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第一章

第四話

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 そこでは、かなりのところ形式的ではあるにせよ、王侯貴族と平民の平等が実現していると云われています。平凡な一庶民のわたしからすると夢のような話です。

 可能であればわたしも行きたいくらい。

 しかし、これから入学するお嬢さまにはまったくやる気がありませんでした。

 学問好きのわたしなどにはあまり理解できないことですが、お嬢さまは勉学がお嫌いなのです。

「リラマリアお嬢さま。どうかもう少しマジメにお勉強なさってください。そんな態度ではいくら学院に入っても、すぐに退学になってしまいます」

「大丈夫、貴族の子息はどんなに成績が悪くても退学になったりはしないわ」

 お嬢さまはほとんど液体と化して長椅子の端から溶け崩れかけているように見えるほどだらけていました。

 よほど学ぶことがいやでたまらないのでしょう。

 たしかにだれにでも得意なことと苦手なことはあります。

 お嬢さまは人と話をするのが得意で、彼女と話をすると大方の人間が好意を持ちます。どちらかというと地味で内気なわたしなどには真似のできないことです。

 だから、お嬢さまは勉強嫌いではあっても決して愚かではありません。

 しかし、だからといってまったく勉強をせずに済ませるわけにはいかないでしょう。

 もうすぐ専任の在宅教師が戻って来ます。そのまえにどうにかお嬢さまの液体化を阻止しなくては。

「お嬢さま、お気持ちはわかります。わたしも好きではないことを強要されると良い気分はしません。しかし、人の上に立つ者にはそれなりの義務があるのです。ただやりたいことだけをやって生きていくわけにはいきません。ご理解ください」

「うーん、それってほんとうにそうなのかな? やりたいことだけをやって生きていくことはできないの?」

 リラマリアさまは正面からわたしの目をのぞき込んできました。そのきれいな眸で見られると、思わず言葉に詰まってしまいます。

 ですが、簡単に説得されてしまうわけにはいきません。

「で、でもお嬢さま、あなたさまには伯爵家の代表としての立場があります。あまりにひどい成績を取ったらそれは伯爵家の恥。そういうことも考えていただかないと」

「それはそうだけど、でもね」

 お嬢さまは云いかけて、ちょっと顔をしかめて頭を押さえました。

「どうされました?」

「うん。何だかこの頃、たまに頭痛がするの。それに、何だか変な感じ。どう云ったら良いかな、そう、何か大切なことを忘れていて、もう少しで何とか思い出せるような」

「大切なこと?」

 わたしは首をかしげました。

 あとから思えば、それはひとつの「予兆」だったのですが、このときはもちろん、そうとはわかりませんでした。

 そう、そのときはわたしは何も気づかず、リラマリアお嬢さま自身も何を思い出そうとしているのかまったくわかっていなかったのでした。

 わたしたちは自分の運命が変わるときも、はっきりそうと悟ることはできないのです。

 それを知ることができるのは、ただ天上の神々のみ。

 わたしたち人間は、それが王であれ奴隷であれ、自分の人生の変転に対し、徹底して無知なのでしょう。
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