ヒロイン回帰！！〜めでたしめでたし、めでたくない？！〜

（46）

降り積もる思い

「ユリア・ド・ドルチェラン、貴女の卒業をここに証明致します」
王宮での事件から、既に二年の歳月が経ち、16才となったユリア達は卒業を今日この日に迎えた。

式が終わり、ユリアは停車場までの一本道を歩いていた。
「ユリア嬢、卒業おめでとう」
ミュゼリアと校庭で話し込んでいたリカルドがユリアに気付いて声をかける。
「リカルド先生、本当にお世話になりました」
「いや、私こそ、初めての担任を任されたクラスが君たちで幸せだったよ」
「いつかまた、学園に遊びに来てもいいですか？」
「ああ、楽しみにしているよ、またね」
ノーマルエンドそのままに、リカルドはエメラルドの瞳で微笑んで別れを告げた。
「ミュゼリア嬢も、王太子妃になられても、お友達でいてくれますか？」
「勿論よ、貴女なら気軽に遊びにいらして良いわ、手紙を送ります」
こちらは断罪されなかった悪役令嬢だ。卒業後に立太子をするアクシアの妃となる。
二人と別れ、さらに歩く。
横を疾風が通り抜ける様に、赤髪が追い越した。
「おお、ユリア嬢！お互い卒業だな、また王宮で会うかもしれん、これからもよろしくな」
「イールーミーオー様ぁっ！お待ちなさい！先程の御令嬢とはどの様なご関係なのっ！」
後ろから、猪突猛進の如く駆けてくるカリーナを愛しそうな目で見つめ
「まったく、カリーナ嬢は嫉妬深い。告白は受けたが振ったんだがな、まあ、楽しいからしばらくは内緒だ、では！」
もう少しでカリーナが追いつきそうなところで、またイルミオは走り出した。
「ん、もう！お、お待ちなさいったら！あ、ユリア嬢…ミュゼリア様だけでなくて、今度は私もお茶会に招待くださいませね、それでは！」
少しだけ息を整えると、カリーナは元気にまたイルミオを追いかけ始めた。
この二人は、こうやって一生追って追われてを繰り返すのだろう。
それがなんだか微笑ましく思えた。
イルミオの従者のジョシュアは、全く攻略を進めなかったからか、お役御免とばかりに、昨日、故郷に帰ってしまったと言う。
（風と共にバートラン、ゲームでもリアルでも経験するとはね）
また、歩き出し、もうすぐ停車場というところで、脇道から走り出した男子生徒とぶつかった。
「わっ、ぷっ？！」
「うわっ！失礼、大丈夫？」
白金の髪、サファイアの瞳、出会った時とまったく同じ、お互いの台詞。
「王太子殿下、私は大丈夫です」
「うーん、学園内では、畏まらないで欲しいんだけどな」
「だって、それ意外呼びようがないじゃないですか、婚約者でもあるまいに、名前で呼ぶわけにもいきませんし」
「そうなんだけどね」
困った様に頬をかく姿さえ絵になる、流石はメインヒーローと言ったところだ。
「それよりも、ミュゼリア様に言って、飼えばいいんじゃないですか？」
「えっ！？何を…」
「王宮は広いんです、ラッキーは犬ですけど、猫が一匹増えたところで問題ない広さだと思いますよ」
ギクっと身をすくめて、アクシアは何故知っているのかという顔をした。
「入学式の時からずーっと、園庭にいる迷い猫を餌付けしてましたよね？時間を忘れるくらい夢中になって」
それで、慌てて出てきたところで、ユリアにぶつかるのだ。
ゲームの知識を駆使した事は内緒にして、別の理由を伝えた。
「卒業後の猫の餌を心配するなら、連れて行けばいいですよ。制服に毛がついているから、皆んなには既にバレていると思います」
（実際、ゲームではヒロインと王子を出会わせてくれた猫は王宮に引き取られるのだから、問題ないだろう）
「そ、そっか、皆は知っていたか….わかった、ミュゼリアは犬派だから嫌がるかもしれないが、聞いてみよう」
「まだ、校舎付近でリカルド先生とお話しされていましたよ」
王子はいそいそと園庭に戻りながら会話を続けた。
「ありがとう、では、あの子を連れて交渉してみるよ。また、王宮の夜会で会おう！」
「ええ、招待いただけるのを心待ちにしています」
生垣に消えて行く王子を見送って、停車場まで更に歩いた。
先に準備をしていたリノが気付いて微笑んだ。
「お嬢様、お待ちしていました。では、帰りましょ…」
リノの言葉が終わらないうちに、今到着したばかりの公爵家の馬車から、鳶色の髪の男が飛び出してこちらに駆け寄ってきた。
「やあ！ユリア嬢、久しぶり！」
「ロータス？！どうしたの、慌てて」
「アンタの大切な魔法使い！アイツ…」
ドクッと心臓が揺れる。
「魔法使いって、タイラン？タイランがどうしたの？？」
「アイツ、目が覚めたってよ！！」