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終章

その後の2人

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今日は大会議場で貴族審判の日を迎えた、例の競売で人身売買等に関わった貴族を裁判に掛けるのである。
その会場へと向かいながら、ロレンスはレニングラードに言葉を掛ける。
「なんだい、レニー?今日はヤケに落ち着かないね」
ソワソワとして、執務机の角に足をぶつけたり、扉の木枠に額を強打したりと、今日に限ってレニングラードは失態続きだ。
「裁判で言い逃れをさせるわけにはいかないんだ、しっかりやってくれよ?」
その言葉に、レニングラードはピタリと足を止め、この世の終わりのような顔をして、ロレンスを見据えた。
「手紙が!会いたいと」
「誰から?アンリ嬢から?」
コクリと神妙に頷くレニングラードに、ロレンスは、やれやれとため息を吐いた。
「何かとおもったら…惚気なら審判後に言って欲しいね」
「違います!いつもこの頃に、やっぱり交際は解消して欲しいと!」
「なに、そんな心配?今回は大丈夫でしょ、君からアプローチしたのだし」
「ですが!この数日、例の組織の対応で全く相手をできず」
「なんだよ、君に仕事を任せた僕が悪いって言うのかい?忙しくても、花の一輪、贈り物の一つくらい、使用人に見繕わせて贈ってればいいのに!」
「…なっ、そんな他人任せな事、できません!!」
「はぁぁぁあ、もう!取り敢えず気を入れ替えて。この審判が終わったら休暇をあげるから、ね!?」
いつだって悠然と構え、どんな事態も乗り越えてきた大の男がどうだ?
恋とは末恐ろしい。
それでも、ロレンスは羨ましくも思った。
いつか自分も、この恋という感情に身を焦がす日が訪れるのだろうか?
(いや、無いかもな。なにせ王族の結婚なんて政略以外の何物でもないんだから)
議場の扉は押し開かれ、貴族審判が始まった。

「レニー様!」
輝くような笑顔で迎えられ、交際破棄を申し込まれると身構えていたレニングラードは出鼻を挫かれた。
「アンリ、待たせて申し訳ない」
無事、貴族審判を終え、反第一王子派の筆頭であった公爵の1人を追い落とした翌日、レニングラードは約束通りに休暇を貰っていた。
指定されて赴いたのは、ロレンス殿下曰く、最近ご令嬢方に人気のティーサロンなのだそうだ。
「いいえ、ほんの少し前に私も到着致しましたの」
カップの中のお茶の減り具合から、もっと前から来ていた事は丸わかりだが、それを隠す所がいじらしくて可愛い。
「すまない!この数日、何の連絡も無く不安にさせただろうか?」
「お忙しいのは分かってますから、大丈夫です。今日、お誘いに乗っていただけただけでも嬉しいのです」
「これからは、私も配慮する。寂しいとは思わせないように」
周囲の視線が、全て2人に集まっている事に、レニングラードは気付いていたが、それでも構わないと思った。
「それで、ひとまず今日までのお詫びの印なんだが、受け取って欲しい」
赤い小さな化粧箱に、緑の絹のリボンをかけた箱を手渡した。
驚いた表情で礼を言い、箱を受け取ったアンリも、側に控えていたゾフィーから何かを受け取ってこちらに差し出してくる。
「あの、私からも贈り物を…木から落ちた時と、誘拐された時のお礼です。受け取って頂けますか?」
こちらは細長い青色の化粧箱に、白い絹のリボンを施してある。
レニングラードも礼を言い、互いにリボンを解いて箱の中身を見て驚く。
「「胡椒の花!」」
驚いて発した言葉も同じ、タイミングも一緒だった。
まず、アンリが手渡したのは勿論、剣につける房飾りだった。
房の頭に、いぶし銀の胡椒の花の彫金細工があり、胡椒の実を表す部分はレニングラードの瞳と同じ瑠璃色の石をはめ込んである。
房の部分は、黒の絹に数本銀糸が混じった洒落た意匠になっている。
そして、レニングラードが手渡したのは、胡椒の花を模った、金細工の耳飾りだった。
こちらは胡椒の実を表す部分に、アンリの瞳のようなアンバーの石が嵌め込まれている。
「つけてみても良いですか?」
嬉しそうに耳飾りを手にするアンリの言葉にハッと気付いて、レニングラードは立ち上がる。
「私が付けてみても?」
「え、あ…はっはいっ!」
首まで赤くして戸惑いながらも、アンリは頷いて耳飾りを手渡す。
くすぐったいのを我慢して、レニングラードの作業を待った。
周りのざわつきで、注目されていたことに気付き、尚更顔を赤くした。
「よく似合ってる」
近い距離でじっと見られて、どこを見ていいか分からず、アタフタしていると、レニングラードが贈った房飾りを差し出してきた。
「私の剣に、付けてくれるだろうか?」
「勿論です」
夢の中じゃ無いかと思いながらも、レニングラードの剣の柄に触れる。
低い声が、耳元で囁いた。
「私の剣の柄に触れるのを許すのは、後にも先にも貴女だけと誓います、アンリ」
「レニー様」
「胡椒の花言葉は熱中、私は貴女に熱中してしまった。きっと、これからも…どうかそばに居てくださいね」

100人目にして、初めての恋だった。
もうこれ以上、レニングラードが思い悩むことはきっと無い。
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