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第一章

第三話

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「そんなはずないでしょう。伯爵さまたちはだれよりもリラマリアさまのことを思っておられますよ」

 わたしが少々呆れて答えると、お嬢さまはきゃしゃなあごに人差し指をあてて考え込みました。

「そうかなあ。お父さまたちはほんとうにライナのことを可愛がっているわよ。それこそ実の娘同然に。そのうちほんとうに娘にしてしまうつもりかもしれないわね」

 長椅子のうえで寝間着に包まれたやわらかな肢体を伸ばします。

 いまはまだ下着を身につけていないので、そのやたらに大きな乳房が自然に揺れます。

 女のわたしですら思わず目を惹きつけられるような魅力的な光景です。

 良いなあ。わたしもこういうスタイルに生まれたかった。思わず自分の胸部を見下ろすと、栄養状況の差なのかどうか、そこはほとんど少年のように平らでした。

 良いのです。人の個性はそれぞれなのですから。ええ、そうに決まっていますよね?

「ライナのほうはどうなの? もし、お父さまたちが娘になってくれって云って来たのなら、受け入れる気はある? そうなったらわたしたちは姉妹になるわね。嬉しいわ」

 わたしはちょっとため息を吐きました。

「そんなことがあるわけないじゃないですか。お嬢さまはお嬢さま、使用人は使用人、そのままがいちばん良いんです。それはもちろん、家族は欲しいですけれど」

 両親が事故で亡くなり、天涯孤独となったのは三年前のこと。

 そのとき、まだ幼いわたしを哀れんでメイドとして雇ってくれたのが、両親の知人であったクンツァー伯爵と伯爵夫人です。

 かれらはほとんど何の縁もないわたしにほんとうに親切にしてくれました。

 お嬢さまの言葉は戯れ言に過ぎませんが、じっさい、ただのメイドというよりは実の娘のように可愛がっていただいたと思います。

 いずれ、この恩は返さなければなりません。どのようにして返せば良いのかは、いまはまだまったく想像もできませんが。

「ライナはいつか結婚するつもりなの?」

「さあ、いまはまだ考えられませんけれど」

「好きな人はいるの?」

「まさか。それに仮にわたしのほうが好きになったとしても、相手が好きになってくれるとは限らないですしね。お嬢さまみたいにお綺麗だったならともかく」

「ライナは可愛いわ」

「はいはい。それより、お嬢さま。もう少しお勉強されたらいかがです?」

 リラマリアお嬢さまはもうすぐ〈王立学院〉への入学を控えています。

 王立学院とは、何代かまえの薔薇王その人の勅命で創設された王立大学の下部組織で、貴族の子息を初め、成績優秀を認められた平民も通っています。

 現在の生徒会長は何と第一王位継承権者のルナファン殿下。

 つまりは、薔薇王朝の版図全体から貴族と平民と、そして男女の別を問わず、あらゆる優秀な人材が集まる出世の登竜門なのです。
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