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本章

甘い、甘い、お砂糖のように

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メイドが紅茶を用意して、それぞれソファーに落ち着く。
「それで、その…先程は何を仰ろうとされていたのですか?」
紅茶を一口含んだ後、話を切り出したのはアンリだった。
「ああ、えっと、だな…」
所在なげに膝の上で掌を擦ったりして、言い淀んでいたレニングラードは、意を決したように真っ直ぐにアンリを見た。
「こんな事を突然言うと、迷惑に思うかもしれない」
「…なんでしょうか?」
緊迫した声色に、アンリは何度か目を瞬き、小首を傾げて尋ねた。
「私は、貴女より相当年上で、そして、まだよく貴女を知らない。今、ようやく貴女の瞳が榛なのだと知ったくらいに…」
「え?ええ、それで?」
戸惑いながらも、もしかしたらという期待がアンリの胸に広がった。
「それでも、あの日、空から舞い降りた貴女を受け止めた時から、貴女が気になって仕方ない」
レニングラードは立ち上がると、数歩の距離を縮め、跪いた。
「私は、おそらく貴女に恋をした」
スッと手を差し出して、アンリを見つめる。
「こんな男を哀れに思って、どうか貴女をもっと知る機会を私にくれないか?」
アンリは胸の奥から痺れるような感覚に震えた。
そして、ドキドキと高鳴る胸の音が鼓膜に煩いくらい響く中、その手のひらに自身の手を重ねる。
「はいっ、私で宜しければ、末長く!」
そのまま手を強く引かれ、倒れ込むようにレニングラードに抱き寄せられた。
「名を呼んでほしい…」
言うつもりの無かった欲望が、レニングラードの口を突く。
しまった!と、腕の中の乙女を見下ろすと、ポカンとした表情が、花が綻ぶような笑顔になって、形の良い唇から名を告げられた。
「レニングラード様」
「レニーと呼んでみて欲しい」
「レニー様…」
「アンリ…」
2人の顔が近づいて、吐息のかかる距離になった、その時。

ーーがちゃーん!!

大きな音とともに、扉が弾けるように開き、出歯亀たちが部屋へとまろび入った。
2人はパッと距離をとり、気不味そうにする面々を見渡した。
「ゾフィー?お父様、お母様にお姉様まで!」
「殿下…何をなさってるんですか」
「貴女、未婚なのよ?親として心配するのは当然でしょう、ね?アナタ」
「そ、そうですぞ!いくらレニングラード様とはいえ、我が子はまだ未成年。交際は先ず親を通していただかないと!」
アンリの両親は体裁を整えんと、言い訳がましく言葉を発する。一方、姉のアネモネは、「やったわね!玉の輿!」と、アンリを祝福した。
ゾフィーは、平然として言ってのける。
「私は侍女ですので、いつもお嬢様のお側にいて当然です」
ロレンスはそんな周りの反応を見て面白がっていたが、レニングラードの視線に気づくと、親指を立てて、ウインクで応えた。
その後は、夜も遅かったので、なんやかんやとそれぞれの場所に戻っていき、アンリも寝室に戻って寝支度を始めた。
「今日は本当に大変だったわね」
髪を梳かしてくれるゾフィーに、鏡越しに話しかけた。
「そうですね、ああ、そう言えば…こちらを預かっておりました」
ゾフィーがポケットから出したのは、スリ師に盗まれた房飾りの入った袋。
「無事だったの…」
「はい、もし今日の事を思い出して嫌でしたら処分いたしますが」
「いいえ、怖い思いはしたけれど、でも、そのお陰でレニー様と恋仲になれた、大事な宝物よ」
ゾフィーの手から袋を受け取って、中の房飾りを出した。
「ちゃんと完成させて、二度も助けてくださったお礼をちゃんとしなくてはね」
「明日、宝飾店の店主を屋敷に呼びましょう。やりたい事が決まっているのであれば、わざわざ現地に出向かなくても良いですから」
「そうね、また拐われたら目も当てられないものね」
そんな偶然ないとは思うけど、と、冗談を言って笑い合った。
(怖かったけれど、意外と平気なのは、レニー様のお陰ね)
その夜は特にうなされるでも無く、眠りにつく事ができた。
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