僕のイシはどこにある?!

阿都

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第一章 白道

天使が通る、大行進! その2

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「失礼します」
「おー! 話題の人、到着! 大変だったね陽介クン」
「……黄塚君、お疲れ様」

 入ったとたん、二人の先輩からねぎらいのお言葉をいただいた。一人はとっても楽しそうに、今一人は同情の色を顔に浮かべて。
 一応、何に対する気遣いか分かるので、僕は軽く笑って頭を下げるだけにした。

 地学準備室の中央にある小さな長方形のテーブルには、椅子がかろうじて六脚納まってる。
 奥の上座と言える一脚は部長専用で、他は自由に座っていいらしい。
 蒼川先輩と玄丘先輩は二人並んで一辺を陣取っている。

 僕は一番手前の椅子に座わり、鞄を足下に置いた。
 机の上には柔らかそうな布がテーブルクロス代わりに敷かれていて、天然石の原石やビーズが数多く並べられているので、他のものを置くスペースは無い。

「あれ、白道さんはまだですか?」

 先に教室を出たはずのクラスメイトの姿が見えないので、不思議に思った僕の質問には、すぐに答えが返ってきた。
 背後から聞こえた扉の開く音と共に。

「失礼します。遅くなりました」
「ちっとも遅くないよ、笹ちゃん。ま、こっちにおいでおいで」

 朱沼部長が招き猫のような仕草で、白道さんを近くの席に導く。
 我が同級生は僕と部長を交互に見た後、結局部長寄りの席を選んで座った。

 さて、これでPS倶楽部全員がそろった訳だ。
 さっそく今日抱いた疑問をぶつけようと口を開きかけた僕より先に、部長が立ち上がって部員を見渡していた。

「今朝の事だけど、説明するよ」

 パワーストーン同好会の件か。
 それはそれで聞きたかったし、僕の疑問と無関係ではないから、ひとまずおとなしく聞く事にした。
 白道さんも姿勢を正して部長をみつめている。

 誰もが口を閉ざし、部長の言葉を待っていた。奇妙な空白。

「昨年パワーストーン同好会から、あたしと蒼川と玄丘が離脱してPS倶楽部を立ち上げた。主に蒼川の人気で倶楽部に入部申請が殺到。パワーストーン同好会は怒りました。以上」

 部長は一気に言い放ち、2度程頷いた後、椅子に座って腕をくんだ。

 そして沈黙。
 耳にかすかに届くのは、運動場からの野球部のかけ声。

 白道さんがゆっくりと首を傾げ、なぜか僕の方を向いた。
 眼を閉じふんぞり返ったままの朱沼部長。蒼川先輩は遠い眼をして窓から外を眺め、玄丘先輩はひっそりとため息をつく。

 天使が通るっていうか、むしろ天使の百鬼夜行状態。

 さらに10数秒、やや西に傾き始めた陽の光が窓を射つ音まで聞こえてきそうな静寂が続き、僕はたまらず声を出した。

「……あの、それだけ、ですか?」

 我ながら信じられないくらいとぼけた声が喉から滑り出して、室内に響いた。
 とたんに振り向く蒼川先輩。

「だよね、だよねー! ホント些細な事なのにさ、同好会の人たち、そりゃもうぷりぷりしちゃってさ。特に美登里なんて何かにつけていちゃもんつけてくるし」
「……宝珠が言うと、ちょっと複雑」
「どういう意味よー!」

 頬を膨らませ、ミステリアスな親友にくってかかる美少女先輩。
 それはそれで見る価値のある素晴らしい光景なのかもしれないけど、僕としてはもう机に突っ伏したい程、脱力感が半端無くって気にならなかった。

「いえ、蒼川先輩。そういう意味ではなくって、説明としてあまりにも省略し過ぎじゃないですか? ってことなんですけど」

 なんとか自身を支えながら、もう一度問いかける。

 今、部長が説明した大筋は今日一日の質疑応答でだいたい分かっている。
 僕としてはもっと詳細が知りたかった訳で、一言で片付けられてしまっては共感も反感も持ちようがない。

 この部室内で唯一僕と同じ立場にいるはずの白道さんは、黙って部長を見ていた。
 その横顔はどう表現したらいいのだろう。
 達観したような、覚悟を決めたような、とにかく穏やかさを通り過ぎて飄々とした雰囲気を醸し出していて、朝の彼女とは印象が違っていた。

 そういえば、ホームルームの後、白道さんとは全然話せなかった。
 とにかく休み時間も拘束されていたし、もう自分の事で手一杯だったから彼女の姿すら見た覚えが無い。

 もしかしたら僕の知らないところで何かあったのだろうか。

 考えてみれば、彼女だってPS倶楽部の新入部員だ。
 昨年も女子の入部希望者がいたはずで、男子と同じく却下されたのだろうから、白道さんも僕と同じような質問攻めにあっていてもおかしくない。

 僕はますます追求する必要を感じた。
 仮入部の件も含めて、問題はすべて倶楽部と同好会の関係から始まっているように思える。そもそもなんで同好会から離脱することになったのだろう。

 部長は僕と白道さんを見た後、腕組をほどいて自身の首筋をほぐすようになでた。

「退会する時はちゃんと天城とも話し合ったし、同好会メンバーの了承も得た上でだったんだけどね」

 やや不承不承といった表情だけれど、語り始めた朱沼部長。
 しかし、続きは静かに開かれた引き戸の音とともに、流れてきた別の声に取って代わられた。

 落ち着いた中に、凛とした意思の強さを感じさせる声色。

「確かに話し合いました。PS倶楽部の立ち上げだって事前にちゃんと相談されました。朱沼さんは強引ですけど、義理を欠くような真似はしない人ですもの」
「天城。ノックぐらいしなよ。あんたらしくもない」

 入り口に佇むのは、朝校門前で出会った大和撫子。パワーストーン同好会の会長、天城先輩だった。
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