17 / 17
第一章
第十七話
しおりを挟む
「アストリカ、あなたにはしょせんみじめな平民の気持ちはわからないわ。そうでなくてもあなたは浮き世離れしているのに。そう、現実はあなたがいつも読んでいるわけのわからない異常な恋愛小説とは違うのよ」
「そんな――」
アストリカは悄然と黙り込んでしまいます。
そのとき、わたしは憤然とその場に立ち上がりました。たったいま、我慢の限界を突破したのです。
アストリカはわたしの最初の友人です。その友人を公然と侮辱されて黙っていられるはずがありません。
貴族派だろうが平民派だろうが、王侯派だろうが庶民派だろうが知ったことではありません。
わたしの友達を誹謗する人は、わたしの敵。とても単純でわかりやすい話ではないでしょうか。
「な、何、あなた?」
椅子に座ったまま、わたしの勢いにちょっと怯えた様子で後じさりかけたその少女に向け、わたしは一気呵成に云い放ちます。
「わたしはクンツァー伯爵家の娘でリラマリアと申します。わたしの友人のアストリカを侮辱するのはやめてください! 彼女はたしかに貴族の生まれですが、平民を差別して見下したりするような人ではありません。むしろ、あなたのほうこそ貴族に対し偏見を抱いているのではありませんか。たしかに料理の汁をかけてしまったことは申し訳ありませんが、それはアストリカ自身のせいじゃないし、何よりこうして謝っているじゃありませんか。あなたもここは度量を示してその謝罪を受け入れたらどうです? それから、アストリカの趣味について何やら偏見を開陳されたようですけれど、他人の好きなものを謗るのは狭量というものです。恥ずかしいとは思わないのですか」
あまりの勢いに、わたしのまわりがしいんと静まり返りました。幾人か、面白そうに見つめている人たちもいます。
しまった、目立たないようにするはずだったのに、と思いましたが、もう遅きに失していました。
ひょっとしたら、わたしはいま、貴族派と平民派のいさかいに巻き込まれるどころか、自らその渦のなかへ飛び込んでしまったのではないでしょうか。
「な、何よ」
一気にまくし立てられたその生徒は唖然としてほとんど言葉も出ないようです。
また、アストリカは、なぜかちょっと失笑を抑えているように見えました。
彼女はそのとなりの生徒に無理やり手巾を押しつけると、自分の料理を手に持って立ち上がりました。
「ごめんなさい、あなた。わたしたちはあちらへ行くわ。洗濯代が必要ならいつでも云って来て。その手巾は、捨ててしまっても良いから」
そして、わたしに向かい目配せします。
あわててわたしもわたしも自分の盆を持って立ち上がりました。
内心では激しく後悔していましたが、ひょっとしたら、まわりからは昂然とした高慢な貴族の令嬢に見えていたかもしれません。
とほほ。
「そんな――」
アストリカは悄然と黙り込んでしまいます。
そのとき、わたしは憤然とその場に立ち上がりました。たったいま、我慢の限界を突破したのです。
アストリカはわたしの最初の友人です。その友人を公然と侮辱されて黙っていられるはずがありません。
貴族派だろうが平民派だろうが、王侯派だろうが庶民派だろうが知ったことではありません。
わたしの友達を誹謗する人は、わたしの敵。とても単純でわかりやすい話ではないでしょうか。
「な、何、あなた?」
椅子に座ったまま、わたしの勢いにちょっと怯えた様子で後じさりかけたその少女に向け、わたしは一気呵成に云い放ちます。
「わたしはクンツァー伯爵家の娘でリラマリアと申します。わたしの友人のアストリカを侮辱するのはやめてください! 彼女はたしかに貴族の生まれですが、平民を差別して見下したりするような人ではありません。むしろ、あなたのほうこそ貴族に対し偏見を抱いているのではありませんか。たしかに料理の汁をかけてしまったことは申し訳ありませんが、それはアストリカ自身のせいじゃないし、何よりこうして謝っているじゃありませんか。あなたもここは度量を示してその謝罪を受け入れたらどうです? それから、アストリカの趣味について何やら偏見を開陳されたようですけれど、他人の好きなものを謗るのは狭量というものです。恥ずかしいとは思わないのですか」
あまりの勢いに、わたしのまわりがしいんと静まり返りました。幾人か、面白そうに見つめている人たちもいます。
しまった、目立たないようにするはずだったのに、と思いましたが、もう遅きに失していました。
ひょっとしたら、わたしはいま、貴族派と平民派のいさかいに巻き込まれるどころか、自らその渦のなかへ飛び込んでしまったのではないでしょうか。
「な、何よ」
一気にまくし立てられたその生徒は唖然としてほとんど言葉も出ないようです。
また、アストリカは、なぜかちょっと失笑を抑えているように見えました。
彼女はそのとなりの生徒に無理やり手巾を押しつけると、自分の料理を手に持って立ち上がりました。
「ごめんなさい、あなた。わたしたちはあちらへ行くわ。洗濯代が必要ならいつでも云って来て。その手巾は、捨ててしまっても良いから」
そして、わたしに向かい目配せします。
あわててわたしもわたしも自分の盆を持って立ち上がりました。
内心では激しく後悔していましたが、ひょっとしたら、まわりからは昂然とした高慢な貴族の令嬢に見えていたかもしれません。
とほほ。
0
お気に入りに追加
70
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた
まほりろ
恋愛
元婚約者は男爵令嬢のフリーダ・ザックスと浮気をしていた。
その上、
「お前がフリーダをいじめているのは分かっている!
お前が俺に惚れているのは分かるが、いくら俺に相手にされないからといって、か弱いフリーダをいじめるなんて最低だ!
お前のような非道な女との婚約は破棄する!」
私に冤罪をかけ、私との婚約を破棄すると言ってきた。
両家での話し合いの結果、「婚約破棄」ではなく双方合意のもとでの「婚約解消」という形になった。
それから半年後、私は幼馴染の王太子と再会し恋に落ちた。
私と王太子の婚約を世間に公表する前日、元婚約者が我が家に押しかけて来て、
「俺の気を引きたいのは分かるがこれはやりすぎだ!」
「俺は充分嫉妬したぞ。もういいだろう? 愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい!」
と言って復縁を迫ってきた。
この身の程をわきまえない勘違いナルシストを、どうやって黙らせようかしら?
※ざまぁ有り
※ハッピーエンド
※他サイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで、日間総合3位になった作品です。
小説家になろう版のタイトルとは、少し違います。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる