41 / 49
(40)
闇染の疑惑
しおりを挟む
「また失敗だと!?」
手にしていた万年筆を怒りに任せて投げ付ける。
ペン先が会話相手の頬をかすめ、壁に突き刺さった。
「申し訳ありません、我が君」
「これ以上魔塔側に情報を嗅ぎ付けられては面倒だ。次で必ず始末しろ!失敗は許さない」
無言のまま頭を下げて退出する姿を睨みつけたまま見送る。
この好機を逃せば、いつ次の機会を得られるか分からない。
それまでにアクシアが立太子を済ませてしまえば次期国王の座が遠のいてしまう。
「私は、必ず王の座を奪ってみせる」
アンドレは硬く握りしめた拳を机に打ちつけた。
いつだって兄は優越的な立場を崩さない。
常人より秀でた頭脳を褒められる際も、「さすが、アクシア様の弟君!」
武術にしても「アクシア様に次ぐ武勇を納められるでしょうな!」
何をやっても兄が引き合いに出される。
婚約者もそうだ。
兄には公爵家の中でも一番の勢力を誇るアルセイン家の令嬢があてがわれ、令嬢には幼少より王妃教育が施されて来た。
一方、自身には未だ婚約者はいない。
他国に養子に出される事や、臣籍降下する場合を考えての処遇だ。
どうやっても兄に勝てないような環境に置かれている。
「王座につけぬ王子など、主役になれない役者と同じ。私は脇役に甘んじる人生など望まない」
この冬にはデビュタントを迎える。
それまでに、兄を失墜させるのだ。
「聖女共々消えてしまえ!」
ーーユリアへ
西の森での調査はどう?
危ない目に遭ったって聞いたけど、怪我とかはしてないかい?
こちらは元気だよ。
学園生活は退屈で、ボクもそっちに行きたいくらい。
そうしたらキミを守れるのに…
今回手紙を書いたのには理由があってね、一つ前世の記憶でキミに伝えてなかった事があったのを思い出したんだ。
アクシア王が目に矢を受けたあの戦争の事なんだけど、どうもアンドレ王子の派閥の貴族が敵に情報を売った事で裏をかかれたみたいだ。
で、その王弟派には誰がいるか、回帰してから密かに調べたんだけど…幾つかの候補の中でも、ブリス・フォン・ハインベル子爵が怪しいとボクは思ってる。
アルセイン家が北の鉱山を領地に持っているのは知ってるよね?
親戚筋でもあるハインベル子爵は、副官として、長年あの鉱山の管理を任されていたんだ。
つまり、坑道の採掘ルートの決定権が彼には有る。
今回の魔獣の暴走にもハインベル子爵が関わっているかもしれない。
王子にも気をつけるようにうまく伝えてね!
また、顔を見られる日を心待ちにしているよ。
タイランよりーー
手紙が届いたのは昨日のこと、猪のような魔獣を倒したことへの宴があり、テントに戻ったユリアに届けられたのだ。
久々の学友からの手紙だったが、ユリアの気は晴れないでいた。
アトルとタイランは、まだ面識がないはずだ。
熊のような魔獣が作為的に暴走したと調査結果が出たからこそ、アトルは龍の暴走も作為があったのではないかと言い出したのだ。
(貴方なぜ魔獣の暴走に何者かの作為があった事を知ってるの?それに、龍の暴走にも作為があったかの調査だって、表立って行われてないはずなのに)
そうであって欲しくないのに、思考は止まらない。
魔獣に過剰に瘴気を取り込ませるような術となると、恐らく闇属性魔法の使い手、それもかなり魔法の使い方をを熟知した手練れが施したはずだ。
それに、暴走した魔獣は闇のように黒く染まり、赤い瞳をしていた。
タイランの髪や瞳の色を連想してしまう。
(もしも、タイランがやったとしたら、この手紙は何を伝えたかった?)
手紙にはハインベル子爵についてしきりに記載して居るのを思い出した。
ーーそれが、貴方の伝えたかった事?
ひとまず、それとなくハインベル子爵について王子に聞こう。
ユリアは今一度テントから出てアクシアの姿を探した。
手にしていた万年筆を怒りに任せて投げ付ける。
ペン先が会話相手の頬をかすめ、壁に突き刺さった。
「申し訳ありません、我が君」
「これ以上魔塔側に情報を嗅ぎ付けられては面倒だ。次で必ず始末しろ!失敗は許さない」
無言のまま頭を下げて退出する姿を睨みつけたまま見送る。
この好機を逃せば、いつ次の機会を得られるか分からない。
それまでにアクシアが立太子を済ませてしまえば次期国王の座が遠のいてしまう。
「私は、必ず王の座を奪ってみせる」
アンドレは硬く握りしめた拳を机に打ちつけた。
いつだって兄は優越的な立場を崩さない。
常人より秀でた頭脳を褒められる際も、「さすが、アクシア様の弟君!」
武術にしても「アクシア様に次ぐ武勇を納められるでしょうな!」
何をやっても兄が引き合いに出される。
婚約者もそうだ。
兄には公爵家の中でも一番の勢力を誇るアルセイン家の令嬢があてがわれ、令嬢には幼少より王妃教育が施されて来た。
一方、自身には未だ婚約者はいない。
他国に養子に出される事や、臣籍降下する場合を考えての処遇だ。
どうやっても兄に勝てないような環境に置かれている。
「王座につけぬ王子など、主役になれない役者と同じ。私は脇役に甘んじる人生など望まない」
この冬にはデビュタントを迎える。
それまでに、兄を失墜させるのだ。
「聖女共々消えてしまえ!」
ーーユリアへ
西の森での調査はどう?
危ない目に遭ったって聞いたけど、怪我とかはしてないかい?
こちらは元気だよ。
学園生活は退屈で、ボクもそっちに行きたいくらい。
そうしたらキミを守れるのに…
今回手紙を書いたのには理由があってね、一つ前世の記憶でキミに伝えてなかった事があったのを思い出したんだ。
アクシア王が目に矢を受けたあの戦争の事なんだけど、どうもアンドレ王子の派閥の貴族が敵に情報を売った事で裏をかかれたみたいだ。
で、その王弟派には誰がいるか、回帰してから密かに調べたんだけど…幾つかの候補の中でも、ブリス・フォン・ハインベル子爵が怪しいとボクは思ってる。
アルセイン家が北の鉱山を領地に持っているのは知ってるよね?
親戚筋でもあるハインベル子爵は、副官として、長年あの鉱山の管理を任されていたんだ。
つまり、坑道の採掘ルートの決定権が彼には有る。
今回の魔獣の暴走にもハインベル子爵が関わっているかもしれない。
王子にも気をつけるようにうまく伝えてね!
また、顔を見られる日を心待ちにしているよ。
タイランよりーー
手紙が届いたのは昨日のこと、猪のような魔獣を倒したことへの宴があり、テントに戻ったユリアに届けられたのだ。
久々の学友からの手紙だったが、ユリアの気は晴れないでいた。
アトルとタイランは、まだ面識がないはずだ。
熊のような魔獣が作為的に暴走したと調査結果が出たからこそ、アトルは龍の暴走も作為があったのではないかと言い出したのだ。
(貴方なぜ魔獣の暴走に何者かの作為があった事を知ってるの?それに、龍の暴走にも作為があったかの調査だって、表立って行われてないはずなのに)
そうであって欲しくないのに、思考は止まらない。
魔獣に過剰に瘴気を取り込ませるような術となると、恐らく闇属性魔法の使い手、それもかなり魔法の使い方をを熟知した手練れが施したはずだ。
それに、暴走した魔獣は闇のように黒く染まり、赤い瞳をしていた。
タイランの髪や瞳の色を連想してしまう。
(もしも、タイランがやったとしたら、この手紙は何を伝えたかった?)
手紙にはハインベル子爵についてしきりに記載して居るのを思い出した。
ーーそれが、貴方の伝えたかった事?
ひとまず、それとなくハインベル子爵について王子に聞こう。
ユリアは今一度テントから出てアクシアの姿を探した。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる