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第一章 聖女の誕生と異端審問

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「離せよっ!全部の試練は終わったのに、なんでだよ!」
バタバタと足を振り回しながら、僧兵に連行され、ロッテンは再び地下牢へと押し込まれた。
「おかえり、ロッテンよ生きておったか。やはり、予想通りになったのう」
クレマチスの面白そうな顔とは反対に、ロッテンは仏頂面で床に座り込んだ。
「そりゃあ、タダで逃がしてくれるとは思ってないけどさ、せめて宿舎で監視付き生活位には戻れるかなって思うでしょ?」
「甘かろうて…今やマリアは聖女、それも卿が"魔王を抑え滅する"ための存在と位置付けた。そのマリアの側近くに、魔王本人を野放しで住まわすなどせんじゃろう」
カラカラと笑うクレマチスを恨めしげに仰ぎ見て、ロッテンは拗ねた顔を見せる。
「なにせ、神の奇跡ではなく、魔物を召喚したりで試練を乗り越えとるからの、何がなんでも魔王の化身として葬り去るつもりじゃろうて」
「不条理だぁー!」
「まあ、ワシとておヌシを殺されて、マリアに二ノ鉄は踏ませとうはない。じゃからのぅ」

ーーディスペル!

小さな手のひらから放たれた何かによって、極薄のガラスにペキペキとヒビが入り、割れ落ちるような音がする。
「これで、魔法無効の術は破れた。ロッテンよ、共に脱獄しようぞ?」
ニヤリと笑うクレマチスの顔とは裏腹に、怒りのオーラが滲み出ているようで、一瞬ドキリとした。
ロッテンは、スキル腐食を使って鉄格子に穴を開け、クレマチスの牢も同様に破った。
「さあ、行こうかの」
勝手知ったる様子で歩くクレマチスに付いて出口に向かう。
「っていうか、魔法使えたんだ?」
先程のディスペルとは、解呪の魔法だ。
クレマチスは魔法を使えなくなったと言っていたのに、なぜ?と、疑問が湧くのは当たり前のことだ。
「爪が伸びたのと同じことじゃ。役目が終わってからは、徐々に魔力を取り戻しつつあるみたいじゃな」
今はディスペルを放つだけで精一杯だったと、クレマチスは言う。
出口付近までたどり着くと、当然見張りの者が立っているはずだが…
「え?見張りが1人だけ?」
ロッテンは訝しんで目を凝らす。
出口に1人立っていた男には、その小さな呟きが届いていた。
「そんな訳ないじゃーん?皆んなには眠ってもらってんの」
「あ!サルエル?!」
足元でイビキをかいて寝こけている僧兵を乗り越えて、監視役のエクソシストが手を振ってくる。
「いえーす、生きてて、よかったねー」
「あれ?アンタ枢機卿側だったんじゃないのか、オレを捕らえたのもアンタだよな?」
「サルエルはワシの可愛い教え子じゃ、裏切ったりなぞせんよ」
「そうだよ、大恩ある教皇猊下を僕が裏切る訳ないじゃないか」
「いや、アンタ達の関係なんか知らないんですけど?」
まあまあ、と、クレマチスはロッテンをなだめた。そして、どこから説明しようかと話を切り出した。
「ワシは幼いサルエルを拾い、弟子としてエクソシストに育てた。その関係性を利用しようとしていたのか、少し前から枢機卿がサルエルに近づいてきおった」
「枢機卿のジイさん、しつこかったから、味方になったフリしてみたんよ。で、逐一その動きを教皇猊下にご報告してたってワケ」
二重スパイってやつだね!と、サルエルは誇らしげに胸を張った。
「結構、試練でもロッテン君に貢献したんだよー?縄に魔法無効の術をかけなかったりとか、なるべく死ななそうな崖を選んだりとかさー」
「そりゃあどうも…でもだったら最初から直ぐに逃がしてくれればよかったのに」
「異端審問に問われたまま逃亡すれば罪人となるじゃろ?じゃから、試練を乗り越えた後でなければおヌシは逃亡をできんかったのじゃよ」
「乗り越えられなかったらどうする気だったんだよ!」
実際、火の試練の時は火傷も負ったし、他でも死ぬと何度も思った。
「魔王を宿しておるのじゃ、そう簡単にしにゃあせんよ」
「…このっ!」
クソババアと言いかけたロッテンを遮るようにサルエルが急かした。
「お喋りはこのくらいにして、ロッテン君、行こう。見張りが起きたら面倒になる」
「うむ、ロッテンを頼んだぞ」
手を振って別れを惜しむようにクレマチスは佇んだ。
「一緒に逃げないのか?」
「逃げられないよ、だって、彼女こそが教皇猊下、この神殿の主なんだから」
「マリアの事は任せておけ、必ずや枢機卿派から取り返してやる」
「さあ、こっちだよ」
意外な力強さで腕を引かれ、半ば引きずられるように裏門に停めてある荷馬車の荷台に押し込められた。
「とりあえず、神殿の影響が及ばない南の方へ向かおう」
こうして、ロッテンは七芒星教の総本山を後にする事となったのだった。
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