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魔塔の使者

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「お初にお目にかかります。私は魔塔所属のアトル・グリーモと、申します」
子爵邸での顔合わせで、魔術師アトルは深々と頭を下げた。
さて、聖女とはどんな高飛車な女だろうか?男爵家の令嬢にして、龍を浄化した聖女。
きっと持ち上げられて天狗にでもなっているだろう。
(面倒な仕事に回されたもんだ)
内心、溜息を吐きつつ、さり気なくユリアを伺う。
「こちらは、ユリア・ド・ドルチェラン男爵令嬢、私は騎士爵家のイルミオ・グレンシオラス、そしてその従者のジョシュア・バートランだ、よろしく頼む」
「聖女様と、魔物を討伐された魔法剣士様ですね、存じております」
(気に入りの男達と仲良く冒険ごっこと行ったところか、まったく呑気な)
初対面のアトルがユリアに対して印象が悪いのには訳があった。
魔塔と神殿には長年の確執があり、いつも敵対してきた。
また二者は王国内のパワーバランス的にも拮抗し、微妙なところでその均衡を保っていた。
そんなことから、列聖を受けた事で既に神殿側と認識されたユリアは、初っ端から敵扱いなのである。
魔塔が最も警戒するのは、王国内で神殿側の発言権が強まること。
今回の調査に聖女の同行を要求したのは、国民からの支持を獲始めているユリアの粗探しの意味も含まれているのである。
「ユリアと申します。どうぞお気軽にお呼び下さい」
「ユリア様も私をアトルとお呼び頂ければと思います」
儀礼的に答えながらもアトルは冷たい目線をユリアに向けた。

子爵から一夜の宿として用意された部屋に通された後、三人は自然とイルミオの部屋に集まっていた。
「あの魔術師…なんだか気に食わん」
「アトルさんがですか?」
「ああー、確かに。ユリア嬢をジロジロ睨んだりして何か思うところありそうでしたね」
「本当?気付かなかった!」
(私ったら、この世界の人はみんな顔が整ってるなー。この人モブだよね?攻略対象並に顔がいいんだけど!とか考えて、相手の態度なんて気にしてなかったわ)
確かにアトルは中性的な顔立ちをしていた。金茶色の髪と薄水色の瞳が美しかった。
ユリアが黙り込んでしまったのを誤解して、イルミオはポンポンと優しく頭を撫でながら励ましてきた。
「大丈夫だ、何があっても守ると約束しているだろう?」
「うわー、大胆!自分の婚約者の家で他の女の子に触れるとか、破廉恥ですよ」
予想外の台詞に戸惑って、イルミオは体の動きを止める。
そして、思い当たると瞬時に手を引っ込めて謝罪をしてきた。
「すまない!俺には歳の離れた弟が居るんだが、それと接する時と錯覚をした、無自覚だったとはいえ申し訳ない」
「いえ、私こそそのまま受け流してすみません」
「そんな所、さっきの魔術師さんに見られたら誤解されますからね?気をつけてくださいよ、お二人さん」
ジョシュアは面白いおもちゃで遊んでいるような表情で二人を一頻り眺め、気が済んだのか別の話題を振った。
「ところで、これからの調査はどう進めて行く予定ですか?」
「あ、うん。先ずは魔物の出現する辺りまで進み、実際に何体か討伐をする。ユリア嬢、魔物は倒れると魔核を落とすのは知っているか?」
「えっと、魔石の一つと定義されるのよね、自然の鉱物に含まれる物より付与されている効果が高いとか、そのくらいしか知らないけど」
その答に、イルミオは頷く。
「その通り、魔塔では更に高度な鑑定によって、魔核に刻まれたその魔物の情報を詳しく知る事ができるらしい」
ジョシュアはポンと手を打って、イルミオの話に続いた。
「なるほど、討伐した魔物の魔核から変異などの異常が起きてないかなど調べるんですね」
「そう、その通りだ。基本は俺とジョシュアとで討伐、後方支援にアトル殿だ。もし瘴気が濃くて動きずらい時は、ユリア嬢には浄化を頼みたい」
「うん、頑張るよ」
力強く頷くと、イルミオは微笑んで立ち上がる。
「さあ、明日からは森の中だ。今日は早めにしっかり休もう」
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