9 / 11
第一章 白道
天使が通る、大行進! その2
しおりを挟む
「失礼します」
「おー! 話題の人、到着! 大変だったね陽介クン」
「……黄塚君、お疲れ様」
入ったとたん、二人の先輩からねぎらいのお言葉をいただいた。一人はとっても楽しそうに、今一人は同情の色を顔に浮かべて。
一応、何に対する気遣いか分かるので、僕は軽く笑って頭を下げるだけにした。
地学準備室の中央にある小さな長方形のテーブルには、椅子がかろうじて六脚納まってる。
奥の上座と言える一脚は部長専用で、他は自由に座っていいらしい。
蒼川先輩と玄丘先輩は二人並んで一辺を陣取っている。
僕は一番手前の椅子に座わり、鞄を足下に置いた。
机の上には柔らかそうな布がテーブルクロス代わりに敷かれていて、天然石の原石やビーズが数多く並べられているので、他のものを置くスペースは無い。
「あれ、白道さんはまだですか?」
先に教室を出たはずのクラスメイトの姿が見えないので、不思議に思った僕の質問には、すぐに答えが返ってきた。
背後から聞こえた扉の開く音と共に。
「失礼します。遅くなりました」
「ちっとも遅くないよ、笹ちゃん。ま、こっちにおいでおいで」
朱沼部長が招き猫のような仕草で、白道さんを近くの席に導く。
我が同級生は僕と部長を交互に見た後、結局部長寄りの席を選んで座った。
さて、これでPS倶楽部全員がそろった訳だ。
さっそく今日抱いた疑問をぶつけようと口を開きかけた僕より先に、部長が立ち上がって部員を見渡していた。
「今朝の事だけど、説明するよ」
パワーストーン同好会の件か。
それはそれで聞きたかったし、僕の疑問と無関係ではないから、ひとまずおとなしく聞く事にした。
白道さんも姿勢を正して部長をみつめている。
誰もが口を閉ざし、部長の言葉を待っていた。奇妙な空白。
「昨年パワーストーン同好会から、あたしと蒼川と玄丘が離脱してPS倶楽部を立ち上げた。主に蒼川の人気で倶楽部に入部申請が殺到。パワーストーン同好会は怒りました。以上」
部長は一気に言い放ち、2度程頷いた後、椅子に座って腕をくんだ。
そして沈黙。
耳にかすかに届くのは、運動場からの野球部のかけ声。
白道さんがゆっくりと首を傾げ、なぜか僕の方を向いた。
眼を閉じふんぞり返ったままの朱沼部長。蒼川先輩は遠い眼をして窓から外を眺め、玄丘先輩はひっそりとため息をつく。
天使が通るっていうか、むしろ天使の百鬼夜行状態。
さらに10数秒、やや西に傾き始めた陽の光が窓を射つ音まで聞こえてきそうな静寂が続き、僕はたまらず声を出した。
「……あの、それだけ、ですか?」
我ながら信じられないくらいとぼけた声が喉から滑り出して、室内に響いた。
とたんに振り向く蒼川先輩。
「だよね、だよねー! ホント些細な事なのにさ、同好会の人たち、そりゃもうぷりぷりしちゃってさ。特に美登里なんて何かにつけていちゃもんつけてくるし」
「……宝珠が言うと、ちょっと複雑」
「どういう意味よー!」
頬を膨らませ、ミステリアスな親友にくってかかる美少女先輩。
それはそれで見る価値のある素晴らしい光景なのかもしれないけど、僕としてはもう机に突っ伏したい程、脱力感が半端無くって気にならなかった。
「いえ、蒼川先輩。そういう意味ではなくって、説明としてあまりにも省略し過ぎじゃないですか? ってことなんですけど」
なんとか自身を支えながら、もう一度問いかける。
今、部長が説明した大筋は今日一日の質疑応答でだいたい分かっている。
僕としてはもっと詳細が知りたかった訳で、一言で片付けられてしまっては共感も反感も持ちようがない。
この部室内で唯一僕と同じ立場にいるはずの白道さんは、黙って部長を見ていた。
その横顔はどう表現したらいいのだろう。
達観したような、覚悟を決めたような、とにかく穏やかさを通り過ぎて飄々とした雰囲気を醸し出していて、朝の彼女とは印象が違っていた。
そういえば、ホームルームの後、白道さんとは全然話せなかった。
とにかく休み時間も拘束されていたし、もう自分の事で手一杯だったから彼女の姿すら見た覚えが無い。
もしかしたら僕の知らないところで何かあったのだろうか。
考えてみれば、彼女だってPS倶楽部の新入部員だ。
昨年も女子の入部希望者がいたはずで、男子と同じく却下されたのだろうから、白道さんも僕と同じような質問攻めにあっていてもおかしくない。
僕はますます追求する必要を感じた。
仮入部の件も含めて、問題はすべて倶楽部と同好会の関係から始まっているように思える。そもそもなんで同好会から離脱することになったのだろう。
部長は僕と白道さんを見た後、腕組をほどいて自身の首筋をほぐすようになでた。
「退会する時はちゃんと天城とも話し合ったし、同好会メンバーの了承も得た上でだったんだけどね」
やや不承不承といった表情だけれど、語り始めた朱沼部長。
しかし、続きは静かに開かれた引き戸の音とともに、流れてきた別の声に取って代わられた。
落ち着いた中に、凛とした意思の強さを感じさせる声色。
「確かに話し合いました。PS倶楽部の立ち上げだって事前にちゃんと相談されました。朱沼さんは強引ですけど、義理を欠くような真似はしない人ですもの」
「天城。ノックぐらいしなよ。あんたらしくもない」
入り口に佇むのは、朝校門前で出会った大和撫子。パワーストーン同好会の会長、天城先輩だった。
「おー! 話題の人、到着! 大変だったね陽介クン」
「……黄塚君、お疲れ様」
入ったとたん、二人の先輩からねぎらいのお言葉をいただいた。一人はとっても楽しそうに、今一人は同情の色を顔に浮かべて。
一応、何に対する気遣いか分かるので、僕は軽く笑って頭を下げるだけにした。
地学準備室の中央にある小さな長方形のテーブルには、椅子がかろうじて六脚納まってる。
奥の上座と言える一脚は部長専用で、他は自由に座っていいらしい。
蒼川先輩と玄丘先輩は二人並んで一辺を陣取っている。
僕は一番手前の椅子に座わり、鞄を足下に置いた。
机の上には柔らかそうな布がテーブルクロス代わりに敷かれていて、天然石の原石やビーズが数多く並べられているので、他のものを置くスペースは無い。
「あれ、白道さんはまだですか?」
先に教室を出たはずのクラスメイトの姿が見えないので、不思議に思った僕の質問には、すぐに答えが返ってきた。
背後から聞こえた扉の開く音と共に。
「失礼します。遅くなりました」
「ちっとも遅くないよ、笹ちゃん。ま、こっちにおいでおいで」
朱沼部長が招き猫のような仕草で、白道さんを近くの席に導く。
我が同級生は僕と部長を交互に見た後、結局部長寄りの席を選んで座った。
さて、これでPS倶楽部全員がそろった訳だ。
さっそく今日抱いた疑問をぶつけようと口を開きかけた僕より先に、部長が立ち上がって部員を見渡していた。
「今朝の事だけど、説明するよ」
パワーストーン同好会の件か。
それはそれで聞きたかったし、僕の疑問と無関係ではないから、ひとまずおとなしく聞く事にした。
白道さんも姿勢を正して部長をみつめている。
誰もが口を閉ざし、部長の言葉を待っていた。奇妙な空白。
「昨年パワーストーン同好会から、あたしと蒼川と玄丘が離脱してPS倶楽部を立ち上げた。主に蒼川の人気で倶楽部に入部申請が殺到。パワーストーン同好会は怒りました。以上」
部長は一気に言い放ち、2度程頷いた後、椅子に座って腕をくんだ。
そして沈黙。
耳にかすかに届くのは、運動場からの野球部のかけ声。
白道さんがゆっくりと首を傾げ、なぜか僕の方を向いた。
眼を閉じふんぞり返ったままの朱沼部長。蒼川先輩は遠い眼をして窓から外を眺め、玄丘先輩はひっそりとため息をつく。
天使が通るっていうか、むしろ天使の百鬼夜行状態。
さらに10数秒、やや西に傾き始めた陽の光が窓を射つ音まで聞こえてきそうな静寂が続き、僕はたまらず声を出した。
「……あの、それだけ、ですか?」
我ながら信じられないくらいとぼけた声が喉から滑り出して、室内に響いた。
とたんに振り向く蒼川先輩。
「だよね、だよねー! ホント些細な事なのにさ、同好会の人たち、そりゃもうぷりぷりしちゃってさ。特に美登里なんて何かにつけていちゃもんつけてくるし」
「……宝珠が言うと、ちょっと複雑」
「どういう意味よー!」
頬を膨らませ、ミステリアスな親友にくってかかる美少女先輩。
それはそれで見る価値のある素晴らしい光景なのかもしれないけど、僕としてはもう机に突っ伏したい程、脱力感が半端無くって気にならなかった。
「いえ、蒼川先輩。そういう意味ではなくって、説明としてあまりにも省略し過ぎじゃないですか? ってことなんですけど」
なんとか自身を支えながら、もう一度問いかける。
今、部長が説明した大筋は今日一日の質疑応答でだいたい分かっている。
僕としてはもっと詳細が知りたかった訳で、一言で片付けられてしまっては共感も反感も持ちようがない。
この部室内で唯一僕と同じ立場にいるはずの白道さんは、黙って部長を見ていた。
その横顔はどう表現したらいいのだろう。
達観したような、覚悟を決めたような、とにかく穏やかさを通り過ぎて飄々とした雰囲気を醸し出していて、朝の彼女とは印象が違っていた。
そういえば、ホームルームの後、白道さんとは全然話せなかった。
とにかく休み時間も拘束されていたし、もう自分の事で手一杯だったから彼女の姿すら見た覚えが無い。
もしかしたら僕の知らないところで何かあったのだろうか。
考えてみれば、彼女だってPS倶楽部の新入部員だ。
昨年も女子の入部希望者がいたはずで、男子と同じく却下されたのだろうから、白道さんも僕と同じような質問攻めにあっていてもおかしくない。
僕はますます追求する必要を感じた。
仮入部の件も含めて、問題はすべて倶楽部と同好会の関係から始まっているように思える。そもそもなんで同好会から離脱することになったのだろう。
部長は僕と白道さんを見た後、腕組をほどいて自身の首筋をほぐすようになでた。
「退会する時はちゃんと天城とも話し合ったし、同好会メンバーの了承も得た上でだったんだけどね」
やや不承不承といった表情だけれど、語り始めた朱沼部長。
しかし、続きは静かに開かれた引き戸の音とともに、流れてきた別の声に取って代わられた。
落ち着いた中に、凛とした意思の強さを感じさせる声色。
「確かに話し合いました。PS倶楽部の立ち上げだって事前にちゃんと相談されました。朱沼さんは強引ですけど、義理を欠くような真似はしない人ですもの」
「天城。ノックぐらいしなよ。あんたらしくもない」
入り口に佇むのは、朝校門前で出会った大和撫子。パワーストーン同好会の会長、天城先輩だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
午後の紅茶にくちづけを
TomonorI
キャラ文芸
"…こんな気持ち、間違ってるって分かってる…。…それでもね、私…あなたの事が好きみたい"
政界の重鎮や大御所芸能人、世界をまたにかける大手企業など各界トップクラスの娘が通う超お嬢様学校──聖白百合女学院。
そこには選ばれた生徒しか入部すら認められない秘密の部活が存在する。
昼休みや放課後、お気に入りの紅茶とお菓子を持ち寄り選ばれし7人の少女がガールズトークに花を咲かせることを目的とする──午後の紅茶部。
いつも通りガールズトークの前に紅茶とお菓子の用意をしている時、一人の少女が突然あるゲームを持ちかける。
『今年中に、自分の好きな人に想いを伝えて結ばれること』
恋愛の"れ"の字も知らない花も恥じらう少女達は遊び半分でのっかるも、徐々に真剣に本気の恋愛に取り組んでいく。
女子高生7人(+男子7人)による百合小説、になる予定。
極力全年齢対象を目標に頑張っていきたいけど、もしかしたら…もしかしたら…。
紅茶も恋愛もストレートでなくても美味しいものよ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
シャ・ベ クル
うてな
キャラ文芸
これは昭和後期を舞台にしたフィクション。
異端な五人が織り成す、依頼サークルの物語…
夢を追う若者達が集う学園『夢の島学園』。その学園に通う学園主席のロディオン。彼は人々の幸福の為に、悩みや依頼を承るサークル『シャ・ベ クル』を結成する。受ける依頼はボランティアから、大事件まで…!?
主席、神様、お坊ちゃん、シスター、893?
部員の成長を描いたコメディタッチの物語。
シャ・ベ クルは、あなたの幸せを応援します。
※※※
この作品は、毎週月~金の17時に投稿されます。
2023年05月01日 一章『人間ドール開放編』
~2023年06月27日
二章 … 未定
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
あやかし探偵倶楽部、始めました!
えっちゃん
キャラ文芸
文明開化が花開き、明治の年号となり早二十数年。
かつて妖と呼ばれ畏れられていた怪異達は、文明開化という時勢の中、人々の記憶から消えかけていた。
母親を流行り病で亡くした少女鈴(すず)は、母親の実家であり数百年続く名家、高梨家へ引き取られることになった。
高梨家では伯父夫婦から冷遇され従兄弟達から嫌がらせにあい、ある日、いわくつきの物が仕舞われている蔵へ閉じ込められてしまう。
そして偶然にも、隠し扉の奥に封印されていた妖刀の封印を解いてしまうのだった。
多くの人の血肉を啜った妖刀は長い年月を経て付喪神となり、封印を解いた鈴を贄と認識して襲いかかった。その結果、二人は隷属の契約を結ぶことになってしまう。
付喪神の力を借りて高梨家一員として認められて学園に入学した鈴は、学友の勧誘を受けて“あやかし探偵俱楽部”に入るのだが……
妖達の起こす事件に度々巻き込まれる鈴と、恐くて過保護な付喪神の話。
*素敵な表紙イラストは、奈嘉でぃ子様に依頼しました。
*以前、連載していた話に加筆手直しをしました。のんびり更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる