35 / 49
(34)
魔塔の使者
しおりを挟む
「お初にお目にかかります。私は魔塔所属のアトル・グリーモと、申します」
子爵邸での顔合わせで、魔術師アトルは深々と頭を下げた。
さて、聖女とはどんな高飛車な女だろうか?男爵家の令嬢にして、龍を浄化した聖女。
きっと持ち上げられて天狗にでもなっているだろう。
(面倒な仕事に回されたもんだ)
内心、溜息を吐きつつ、さり気なくユリアを伺う。
「こちらは、ユリア・ド・ドルチェラン男爵令嬢、私は騎士爵家のイルミオ・グレンシオラス、そしてその従者のジョシュア・バートランだ、よろしく頼む」
「聖女様と、魔物を討伐された魔法剣士様ですね、存じております」
(気に入りの男達と仲良く冒険ごっこと行ったところか、まったく呑気な)
初対面のアトルがユリアに対して印象が悪いのには訳があった。
魔塔と神殿には長年の確執があり、いつも敵対してきた。
また二者は王国内のパワーバランス的にも拮抗し、微妙なところでその均衡を保っていた。
そんなことから、列聖を受けた事で既に神殿側と認識されたユリアは、初っ端から敵扱いなのである。
魔塔が最も警戒するのは、王国内で神殿側の発言権が強まること。
今回の調査に聖女の同行を要求したのは、国民からの支持を獲始めているユリアの粗探しの意味も含まれているのである。
「ユリアと申します。どうぞお気軽にお呼び下さい」
「ユリア様も私をアトルとお呼び頂ければと思います」
儀礼的に答えながらもアトルは冷たい目線をユリアに向けた。
子爵から一夜の宿として用意された部屋に通された後、三人は自然とイルミオの部屋に集まっていた。
「あの魔術師…なんだか気に食わん」
「アトルさんがですか?」
「ああー、確かに。ユリア嬢をジロジロ睨んだりして何か思うところありそうでしたね」
「本当?気付かなかった!」
(私ったら、この世界の人はみんな顔が整ってるなー。この人モブだよね?攻略対象並に顔がいいんだけど!とか考えて、相手の態度なんて気にしてなかったわ)
確かにアトルは中性的な顔立ちをしていた。金茶色の髪と薄水色の瞳が美しかった。
ユリアが黙り込んでしまったのを誤解して、イルミオはポンポンと優しく頭を撫でながら励ましてきた。
「大丈夫だ、何があっても守ると約束しているだろう?」
「うわー、大胆!自分の婚約者の家で他の女の子に触れるとか、破廉恥ですよ」
予想外の台詞に戸惑って、イルミオは体の動きを止める。
そして、思い当たると瞬時に手を引っ込めて謝罪をしてきた。
「すまない!俺には歳の離れた弟が居るんだが、それと接する時と錯覚をした、無自覚だったとはいえ申し訳ない」
「いえ、私こそそのまま受け流してすみません」
「そんな所、さっきの魔術師さんに見られたら誤解されますからね?気をつけてくださいよ、お二人さん」
ジョシュアは面白いおもちゃで遊んでいるような表情で二人を一頻り眺め、気が済んだのか別の話題を振った。
「ところで、これからの調査はどう進めて行く予定ですか?」
「あ、うん。先ずは魔物の出現する辺りまで進み、実際に何体か討伐をする。ユリア嬢、魔物は倒れると魔核を落とすのは知っているか?」
「えっと、魔石の一つと定義されるのよね、自然の鉱物に含まれる物より付与されている効果が高いとか、そのくらいしか知らないけど」
その答に、イルミオは頷く。
「その通り、魔塔では更に高度な鑑定によって、魔核に刻まれたその魔物の情報を詳しく知る事ができるらしい」
ジョシュアはポンと手を打って、イルミオの話に続いた。
「なるほど、討伐した魔物の魔核から変異などの異常が起きてないかなど調べるんですね」
「そう、その通りだ。基本は俺とジョシュアとで討伐、後方支援にアトル殿だ。もし瘴気が濃くて動きずらい時は、ユリア嬢には浄化を頼みたい」
「うん、頑張るよ」
力強く頷くと、イルミオは微笑んで立ち上がる。
「さあ、明日からは森の中だ。今日は早めにしっかり休もう」
子爵邸での顔合わせで、魔術師アトルは深々と頭を下げた。
さて、聖女とはどんな高飛車な女だろうか?男爵家の令嬢にして、龍を浄化した聖女。
きっと持ち上げられて天狗にでもなっているだろう。
(面倒な仕事に回されたもんだ)
内心、溜息を吐きつつ、さり気なくユリアを伺う。
「こちらは、ユリア・ド・ドルチェラン男爵令嬢、私は騎士爵家のイルミオ・グレンシオラス、そしてその従者のジョシュア・バートランだ、よろしく頼む」
「聖女様と、魔物を討伐された魔法剣士様ですね、存じております」
(気に入りの男達と仲良く冒険ごっこと行ったところか、まったく呑気な)
初対面のアトルがユリアに対して印象が悪いのには訳があった。
魔塔と神殿には長年の確執があり、いつも敵対してきた。
また二者は王国内のパワーバランス的にも拮抗し、微妙なところでその均衡を保っていた。
そんなことから、列聖を受けた事で既に神殿側と認識されたユリアは、初っ端から敵扱いなのである。
魔塔が最も警戒するのは、王国内で神殿側の発言権が強まること。
今回の調査に聖女の同行を要求したのは、国民からの支持を獲始めているユリアの粗探しの意味も含まれているのである。
「ユリアと申します。どうぞお気軽にお呼び下さい」
「ユリア様も私をアトルとお呼び頂ければと思います」
儀礼的に答えながらもアトルは冷たい目線をユリアに向けた。
子爵から一夜の宿として用意された部屋に通された後、三人は自然とイルミオの部屋に集まっていた。
「あの魔術師…なんだか気に食わん」
「アトルさんがですか?」
「ああー、確かに。ユリア嬢をジロジロ睨んだりして何か思うところありそうでしたね」
「本当?気付かなかった!」
(私ったら、この世界の人はみんな顔が整ってるなー。この人モブだよね?攻略対象並に顔がいいんだけど!とか考えて、相手の態度なんて気にしてなかったわ)
確かにアトルは中性的な顔立ちをしていた。金茶色の髪と薄水色の瞳が美しかった。
ユリアが黙り込んでしまったのを誤解して、イルミオはポンポンと優しく頭を撫でながら励ましてきた。
「大丈夫だ、何があっても守ると約束しているだろう?」
「うわー、大胆!自分の婚約者の家で他の女の子に触れるとか、破廉恥ですよ」
予想外の台詞に戸惑って、イルミオは体の動きを止める。
そして、思い当たると瞬時に手を引っ込めて謝罪をしてきた。
「すまない!俺には歳の離れた弟が居るんだが、それと接する時と錯覚をした、無自覚だったとはいえ申し訳ない」
「いえ、私こそそのまま受け流してすみません」
「そんな所、さっきの魔術師さんに見られたら誤解されますからね?気をつけてくださいよ、お二人さん」
ジョシュアは面白いおもちゃで遊んでいるような表情で二人を一頻り眺め、気が済んだのか別の話題を振った。
「ところで、これからの調査はどう進めて行く予定ですか?」
「あ、うん。先ずは魔物の出現する辺りまで進み、実際に何体か討伐をする。ユリア嬢、魔物は倒れると魔核を落とすのは知っているか?」
「えっと、魔石の一つと定義されるのよね、自然の鉱物に含まれる物より付与されている効果が高いとか、そのくらいしか知らないけど」
その答に、イルミオは頷く。
「その通り、魔塔では更に高度な鑑定によって、魔核に刻まれたその魔物の情報を詳しく知る事ができるらしい」
ジョシュアはポンと手を打って、イルミオの話に続いた。
「なるほど、討伐した魔物の魔核から変異などの異常が起きてないかなど調べるんですね」
「そう、その通りだ。基本は俺とジョシュアとで討伐、後方支援にアトル殿だ。もし瘴気が濃くて動きずらい時は、ユリア嬢には浄化を頼みたい」
「うん、頑張るよ」
力強く頷くと、イルミオは微笑んで立ち上がる。
「さあ、明日からは森の中だ。今日は早めにしっかり休もう」
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる