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めでたし、めでたし、の、その後
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タイラン・ド・ドルチェランは、聖女ユリアとの婚姻によって、男子の居なかったドルチェラン男爵家の入婿となった。
実家のクルセイン家は爵位剥奪をされて、本来貴族を名乗ることができない立場ではあったが、聖女が大地の龍を浄化した際に受けた褒賞として、次代の男爵継承権を保有していた。
それが役に立ったのだ。
また、魔塔のエースとして活躍をしていたタイランと聖女の婚姻は魔塔と神殿の歩み寄りにも貢献した。
互いの知識の交換や視察を受け入れ、互いの術の向上が図られている。
そのあたりの功績を持って、ドルチェラン家は子爵家に昇格された。
「お父様!お母様!」
「ライラ、どうしたの?そんなに急いで」
ユリアは駆け寄る娘の両腕を、落ち着かせる様に包んだ。
少女の可愛らしい顔立ちは母親に似て、艶やかな黒髪や赤い瞳は父親譲りだ。
「お母様、私、お花が咲けばいいなって思ったら、本当にお花が咲いちゃったの!」
「どれ、ライラ、お父様に見せてごらん?」
あっちー!と、タイランの手を引っ張ってライラは庭の大木まで案内した。
「この春の時期に、椿?!」
ユリアは驚いて、満開にピンクの花をつけた木を見上げた。
「ライラー!キミは天才だぁー。時の魔法の気配を感じるよ!自覚はないようだけど、木の時間を進めたみたいだ」
将来有望だとタイランは微笑んだ。
「えっ?それって危ないんじゃない?自覚なしに時間遡行しちゃったりしない?」
「あー、可能性はあるかな。よし、ライラ、これからはお父様と一緒に魔法をお勉強しようねー?」
「はーい!お父様」
「うーん!」
デレデレに表情を崩すタイランを見て、ユリアは苦笑いを浮かべる。
(すっかり親バカになっちゃって…)
ユリアはこれまでを振り返る。
生活は概ね順調、特に波乱もなく幸せと言える人生。
既に前回の寿命を超え、三度目にして初めて二十歳を迎えた時は感慨深かった。
前回の知識を活かして、学園卒業直後に訪れる晩春の長雨に備えたり、敵国の動向を知らせたりして、アクシア王の治世も安定している。
逆らえない運命も勿論あって、アクシアの父、つまり国王が崩御する運命は変えることができなかった。
子供が生まれてからは、もう、転生したとか回帰者だとか、そういうのは忘れようと決めた。
私は私で、今、この場こそが私の人生なのだと思ったから。
「次は、どっちかな?」
「さあ?私はまた娘でもいいし、息子でも面白いと思うわ」
いつの間にか隣に戻ってきたタイランが、優しくお腹に手を当ててくる。
「ただ、幸せに生きて欲しい。それだけよ」
「そうだね、ボクがそうしてあげるから、頼りにしていいよ」
胸をドンっと叩いて見せるタイランに、たまらずユリアは笑った。
「頼りにねぇ…ライラが生まれるって時に思いっきり動揺していた貴方を思い出すわー」
「あれは!ユリアの意地悪ーぅ」
「アハハ、ごめん」
これからも一緒に幸せを掴みに行こう。
一人より二人で、二人よりみんなで、そうして物語の終焉の先へと進んでいくんだ。
* * * * *
「おかしい!ギフト「聖女」を持って私は生まれてくるはずだったのに…」
鏡に映る少女は、金髪に桃色の眼の可愛らしい顔立ち。
人気乙女ゲームの2作目のヒロインの特徴そのままの顔が困惑で曇っている。
1作目のヒロインが非業の死を遂げ、その後降臨する魔王に対抗する為、神は新たな聖女をこの世に遣わせた…
(その聖女こそ私のはずだったのに)
「1作目のヒロインがまだ生きてて、初期イベントの龍の浄化も西の森の鎮静も終わってるって、何??」
魔王討伐も全部1作目のヒロインがやってくれるのかもしれない。
だけど…
ーー私のハーレムでウハウハ計画はどうしてくれるのよーぉぉお!!!
新たな物語の主人公が、混乱を極めては居るが、それはまた別の話。
ユリアのシナリオを通り越した人生は、まだまだこれからだ。
ここで、このお話はこれで終わり。
めでたし、めでたし。
実家のクルセイン家は爵位剥奪をされて、本来貴族を名乗ることができない立場ではあったが、聖女が大地の龍を浄化した際に受けた褒賞として、次代の男爵継承権を保有していた。
それが役に立ったのだ。
また、魔塔のエースとして活躍をしていたタイランと聖女の婚姻は魔塔と神殿の歩み寄りにも貢献した。
互いの知識の交換や視察を受け入れ、互いの術の向上が図られている。
そのあたりの功績を持って、ドルチェラン家は子爵家に昇格された。
「お父様!お母様!」
「ライラ、どうしたの?そんなに急いで」
ユリアは駆け寄る娘の両腕を、落ち着かせる様に包んだ。
少女の可愛らしい顔立ちは母親に似て、艶やかな黒髪や赤い瞳は父親譲りだ。
「お母様、私、お花が咲けばいいなって思ったら、本当にお花が咲いちゃったの!」
「どれ、ライラ、お父様に見せてごらん?」
あっちー!と、タイランの手を引っ張ってライラは庭の大木まで案内した。
「この春の時期に、椿?!」
ユリアは驚いて、満開にピンクの花をつけた木を見上げた。
「ライラー!キミは天才だぁー。時の魔法の気配を感じるよ!自覚はないようだけど、木の時間を進めたみたいだ」
将来有望だとタイランは微笑んだ。
「えっ?それって危ないんじゃない?自覚なしに時間遡行しちゃったりしない?」
「あー、可能性はあるかな。よし、ライラ、これからはお父様と一緒に魔法をお勉強しようねー?」
「はーい!お父様」
「うーん!」
デレデレに表情を崩すタイランを見て、ユリアは苦笑いを浮かべる。
(すっかり親バカになっちゃって…)
ユリアはこれまでを振り返る。
生活は概ね順調、特に波乱もなく幸せと言える人生。
既に前回の寿命を超え、三度目にして初めて二十歳を迎えた時は感慨深かった。
前回の知識を活かして、学園卒業直後に訪れる晩春の長雨に備えたり、敵国の動向を知らせたりして、アクシア王の治世も安定している。
逆らえない運命も勿論あって、アクシアの父、つまり国王が崩御する運命は変えることができなかった。
子供が生まれてからは、もう、転生したとか回帰者だとか、そういうのは忘れようと決めた。
私は私で、今、この場こそが私の人生なのだと思ったから。
「次は、どっちかな?」
「さあ?私はまた娘でもいいし、息子でも面白いと思うわ」
いつの間にか隣に戻ってきたタイランが、優しくお腹に手を当ててくる。
「ただ、幸せに生きて欲しい。それだけよ」
「そうだね、ボクがそうしてあげるから、頼りにしていいよ」
胸をドンっと叩いて見せるタイランに、たまらずユリアは笑った。
「頼りにねぇ…ライラが生まれるって時に思いっきり動揺していた貴方を思い出すわー」
「あれは!ユリアの意地悪ーぅ」
「アハハ、ごめん」
これからも一緒に幸せを掴みに行こう。
一人より二人で、二人よりみんなで、そうして物語の終焉の先へと進んでいくんだ。
* * * * *
「おかしい!ギフト「聖女」を持って私は生まれてくるはずだったのに…」
鏡に映る少女は、金髪に桃色の眼の可愛らしい顔立ち。
人気乙女ゲームの2作目のヒロインの特徴そのままの顔が困惑で曇っている。
1作目のヒロインが非業の死を遂げ、その後降臨する魔王に対抗する為、神は新たな聖女をこの世に遣わせた…
(その聖女こそ私のはずだったのに)
「1作目のヒロインがまだ生きてて、初期イベントの龍の浄化も西の森の鎮静も終わってるって、何??」
魔王討伐も全部1作目のヒロインがやってくれるのかもしれない。
だけど…
ーー私のハーレムでウハウハ計画はどうしてくれるのよーぉぉお!!!
新たな物語の主人公が、混乱を極めては居るが、それはまた別の話。
ユリアのシナリオを通り越した人生は、まだまだこれからだ。
ここで、このお話はこれで終わり。
めでたし、めでたし。
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