28 / 35
第二章 神殿の魔王、魔塔の賢者
(7)
しおりを挟む
「ロッテンくん、起きて!」
「んあっ?なんだ?」
サルエルの声に、ちょうどチーズがとろけるパンを頬張ろうとしていた夢の途中でロッテンは目を覚ました。
「昨日のアイツ、やってくれた!」
「な、なにが?」
状況についていけず、とりあえず布団から出て水桶で顔を洗う。
昨日のアイツとは、魔塔の闇属性魔術師の事だろう。
「確か、レガリアだっけ?そいつがどうした?」
「ロッテンくんを魔塔に連れて行くつもりらしいんよ」
扉に立ち塞がっていたサルエルが、一歩退くと、外に待ち構えていた男がロッテンに向けて、手元の書状を読み上げた。
「サンカレド領主フォーゼフ・サンカレドの名において、冒険者ギルド登録者の腐属性魔術師ロッテンは、魔塔への召喚要請に従うことを命ず」
「は?どういう事?」
突然の命令に戸惑うロッテンを置いてけぼりにして、官吏と思しき男はさも当たり前のように出口を示して続けた。
「なお、馬車は魔塔からの要請を受け、サンカレド様のご好意で用意されている。さっさと乗りたまえ」
「この国の王様に魔塔がお願いして、君を迎えにきたって事。神殿に連れてこられた時と同じさ」
「なるほど…拒否権なしって事だな?」
サルエルはロッテンに頷いた後、官吏に尋ねた。
「今、ロッテンくんは我々神殿の保護下にあるんだけど、保護者のボクはもちろん同行して良いね?」
「特に指定は無いので、問題ない」
「じゃあ…用意を済ませたら行こうか」
二人は乗り気のしない旅支度を始めた。
特に多くの荷物もないため、支度はすぐに整った。
魔塔の本拠地は、サンカレドの北にあるアレッサンド王国の首都に置かれている。
魔塔、即ち六芒星会の本部は、天に届くかという高さの文字通りシンボルタワーを中心に、周りを火・水・風・土・光・闇と、それぞれの属性ごとに区分けして、各部門ごとに研究を行なっている。
七芒星教と違うのは、聖属性を光属性の一部と捉えている事と、宗教色は全くない学者の集まりだという事だ。
「すげぇ…」
「たしかに、これは壮観だね」
馬車の窓からは、空に浮かぶ魔導艇や、線路の上を無人で走る路面魔車が往来している。
神殿の本拠地であるセブ聖国の白亜の宮殿のような荘厳さはないが、都会的な街並みと、飾り気はないが堅牢な作りの塔の重厚感は目を見張る物がある。
馬車を3度ほど変えて、約四日間の旅を終えた二人はようやく解放された気分になれた。
「これが呼び出しじゃなくて、観光なら楽しいんだろうねぇ」
うーん、と背伸びをしながら独りごちるサルエルを見上げて、まったくその通りだとロッテンも思った。
「おーい!」
と、塔の入り口から黒のローブを着た男が、間延びしたような気安い声色で二人に手を振るのが見えた。
「レガリア…さん?」
「やあ、ロッテンくん。馬車が来るのを皆、今か今かとお待ちしていましたよ!」
ロッテンの手を引いて、塔へとズンズン進んでいくレガリアの腕を捉えて、サルエルが静止する。
「おい、アンタ!ロッテンくんが怯えてる、一旦とまれ」
「これはこれは、ええっと、誰でしたっけ?」
ロッテンのてをパッと解放して、レガリアはサルエルの存在に首を傾げた。
「ロッテンくんの保護者のサルエル、光属性のエクソシスト、二度も名乗らせるなよ」
「あ、ああ!そうでしたっけ?いやぁ、申し訳ありません、興味のない事はすぐ忘れてしまうタチでしてね」
「ふんっ!まあいいよ。それより、いきなりどこに連れて行く気だい?何が目的で呼び出したんだ?ロッテンくんに何を望んでいる?その辺りをまず説明してからじゃないと、ロッテンくんは不安だろうが!」
ビシッとレガリアに指を突きつける様子に、ロッテンはボソッと感想を漏らした。
「サルエルがなんか頼もしい…」
「茶化さないの、一応、これでも保護者なんだよ。だからさ、先ずはちゃんと説明をしてくれな?」
「分かりました、皆を待たせているので、簡単に説明しながら会場に向かいましょう」
レガリアはそういうと、再びロッテンの手を引いて歩き出した。
新しい属性が発見された事をその日のうちに魔塔に知らせたところ、皆が大いに関心を持ったため、一度本部に呼び寄せたという事、今から各属性の研究部門長の会議に出て欲しいという事、ロッテンの魔法を実際に確認して、研究させて欲しいという事などをレガリアは説明してくれた。
やって欲しい事は、神殿で魔術確認をした時とあまり変わらない事に、少しだけホッとした。
「さあ、ここが会議の会場です」
話し終えたとほぼ同時に、会議場の扉をレガリアは押し開いた。
「んあっ?なんだ?」
サルエルの声に、ちょうどチーズがとろけるパンを頬張ろうとしていた夢の途中でロッテンは目を覚ました。
「昨日のアイツ、やってくれた!」
「な、なにが?」
状況についていけず、とりあえず布団から出て水桶で顔を洗う。
昨日のアイツとは、魔塔の闇属性魔術師の事だろう。
「確か、レガリアだっけ?そいつがどうした?」
「ロッテンくんを魔塔に連れて行くつもりらしいんよ」
扉に立ち塞がっていたサルエルが、一歩退くと、外に待ち構えていた男がロッテンに向けて、手元の書状を読み上げた。
「サンカレド領主フォーゼフ・サンカレドの名において、冒険者ギルド登録者の腐属性魔術師ロッテンは、魔塔への召喚要請に従うことを命ず」
「は?どういう事?」
突然の命令に戸惑うロッテンを置いてけぼりにして、官吏と思しき男はさも当たり前のように出口を示して続けた。
「なお、馬車は魔塔からの要請を受け、サンカレド様のご好意で用意されている。さっさと乗りたまえ」
「この国の王様に魔塔がお願いして、君を迎えにきたって事。神殿に連れてこられた時と同じさ」
「なるほど…拒否権なしって事だな?」
サルエルはロッテンに頷いた後、官吏に尋ねた。
「今、ロッテンくんは我々神殿の保護下にあるんだけど、保護者のボクはもちろん同行して良いね?」
「特に指定は無いので、問題ない」
「じゃあ…用意を済ませたら行こうか」
二人は乗り気のしない旅支度を始めた。
特に多くの荷物もないため、支度はすぐに整った。
魔塔の本拠地は、サンカレドの北にあるアレッサンド王国の首都に置かれている。
魔塔、即ち六芒星会の本部は、天に届くかという高さの文字通りシンボルタワーを中心に、周りを火・水・風・土・光・闇と、それぞれの属性ごとに区分けして、各部門ごとに研究を行なっている。
七芒星教と違うのは、聖属性を光属性の一部と捉えている事と、宗教色は全くない学者の集まりだという事だ。
「すげぇ…」
「たしかに、これは壮観だね」
馬車の窓からは、空に浮かぶ魔導艇や、線路の上を無人で走る路面魔車が往来している。
神殿の本拠地であるセブ聖国の白亜の宮殿のような荘厳さはないが、都会的な街並みと、飾り気はないが堅牢な作りの塔の重厚感は目を見張る物がある。
馬車を3度ほど変えて、約四日間の旅を終えた二人はようやく解放された気分になれた。
「これが呼び出しじゃなくて、観光なら楽しいんだろうねぇ」
うーん、と背伸びをしながら独りごちるサルエルを見上げて、まったくその通りだとロッテンも思った。
「おーい!」
と、塔の入り口から黒のローブを着た男が、間延びしたような気安い声色で二人に手を振るのが見えた。
「レガリア…さん?」
「やあ、ロッテンくん。馬車が来るのを皆、今か今かとお待ちしていましたよ!」
ロッテンの手を引いて、塔へとズンズン進んでいくレガリアの腕を捉えて、サルエルが静止する。
「おい、アンタ!ロッテンくんが怯えてる、一旦とまれ」
「これはこれは、ええっと、誰でしたっけ?」
ロッテンのてをパッと解放して、レガリアはサルエルの存在に首を傾げた。
「ロッテンくんの保護者のサルエル、光属性のエクソシスト、二度も名乗らせるなよ」
「あ、ああ!そうでしたっけ?いやぁ、申し訳ありません、興味のない事はすぐ忘れてしまうタチでしてね」
「ふんっ!まあいいよ。それより、いきなりどこに連れて行く気だい?何が目的で呼び出したんだ?ロッテンくんに何を望んでいる?その辺りをまず説明してからじゃないと、ロッテンくんは不安だろうが!」
ビシッとレガリアに指を突きつける様子に、ロッテンはボソッと感想を漏らした。
「サルエルがなんか頼もしい…」
「茶化さないの、一応、これでも保護者なんだよ。だからさ、先ずはちゃんと説明をしてくれな?」
「分かりました、皆を待たせているので、簡単に説明しながら会場に向かいましょう」
レガリアはそういうと、再びロッテンの手を引いて歩き出した。
新しい属性が発見された事をその日のうちに魔塔に知らせたところ、皆が大いに関心を持ったため、一度本部に呼び寄せたという事、今から各属性の研究部門長の会議に出て欲しいという事、ロッテンの魔法を実際に確認して、研究させて欲しいという事などをレガリアは説明してくれた。
やって欲しい事は、神殿で魔術確認をした時とあまり変わらない事に、少しだけホッとした。
「さあ、ここが会議の会場です」
話し終えたとほぼ同時に、会議場の扉をレガリアは押し開いた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる