12 / 12
終章
その後の2人
しおりを挟む
今日は大会議場で貴族審判の日を迎えた、例の競売で人身売買等に関わった貴族を裁判に掛けるのである。
その会場へと向かいながら、ロレンスはレニングラードに言葉を掛ける。
「なんだい、レニー?今日はヤケに落ち着かないね」
ソワソワとして、執務机の角に足をぶつけたり、扉の木枠に額を強打したりと、今日に限ってレニングラードは失態続きだ。
「裁判で言い逃れをさせるわけにはいかないんだ、しっかりやってくれよ?」
その言葉に、レニングラードはピタリと足を止め、この世の終わりのような顔をして、ロレンスを見据えた。
「手紙が!会いたいと」
「誰から?アンリ嬢から?」
コクリと神妙に頷くレニングラードに、ロレンスは、やれやれとため息を吐いた。
「何かとおもったら…惚気なら審判後に言って欲しいね」
「違います!いつもこの頃に、やっぱり交際は解消して欲しいと!」
「なに、そんな心配?今回は大丈夫でしょ、君からアプローチしたのだし」
「ですが!この数日、例の組織の対応で全く相手をできず」
「なんだよ、君に仕事を任せた僕が悪いって言うのかい?忙しくても、花の一輪、贈り物の一つくらい、使用人に見繕わせて贈ってればいいのに!」
「…なっ、そんな他人任せな事、できません!!」
「はぁぁぁあ、もう!取り敢えず気を入れ替えて。この審判が終わったら休暇をあげるから、ね!?」
いつだって悠然と構え、どんな事態も乗り越えてきた大の男がどうだ?
恋とは末恐ろしい。
それでも、ロレンスは羨ましくも思った。
いつか自分も、この恋という感情に身を焦がす日が訪れるのだろうか?
(いや、無いかもな。なにせ王族の結婚なんて政略以外の何物でもないんだから)
議場の扉は押し開かれ、貴族審判が始まった。
「レニー様!」
輝くような笑顔で迎えられ、交際破棄を申し込まれると身構えていたレニングラードは出鼻を挫かれた。
「アンリ、待たせて申し訳ない」
無事、貴族審判を終え、反第一王子派の筆頭であった公爵の1人を追い落とした翌日、レニングラードは約束通りに休暇を貰っていた。
指定されて赴いたのは、ロレンス殿下曰く、最近ご令嬢方に人気のティーサロンなのだそうだ。
「いいえ、ほんの少し前に私も到着致しましたの」
カップの中のお茶の減り具合から、もっと前から来ていた事は丸わかりだが、それを隠す所がいじらしくて可愛い。
「すまない!この数日、何の連絡も無く不安にさせただろうか?」
「お忙しいのは分かってますから、大丈夫です。今日、お誘いに乗っていただけただけでも嬉しいのです」
「これからは、私も配慮する。寂しいとは思わせないように」
周囲の視線が、全て2人に集まっている事に、レニングラードは気付いていたが、それでも構わないと思った。
「それで、ひとまず今日までのお詫びの印なんだが、受け取って欲しい」
赤い小さな化粧箱に、緑の絹のリボンをかけた箱を手渡した。
驚いた表情で礼を言い、箱を受け取ったアンリも、側に控えていたゾフィーから何かを受け取ってこちらに差し出してくる。
「あの、私からも贈り物を…木から落ちた時と、誘拐された時のお礼です。受け取って頂けますか?」
こちらは細長い青色の化粧箱に、白い絹のリボンを施してある。
レニングラードも礼を言い、互いにリボンを解いて箱の中身を見て驚く。
「「胡椒の花!」」
驚いて発した言葉も同じ、タイミングも一緒だった。
まず、アンリが手渡したのは勿論、剣につける房飾りだった。
房の頭に、いぶし銀の胡椒の花の彫金細工があり、胡椒の実を表す部分はレニングラードの瞳と同じ瑠璃色の石をはめ込んである。
房の部分は、黒の絹に数本銀糸が混じった洒落た意匠になっている。
そして、レニングラードが手渡したのは、胡椒の花を模った、金細工の耳飾りだった。
こちらは胡椒の実を表す部分に、アンリの瞳のようなアンバーの石が嵌め込まれている。
「つけてみても良いですか?」
嬉しそうに耳飾りを手にするアンリの言葉にハッと気付いて、レニングラードは立ち上がる。
「私が付けてみても?」
「え、あ…はっはいっ!」
首まで赤くして戸惑いながらも、アンリは頷いて耳飾りを手渡す。
くすぐったいのを我慢して、レニングラードの作業を待った。
周りのざわつきで、注目されていたことに気付き、尚更顔を赤くした。
「よく似合ってる」
近い距離でじっと見られて、どこを見ていいか分からず、アタフタしていると、レニングラードが贈った房飾りを差し出してきた。
「私の剣に、付けてくれるだろうか?」
「勿論です」
夢の中じゃ無いかと思いながらも、レニングラードの剣の柄に触れる。
低い声が、耳元で囁いた。
「私の剣の柄に触れるのを許すのは、後にも先にも貴女だけと誓います、アンリ」
「レニー様」
「胡椒の花言葉は熱中、私は貴女に熱中してしまった。きっと、これからも…どうかそばに居てくださいね」
100人目にして、初めての恋だった。
もうこれ以上、レニングラードが思い悩むことはきっと無い。
その会場へと向かいながら、ロレンスはレニングラードに言葉を掛ける。
「なんだい、レニー?今日はヤケに落ち着かないね」
ソワソワとして、執務机の角に足をぶつけたり、扉の木枠に額を強打したりと、今日に限ってレニングラードは失態続きだ。
「裁判で言い逃れをさせるわけにはいかないんだ、しっかりやってくれよ?」
その言葉に、レニングラードはピタリと足を止め、この世の終わりのような顔をして、ロレンスを見据えた。
「手紙が!会いたいと」
「誰から?アンリ嬢から?」
コクリと神妙に頷くレニングラードに、ロレンスは、やれやれとため息を吐いた。
「何かとおもったら…惚気なら審判後に言って欲しいね」
「違います!いつもこの頃に、やっぱり交際は解消して欲しいと!」
「なに、そんな心配?今回は大丈夫でしょ、君からアプローチしたのだし」
「ですが!この数日、例の組織の対応で全く相手をできず」
「なんだよ、君に仕事を任せた僕が悪いって言うのかい?忙しくても、花の一輪、贈り物の一つくらい、使用人に見繕わせて贈ってればいいのに!」
「…なっ、そんな他人任せな事、できません!!」
「はぁぁぁあ、もう!取り敢えず気を入れ替えて。この審判が終わったら休暇をあげるから、ね!?」
いつだって悠然と構え、どんな事態も乗り越えてきた大の男がどうだ?
恋とは末恐ろしい。
それでも、ロレンスは羨ましくも思った。
いつか自分も、この恋という感情に身を焦がす日が訪れるのだろうか?
(いや、無いかもな。なにせ王族の結婚なんて政略以外の何物でもないんだから)
議場の扉は押し開かれ、貴族審判が始まった。
「レニー様!」
輝くような笑顔で迎えられ、交際破棄を申し込まれると身構えていたレニングラードは出鼻を挫かれた。
「アンリ、待たせて申し訳ない」
無事、貴族審判を終え、反第一王子派の筆頭であった公爵の1人を追い落とした翌日、レニングラードは約束通りに休暇を貰っていた。
指定されて赴いたのは、ロレンス殿下曰く、最近ご令嬢方に人気のティーサロンなのだそうだ。
「いいえ、ほんの少し前に私も到着致しましたの」
カップの中のお茶の減り具合から、もっと前から来ていた事は丸わかりだが、それを隠す所がいじらしくて可愛い。
「すまない!この数日、何の連絡も無く不安にさせただろうか?」
「お忙しいのは分かってますから、大丈夫です。今日、お誘いに乗っていただけただけでも嬉しいのです」
「これからは、私も配慮する。寂しいとは思わせないように」
周囲の視線が、全て2人に集まっている事に、レニングラードは気付いていたが、それでも構わないと思った。
「それで、ひとまず今日までのお詫びの印なんだが、受け取って欲しい」
赤い小さな化粧箱に、緑の絹のリボンをかけた箱を手渡した。
驚いた表情で礼を言い、箱を受け取ったアンリも、側に控えていたゾフィーから何かを受け取ってこちらに差し出してくる。
「あの、私からも贈り物を…木から落ちた時と、誘拐された時のお礼です。受け取って頂けますか?」
こちらは細長い青色の化粧箱に、白い絹のリボンを施してある。
レニングラードも礼を言い、互いにリボンを解いて箱の中身を見て驚く。
「「胡椒の花!」」
驚いて発した言葉も同じ、タイミングも一緒だった。
まず、アンリが手渡したのは勿論、剣につける房飾りだった。
房の頭に、いぶし銀の胡椒の花の彫金細工があり、胡椒の実を表す部分はレニングラードの瞳と同じ瑠璃色の石をはめ込んである。
房の部分は、黒の絹に数本銀糸が混じった洒落た意匠になっている。
そして、レニングラードが手渡したのは、胡椒の花を模った、金細工の耳飾りだった。
こちらは胡椒の実を表す部分に、アンリの瞳のようなアンバーの石が嵌め込まれている。
「つけてみても良いですか?」
嬉しそうに耳飾りを手にするアンリの言葉にハッと気付いて、レニングラードは立ち上がる。
「私が付けてみても?」
「え、あ…はっはいっ!」
首まで赤くして戸惑いながらも、アンリは頷いて耳飾りを手渡す。
くすぐったいのを我慢して、レニングラードの作業を待った。
周りのざわつきで、注目されていたことに気付き、尚更顔を赤くした。
「よく似合ってる」
近い距離でじっと見られて、どこを見ていいか分からず、アタフタしていると、レニングラードが贈った房飾りを差し出してきた。
「私の剣に、付けてくれるだろうか?」
「勿論です」
夢の中じゃ無いかと思いながらも、レニングラードの剣の柄に触れる。
低い声が、耳元で囁いた。
「私の剣の柄に触れるのを許すのは、後にも先にも貴女だけと誓います、アンリ」
「レニー様」
「胡椒の花言葉は熱中、私は貴女に熱中してしまった。きっと、これからも…どうかそばに居てくださいね」
100人目にして、初めての恋だった。
もうこれ以上、レニングラードが思い悩むことはきっと無い。
0
お気に入りに追加
29
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
私の乳首を助けなさいっ
春瀬湖子
恋愛
22歳、完全に行き遅れているランス伯爵家のメリー。
メリーには結婚出来ない理由があった、何故なら陥没乳首だったのだ···!
人と違う乳首が恥ずかしくて、というか乳首見たことないんだけど···嫁ぎそびれてとうとう婚約の申込みすらなくなったメリーにとって、3ヶ月後の夜会が結婚の最後のチャンス。
そのチャンスをモノにすべく、なんとか勃起乳首にしたいメリーは幼馴染みのように育った侍従のトイに乳首を助けてくれるようにお願いをして?
拗らせ侍従×乳首コンプレックスお嬢様の勃つか勃たないかの、まぁすぐ勃っちゃうラブコメです。
※他サイト様にも投稿しております。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる