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御前報告
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無事森からの帰還を果たし、ユリア達は今、王都に戻っていた。
アトルは魔塔に戻り、魔核の解析は順調に進んでいるという知らせも届いている。
季節は既に秋の空気に変わっていた。
「帰って早々のテスト、お疲れ様でした。ユリア嬢は補講なしで復帰ができそうですね、安心しましたよ」
リカルドは添削済みのテスト用紙を差し出して、ユリアに微笑みを向けた。
学園を離れている間にも、勿論、授業は進んでいるわけで、その間の知識が備わっているかの確認テストがあったのだ。
「ありがとうございます、私こそ安堵しました」
時期を同じくして北の鉱山地帯から戻ってきたタイランも問題なく通過。
(そりゃあ、お互いに学園生活も二度目となればね)
ユリアの視線に気付いたタイランは、Vサインを送ってきた。
一方で、イルミオは二教科ほど引っかかってしまったらしい。
これから放課後に補講を受けて立て直すことが決まったみたいだ。
「やあ、来たね」
王宮入り口の長い階段の終わりにアクシア王子が立っていた。
「王子殿下自らがお出迎えとは、なんと恐れ多い!」
イルミオはわざとらしく大袈裟な礼をした。
その後ろでユリアは笑いを堪えてお辞儀をする。
「そんなに畏まらないで、級友じゃないか。さあ、行こう」
(前は、こんな風に王子だからと気取らないで、みんなに平等に接してくれる優しい所が好きだったな)
ユリアは背中を見つめながら考える。
この先の悲劇を知っているだけに、その優しさが仇となる事も、王には向かない気質だということも理解している。
(今回はストーリー通りに進めてないから、私と恋仲になる事は無いはずだけど、国王になった後、彼が苦労しないと良いな)
自身にとっては、過去愛した男だ。
できれば彼に幸運を、と望んでしまうのは自然な事だろう。
謁見の間に通されて、膝をつく。
既にその場を訪れていた、アトルの横に並び、首を垂らして王の登場を待った。
今日は魔核の解析結果の報告と、今後についての話し合いが行われるのだ。
「皆、揃ったな」
国王の声が響く。
一通り挨拶が終わると、すぐに本題に入った。
「まずは魔核の解析結果について報告を」
宰相が進行を始め、アトルはそれに従って報告を開始した。
「端的に申し上げると、魔核には変化が起こっておりました」
王の侍従にアトルが目線を向けると、侍従は手にした魔核の乗せられた木箱を王の前に捧げ持った。
その魔核は、熊のような魔物から落ちた物だった。
「正確に申し上げれば、今回持ち帰った魔石は20個、その中で変化が起こっていたのは、こちらの一つだけです」
「普通の魔核との違いはないように見えるが?」
国王はじっくりと観察するように魔核を見つめる。
「外見上に変化は有りません。比較的大きめの魔核ではありますが、それは討伐した獣がそれだけ多くの魔素を溜め込んだためであるのも変わりはありません」
アトルはもう一度侍従に視線を送る。
侍従は魔核に触れ、その上半分を取り払った。
「しかし、内部的にはこのように不可思議な現象が見て取れます」
魔核を半分に切断した断面は、樹木の年輪のように層ができている。
「一番中央が魔核の本来の大きさです。そこから外に向かって、力を蓄えるごとに築かれる年輪ですが、一番直近だけ層が二倍以上あり、色も黒に近い」
「ふむ、確かに…」
「左様ですな」
王も宰相も、興味深そうに説明に耳を傾けている。
「多少誤差はあれど、魔核が一定期間に摂り込む魔素量は大体同じなのです。だから、年輪も本来は等間隔に仕上がる。今回のように、こんなに大量の魔素が摂り込まれるのは明らかに異常です」
「何が起きたというのですか?」
痺れを切らせたように、宰相がアトルに結論を急がせた。
「魔塔では、この年輪の記憶を読み解く術があります。そして、この魔核を保有していた魔物からは、作為的に瘴気を過剰摂取させられたという記憶が読み取れました」
「作為的に?!」
宰相は驚きを隠せない様子を見せた。
「北の方でも過剰な邪気を摂取し、暴走しかけた龍が居ましたね。既のところで聖女様が浄化をして免れましたが…処置が間に合わなければ、この魔物と同じように暴走していた事でしょう」
大地の龍を引き合いに出した事にはなんらかの意図があったのだろう。
(つまりそれって、大地の龍の事も、誰かがわざと地脈を断つように坑道を掘らせた可能性があるって言いたい?)
ユリアですらそう思わされた発言だ、周りの優秀な大人たちがその可能性に気付かない訳がない。
「現時点では、森の奥に瘴気がなんらかの事情で溜まり続け、そのせいで暴走する個体が出始めているという事です。まだ調査が足りない…以上がご報告となります」
「む、報告ご苦労。今後も調査は必要であろうな。詳細は別室にて詰めて欲しい」
国王はそれだけを言い残して退出し、ユリアたちはそのまま客室の一つへ通された。
アトルは魔塔に戻り、魔核の解析は順調に進んでいるという知らせも届いている。
季節は既に秋の空気に変わっていた。
「帰って早々のテスト、お疲れ様でした。ユリア嬢は補講なしで復帰ができそうですね、安心しましたよ」
リカルドは添削済みのテスト用紙を差し出して、ユリアに微笑みを向けた。
学園を離れている間にも、勿論、授業は進んでいるわけで、その間の知識が備わっているかの確認テストがあったのだ。
「ありがとうございます、私こそ安堵しました」
時期を同じくして北の鉱山地帯から戻ってきたタイランも問題なく通過。
(そりゃあ、お互いに学園生活も二度目となればね)
ユリアの視線に気付いたタイランは、Vサインを送ってきた。
一方で、イルミオは二教科ほど引っかかってしまったらしい。
これから放課後に補講を受けて立て直すことが決まったみたいだ。
「やあ、来たね」
王宮入り口の長い階段の終わりにアクシア王子が立っていた。
「王子殿下自らがお出迎えとは、なんと恐れ多い!」
イルミオはわざとらしく大袈裟な礼をした。
その後ろでユリアは笑いを堪えてお辞儀をする。
「そんなに畏まらないで、級友じゃないか。さあ、行こう」
(前は、こんな風に王子だからと気取らないで、みんなに平等に接してくれる優しい所が好きだったな)
ユリアは背中を見つめながら考える。
この先の悲劇を知っているだけに、その優しさが仇となる事も、王には向かない気質だということも理解している。
(今回はストーリー通りに進めてないから、私と恋仲になる事は無いはずだけど、国王になった後、彼が苦労しないと良いな)
自身にとっては、過去愛した男だ。
できれば彼に幸運を、と望んでしまうのは自然な事だろう。
謁見の間に通されて、膝をつく。
既にその場を訪れていた、アトルの横に並び、首を垂らして王の登場を待った。
今日は魔核の解析結果の報告と、今後についての話し合いが行われるのだ。
「皆、揃ったな」
国王の声が響く。
一通り挨拶が終わると、すぐに本題に入った。
「まずは魔核の解析結果について報告を」
宰相が進行を始め、アトルはそれに従って報告を開始した。
「端的に申し上げると、魔核には変化が起こっておりました」
王の侍従にアトルが目線を向けると、侍従は手にした魔核の乗せられた木箱を王の前に捧げ持った。
その魔核は、熊のような魔物から落ちた物だった。
「正確に申し上げれば、今回持ち帰った魔石は20個、その中で変化が起こっていたのは、こちらの一つだけです」
「普通の魔核との違いはないように見えるが?」
国王はじっくりと観察するように魔核を見つめる。
「外見上に変化は有りません。比較的大きめの魔核ではありますが、それは討伐した獣がそれだけ多くの魔素を溜め込んだためであるのも変わりはありません」
アトルはもう一度侍従に視線を送る。
侍従は魔核に触れ、その上半分を取り払った。
「しかし、内部的にはこのように不可思議な現象が見て取れます」
魔核を半分に切断した断面は、樹木の年輪のように層ができている。
「一番中央が魔核の本来の大きさです。そこから外に向かって、力を蓄えるごとに築かれる年輪ですが、一番直近だけ層が二倍以上あり、色も黒に近い」
「ふむ、確かに…」
「左様ですな」
王も宰相も、興味深そうに説明に耳を傾けている。
「多少誤差はあれど、魔核が一定期間に摂り込む魔素量は大体同じなのです。だから、年輪も本来は等間隔に仕上がる。今回のように、こんなに大量の魔素が摂り込まれるのは明らかに異常です」
「何が起きたというのですか?」
痺れを切らせたように、宰相がアトルに結論を急がせた。
「魔塔では、この年輪の記憶を読み解く術があります。そして、この魔核を保有していた魔物からは、作為的に瘴気を過剰摂取させられたという記憶が読み取れました」
「作為的に?!」
宰相は驚きを隠せない様子を見せた。
「北の方でも過剰な邪気を摂取し、暴走しかけた龍が居ましたね。既のところで聖女様が浄化をして免れましたが…処置が間に合わなければ、この魔物と同じように暴走していた事でしょう」
大地の龍を引き合いに出した事にはなんらかの意図があったのだろう。
(つまりそれって、大地の龍の事も、誰かがわざと地脈を断つように坑道を掘らせた可能性があるって言いたい?)
ユリアですらそう思わされた発言だ、周りの優秀な大人たちがその可能性に気付かない訳がない。
「現時点では、森の奥に瘴気がなんらかの事情で溜まり続け、そのせいで暴走する個体が出始めているという事です。まだ調査が足りない…以上がご報告となります」
「む、報告ご苦労。今後も調査は必要であろうな。詳細は別室にて詰めて欲しい」
国王はそれだけを言い残して退出し、ユリアたちはそのまま客室の一つへ通された。
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