11 / 12
本章
甘い、甘い、お砂糖のように
しおりを挟む
メイドが紅茶を用意して、それぞれソファーに落ち着く。
「それで、その…先程は何を仰ろうとされていたのですか?」
紅茶を一口含んだ後、話を切り出したのはアンリだった。
「ああ、えっと、だな…」
所在なげに膝の上で掌を擦ったりして、言い淀んでいたレニングラードは、意を決したように真っ直ぐにアンリを見た。
「こんな事を突然言うと、迷惑に思うかもしれない」
「…なんでしょうか?」
緊迫した声色に、アンリは何度か目を瞬き、小首を傾げて尋ねた。
「私は、貴女より相当年上で、そして、まだよく貴女を知らない。今、ようやく貴女の瞳が榛なのだと知ったくらいに…」
「え?ええ、それで?」
戸惑いながらも、もしかしたらという期待がアンリの胸に広がった。
「それでも、あの日、空から舞い降りた貴女を受け止めた時から、貴女が気になって仕方ない」
レニングラードは立ち上がると、数歩の距離を縮め、跪いた。
「私は、おそらく貴女に恋をした」
スッと手を差し出して、アンリを見つめる。
「こんな男を哀れに思って、どうか貴女をもっと知る機会を私にくれないか?」
アンリは胸の奥から痺れるような感覚に震えた。
そして、ドキドキと高鳴る胸の音が鼓膜に煩いくらい響く中、その手のひらに自身の手を重ねる。
「はいっ、私で宜しければ、末長く!」
そのまま手を強く引かれ、倒れ込むようにレニングラードに抱き寄せられた。
「名を呼んでほしい…」
言うつもりの無かった欲望が、レニングラードの口を突く。
しまった!と、腕の中の乙女を見下ろすと、ポカンとした表情が、花が綻ぶような笑顔になって、形の良い唇から名を告げられた。
「レニングラード様」
「レニーと呼んでみて欲しい」
「レニー様…」
「アンリ…」
2人の顔が近づいて、吐息のかかる距離になった、その時。
ーーがちゃーん!!
大きな音とともに、扉が弾けるように開き、出歯亀たちが部屋へとまろび入った。
2人はパッと距離をとり、気不味そうにする面々を見渡した。
「ゾフィー?お父様、お母様にお姉様まで!」
「殿下…何をなさってるんですか」
「貴女、未婚なのよ?親として心配するのは当然でしょう、ね?アナタ」
「そ、そうですぞ!いくらレニングラード様とはいえ、我が子はまだ未成年。交際は先ず親を通していただかないと!」
アンリの両親は体裁を整えんと、言い訳がましく言葉を発する。一方、姉のアネモネは、「やったわね!玉の輿!」と、アンリを祝福した。
ゾフィーは、平然として言ってのける。
「私は侍女ですので、いつもお嬢様のお側にいて当然です」
ロレンスはそんな周りの反応を見て面白がっていたが、レニングラードの視線に気づくと、親指を立てて、ウインクで応えた。
その後は、夜も遅かったので、なんやかんやとそれぞれの場所に戻っていき、アンリも寝室に戻って寝支度を始めた。
「今日は本当に大変だったわね」
髪を梳かしてくれるゾフィーに、鏡越しに話しかけた。
「そうですね、ああ、そう言えば…こちらを預かっておりました」
ゾフィーがポケットから出したのは、スリ師に盗まれた房飾りの入った袋。
「無事だったの…」
「はい、もし今日の事を思い出して嫌でしたら処分いたしますが」
「いいえ、怖い思いはしたけれど、でも、そのお陰でレニー様と恋仲になれた、大事な宝物よ」
ゾフィーの手から袋を受け取って、中の房飾りを出した。
「ちゃんと完成させて、二度も助けてくださったお礼をちゃんとしなくてはね」
「明日、宝飾店の店主を屋敷に呼びましょう。やりたい事が決まっているのであれば、わざわざ現地に出向かなくても良いですから」
「そうね、また拐われたら目も当てられないものね」
そんな偶然ないとは思うけど、と、冗談を言って笑い合った。
(怖かったけれど、意外と平気なのは、レニー様のお陰ね)
その夜は特にうなされるでも無く、眠りにつく事ができた。
「それで、その…先程は何を仰ろうとされていたのですか?」
紅茶を一口含んだ後、話を切り出したのはアンリだった。
「ああ、えっと、だな…」
所在なげに膝の上で掌を擦ったりして、言い淀んでいたレニングラードは、意を決したように真っ直ぐにアンリを見た。
「こんな事を突然言うと、迷惑に思うかもしれない」
「…なんでしょうか?」
緊迫した声色に、アンリは何度か目を瞬き、小首を傾げて尋ねた。
「私は、貴女より相当年上で、そして、まだよく貴女を知らない。今、ようやく貴女の瞳が榛なのだと知ったくらいに…」
「え?ええ、それで?」
戸惑いながらも、もしかしたらという期待がアンリの胸に広がった。
「それでも、あの日、空から舞い降りた貴女を受け止めた時から、貴女が気になって仕方ない」
レニングラードは立ち上がると、数歩の距離を縮め、跪いた。
「私は、おそらく貴女に恋をした」
スッと手を差し出して、アンリを見つめる。
「こんな男を哀れに思って、どうか貴女をもっと知る機会を私にくれないか?」
アンリは胸の奥から痺れるような感覚に震えた。
そして、ドキドキと高鳴る胸の音が鼓膜に煩いくらい響く中、その手のひらに自身の手を重ねる。
「はいっ、私で宜しければ、末長く!」
そのまま手を強く引かれ、倒れ込むようにレニングラードに抱き寄せられた。
「名を呼んでほしい…」
言うつもりの無かった欲望が、レニングラードの口を突く。
しまった!と、腕の中の乙女を見下ろすと、ポカンとした表情が、花が綻ぶような笑顔になって、形の良い唇から名を告げられた。
「レニングラード様」
「レニーと呼んでみて欲しい」
「レニー様…」
「アンリ…」
2人の顔が近づいて、吐息のかかる距離になった、その時。
ーーがちゃーん!!
大きな音とともに、扉が弾けるように開き、出歯亀たちが部屋へとまろび入った。
2人はパッと距離をとり、気不味そうにする面々を見渡した。
「ゾフィー?お父様、お母様にお姉様まで!」
「殿下…何をなさってるんですか」
「貴女、未婚なのよ?親として心配するのは当然でしょう、ね?アナタ」
「そ、そうですぞ!いくらレニングラード様とはいえ、我が子はまだ未成年。交際は先ず親を通していただかないと!」
アンリの両親は体裁を整えんと、言い訳がましく言葉を発する。一方、姉のアネモネは、「やったわね!玉の輿!」と、アンリを祝福した。
ゾフィーは、平然として言ってのける。
「私は侍女ですので、いつもお嬢様のお側にいて当然です」
ロレンスはそんな周りの反応を見て面白がっていたが、レニングラードの視線に気づくと、親指を立てて、ウインクで応えた。
その後は、夜も遅かったので、なんやかんやとそれぞれの場所に戻っていき、アンリも寝室に戻って寝支度を始めた。
「今日は本当に大変だったわね」
髪を梳かしてくれるゾフィーに、鏡越しに話しかけた。
「そうですね、ああ、そう言えば…こちらを預かっておりました」
ゾフィーがポケットから出したのは、スリ師に盗まれた房飾りの入った袋。
「無事だったの…」
「はい、もし今日の事を思い出して嫌でしたら処分いたしますが」
「いいえ、怖い思いはしたけれど、でも、そのお陰でレニー様と恋仲になれた、大事な宝物よ」
ゾフィーの手から袋を受け取って、中の房飾りを出した。
「ちゃんと完成させて、二度も助けてくださったお礼をちゃんとしなくてはね」
「明日、宝飾店の店主を屋敷に呼びましょう。やりたい事が決まっているのであれば、わざわざ現地に出向かなくても良いですから」
「そうね、また拐われたら目も当てられないものね」
そんな偶然ないとは思うけど、と、冗談を言って笑い合った。
(怖かったけれど、意外と平気なのは、レニー様のお陰ね)
その夜は特にうなされるでも無く、眠りにつく事ができた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる