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第一章
第一話
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しまった。
やってしまった!
わたしは壁一面に貼りだされた中期試験の成績順位をひと目見て、ひとり、慄然と青褪めました。
わたしにとってはこの王立学院に入ってから初めての試験なのに、まさに惨憺たる結果だったのです。
目の前には、いま、わたしが名乗っている名前とともに、きわめて問題のある数字が並んでいます。
そう、ほとんど危険なほどの数字。
この数ヶ月の学院生活でいくつ失敗をしでかしたか数え切れないくらいですが、これはそのなかでも最大の失態と云って良いでしょう。
覚悟はしていたものの、想像を超えた成績なのでした。
いいえ、もちろん、この内容をまったく予想していなかったわけではありません。
しかし、まさか、いくら何でも、これほどでたらめな数字を取ってしまうとは。
もう少しうまくやっていたらまたべつの結果もあったのではないでしょうか。わたしは自分の不器用さを心から悔やみました。
もちろん、ある意味ではしかたないことでしょうし、またべつの意味では自分自身が望み、招いたこととも云えます。
それにしても、これはないのではないでしょうか。もっとしっかりやるべきことをやっておくべきでした。
自分では覚悟を決めて頑張ったつもりでしたが、心のどこかに甘えや油断があったのかもしれません。
だから、このようなことになってしまったのです。
ライナ一生の不覚。
おそらく、その様子がよほど奇妙に見えたのでしょう、わたしの傍らに佇んでいる友人のエステラが問いかけて来ました。
「リラマリアさま、どうかされましたか」
エステラはこの学院に入ってから親しくなった、花のような美少女です。
彼女の名前は、成績順位のかなり上位のところにあります。それなのに、そのことを喜ぶまえにわたしのことを気にかけてくれるその態度が嬉しいです。
しかし、じっさいには、わたしは「リラマリアさま」ではありません。
それにもかかわらず、エステラはわたしのことを「伯爵令嬢リラマリア・クンツァー」だと認識しているのです。
だから、わたしがなぜこの成績に衝撃を受けているのかわからないのでしょう。
彼女はわたしが伯爵たちと決して伯爵家の家名を汚したりしないことを約束したとは知らないということです。
そして、また、わたしのことをリラマリアだと思い込んでいるのは彼女だけではありません。
むしろ、この学院にはわたしの正体を知っている人間はたったひとりしかおらず、ほとんどだれもがわたしのことを「リラマリア」として認識しているのです。
ですが、ほんとうはわたしはそのリラマリアさまに仕える娘のひとりに過ぎません。
それが、なぜ、リラマリアさまに化けて学院に入学することになったのか。そこにはもちろん、それなりの事情があるのですが、つまりはわたしはリラマリアさまの「身代わり」を努めているのです。
ああ、それにしても、いったいどうしてこんなことになったのでしょう。
そもそも、リラマリアさまの姿と名前で学院に忍び込んだりしなければ、このようなことになるはずもありませんでした。
やはり、あの日、伯爵の望みを受け入れたことが間違いだったのかもしれません。
わたしはもういちど成績順位を眺め、ちょっと気が遠くなったりしながら、まだわたしが単なるひとりのメイドで、無邪気に仕事を楽しめていた頃に想いを馳せました。
やってしまった!
わたしは壁一面に貼りだされた中期試験の成績順位をひと目見て、ひとり、慄然と青褪めました。
わたしにとってはこの王立学院に入ってから初めての試験なのに、まさに惨憺たる結果だったのです。
目の前には、いま、わたしが名乗っている名前とともに、きわめて問題のある数字が並んでいます。
そう、ほとんど危険なほどの数字。
この数ヶ月の学院生活でいくつ失敗をしでかしたか数え切れないくらいですが、これはそのなかでも最大の失態と云って良いでしょう。
覚悟はしていたものの、想像を超えた成績なのでした。
いいえ、もちろん、この内容をまったく予想していなかったわけではありません。
しかし、まさか、いくら何でも、これほどでたらめな数字を取ってしまうとは。
もう少しうまくやっていたらまたべつの結果もあったのではないでしょうか。わたしは自分の不器用さを心から悔やみました。
もちろん、ある意味ではしかたないことでしょうし、またべつの意味では自分自身が望み、招いたこととも云えます。
それにしても、これはないのではないでしょうか。もっとしっかりやるべきことをやっておくべきでした。
自分では覚悟を決めて頑張ったつもりでしたが、心のどこかに甘えや油断があったのかもしれません。
だから、このようなことになってしまったのです。
ライナ一生の不覚。
おそらく、その様子がよほど奇妙に見えたのでしょう、わたしの傍らに佇んでいる友人のエステラが問いかけて来ました。
「リラマリアさま、どうかされましたか」
エステラはこの学院に入ってから親しくなった、花のような美少女です。
彼女の名前は、成績順位のかなり上位のところにあります。それなのに、そのことを喜ぶまえにわたしのことを気にかけてくれるその態度が嬉しいです。
しかし、じっさいには、わたしは「リラマリアさま」ではありません。
それにもかかわらず、エステラはわたしのことを「伯爵令嬢リラマリア・クンツァー」だと認識しているのです。
だから、わたしがなぜこの成績に衝撃を受けているのかわからないのでしょう。
彼女はわたしが伯爵たちと決して伯爵家の家名を汚したりしないことを約束したとは知らないということです。
そして、また、わたしのことをリラマリアだと思い込んでいるのは彼女だけではありません。
むしろ、この学院にはわたしの正体を知っている人間はたったひとりしかおらず、ほとんどだれもがわたしのことを「リラマリア」として認識しているのです。
ですが、ほんとうはわたしはそのリラマリアさまに仕える娘のひとりに過ぎません。
それが、なぜ、リラマリアさまに化けて学院に入学することになったのか。そこにはもちろん、それなりの事情があるのですが、つまりはわたしはリラマリアさまの「身代わり」を努めているのです。
ああ、それにしても、いったいどうしてこんなことになったのでしょう。
そもそも、リラマリアさまの姿と名前で学院に忍び込んだりしなければ、このようなことになるはずもありませんでした。
やはり、あの日、伯爵の望みを受け入れたことが間違いだったのかもしれません。
わたしはもういちど成績順位を眺め、ちょっと気が遠くなったりしながら、まだわたしが単なるひとりのメイドで、無邪気に仕事を楽しめていた頃に想いを馳せました。
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