上 下
40 / 49
(39)

影の陰謀

しおりを挟む
「では、あの獣はユリア嬢を狙っていたと?」
アクシア王子は手にした魔核をじっと見つめた。
「ええ、高度鑑定を行ったわけではないので、断定はできませんが状況から見て間違い無いかと」
今王子のテント内には、ルドルフとアトルの三人だけだ。
半分に割られた魔核の年輪は、やはり直近だけ大幅に膨れている。
「魔塔に送って、最近の年輪に刻まれた魔素と記憶を辿れば確証が得られるでしょう。前回の熊型魔獣も聖属性に引き寄せられるように術が施されてましたし、二度目ともなれば偶然とは言えなくなります」
「一度目もそうだったと?あの席ではそんな事言ってなかったと思うが」
あの席とは、謁見の間で報告を受けた時を示している。
「あの時は、国王陛下と宰相様のみに先にお話をしました。今と同じく、聖女には聞かれたくなかったので」
自分が狙われているとしれば、調査に加わりたくないと言ったかもしれないと、アトルは危惧したのだ。
「王子殿下は聖女たちと後から来られましたからご存知なかったのです」
その後、父王も宰相もその事実を伝えてくれなかったのは、確証がなかったからか、それとも…
(そんな危ない任に、ユリア嬢を着かせられないと私が言い出すと分かっていたからか)
アクシアはため息を吐いた。

西の森で魔獣の暴走が起きれば、竜を鎮めた聖女は間違いなく駆り出される。
瘴気を過剰摂取させ、苦しみの中にいる魔獣に、聖属性魔法を喰らえば苦しみから解放されると知識を植え込んでやれば後は森に分け入った聖女を目掛けて魔獣は飛んでくる。
大地の龍アースドラゴンの暴走から、既に事が動いているんだとしたら、相手は相当の権力者か…」
(問題は誰が何のために聖女を狙うのか、そして、どうやって瘴気を過剰摂取させ、どのように聖女に向かうように知識を植え付けているのかーー)
"誰が"が分かれば後のことはその本人に聞けば解決するだろう。
ひとまず、坑道の採掘ルートを決めた者たちが誰だったかから探りを入れてはいるが、いまいち判然としない。
(聖女を潰したとして、その先に何がある?何が狙いなんだ?)
「王子殿下、聖女…ユリアの敵に心当たりは?」
「彼女に敵?」
最初にミュゼリアの顔が浮かんだが、打ち消した。
この森を治める領主の娘カリーナ嬢についてもそこまでの恨みは持っていないだろう。
令嬢が起こすような事件にしては大規模すぎる。
後は…
(まさか?)
ユリアが大地の龍アースドラゴンの浄化に向かう前、失神した時のことを思い出した。
(今日、あの獣が襲って来る中、彼女は毅然と立ち向かった。あの勇気ある彼女が、任務へのプレッシャーから卒倒するなんて事があるだろうか?)
だとしたら、何に対して気を失うほどの反応を見せたのか…思い出してみれば、最後に彼女は弟を見て倒れたように思う。
「もしかすると、彼女は王位争いに巻き込まれているのかもしれない」
「ユリアがですか?」
「いや、まだ確信は持てないが…誰だ!」
視界の端に、鳶色の髪の男が映り顔を向けた。
薄紫の瞳が微動だにせずこちらを見つめている。
「失礼しました、こちらはロータス、我が家の使用人です」
ルドルフが慌てて非礼を詫びた。
「国王陛下よりの報告書をお持ちしました、曰く、そろそろ必要だろうとの事です」
ロータスと紹介された男は悪びれる様子もなく、アクシアの手に書類を渡すと、そのまま直ぐに出入り口に向かい消えるように去っていった。
"使用人"の中でも、影の仕事をこなす方の存在だろう。
手元の書類に目を通して、それをそのままアトルに差し出した。
「私が見ても良いのですか?」
アトルは一瞬戸惑ったが、アクシアに促されるままにページをめくった。
「これは…」
「王位継承順位の上位者の動向、交友関係などの調査資料だね、追加してユリア嬢に関する調査資料も添付されている」
父王はどこまで把握しているのだろうか、全く敵わないと思い知らされた。
資料を読み終えたアトルは憂い顔を浮かべ、資料をアクシアに返した。
「これからこの国はどうなるのでしょうね」
「どうにもさせないさ、私がこの国を守るのだから」
ルドルフに資料を渡して、アクシアはテントを潜って外へと出た。
大物の討伐を祝ってささやかな宴の席が開かれていた。
その中心で無邪気に笑うユリアに目が留まる。
「王子殿下!コレ、食べないと無くなっちゃいますよー」
「分かった、今行く!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

処理中です...