る」とは言ったがアストラッドに戻るとは言わなかった。何かを企んでいるのだろうか。そんなに悪だくみが得意なようには見えなかったが。
「ソニーは何をしているんだろうね。」
「判らない。アストラッド州のため、ということは間違いないだろうがな。まあ考えても仕方ない、早く戻ろう、公太子が首を長くしてお待ちだ。」
そこへミロが口を挟む。
「えっ、公太子って、あの公太子?なんでそんな人が待っているの?」
「いいからミロは入って居ろ、って。詳しくは中でルークに聞いたらいいさ。」
ルークは掻いつまんでミロを救出に行くまでの出来事を説明するのだった。
暗躍⑩
グロウス男爵家に戻ってルークはまた一から全てを説明することになった。
ダークはミロを救出することには同意していたが、ロック=レパードや確認は取れていないがルーク=ロジックはまだしも素性の知れないミロを公太子と同席させることに難色を示したがグロウスが一蹴した。ロックの同行者だから、という理由だった。
「公太子様にお目に掛れるなんて想像もしていなかったわ。ロックって本当は偉い人なの?」
「俺はたまたま公太子とはセイクリッドで学校が同じだっただけで偉くもなんともないさ。今となればアゼリア公の養子であるルークの方が偉いかもな。」
「ロック、からかわないでよ。」
ルークは心から謙遜していた。自分がヴォルフ=ロジックの養子だと今でも信用できなかったし、その立場を利用しようとも思っていなかったからだ。
「いや、ルークと言ったか、お前の身元は確認した。確かに狼公の養子として御触れが出ているそうだ。父上の所にはつい最近に来たみたいで俺の所にまではまだ届いていなかったがな。」
「なるほど、それで私の所にも情報が届いていなかったのか。ルークとやら、アゼリア公のご養子とあらば私とグロウス先輩と同格、いや私とも同格と言っても過言ではない、以後よろしく頼むぞ。」
「公太子、滅相もありません。僕は素性が判らないただの一般人です。縁あってロジックの名を名乗らせていただいていますが、それは苗字も名前も無かったから、というだけなのです。」
確かにウォルフ狼公を救ったとはいえルークの素性が明らかになったわけではない。ロックも同行していてルークの性質が善良であることは疑いないが素性の背景に何があるのかは判らない、と感じてい
た。
「まあよいではないか。ロックの話では剣の腕も確か、魔道も上位魔道士と祖難色ない、となるとうちの騎士団に入らないか?」
グロウスがガーデニア騎士団に推挙しようと申し出る。
「身元は俺が保証するとして、すぐに中隊長くらいにはにはなれそうだしな。」
「待ってくださいよグロウス先輩。ルークは俺と修行の旅をしているんですから。ルークの本当の身元を探すことも旅の目的に入って居るんです。ガーデニアに居つくわけには行かないんですよ。」
「それは残念だな。」
「いや、もし出来るなら私の親衛隊に入ることがいいのではないか?色々と便宜も図れるだろう。ダークの部下という事でシャロン公国中を巡検使として巡るのはどうだ。」
公太子も提案するが、勿論そんなことを易々と受けるわけには行かない。
「折角ですが、そんな恐れ多いことを僕なんかが受けさせていただくわけにも行きませんし、しばらくはロックと自分探しの旅をするつもりをしています。グロウス男爵様も公太子様もお許しください。」
そう言われると二人とも引き下がらざるを得なかった。確かに一方の提案を受ければ、もう一方を断ることになってしまうのだ。ルークとしても二人が同時に提案してくれたことで両方断ることが出来たので、逆にありがたかった。
もしかしたら、そう思って提案を重ねてくれたのか?とルークが公太子を見ると片目を閉じてルークに合図を送っていた。やはり判った上で申し出てくれたようだ。公太子なんて立場の人間は、高圧的でいけ好かないのではないかと思うのだが、ちゃんと気の使えるいい人なんだ、と思った。ロックも公太子の立場を押し付けてくるような人とは友達にならないだろう。
「判った、判った、公太子を差し置いて我が騎士団に来てもらうこともできまい。」
「そうだな、グロウス先輩。彼らの行動の保証を我らがしてあげればいい。ガーデニアに居る間はグロウス男爵家を頼ればいいし、他の州に滞在するときは狼公の養子であり私の友人でもある、と申し出ればいい。」
「いえ、そんな、公太子のお名前を出すことなど憚られます。何か厄介ごとに巻き込まれたときは御頼りするかも知れませんが、出来る限り自分たちで解決できるよう、それも含めて修行の旅をしていきます。」
「まあ、俺に任せておけば大丈夫さ。」
「この男は剣術馬鹿だから、当てにしない方がよいぞ。」
「公太子、剣術馬鹿はないでしょう。剣に真摯に向き合っている、と言ってください。」
三人は青年学校時代、仲が良かったのだろうな、とルークは微笑ましく様子を見ていた。
「そういえば、グロウス先輩はソニー=アレスという男をご存知ですか?」
「ソニー=アレス?ああ、アレス家の嫡男だな、一度会ったことがある。確かお前たちと同年じゃなかったか?」
「そうです。公太子や俺と同年の様でした。御前試合には出てこなかったので実際の年齢は判りませんが本人はそう言っていましたね。あと、アーク=ライザーという青年も。」
「ライザーと言うならアストラッド騎士団の騎士団長るルネア=ライザーの息子か何かか。」
「多分そうだと思います。彼も同年のようでした。」
「それで、そのソニーがどうした?」
ロックはロスでのことを掻い摘んで話した。そして、そのソニーとエンセナーダで再会したことを話した。その際、情報では影のガルドと同行しているはずだという事も。
「判った。ソニーのことはこちらで少し調べてみよう。この街でもし何か良からぬ事をしようとしているのなら俺の責任でなんとかしよう。」
ロックはソニーが良からぬことをおこそうとしている、とも思わなかったが、アークを返して自分だけ残った理由も気になっていたのだ。
ロックたちがエンセナーダを出て修行の中心地であるマゼランに向かうのにはもう少し時間が必要のようだった。
暗躍
グロウス=クレイは多忙だった。ガーデニア州太守である父カールの補佐としては兄のカシル=クレイがガーデニア州騎士団大将軍として居るのでグロウスの出る幕は無かった。
グロウスは入団一年で就いたガーデニア州騎士団の大隊長としての職務で手一杯だったのだ。自らの件の修行も疎かにできないし年上の部下の統率も必要だった。騎士団は警察機能も兼ねているので街の治安を担ってもいるのだ。
本当はもっと剣の修行に明け暮れたかった。ガーデニア州内は修行の聖地マゼランを有している。聖都騎士団も含めて各州の騎士団員が修行に訪れる街だ。グロウスもセイクリッドの青年学校在籍時に一度体験と言う形で訪れたことがある。幼年学校から通して、その時が一番楽しかった。
「グロウス様。」
グロウスは爵位としては男爵を授けられている。兄はいずれ公爵を継ぐのだが次男であるグロウスも既に爵位をもっていた。グロウスの住む屋敷は男爵家としては少し物足りない程度の屋敷であったが騎士団の詰所も近くあまり物事に頓着しないグロウスには十分な広さだった。使用人も執事と召使が一人づついるだけだった。
「おお、セバス、どうかしたのか。」
「お客様がいらしております。」
「客?聞いてないな。」
「はい、突然いらしたようです。ダーク=エルク様と仰るレイズ公太子の親衛隊の方だとか。」
「ダーク殿か、知り合いだ、よい、通せ。」
グロウスは騎士団に居るときは武人として接するようにしているが自宅では公爵の子息であり自らも男爵なので、あまり武人らしくはなかった。
執事が案内してきたのは確かに見知った顔だった。
「どうした、連絡もよこさずに突然。それにしても久しぶりだな。」
ダークとはセイクリッドでレイズの御付として知り合っていた。まあ、おもり役だな、とグロウスは見抜いていた。レイズは優秀だったし剣の腕もかなり使える方だったが抜き出たものがない、とグロウスは思っていた。それは自分も同じなのだが兄が居て太守を継ぐ必要がないグロウスと、いずれ公王を継ぐであろうレイズとは立場が違う。
「ご無沙汰しておりますクレイ男爵様。」
「なんだ、型苦しいな、いつもの通りグロウスと呼べばいいだろうに。」
「なかなか、そういう訳には行かないものですよ、男爵様。」
「俺がそう呼べ、というのだ、逆らうなよ。」
口調も表情も優しいのだが有無を言わせない石の強さがあった。
「判りましたグロウス様。」
「うむ。それで何用でエンセナーダまで来たのだ、レイズ公太子はどうした?」
ダークはいままで経緯とレイズを宿に待たせていることを掻い摘んで伝えた。
「レイズのやりそうなことだな。お前も大変だな。二人で一緒に来ればよかったものを。」
「さすがにそうは行きません。ただ、よろしければ直ぐに宿に公太子をお迎えに行き、こちらにお連れできればと思うのですが。」
「判った。うちの執事と一緒にすぐに迎えに行ってくれ。あいつも退屈しているだろう。」
ダークはクレイ男爵家の執事と連れだって馬車でレイズの居る宿に向かった。
エンセナーダでも中心にある大通りを走っているとダークたちの馬車は一台の馬車とすれ違った。街中の道を走るには速度が出過ぎていた。そして、その馬車を追うように速度を上げて走る馬車が一台。
「なにかあったのでしょうか。エンセナーダではよく見る光景ですか?」
「いえいえ、余程急いておられるようですね。先の馬車が逃げているのを後の馬車が追いかけているようです。」
「それは間違いありませんね。何かの事件でしょうか。いずれにしても、巻き込まれないようにしなければ。」
レイズがこの場にいれば二台の馬車を追いかけかねない。公太子は好奇心旺盛で自ら厄介ごとに首を突っ込んでいく性格だった。
「そうてせすね、我が主もあのようなものを見かけたら追いかけかねませんから。」
レイズとグロウスはそういう意味ではとても似ているのだ。ダークと執事は自らの苦労を思い顔を見合わせるのだった。
暗躍②
「もう逃げられないと観念しろよ。」
ロックたちは行き止まりの路地に馬車を追い込み出口を塞いだ。見たことがある顔の男が降りて来た。
「やはりあんたか。あの時色々と知っているようだったが。」
「お久しぶりですね。どうかされましたか?」
「いや、終焉の地からミロを攫っただろうに。」
「何のお話です?わたしどもはただの商人、それら様が突然追いかけて来られたので怖くて逃げた次第です。」
とぼけた男だった。こちらはジェイの報告でミロが居ることは確認している。
「理由や目的はどうでもいい、ミロを返してもらおうか。返してくれさえすれば、何も言わないと約束しよう。」
ロックは一旦下手に出ることにした。そこにいる数人を制するのは簡単だったが、ロックは強い相手と戦うことは望んでいても手練れでもない者たちと剣を交えたくはなかったのだ。
「そういう訳には行きません。ミロさんと言う人は、私どもとは無関係ですから。」
男の自信ありげな口調にルークが反応する。
「ジェイ!」
(うむ、確かにミロは居らんようだ)
「おい、いつのまにミロと別れた?」
「いえいえ、滅相もありません。元々、そのミロさんと言うお方は存じ上げないのです。お許しくださいませんか?」
男をこれ以上問い詰めることはできなかった。実際にミロが居ないのだ。それにしても、いつミロを別行動にできたのか。
(ついさっきまでは確かに居ったぞ)
責任を感じてジェイが言う。それはルークも感じていた。ジェイやルークに悟られずに相手はミロを移動させたのだ。魔道士の仕業としても、相当な使い手だろう。
ロックたちは一行を開放した。証拠がないので仕方なかった。形だけはロックたちが謝ることになってしまった。
「ジェイ、頼むぞ。」
ジェイに一行の跡を追わせることにして、ロックたちはエンセナーダでの落ち着き先を探すことにした。街に入ってすぐに一行を見つけ追いかけたので、今自分たちがどこにいるのか、皆目見当がつかなかった。
「ここは、とごなんだろう?」
「エンセナーダの中心街近くではあるようだね。ほら、あそこに騎士団詰所がある。」
確かにそこにはガーデニア州騎士団の詰所があった。
「強い奴は居るかな?」
ロックの興味はそれだけだった。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。」
「判っているって。でも血が騒ぐんだよ。さっきの奴らの腕はあまり大したことなかったしな。ただ、終焉の血よりは強かったみたいだから、あんな商人のなりをしていたけど正式に剣を学んでいたとは思うんだ。どこかの騎士団なのかも知れない。」
「ここの騎士団ではなくて?」
「ガーデニア州騎士団なら、あんな変装みたいなことはしないだろう。」
「そうだね。でもなんかあの男の人は引っかかるものがあったんだけど。」
「ルークもか。俺もちょっと引っかかっていたんだ。俺たちのこととも知っていたしな。」
「僕のことは知らなかったけどね。ただの商人じゃないことは間違いないよ。」
とりあえず二人は安宿を決めジェイの報告を待つことにした。
暗躍③
「何かあったようだな。」
レイズの好奇心は感度が尋常では無かった。揉め事など直ぐに感知してしまう。ダークと執事が迎えに行くと開口一番そう言われた。
「馬車が逃げているのを誰かが追いかけていたようです。」
「それは事件だろう。詳細は?」
「いえ、公太子をお迎えに戻らな向ければいけませんでしたので。」
「馬鹿か。私など放っておいて、そっちが優先だろう。詳細を確かめに行くぞ。」
こうなったらレイズ公太子はもう止まらない。仕方なしにさっきすれ違ったあたりに戻ることにした。グロウス男爵家に戻る道でもあるので寄り道にはならない。
「先ほどはこの辺りですれ違ったのですが、このまま真っ直ぐ通りを進むと騎士団詰所に当たります。もしかしたら何か知っているかも知れません。一度グロウス様の御屋敷に行って男爵に問い合わせしていただくのはどうでしょう。」
ダークは提案してみた。グロウスが止めてくれることも計算に入れての話だ。
「判った、その方がいいだろう。直ぐにグロウスの所に向おう。」
案外公太子は直ぐに同意してくれた。上手く行けば厄介ごとに巻き込まれなくて済む。
「おい、あの馬車じゃないのか?」
公太子が見つけた馬車は確かに追いかけていた方の馬車だった。
「止めて事情を聴いて来い。」
仕方なかった。ダークは馬車を戻して先ほどの馬車を追いかけた。今回はあまり速度を上げてはいなかったので直ぐに追いつき、前に出て馬車を停めた。
「すいません、少し話をお聞きしたいのですが。」
ダークは声を掛けてみた。直ぐに御者と中から一人青年が降りて来た。二人とも若い。
「何か御用ですか?」
御者だった青年が逆に尋ねる。
「ええ、あなたたちは先ほどこの通りで馬車を追いかけていませんでしたか?」
二人は顔を見合わせた。
「そうですが、あなたたちは誰です?」
「失礼、私は聖都騎士団のものですが、私の主が事情をお聞きしたいと申しまして。」
レイズ公太子の身分を明かす訳には行かない。と同時に自らが聖都騎士団親衛隊副隊長であることも明かしてしまう訳には行かなかった。但し嘘偽りを言う訳にも行かなかったので聖都騎士団とだけ伝えたのだ。
「聖都騎士団の方がなぜエンセナーダいいらっしゃるのですか?聖都騎士団の方が主様と言うと身分の高い方のようですが、そんな方がなぜ私たちのような者に興味を持たれたのですか?」
疑問は当たり前だ。公太子に振り回される役はいつものことだったが。
「申し訳ありません、お忍びなので身分を明かす訳には行かないのですが、主がとても心配しておりまして。」
少し誇張したが、ほぼ嘘は無かった。心配しているのではなく、単なる好奇心なのだが。
「それではこちらも込み入った事情をお話しする訳にも行きません、ご了承ください。」
その時馬車をレイズ公太子が執事の静止を聞かずに降りてきてしまった。
「ロック=レパードではないか。」
「レイズ公太子、どうしてここに公太子が。」
ロックとレイズは同年齢で青年学校の同期だった。但しロックの父親は聖都騎士団副団長で大将軍職ではあったが貴族ではなかったのでレイズとは友人などではなかった。ただお互い顔は知っている程度の同期生だったのだ。
「ちょうどよかった、付いて来い。」
ロックたちは無理やりグロウス男爵家の客人となってしまった。
暗躍④
「何だ、ロック=レパードではないか、どうして公太子と一緒に来たのだ?」
「グロウス男爵、お久しぶりです。そこで公太子に捕まったのですよ。」
「この者たちが泊る場所がない、というのでな。」
それはレイズ公太子も一緒だろう、とは誰も突っ込まない。
「まあいい、全部面倒は見よう。それで公太子はなぜエンセナーダへ来られたのだ?」
グロウスは在学中は普通に後輩として接していたのだが立場が変わって公太子と男爵になってしまった。どう接したらいいのか、決めかねていた。
「グロウス先輩、前のままでいいですよ。レイズと呼んでください。その方が楽ですから。」
「そうか、それは助かる。で、レイズ、どうしてここへ?」
結局聞きたいのはそこだった。何かの休養があるとも思えなかったからだ。
「単なる気まぐれです。それとロック=レパードの所為でもあります。」
「えっ、俺の所為?何かしましたか?」
ロックには全く心当たりがなかった。特に親しい間柄でもなく接点はないのだ。
「そう、君の所為だ。君は御前試合で優勝して見せた。私が出場を止められたのにもかかわらずだ。」
そういうことか、とロックは納得がいった。公太子は御前試合に出る気満々だったのだ。それが公王の親心で止められてしまって、そこで優勝したロックが羨ましかったのだろう。
そして、そこで負の感情が勝らないのが公太子だった。レイズは仲の良かったグロウスを訪ねて気晴らしがしたかっただけなのだ。公王の命もなくガーデニア州をつも周りも連れずに訪れる、という我が儘をやってみたかった。
「なるほど、そういう事でしたか。でも、それは俺の所為ではないのでは?なんとか言ってくださいよ、グロウス先輩。」
グロウスはロックと面識があった。グロウスは御前試合の準決勝で敗れたほどの腕前だったのでロックとは学内で面識があった。ロックとは何度か手合わせしたが一度も勝てなかったので年下だが一目置いていたのだ。
「レイズのことは判った。気のすむまでここに居るといいさ。それでロック、お前はなんでここに?それと、そこの青年をそろそろ紹介してくれないか。」
ルークは3人の会話には入らないようにしていた。セイクリッド青年学校時代の話で盛り上がっていたからだ。ジェイとの念話を時々交わしながら、場の雰囲気は壊さないように、と思っていた。
「俺たちは仲間が攫われたのを追って来たんです。それが途中で追っていた馬車から消えてしまったんで、とりあえず今のところ打つ手がない、というところなんです。」
「攫われただと?それは騎士団の死事だな、詳しく話せ、力になるぞ。」
ロックは今までの経緯を掻い摘んで説明した。
「そうか、それは高位の魔道士が絡んでいることは間違いないな。俺はそっちの方きからっきしだからあまり力にはなりないかも知れんが人数をそろえて人海戦術で行くならいくらでも手を貸そう。」
グロウスの申し出はありがたかった。ロックとルークの二人では限界があるのだ。
「それで君がヴォルフ公の養子だと?」
「そういうことになっています。ルーク=ロジックと申します。お見知りおきください。」
「私の元には、その話は入ってきていませんね。」
レイズ公太子はダークの方を見たがダークも首を横に振った。
「俺も聞いてはいないが、ロックが言うのだ、間違いないだろう。ヴォルフ公も災難だったな。」
ロックは他州の揉め事なので詳しくは言えなかったがルークが養子になった経緯を少しだけ説明したのだった。
「それあえず、そのジェイとやらの報告を待って、直ぐに行動を起こすとしよう。」
ロックたちはエンセナーダで強力な助っ人を得たのだった。
暗躍⑤
ジェイは間もなく戻って来た。
(潜伏先は確認して来たぞ)
「それで、あいつらは一体何者だったんだ?」
(それは判らん。ただ、あの男のことをシェラック様と呼んでおった。)
「シェラック、確かシェラック=フィットか。」
その名は聞き覚えがあった。だが顔が違った。見覚えのある顔ではなかった。
「多分顔を変えていたのだろうね。僕にもジェイにも気づかれない魔道、シェラックの名前が本当なら氷のノルンの仕業ということになる。」
「氷のノルン?何者だ、それは。俺は魔道の方は~っきりだから全く知らんわ。」
「グロウス、魔道も少しは勉強した方がいいぞ。剣で戦うにしても魔道に対応できていないと一方的に負けてしまうこともある。」
「そういうものか。公太子の命なら少しは魔道も修練してみるか。」
グロウスの腕で魔道も使えるとなると、なかなか強敵になる、ロックは変なところで期待を膨らませていた。
「氷のノルンは公国に12人しかいない数字持ちの魔道士の一人だ。確か序列順位があったはずだか。」
「氷のノルンは第9位ですね。ただ、この順位がそのまま魔道士としての強さとも限らないようです。数字持ちになれば、隠密の魔道を使用しなくても他の魔道士から所在を感知されることがなくなるといいます。僕の最初の師匠は序列第12位、時のクロークという魔道士でした。」
「おおそうなのか、ではルークとやら、お前は魔道がかなり使えるのだな。たしかロックも魔道は全く使えなかったと記憶している。二人ならいい同行者になるのだろう。」
「ルークは剣の腕も相当なものですよ、俺が保証します。」
「それなら俺と立ち会え。結局ロック=レパードには一度も勝てなかったしな。」
「そんなことをしている場合ではありません、男爵。僕たちはミロを探しに行かないと。」
「そうであった。俺が行くと目立ちすぎる、うちの家のものを呼ぶから連れていけ。」
グロウスは父親であるカール=クレイ公爵付きの騎士団員を20人ほど呼び寄せた。男爵家にはグロウス本人の希望で騎士団員は誰も詰めていなかったからだ。
レイズ公太子も付いて行くと言い出したが、さすがにそういう訳には行かないので、グロウス家で一緒に待っていてもらうことにした。但し、ダーク=エルクは公太子の強い希望で同行することになった。詳細を報告させるためだ。ダークは公太子と離れる訳には行かなかったが、同行したい公太子を止めるには仕方なかったのだ。
「ではお前たち、このロックの指示に従って誘拐犯を捕まえてこい、抜かるなよ。」
一行はジェイの案内でシェラックたちの潜伏している屋敷に向かった。どうも空家になっていた元貴族の屋敷を買い取って使っているらしい。
「騎士団の皆さんはそれぞれ分かれて2箇所ある出入り口を抑えてください。俺とルークとダークさんで正面から普通に訪ねてみます。ルーク、相手の顔を変える魔道は見破れるか?」
「最初からそうと判っているなら、そう難しいことじゃないよ、任せて。」
「ジェイ、ミロの居場所はまだ判らないか?」
(無理じゃな。今はもうここには居ないのかも知れん。)
「そうか。賭けだが仕方ない、突入しよう。」
ロックたちが屋敷に突入しようとした時だった。同じように屋敷に入ろうとしている一行が居た。その中に見知った顔があった。それは終焉の地、ルシア=ミストだった。
暗躍⑥
「あっ、ルシア!」
「何だあなたたちでしたか。」
「あなたたちでしたかじゃないだろう。、どうしてここにいる?」
「それは多分あなたたちと同じ理由でしょう。ミロさんを返してもらいに来ました。」
「返してもらうならこっちだろう。お前たちは再度攫うだけだろうに。」
「そうともいいますね。」
ルシアは少し面白がっていた、ミロを三つの勢力が奪い合う状況を。
「元々はお前が攫うように指示したくせに。」
「いいえ、それは私の指示ではありませんよ。うちの者が勝手にやったことです。私はここエンセナーダで待っていただけですから。」
ルシア=ミストはロックたちに追い詰められた時、師匠である大地のザトロスに救われてどこかに連れて行かれたのだった。それがエンセナーダで、終焉の地の部下たちが来るのを待っていたのだ。
「いずれにしてもミロはこちっに返してもらいますよ。それはそうと、あいつらの正体は判っていますか?」
ミロを救い出してからのことは別として、今屋敷を襲う事は共通していたから情報は共用しておきたかった。あくまでルークは冷静だった。もしかしたら相手側には氷のノルンが居るかもしれない。用心してし過ぎることは無かった。
「彼らはシェラック=フィットとそのご一行様ですね。シェラック=フィットとはグロシア州騎士団参謀長ラング=フィットの嫡男で自分も参謀だったはずです。グロシアでは有数の貴族、フィット伯爵家の跡取りですね。」
「そうか、グロシア州の。」
グロウス男爵を連れて来なくてよかった、とロックは思った。公けになればガーデニア州とグロシア州の外交問題になりかねない。騎士団員ならまだ攫われたミロの捜索に来た、と言い逃れられるだろう。シェラックが自らの身分を明かすこともない筈だった。
「ザトロス老師はどうしておられます?」
「師匠は自らの塒に戻られた。不肖の弟子に構っている暇はない、と仰られて。」
ノルン老師が居たとしたらザトロス老師に対抗してもらう、という案は無理なようだ。
「相手側に氷のノルン老師が居る可能性があるのですが。」
「それは大丈夫だと思う。もしそうなら師匠は戻らなかっただろう。ただ今エンセナーダには数字持ち魔道士はノルン老師ではなくガルド老師が居るらしいから気を付けるように、と言われましたが。」
「ガルド老師?」
「そう。序列6位、影のガルド。この近くに住んでいて自分の塒から出て来たらしい。ソニー=アレスと一緒に。」
「ソニーと?」
「アーク=ライザーはアストラッド州に戻っているはずだ。ソニー=アレスだけがディアック山に行った後エンセナーダに戻った。ガルド老師はディアック山に住んでいるのかも知れないな。」
ルシア=ミストは様々な情報をくれた。それが本当の事なのか、何か目的があるのかは判らなかったが。
「どうしてそんなに親切に色々と教えてくれるんだ?何か騙そうとしていないか?」
「そんなつもりはない。そもそも終焉の地は闇ギルドだが依頼があって初めて動く組織だ。あなたたちを殺せとは言われていない。」
「殺せと言われていない?依頼はルークの暗殺じゃなかったのか。」
「これ以上は言えませんが、まあ、あなたたちを襲ったのはただの私怨です。師匠に緊く戒められましたから、もう敵対する気はありませんよ。部下の仕出かしたことの責任を取るためにここに来たのです。」
何か雲行きが変わって来た。意訳するとミロを救うために協力する、と言っているような聞こえる。
「時間がもったいない、早く中へ。」
なぜかミストを先頭に屋敷の中に入ることになったしまった。
暗躍⑦
「ルシア、それで今は俺たちの味方、ということでいいんだな?」
ロックは確認せざるを得ない。ノルン老師をザトロス老師が抑えてくれているというのはルシアの出まかせかも知れない。シェラックと組んでロックたちを陥れようとしているかも知れないのだ。
「まあ、そう思っていただいて構わない。但し、事が終わったらすぐに私を捕まえる、というのは無しにしてもらおう、それが条件です。」
ロス黒死病の犯人を目の前にして捕まえられないことは忸怩たる思いはあるが背に腹は代えられない。ザトロス老師とノルン老師の二人を御し得るとは到底思えないのでザトロス老師の協力は大前提だった。
「さあ、入りましょう。」
ルシアは鍵を開けることもなく大きな扉を普通に開けた。何かの魔道や技術なのだろう。暗殺集団としては基本的な能力なのかも知れない。
屋敷に入ると薄暗かった。明かりは付いていない。玄関を入るとすぐに大きな吹き抜けのホールがあった。天井が高い。今のところ、人の気配はない。
ロックたちは1階と2階の二手に分かれて捜索を始めた。ロックとルーク、ダークは1階、ルシアたちは2階だ。
ロックがホールにある左手の扉を開けると長い廊下が続いていた。暫らくは部屋が無く廊下が続いている。廊下は右に曲がっていた。曲がると直ぐに部屋の扉があった。
中の様子を探りながらロックが扉を開けた。応接室のようなアンティークの調度品にあふれた部屋だった。中央にテーブルとソファがあるので、やはり応接室のようなものだろう。誰も居ないことを確認すると次の部屋に向かう。
次の部屋は壁一面に本棚が並んでいるような書斎だった。大きな机があるが、やはりここにも人はいなかった。
次の部屋も、その次の部屋にも人が居ない。廊下がまた右に曲がる。次の部屋は台所だった。使用した形跡がない。もしかして既に屋敷を後にしてしまったのだろうか。
いくつも部屋を確認したが、やはり誰も居ない。ロックたちは元の玄関ホールに戻ってきてしまった。
「ルシアたちの2階に居るんだろうか。」
するとルシア一行が階下に降りて来た。
「居ませんね。いた形跡もありませんでした。」
そもそも、この屋敷ではなかったのか。
「でも、多分ここで間違いないと思います。入ったことは確認してありますが出た形跡もありませんでしたから。」
「だとしたら、今でもこの何処かに居るんだな。こういう場合の定番は地下か。」
「でしょうね。地下へ降りる所は見つかりませんでしたか?多分そんな事だろうとあなたたちに譲ったのですが。」
なんだかルシアに見下されているような気がしてロックは少しむっとしたが見つけられなかったことには違いが無い。直ぐに思い直して地下へ降りられる場所探すことにした。
「定番は書斎の本棚の後ろ、あたりだよな。」
「そうですね、多分そのあたりでしょう。」
案の定、本棚の後ろに隠し扉があった。扉を開けると地下への階段があった。降りていくと地下の広い場所に出た。
「お待ちしていました。」
多分シェラック=フィットだ。
「おいでにならないのかと心配していましたよ。」
ルシアとは口調が似ている。共通して丁寧だが相手を少し小ばかにしたような物言いだった。
「おや、ロックさん、ルークさんの他にルシア=ミストまで。部下の失態を拭いに来ましたか。」
シェラックは正確にルシアの行動を見抜いていた。
「お前、顔を変えているのか?」
「さて、どうでしょう。」
しらばっくれてはいるがシェラックに間違いないだろう。
「なんでもいい、ミロを返してもらおうか。」
「だからミロさんと言う人は知りませんと言いませんでしたか?」
「ここに居る筈だ。どこに隠した?」
地下室は広いが他に扉は無かった。
「屋敷は全部探されたのでは?この部屋が最後の筈です。ここに居ないという事は、そういう事では在りませんが?」
シェラックは自信満々だった。やはりノルン老師が連れて行ってしまったのか。そうなれば最早追いかけることが出来ない。
「大丈夫ですよ、ロック=レパード、彼女は今ここに居ます。」
ルシアは自信ありげにそう言い放った。
暗躍⑧
「シェラック=フィット同様、ノルン老師に顔を変えられて身体は魔道で拘束されているだけです。そこの後ろにいる誰かが彼女で間違いありません。」
確かにシェラックの顔は本人とは別人に変えられている。口調は元々隠すつもりがないくらいにシェラックのままだった。ミロも同様に顔を変えられているというのか。
「なるほど、それで掛けられた魔道を解く方法はあるのか?」
「それがなかなか難しいのですよ。ルーク=ロジック、手伝っていただけますか。」
「判りました、僕でよければ手伝いますよ。ロックは何かしないようにシェラックを牽制しておいてくれますか。」
「任せろ。」
ロックは細剣を抜いてシェラックの前に立つ。流石にロックには敵わない、とシェラックも大人しくしているようだ。ノルン老師がザトロス老師に抑えられている今、この場を逃れられるとも思ってはいなかった。
ルシアとルークが一人一人シェラックの部下たちを見分して行く。魔道が掛けられている痕跡を探しているのだ。三人目の細身の男の所で二人は止まった。
「彼女ですね。」
それは身体すら変えられていたが所々に僅かだが魔道の痕跡があった。余程高位な魔道士にしか見つけられない程度の痕跡だったが、ルシアもルークもそれなりの魔道士であり二人で確認していることもあり、それは確信となった。確かにその男は身じろぎ一つしなかったのだ。
「間違いないみたいだけど、掛けられた魔道を解く方法は知っているんですか?」
「本来掛けたノルン老師に解いていただくことが一番なんですが、多分この近くにはいらっしゃらないと思います。同じように、というかそれが条件でザトロス老師もエンセナーダを離れてしまわれましたので私やルークさんでは解くのは難しいかも知れません。シェラックのように自分でなら解ける可能性もあるのですがミロさんは魔道を使えませんのでそれも無理でしょう。」
方法が無い。どうしたものか。同格の魔道士ならキスエル老師に頼るのも手かもしれないがロスはかなり遠い。
「シェラック=フィット、もう観念して彼女の魔道を解く方法を教えろ。」
剣を向けながらロックが問い詰める。
「シェラック、という名前は存じませんし、お聞きになられていることも答えを持ってはおりません。私はただの商人ですから勿論魔道にも長けておりませんので。」
「シェラックさん、もうやめた方がいいよ。」
シェラックの部下の一人が初めて口を開いた。背が低いので子供のようにも見える。その場には似つかわしくない存在だった。
「あなたは黙っていなさい。」
「でも、この人たちに彼女をちゃんと返してあげようよ。彼女を利用するなんて諦めて。エンセナーダでの目的は達した、と言ってたじゃないですか。核所のことは序でだとも。」
「べらべらと内情を話して何のつもりですか。あなたにそんなことを頼んだつもりはありませんよ。」
「でも、やっぱりもう無理だと思うんだ。シェラックさんも判っているでしょう。」
シェラックは諦めた。この青年の生真面目さは生来のものだ、今更変えようもない。
「判りましたよ、ユスティ。あなたを拾ってきたことが間違いでしたが拾ったものは仕方ありません。それにこの場を切り抜けるには彼女の魔道を解くことを切り札にするしかありませんからね。」
「ありがとう。みなさん、僕はユスティニアヌス=ローランといいます。ロンドニアから来て今はシェラックさんにお世話になっているただの学者です。ロックさんでしたか、あなたたちがロスでの黒死病を治めたとお聞きしました。僕も少し助力していたのですが一人ではどうしようもありませんでしたので本当に助かりました。シェラックさんにはかにらず彼女の魔道を解かせますので、ご安心ください。」
その青年は本当に誠実そうでシェラックとは正反対のように見えた。学者と聞いて確かにと納得できる容姿だった。シェラックは何故だか青年には逆らえないように見えた。それは意に反して、というよりは進んで無理を聴いて居る、という感じだった。
「シェラックさんは老師から魔道を解く方法を聞いていると思います。少しだけ時間をください。」
そういうとユスティはシェラックを促して、まず自らの顔を元に戻した。これは自ら掛けられたものなので割と簡単だった。ミロに掛けられた魔道は、まず身体の拘束をしているものを解いた。
「ふぅ~。やっと話せるようになったわ。ロック、ルークありがとう。でも少し遅いんじゃない?なんだか色んな人に捕まってしまったわ。」
「ミロ、攫われ体質なんじゃないか。」
「そんな体質、あるわけないでしょ。」
「煩いですね、黙ってじっとしていてください。でないと解けませんよ。」
シェラックが焦れて言う。しばらくすると見知ったミロの姿が現れた。この魔道で顔や身体を変えられたら別人に成り済ますことが容易になる。要注意だったが、その可能性を忘れなければ対処のし様があるはずだ。
シェラックとミロの顔も元に戻り、ミロを取り戻す目的は達したので一行は屋敷を後にすることにした。それ以外の各々の陣営への干渉はしない、という約束の元に。
「ミロが無事だったから、まあ今回は大目に見るが、ミロを傷つけるようなことがあったら次は無いと思っておけよ。ルシア、お前もだ。」
ロックが両陣営に釘を刺す。どちらもロックたちを利用するために人質としてミロを使うつもりだったはずだ。ロックたちに何をさせるつもりだったのかは敢えて聞かなかった。従うつもりが無いので聞く必要もなかったのだ。
ロックたち一行もグロウス=クレイ男爵宅に戻るのだった。
暗躍⑨
ロックたちがグロウス男爵家に戻っている途中だった。御者を務めていたロック=レパードを呼ぶ声がして慌てて馬車を停めた。
「ああ、やっぱりロック=レパードだ。」
それはソニー=アレスだった。
「ソニー、久しぶりだな、どうしてここに?」
そういえばソニー=アレスがエンセナーダに居るとルシアが言っていたことを思い出した。確か影のガルドと一緒にいるとか言っていなかったか?
「なんだか君たちが厄介ごとに巻き込まれていると聞いて手を貸そうかと来てみたんだよ。」
「それはありがとう。でももう解決してしまったから、礼だけ言っておくよ。」
「なんだ、そうか。まあ解決したのならいいさ。」
「ソニー、一人なのか?アークはどうした?」
「アークは先にアストラッドに戻ったんだ。僕は少しマゼランで用事かあって、それを済ませて一旦エンセナーダに戻って来たんだよ。でも、また直ぐにここも出てしまうけどね。」
「そうか、何だか忙しそうだな。それなのに俺たちに気を掛けてくれてありがとう。」
馬車が泊っているのでルークも顔を出した。
「あ、ソニー、どうとたの?」
「今ロックに話をしていたところだ。まあいずれにしてもよかった。」
「そうだね。あとソニー、老師にもよろしく言っておいてください。」
ソニーは一瞬、あっ、という顔をしたがすぐに
「判った、伝えておくよ。老師が出張る事態にならずに済んでよかった。」
「それは本当に良かった。数字持ちの老師は世俗のことに関わらないで貰えるとありがたいのですが。」
ロスではキスエル老師に散々世話になったにも関わらずルークは恩知らずなことを言った。
「老師たちの意向は計り知れないからね。では、僕はこれで。」
ソニーはそう言うと去っていった。エンセナーダで一人何をしていたのか。「エンセナーダを出る」とは言ったがアストラッドに戻るとは言わなかった。何かを企んでいるのだろうか。そんなに悪だくみが得意なようには見えなかったが。
「ソニーは何をしているんだろうね。」
「判らない。アストラッド州のため、ということは間違いないだろうがな。まあ考えても仕方ない、早く戻ろう、公太子が首を長くしてお待ちだ。」
そこへミロが口を挟む。
「えっ、公太子って、あの公太子?なんでそんな人が待っているの?」
「いいからミロは入って居ろ、って。詳しくは中でルークに聞いたらいいさ。」
ルークは掻いつまんでミロを救出に行くまでの出来事を説明するのだった。
暗躍⑩
グロウス男爵家に戻ってルークはまた一から全てを説明することになった。
ダークはミロを救出することには同意していたが、ロック=レパードや確認は取れていないがルーク=ロジックはまだしも素性の知れないミロを公太子と同席させることに難色を示したがグロウスが一蹴した。ロックの同行者だから、という理由だった。
「公太子様にお目に掛れるなんて想像もしていなかったわ。ロックって本当は偉い人なの?」
「俺はたまたま公太子とはセイクリッドで学校が同じだっただけで偉くもなんともないさ。今となればアゼリア公の養子であるルークの方が偉いかもな。」
「ロック、からかわないでよ。」
ルークは心から謙遜していた。自分がヴォルフ=ロジックの養子だと今でも信用できなかったし、その立場を利用しようとも思っていなかったからだ。
「いや、ルークと言ったか、お前の身元は確認した。確かに狼公の養子として御触れが出ているそうだ。父上の所にはつい最近に来たみたいで俺の所にまではまだ届いていなかったがな。」
「なるほど、それで私の所にも情報が届いていなかったのか。ルークとやら、アゼリア公のご養子とあらば私とグロウス先輩と同格、いや私とも同格と言っても過言ではない、以後よろしく頼むぞ。」
「公太子、滅相もありません。僕は素性が判らないただの一般人です。縁あってロジックの名を名乗らせていただいていますが、それは苗字も名前も無かったから、というだけなのです。」
確かにウォルフ狼公を救ったとはいえルークの素性が明らかになったわけではない。ロックも同行していてルークの性質が善良であることは疑いないが素性の背景に何があるのかは判らない、と感じてい
た。
「まあよいではないか。ロックの話では剣の腕も確か、魔道も上位魔道士と祖難色ない、となるとうちの騎士団に入らないか?」
グロウスがガーデニア騎士団に推挙しようと申し出る。
「身元は俺が保証するとして、すぐに中隊長くらいにはにはなれそうだしな。」
「待ってくださいよグロウス先輩。ルークは俺と修行の旅をしているんですから。ルークの本当の身元を探すことも旅の目的に入って居るんです。ガーデニアに居つくわけには行かないんですよ。」
「それは残念だな。」
「いや、もし出来るなら私の親衛隊に入ることがいいのではないか?色々と便宜も図れるだろう。ダークの部下という事でシャロン公国中を巡検使として巡るのはどうだ。」
公太子も提案するが、勿論そんなことを易々と受けるわけには行かない。
「折角ですが、そんな恐れ多いことを僕なんかが受けさせていただくわけにも行きませんし、しばらくはロックと自分探しの旅をするつもりをしています。グロウス男爵様も公太子様もお許しください。」
そう言われると二人とも引き下がらざるを得なかった。確かに一方の提案を受ければ、もう一方を断ることになってしまうのだ。ルークとしても二人が同時に提案してくれたことで両方断ることが出来たので、逆にありがたかった。
もしかしたら、そう思って提案を重ねてくれたのか?とルークが公太子を見ると片目を閉じてルークに合図を送っていた。やはり判った上で申し出てくれたようだ。公太子なんて立場の人間は、高圧的でいけ好かないのではないかと思うのだが、ちゃんと気の使えるいい人なんだ、と思った。ロックも公太子の立場を押し付けてくるような人とは友達にならないだろう。
「判った、判った、公太子を差し置いて我が騎士団に来てもらうこともできまい。」
「そうだな、グロウス先輩。彼らの行動の保証を我らがしてあげればいい。ガーデニアに居る間はグロウス男爵家を頼ればいいし、他の州に滞在するときは狼公の養子であり私の友人でもある、と申し出ればいい。」
「いえ、そんな、公太子のお名前を出すことなど憚られます。何か厄介ごとに巻き込まれたときは御頼りするかも知れませんが、出来る限り自分たちで解決できるよう、それも含めて修行の旅をしていきます。」
「まあ、俺に任せておけば大丈夫さ。」
「この男は剣術馬鹿だから、当てにしない方がよいぞ。」
「公太子、剣術馬鹿はないでしょう。剣に真摯に向き合っている、と言ってください。」
三人は青年学校時代、仲が良かったのだろうな、とルークは微笑ましく様子を見ていた。
「そういえば、グロウス先輩はソニー=アレスという男をご存知ですか?」
「ソニー=アレス?ああ、アレス家の嫡男だな、一度会ったことがある。確かお前たちと同年じゃなかったか?」
「そうです。公太子や俺と同年の様でした。御前試合には出てこなかったので実際の年齢は判りませんが本人はそう言っていましたね。あと、アーク=ライザーという青年も。」
「ライザーと言うならアストラッド騎士団の騎士団長るルネア=ライザーの息子か何かか。」
「多分そうだと思います。彼も同年のようでした。」
「それで、そのソニーがどうした?」
ロックはロスでのことを掻い摘んで話した。そして、そのソニーとエンセナーダで再会したことを話した。その際、情報では影のガルドと同行しているはずだという事も。
「判った。ソニーのことはこちらで少し調べてみよう。この街でもし何か良からぬ事をしようとしているのなら俺の責任でなんとかしよう。」
ロックはソニーが良からぬことをおこそうとしている、とも思わなかったが、アークを返して自分だけ残った理由も気になっていたのだ。
ロックたちがエンセナーダを出て修行の中心地であるマゼランに向かうのにはもう少し時間が必要のようだった。
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