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序章

凱旋パレードに見る、レニングラードとは

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音楽隊の勇壮なる調べが街中に響き渡る。
華々しい凱旋パレードが始まった。
「サンクテルブルク国万歳!」
「レニングラード様万歳!」
人々は国旗を手に、口々に歓声をあげた。
モリサルド公国との戦が始まってから既に3年の月日が経っており、王都へと戻ってきた兵士たちは懐かしい街並みに、皆、安堵の表情を浮かべ、歓迎の声に手を振って行進した。

現サンクテルブルク国王の即位と同時に、王弟レイヴィン・ファリエラ・モリサルドが公爵位に臣籍降下し、その領土を公国として治めることが決まったのが5年前の事。
それから2年もの間、レイヴィンは国王の座を狙い、戦争の準備をしていたのだ。
サンクテルブルク内のレイヴィン派の協力もあり、官軍側が圧される一幕もあったが、レニングラード・エルザルドの功によって戦況は覆った。
また、レイヴィンの首を取ったのも、そのレニングラードである。

「レニングラード様ー!」
「きゃぁぁっ!こちらを向いてくださいませ!」
黄色い歓声が飛ぶ中、全くそちらを見る気配もなく、ニコリともしないその姿に、さらに歓声は高まった。
「寡黙で素敵!」
「一瞬だけでも良いからあの瑠璃の瞳に映りたいわぁっ」
今回の戦の功績もさることながら、レニングラードの容姿も人気に拍車をかける一因となった。
宵闇のような艶やかな黒髪、滑らかな象牙色の肌、紫に近い瑠璃色の瞳、精悍な顔立ちだが、不思議と男臭さは感じられない。
他の軍人より頭2つほど高い背をして、その体格は、漆黒の軍服の上からでも、無駄のない引き締まった筋肉が感じられる。
また、彼は地位も申し分ない。
多くの軍人を輩出した、名門エルザルド騎士伯家の次期当主として生まれ、潤沢な魔力を有し、大陸全土でも数百年に1人が得られるかどうかの魔剣士の称号を手に入れていた。

それなのに現在26才の彼が、独身であるどころか婚約者もない理由ーー。

それは、会話のキャッチボールが出来ないからに他ならないのである。
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