21 / 35
第一章 聖女の誕生と異端審問
(18)
しおりを挟む
「離せよっ!全部の試練は終わったのに、なんでだよ!」
バタバタと足を振り回しながら、僧兵に連行され、ロッテンは再び地下牢へと押し込まれた。
「おかえり、ロッテンよ生きておったか。やはり、予想通りになったのう」
クレマチスの面白そうな顔とは反対に、ロッテンは仏頂面で床に座り込んだ。
「そりゃあ、タダで逃がしてくれるとは思ってないけどさ、せめて宿舎で監視付き生活位には戻れるかなって思うでしょ?」
「甘かろうて…今やマリアは聖女、それも卿が"魔王を抑え滅する"ための存在と位置付けた。そのマリアの側近くに、魔王本人を野放しで住まわすなどせんじゃろう」
カラカラと笑うクレマチスを恨めしげに仰ぎ見て、ロッテンは拗ねた顔を見せる。
「なにせ、神の奇跡ではなく、魔物を召喚したりで試練を乗り越えとるからの、何がなんでも魔王の化身として葬り去るつもりじゃろうて」
「不条理だぁー!」
「まあ、ワシとておヌシを殺されて、マリアに二ノ鉄は踏ませとうはない。じゃからのぅ」
ーーディスペル!
小さな手のひらから放たれた何かによって、極薄のガラスにペキペキとヒビが入り、割れ落ちるような音がする。
「これで、魔法無効の術は破れた。ロッテンよ、共に脱獄しようぞ?」
ニヤリと笑うクレマチスの顔とは裏腹に、怒りのオーラが滲み出ているようで、一瞬ドキリとした。
ロッテンは、スキル腐食を使って鉄格子に穴を開け、クレマチスの牢も同様に破った。
「さあ、行こうかの」
勝手知ったる様子で歩くクレマチスに付いて出口に向かう。
「っていうか、魔法使えたんだ?」
先程のディスペルとは、解呪の魔法だ。
クレマチスは魔法を使えなくなったと言っていたのに、なぜ?と、疑問が湧くのは当たり前のことだ。
「爪が伸びたのと同じことじゃ。役目が終わってからは、徐々に魔力を取り戻しつつあるみたいじゃな」
今はディスペルを放つだけで精一杯だったと、クレマチスは言う。
出口付近までたどり着くと、当然見張りの者が立っているはずだが…
「え?見張りが1人だけ?」
ロッテンは訝しんで目を凝らす。
出口に1人立っていた男には、その小さな呟きが届いていた。
「そんな訳ないじゃーん?皆んなには眠ってもらってんの」
「あ!サルエル?!」
足元でイビキをかいて寝こけている僧兵を乗り越えて、監視役のエクソシストが手を振ってくる。
「いえーす、生きてて、よかったねー」
「あれ?アンタ枢機卿側だったんじゃないのか、オレを捕らえたのもアンタだよな?」
「サルエルはワシの可愛い教え子じゃ、裏切ったりなぞせんよ」
「そうだよ、大恩ある教皇猊下を僕が裏切る訳ないじゃないか」
「いや、アンタ達の関係なんか知らないんですけど?」
まあまあ、と、クレマチスはロッテンをなだめた。そして、どこから説明しようかと話を切り出した。
「ワシは幼いサルエルを拾い、弟子としてエクソシストに育てた。その関係性を利用しようとしていたのか、少し前から枢機卿がサルエルに近づいてきおった」
「枢機卿のジイさん、しつこかったから、味方になったフリしてみたんよ。で、逐一その動きを教皇猊下にご報告してたってワケ」
二重スパイってやつだね!と、サルエルは誇らしげに胸を張った。
「結構、試練でもロッテン君に貢献したんだよー?縄に魔法無効の術をかけなかったりとか、なるべく死ななそうな崖を選んだりとかさー」
「そりゃあどうも…でもだったら最初から直ぐに逃がしてくれればよかったのに」
「異端審問に問われたまま逃亡すれば罪人となるじゃろ?じゃから、試練を乗り越えた後でなければおヌシは逃亡をできんかったのじゃよ」
「乗り越えられなかったらどうする気だったんだよ!」
実際、火の試練の時は火傷も負ったし、他でも死ぬと何度も思った。
「魔王を宿しておるのじゃ、そう簡単にしにゃあせんよ」
「…このっ!」
クソババアと言いかけたロッテンを遮るようにサルエルが急かした。
「お喋りはこのくらいにして、ロッテン君、行こう。見張りが起きたら面倒になる」
「うむ、ロッテンを頼んだぞ」
手を振って別れを惜しむようにクレマチスは佇んだ。
「一緒に逃げないのか?」
「逃げられないよ、だって、彼女こそが教皇猊下、この神殿の主なんだから」
「マリアの事は任せておけ、必ずや枢機卿派から取り返してやる」
「さあ、こっちだよ」
意外な力強さで腕を引かれ、半ば引きずられるように裏門に停めてある荷馬車の荷台に押し込められた。
「とりあえず、神殿の影響が及ばない南の方へ向かおう」
こうして、ロッテンは七芒星教の総本山を後にする事となったのだった。
バタバタと足を振り回しながら、僧兵に連行され、ロッテンは再び地下牢へと押し込まれた。
「おかえり、ロッテンよ生きておったか。やはり、予想通りになったのう」
クレマチスの面白そうな顔とは反対に、ロッテンは仏頂面で床に座り込んだ。
「そりゃあ、タダで逃がしてくれるとは思ってないけどさ、せめて宿舎で監視付き生活位には戻れるかなって思うでしょ?」
「甘かろうて…今やマリアは聖女、それも卿が"魔王を抑え滅する"ための存在と位置付けた。そのマリアの側近くに、魔王本人を野放しで住まわすなどせんじゃろう」
カラカラと笑うクレマチスを恨めしげに仰ぎ見て、ロッテンは拗ねた顔を見せる。
「なにせ、神の奇跡ではなく、魔物を召喚したりで試練を乗り越えとるからの、何がなんでも魔王の化身として葬り去るつもりじゃろうて」
「不条理だぁー!」
「まあ、ワシとておヌシを殺されて、マリアに二ノ鉄は踏ませとうはない。じゃからのぅ」
ーーディスペル!
小さな手のひらから放たれた何かによって、極薄のガラスにペキペキとヒビが入り、割れ落ちるような音がする。
「これで、魔法無効の術は破れた。ロッテンよ、共に脱獄しようぞ?」
ニヤリと笑うクレマチスの顔とは裏腹に、怒りのオーラが滲み出ているようで、一瞬ドキリとした。
ロッテンは、スキル腐食を使って鉄格子に穴を開け、クレマチスの牢も同様に破った。
「さあ、行こうかの」
勝手知ったる様子で歩くクレマチスに付いて出口に向かう。
「っていうか、魔法使えたんだ?」
先程のディスペルとは、解呪の魔法だ。
クレマチスは魔法を使えなくなったと言っていたのに、なぜ?と、疑問が湧くのは当たり前のことだ。
「爪が伸びたのと同じことじゃ。役目が終わってからは、徐々に魔力を取り戻しつつあるみたいじゃな」
今はディスペルを放つだけで精一杯だったと、クレマチスは言う。
出口付近までたどり着くと、当然見張りの者が立っているはずだが…
「え?見張りが1人だけ?」
ロッテンは訝しんで目を凝らす。
出口に1人立っていた男には、その小さな呟きが届いていた。
「そんな訳ないじゃーん?皆んなには眠ってもらってんの」
「あ!サルエル?!」
足元でイビキをかいて寝こけている僧兵を乗り越えて、監視役のエクソシストが手を振ってくる。
「いえーす、生きてて、よかったねー」
「あれ?アンタ枢機卿側だったんじゃないのか、オレを捕らえたのもアンタだよな?」
「サルエルはワシの可愛い教え子じゃ、裏切ったりなぞせんよ」
「そうだよ、大恩ある教皇猊下を僕が裏切る訳ないじゃないか」
「いや、アンタ達の関係なんか知らないんですけど?」
まあまあ、と、クレマチスはロッテンをなだめた。そして、どこから説明しようかと話を切り出した。
「ワシは幼いサルエルを拾い、弟子としてエクソシストに育てた。その関係性を利用しようとしていたのか、少し前から枢機卿がサルエルに近づいてきおった」
「枢機卿のジイさん、しつこかったから、味方になったフリしてみたんよ。で、逐一その動きを教皇猊下にご報告してたってワケ」
二重スパイってやつだね!と、サルエルは誇らしげに胸を張った。
「結構、試練でもロッテン君に貢献したんだよー?縄に魔法無効の術をかけなかったりとか、なるべく死ななそうな崖を選んだりとかさー」
「そりゃあどうも…でもだったら最初から直ぐに逃がしてくれればよかったのに」
「異端審問に問われたまま逃亡すれば罪人となるじゃろ?じゃから、試練を乗り越えた後でなければおヌシは逃亡をできんかったのじゃよ」
「乗り越えられなかったらどうする気だったんだよ!」
実際、火の試練の時は火傷も負ったし、他でも死ぬと何度も思った。
「魔王を宿しておるのじゃ、そう簡単にしにゃあせんよ」
「…このっ!」
クソババアと言いかけたロッテンを遮るようにサルエルが急かした。
「お喋りはこのくらいにして、ロッテン君、行こう。見張りが起きたら面倒になる」
「うむ、ロッテンを頼んだぞ」
手を振って別れを惜しむようにクレマチスは佇んだ。
「一緒に逃げないのか?」
「逃げられないよ、だって、彼女こそが教皇猊下、この神殿の主なんだから」
「マリアの事は任せておけ、必ずや枢機卿派から取り返してやる」
「さあ、こっちだよ」
意外な力強さで腕を引かれ、半ば引きずられるように裏門に停めてある荷馬車の荷台に押し込められた。
「とりあえず、神殿の影響が及ばない南の方へ向かおう」
こうして、ロッテンは七芒星教の総本山を後にする事となったのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
異世界に転生!堪能させて頂きます
葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。
大手企業の庶務課に勤める普通のOL。
今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。
ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ!
死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。
女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。
「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」
笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉
鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉
趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。
こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。
何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m
僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強武将と共に超大国を創る
瀬戸夏樹
ファンタジー
時は乱世。
ユーベル大公国領主フリードには4人の息子がいた。
長男アルベルトは武勇に優れ、次男イアンは学識豊か、3男ルドルフは才覚持ち。
4男ノアのみ何の取り柄もなく奇矯な行動ばかり起こす「うつけ」として名が通っていた。
3人の優秀な息子達はそれぞれその評判に見合う当たりギフトを授かるが、ノアはギフト判定においてもハズレギフト【鑑定士】を授かってしまう。
「このうつけが!」
そう言ってノアに失望した大公は、ノアを僻地へと追放する。
しかし、人々は知らない。
ノアがうつけではなく王の器であることを。
ノアには自身の戦闘能力は無くとも、鑑定スキルによって他者の才を見出し活かす力があったのである。
ノアは女騎士オフィーリアをはじめ、大公領で埋もれていた才や僻地に眠る才を掘り起こし富国強兵の道を歩む。
有能な武将達を率いる彼は、やがて大陸を席巻する超大国を創り出す。
なろう、カクヨムにも掲載中。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる