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繰り返し花開く
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西の森に関しての報告を受けた後、アクシアは父王からの呼び出しを受けた。
「お呼びですか」
「ああ、よく来た。掛けなさい」
ソファーを勧められ、対面へと腰掛ける。
「ドルチェラン男爵令嬢は可愛らしい印象の娘だな」
「父上?」
意外な言葉にアクシアは目を丸くする。
「お前の同窓生で聖女、これも神のお導きかも知れん」
「何が仰りたいのですか?」
意図を探るように、少し低い声で尋ねる。
「お前は、臣民からの人望も厚く、政務をこなす能もある。諸外国への見識も深めつつある今、あとはお前を支える最良の妃の存在を願っているのだが…」
顎を撫でて、王は黙り込む。
沈黙に耐えられず、アクシアは口を開いた。
「それがミュゼリアであると、幼い頃より納得して今日まで良き夫となるよう務めているつもりですが…」
ますます訳がわからず、眉を顰めて王の言葉を待った。
「聖女は、今後民心を掴むだろう。それは高貴の生まれのミュゼリア嬢には難しい事だ」
「まさか!ユリア嬢を私の妃にお望みですか?!」
「そう驚くことでもあるまい、最良とは何か、一度考えてみるが良い」
「いや、しかし…」
戸惑い口籠る様子をみて、王は退出を促した。
「なにも今ここで決断する必要はない、お前の"最良"に考え至ったらまた聞かせておくれ」
「では、引き続き今後についてを詰めていこうと思います」
宰相は、紅茶を一杯飲み終わったころに客室に現れると、追加調査に向けての計画を立て始めた。
「まず、聖女ユリア殿に関しては、その聖属性魔法が瘴気に有効という事でしたから、今後も引き続き調査に加わっていただけますかな?」
「はい、大丈夫です」
宰相の発言は王命に等しく、断れるはずもない。
「魔塔側は、アトル殿が今後も継続して調査に向かわれるという事で宜しいか?」
「ええ、引き続き調査に当たるよう、塔の長より命じられております」
「では、聖女殿とアトル殿にはそれぞれ護衛をお付けいたしましょう。人選はこちらに任せていただいても構いませんかな?」
二人がそれぞれ頷いて肯定の意を示したのを見て、宰相は次の段階へ話を進めた。
「あとは、討伐隊の人選ですが…イルミオ殿、今回は外れて頂くことと成りましょう」
「なぜ?!今回の件は我が家が最初に王明を拝したはずでは?」
ガタン!と、音を立てて立ち上がり、憤りを隠そうともせず、イルミオは宰相に詰め寄った。
「そう、貴方の家に王命は降りましたが、貴方を指名して降したわけではない。聞けば学園での補講があるそうではないか、学生の本分は学問ですぞ?従者の商人も勿論、不参加です」
「ーーくっ!」
ぐうの音も出ない様子のイルミオを見て、説明は十分と判断した宰相は話を進めた。
「と、言うわけで、今回は貴方のお兄様が指揮をされる、近衛第三騎士団に討伐をお願いする事に致します」
終わってみれば、宰相の独壇場となった話し合いだった。
前世でなす術もなく流されて、処刑に至った事を思い出す。
(また、王族に流されるまま運命が決められてしまうの?)
それは嫌だと思った。
だからと言って、どうすれば良いのかも思いつかない。
(だからって、誰が助けてくれる?)
不意に、タイランの顔が浮かぶ。
伯爵家の長男で、今後魔塔のエースとなる、しかもギフト持ちで回帰者でもある彼なら支えてくれるだろうか?
でも、王族に対して彼に歯向かうだけの力は無いだろう。
(甘えてはダメ。迷惑は掛けられない)
次に思い浮かぶのはリカルド、そしてジョシュア…
「結局全員攻略対象じゃない」
帰りの馬車の中で一人、呟いた。
運命を変えようとしても、彼等との関係は断ち切れない。
物語に絡め取られるように誰かに縋りたくなってしまう。
(ううん、ダメ。今回こそ、一人で静かに平和に生きていくんだ!)
ふるふると頭の中から靄を追い出すように首を振った。
(この調査を乗り越えれば、きっと平和な学園生活が訪れるはずだわ。後は、卒業後の動向に気をつければ良いはず)
ようやく前向きになれた頃、馬車は家に到着した。
大好きな侍女が帰りを待ってくれている。
この幸せを今は味わえればそれで良い。
「お呼びですか」
「ああ、よく来た。掛けなさい」
ソファーを勧められ、対面へと腰掛ける。
「ドルチェラン男爵令嬢は可愛らしい印象の娘だな」
「父上?」
意外な言葉にアクシアは目を丸くする。
「お前の同窓生で聖女、これも神のお導きかも知れん」
「何が仰りたいのですか?」
意図を探るように、少し低い声で尋ねる。
「お前は、臣民からの人望も厚く、政務をこなす能もある。諸外国への見識も深めつつある今、あとはお前を支える最良の妃の存在を願っているのだが…」
顎を撫でて、王は黙り込む。
沈黙に耐えられず、アクシアは口を開いた。
「それがミュゼリアであると、幼い頃より納得して今日まで良き夫となるよう務めているつもりですが…」
ますます訳がわからず、眉を顰めて王の言葉を待った。
「聖女は、今後民心を掴むだろう。それは高貴の生まれのミュゼリア嬢には難しい事だ」
「まさか!ユリア嬢を私の妃にお望みですか?!」
「そう驚くことでもあるまい、最良とは何か、一度考えてみるが良い」
「いや、しかし…」
戸惑い口籠る様子をみて、王は退出を促した。
「なにも今ここで決断する必要はない、お前の"最良"に考え至ったらまた聞かせておくれ」
「では、引き続き今後についてを詰めていこうと思います」
宰相は、紅茶を一杯飲み終わったころに客室に現れると、追加調査に向けての計画を立て始めた。
「まず、聖女ユリア殿に関しては、その聖属性魔法が瘴気に有効という事でしたから、今後も引き続き調査に加わっていただけますかな?」
「はい、大丈夫です」
宰相の発言は王命に等しく、断れるはずもない。
「魔塔側は、アトル殿が今後も継続して調査に向かわれるという事で宜しいか?」
「ええ、引き続き調査に当たるよう、塔の長より命じられております」
「では、聖女殿とアトル殿にはそれぞれ護衛をお付けいたしましょう。人選はこちらに任せていただいても構いませんかな?」
二人がそれぞれ頷いて肯定の意を示したのを見て、宰相は次の段階へ話を進めた。
「あとは、討伐隊の人選ですが…イルミオ殿、今回は外れて頂くことと成りましょう」
「なぜ?!今回の件は我が家が最初に王明を拝したはずでは?」
ガタン!と、音を立てて立ち上がり、憤りを隠そうともせず、イルミオは宰相に詰め寄った。
「そう、貴方の家に王命は降りましたが、貴方を指名して降したわけではない。聞けば学園での補講があるそうではないか、学生の本分は学問ですぞ?従者の商人も勿論、不参加です」
「ーーくっ!」
ぐうの音も出ない様子のイルミオを見て、説明は十分と判断した宰相は話を進めた。
「と、言うわけで、今回は貴方のお兄様が指揮をされる、近衛第三騎士団に討伐をお願いする事に致します」
終わってみれば、宰相の独壇場となった話し合いだった。
前世でなす術もなく流されて、処刑に至った事を思い出す。
(また、王族に流されるまま運命が決められてしまうの?)
それは嫌だと思った。
だからと言って、どうすれば良いのかも思いつかない。
(だからって、誰が助けてくれる?)
不意に、タイランの顔が浮かぶ。
伯爵家の長男で、今後魔塔のエースとなる、しかもギフト持ちで回帰者でもある彼なら支えてくれるだろうか?
でも、王族に対して彼に歯向かうだけの力は無いだろう。
(甘えてはダメ。迷惑は掛けられない)
次に思い浮かぶのはリカルド、そしてジョシュア…
「結局全員攻略対象じゃない」
帰りの馬車の中で一人、呟いた。
運命を変えようとしても、彼等との関係は断ち切れない。
物語に絡め取られるように誰かに縋りたくなってしまう。
(ううん、ダメ。今回こそ、一人で静かに平和に生きていくんだ!)
ふるふると頭の中から靄を追い出すように首を振った。
(この調査を乗り越えれば、きっと平和な学園生活が訪れるはずだわ。後は、卒業後の動向に気をつければ良いはず)
ようやく前向きになれた頃、馬車は家に到着した。
大好きな侍女が帰りを待ってくれている。
この幸せを今は味わえればそれで良い。
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