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第一章 聖女の誕生と異端審問
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何人かの祭服を着た神官を通して、大聖堂の最上階にある教皇への拝謁室に通される。
それまでに、シンシアとサルエルのように、マリアとロッテンも修道服のようなものに着替えさせられた。
マリアは白、ロッテンは黒の衣装である。
「面をあげなさい」
許しの言葉を得て、視線を教皇の座に向ける。
さして歳の変わらなく見える少女が、気怠げに腰をおろしていた。
事前にシンシアから教皇の武勇伝を聞いていなければ、もっと驚いただろう。
(教皇さまが魔王を倒したのって、オレたち位の年だったんだ…)
ロッテンは固まったまま、ぼんやりとそんな事を考えた。
「なんじゃなぁ、もっと驚くと思ったが、つまらんのう」
聖クレマチスは残念そうな顔で椅子から飛び降りる。
そのまま緋色の祭服をズルズルと引きずって、マリアへと近づいた。
「おヌシが聖神の愛し子か?」
「はっはい!」
「因みにワシは聖神の双剣じゃよ、この意味が分かるか?」
「え、いえ…分かりません」
「そうか、では昼食でも取りながら、その話をしようか」
クレマチスが視線を送ると、教皇付きの世話係があっという間にテーブルセッティングを終える。
計8名が食卓を囲み、まずは食事への感謝の祈りが行われた。
運ばれた料理にクレマチスが手をつけ、皆が料理を口に運び始めたタイミングで、彼女は再び話題を元に戻した。
「それで先程の話じゃが、恐らく魔王の復活が近い」
「は?」
「え?」
双子が同じタイミングで声をあげてフォークを取り落とした。
声こそあげなかったが、シンシアもサルエルも他3名や、給仕に当たっている世話人さえも、クレマチスに注目した。
「ふぉっふぉっふぉっ。やはり双子とは面白いのぅ、不測の時こそシンクロ率が高いのかのぅ」
と、楽しげにクレマチスは周りを見たが、皆それどころではない様子でクレマチスの説明を待っていた。
咳払いを一つしてスベッたのを誤魔化し、何事もなかったようにクレマチスは続ける。
「ンンッ!魔王復活の根拠じゃが、聖神の〇〇と名の付いた聖属性の魔術師が誕生するのに符合して魔王も誕生するにようなのじゃ。それも、大体200年周期で起こる事象らしい」
図書館から取り寄せた文献と、教皇のみ閲覧できる禁書の内容から、間違い無いだろうとクレマチスは語る。
その事に気付いてから今日まで魔王復活を指摘しなかったのは、200年後が訪れても"聖神の〇〇"が現れない可能性が有ったからだという。
「それに、そういった者が現れても現れずとも、どっちにしても世界は混乱するじゃろ?」
「それはそうですが…」
教皇の右横に陣取っている青い祭服の枢機卿が苦虫を噛み潰したような顔で唸る。
「この世は常に対を有して存在する。光あれば影あり、白と黒、男あれば女あり、聖あれば腐ありじゃ。のう?」
対面に座しているロッテンをじっと見て、クレマチスは身を乗り出して語りかける。
「なぜこの教会が七芒星教なのか分かるか?常に対の立場がこの世に存在するなら、火に水、風に土、光に闇、聖に腐で8つとなるのに」
指を折ってさらに彼女は詰め寄った。
「それはのぅ、魔王の属性が腐だからじゃ。腐神を我らは神から除外して七柱と定め、七芒星教と名乗っておるのじゃよ」
クレマチスはそこで一旦会話を区切った。
ざわついた室内が静かになるのを待って、その緊迫した空気の中、糸を通すようにスルスルと言葉を繋げる。
「腐神の権化とは即ち魔王の化身。おヌシは魔王を身に宿したんじゃ。魔王を倒す対の存在だからこそ、腐神に選ばれたのじゃろうて」
(マリアが魔王を倒す力を持って産まれたから、真逆の力がオレに宿ったって?嘘だろう?じゃあ、オレはこの先??)
ロッテンが本当に魔王の化身だとすれば、ロッテンにとってここは敵陣のど真ん中にあたる。
「安心せい、我らは簡単にはおヌシに手を出さん」
ピッと手のひらをロッテンに向けて、クレマチスはロッテンの動きを制した。
「そんな事をすれば、ワシのようにこの子の時間も止まってしまうじゃろう」
(マリアの時間が?)
「魔王を倒す代償として、ワシは魔力の一切を失った。相対する存在が無になったのだ。無の反対は有じゃ。つまり、ワシはこの世界に対を持たずたった1人取り残された有という存在となった、人が死ねぬと言うのは想像以上につらいことぞ?ワシはそれを繰り返すつもりはないわ」
「今までの"聖神の"を関する者たちはどうしていたんでしょう?」
クレマチスの言葉尻を捉えたシンシアの発言が、静寂に響いた。
「魔王という概念がなかった頃は、共存していたようだ。魔王が暴れ回る分被害も大きかったみたいだな」
「では、魔王という概念が存在してからは?」
シンシアが再び尋ねると、クレマチスは大きく頷く。
「ワシを含んで4人前から魔王という概念が出来たようじゃ」
そうしてクレマチスは歴史を語る。
それまでに、シンシアとサルエルのように、マリアとロッテンも修道服のようなものに着替えさせられた。
マリアは白、ロッテンは黒の衣装である。
「面をあげなさい」
許しの言葉を得て、視線を教皇の座に向ける。
さして歳の変わらなく見える少女が、気怠げに腰をおろしていた。
事前にシンシアから教皇の武勇伝を聞いていなければ、もっと驚いただろう。
(教皇さまが魔王を倒したのって、オレたち位の年だったんだ…)
ロッテンは固まったまま、ぼんやりとそんな事を考えた。
「なんじゃなぁ、もっと驚くと思ったが、つまらんのう」
聖クレマチスは残念そうな顔で椅子から飛び降りる。
そのまま緋色の祭服をズルズルと引きずって、マリアへと近づいた。
「おヌシが聖神の愛し子か?」
「はっはい!」
「因みにワシは聖神の双剣じゃよ、この意味が分かるか?」
「え、いえ…分かりません」
「そうか、では昼食でも取りながら、その話をしようか」
クレマチスが視線を送ると、教皇付きの世話係があっという間にテーブルセッティングを終える。
計8名が食卓を囲み、まずは食事への感謝の祈りが行われた。
運ばれた料理にクレマチスが手をつけ、皆が料理を口に運び始めたタイミングで、彼女は再び話題を元に戻した。
「それで先程の話じゃが、恐らく魔王の復活が近い」
「は?」
「え?」
双子が同じタイミングで声をあげてフォークを取り落とした。
声こそあげなかったが、シンシアもサルエルも他3名や、給仕に当たっている世話人さえも、クレマチスに注目した。
「ふぉっふぉっふぉっ。やはり双子とは面白いのぅ、不測の時こそシンクロ率が高いのかのぅ」
と、楽しげにクレマチスは周りを見たが、皆それどころではない様子でクレマチスの説明を待っていた。
咳払いを一つしてスベッたのを誤魔化し、何事もなかったようにクレマチスは続ける。
「ンンッ!魔王復活の根拠じゃが、聖神の〇〇と名の付いた聖属性の魔術師が誕生するのに符合して魔王も誕生するにようなのじゃ。それも、大体200年周期で起こる事象らしい」
図書館から取り寄せた文献と、教皇のみ閲覧できる禁書の内容から、間違い無いだろうとクレマチスは語る。
その事に気付いてから今日まで魔王復活を指摘しなかったのは、200年後が訪れても"聖神の〇〇"が現れない可能性が有ったからだという。
「それに、そういった者が現れても現れずとも、どっちにしても世界は混乱するじゃろ?」
「それはそうですが…」
教皇の右横に陣取っている青い祭服の枢機卿が苦虫を噛み潰したような顔で唸る。
「この世は常に対を有して存在する。光あれば影あり、白と黒、男あれば女あり、聖あれば腐ありじゃ。のう?」
対面に座しているロッテンをじっと見て、クレマチスは身を乗り出して語りかける。
「なぜこの教会が七芒星教なのか分かるか?常に対の立場がこの世に存在するなら、火に水、風に土、光に闇、聖に腐で8つとなるのに」
指を折ってさらに彼女は詰め寄った。
「それはのぅ、魔王の属性が腐だからじゃ。腐神を我らは神から除外して七柱と定め、七芒星教と名乗っておるのじゃよ」
クレマチスはそこで一旦会話を区切った。
ざわついた室内が静かになるのを待って、その緊迫した空気の中、糸を通すようにスルスルと言葉を繋げる。
「腐神の権化とは即ち魔王の化身。おヌシは魔王を身に宿したんじゃ。魔王を倒す対の存在だからこそ、腐神に選ばれたのじゃろうて」
(マリアが魔王を倒す力を持って産まれたから、真逆の力がオレに宿ったって?嘘だろう?じゃあ、オレはこの先??)
ロッテンが本当に魔王の化身だとすれば、ロッテンにとってここは敵陣のど真ん中にあたる。
「安心せい、我らは簡単にはおヌシに手を出さん」
ピッと手のひらをロッテンに向けて、クレマチスはロッテンの動きを制した。
「そんな事をすれば、ワシのようにこの子の時間も止まってしまうじゃろう」
(マリアの時間が?)
「魔王を倒す代償として、ワシは魔力の一切を失った。相対する存在が無になったのだ。無の反対は有じゃ。つまり、ワシはこの世界に対を持たずたった1人取り残された有という存在となった、人が死ねぬと言うのは想像以上につらいことぞ?ワシはそれを繰り返すつもりはないわ」
「今までの"聖神の"を関する者たちはどうしていたんでしょう?」
クレマチスの言葉尻を捉えたシンシアの発言が、静寂に響いた。
「魔王という概念がなかった頃は、共存していたようだ。魔王が暴れ回る分被害も大きかったみたいだな」
「では、魔王という概念が存在してからは?」
シンシアが再び尋ねると、クレマチスは大きく頷く。
「ワシを含んで4人前から魔王という概念が出来たようじゃ」
そうしてクレマチスは歴史を語る。
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