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第一章
第九話
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さて、どうしたものか。初日から迷子では、伯爵家の名誉を守るとか守らないとか以前の問題です。先が思いやられます。
と、周りがとたんにざわめきました。
何かと思ってそちらを見やると、人々の視線が一箇所に集中しています。たまさかわたしの傍らにいた少女たちがひそひそとささやきます。
「ルナファンさまとフィレッドさまよ」
そう、あるきわめて目立つふたりの少年たちが向こうから道を歩いて来たのでした。
じっさい、それは、まずめったに目にできないほど美しく、活き活きと生気にあふれたひと組だったと云えるでしょう。
しかも、両者の印象はまったく異なっています。
まさに太陽と月。
そのように形容することはあまりに非礼でしょうか。しかし、かれらを目にした者の大半は心中でそういうふうに考えてみる誘惑に抗えないに違いありません。
それほど魅力的で、しかも対照的なふたりだったのです。
ひとりは豪奢な金髪。
つよい意思の力を感じさせる蒼いひとみと炯々たるまなざしのもち主で、その一歩一歩からエネルギーがあふれているようです。
もうひとりは荘重な銀髪。
こちらの目は何とも不思議でなぞめいた印象を受ける紫いろです。最初の人物と比べるとはるかに穏やかそうに見え、温和な空気をかもし出しています。
ふたりとも白く縁取りされた黒の衣服をまとい、そのうえに柔らかなケープを羽織ってちいさな帽子を被っています。そろってきわめて知的な雰囲気です。
ルナファンさまにフィレットさまということは、このふたりがこの学院の生徒会長と副生徒会長、そして薔薇王朝の第一王子と第二王子ということなのでしょうか。
わたしにとっては、本来なら目を合わせることもできないような高貴な雲上人です。
「うん?」
そのとき、金髪の少年、そう、おそらくはルナファン王子が、何かに気づいたようにわたしの顔を見ました。
思わず石像のように硬くなってしまいます。
「きみは見かけない顔だな」
「は、はい。きょうから転入してまいりました。クンツァー伯爵家の娘で、リラマリアと申します」
ひょっとして、この王子は全生徒の顔かたちを憶えているのでしょうか。
わたしはかすかに疑問に思いました。
そうでなければ、転入生のわたしが広間を歩いていたところで気づくはずもありません。
ですが、王子はもちろんわたしのその疑問に答えることはありませんでした。
「そうか。リラマリア嬢、何か困ったことがあったら云ってくれ。わたしは生徒会長で、生徒たちの生活に責任を負っているのだから」
「遠慮なく何でも云ってください」
傍らの銀髪の王子が優しく付け加えてくれます。
それで、わたしはちょっと勇気を出して受付の場所を訊ねてみました。
「寮舎の受付か。まずそこからこの建物を出て右に進むと赤レンガの建物があるから、そこに入ればわかる」
ていねいに教えてくれます。
ありがとうございますと礼を云うと、かれらはかるく片手を挙げて去っていきました。思わずほっと吐息します。
そこで、わたしはまわりの注目を集めてしまったことに気づきました。なるべく目立たないようにしないといけないのに。
それにしても、親切な人たち。ただ、今後はできる限りこのふたりの王子には関わらないようにしましょう。目立ってしかたないから。
わたしはそう思いながら、教えてもらった受付を探し、ふたたび歩き出しました。
と、周りがとたんにざわめきました。
何かと思ってそちらを見やると、人々の視線が一箇所に集中しています。たまさかわたしの傍らにいた少女たちがひそひそとささやきます。
「ルナファンさまとフィレッドさまよ」
そう、あるきわめて目立つふたりの少年たちが向こうから道を歩いて来たのでした。
じっさい、それは、まずめったに目にできないほど美しく、活き活きと生気にあふれたひと組だったと云えるでしょう。
しかも、両者の印象はまったく異なっています。
まさに太陽と月。
そのように形容することはあまりに非礼でしょうか。しかし、かれらを目にした者の大半は心中でそういうふうに考えてみる誘惑に抗えないに違いありません。
それほど魅力的で、しかも対照的なふたりだったのです。
ひとりは豪奢な金髪。
つよい意思の力を感じさせる蒼いひとみと炯々たるまなざしのもち主で、その一歩一歩からエネルギーがあふれているようです。
もうひとりは荘重な銀髪。
こちらの目は何とも不思議でなぞめいた印象を受ける紫いろです。最初の人物と比べるとはるかに穏やかそうに見え、温和な空気をかもし出しています。
ふたりとも白く縁取りされた黒の衣服をまとい、そのうえに柔らかなケープを羽織ってちいさな帽子を被っています。そろってきわめて知的な雰囲気です。
ルナファンさまにフィレットさまということは、このふたりがこの学院の生徒会長と副生徒会長、そして薔薇王朝の第一王子と第二王子ということなのでしょうか。
わたしにとっては、本来なら目を合わせることもできないような高貴な雲上人です。
「うん?」
そのとき、金髪の少年、そう、おそらくはルナファン王子が、何かに気づいたようにわたしの顔を見ました。
思わず石像のように硬くなってしまいます。
「きみは見かけない顔だな」
「は、はい。きょうから転入してまいりました。クンツァー伯爵家の娘で、リラマリアと申します」
ひょっとして、この王子は全生徒の顔かたちを憶えているのでしょうか。
わたしはかすかに疑問に思いました。
そうでなければ、転入生のわたしが広間を歩いていたところで気づくはずもありません。
ですが、王子はもちろんわたしのその疑問に答えることはありませんでした。
「そうか。リラマリア嬢、何か困ったことがあったら云ってくれ。わたしは生徒会長で、生徒たちの生活に責任を負っているのだから」
「遠慮なく何でも云ってください」
傍らの銀髪の王子が優しく付け加えてくれます。
それで、わたしはちょっと勇気を出して受付の場所を訊ねてみました。
「寮舎の受付か。まずそこからこの建物を出て右に進むと赤レンガの建物があるから、そこに入ればわかる」
ていねいに教えてくれます。
ありがとうございますと礼を云うと、かれらはかるく片手を挙げて去っていきました。思わずほっと吐息します。
そこで、わたしはまわりの注目を集めてしまったことに気づきました。なるべく目立たないようにしないといけないのに。
それにしても、親切な人たち。ただ、今後はできる限りこのふたりの王子には関わらないようにしましょう。目立ってしかたないから。
わたしはそう思いながら、教えてもらった受付を探し、ふたたび歩き出しました。
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