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閃く火焔の剣
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あと数刻で、カリーナの父が治める子爵領に到着するという頃だった。
ーーガガガッ!
と、大きな音をたてて、馬車が停止した。
「立派な馬車だな、おい、護衛はなしか?」
「無防備だなぁ、だから、狙われるんだぜ」
「御者の兄ちゃんよぅ?命が惜しけりゃこのままどっかに失せな!」
複数の男に、馬車が囲まれている。
そう気付くまでに時間はかからなかった。
「5、いや…8人、ジョシュア1人だときついか」
対面に座していたイルミオは独り言を呟いて、立ち上がる。
「ユリア嬢、俺が出たら必ずすぐに馬車の扉の内鍵をかけて欲しい。誰の馬車の前に立ちはだかったか、思い知らせてくる」
「分かった、ご武運を」
不安はなかった、イルミオがただの無頼漢ごときに遅れを取るはずがないと知っているからだ。
(イルミオルートの好感度イベントだもの)
「聖女様に祈ってもらったんだ、完全勝利しかないな」
その言葉を車内に残し、イルミオは勢いよく飛び出した。
リノが素早く内鍵をかけ、ユリアに寄り添う。
新たな人物の登場に、外の男たちも反応を示した。
「なんだよ、中にいたのは男かよ」
「お、やり合うつもりか?剣なんか抜いちゃって。金持ちのボンボンに人が切れるかね」
下卑た笑いを気にも留めず、イルミオの低い声が空気を揺るがせる。
ーー火焔一閃!!
轟音とともに、空気を焦がす炎の波状攻撃が敵に襲いかかる。
反応が遅れた3人が、火だるまになって転げ回った。
なんとか掻い潜った残党も、既に間合いを詰めているイルミオの剣に打ち据えられて昏倒する。
ドサッドサ!と、音を立てて4人ほどその場に倒れた。
「くそぉぉぉ!」
馬車に駆け寄る残りの1人をイルミオは見送った。
「そいつの対応は任せた」
「仰せのままに!」
ジョシュアは御者台の手すりを上手く利用し、まるで体操選手があん馬で開脚旋回するようにして、突っ込んで来た男の顎を跳ね上げた。
面白いように、襲撃者は膝から崩れ落ちていく。
「ユリア嬢、終わりましたよ」
「そうみたいね。流石、瞬殺ね」
「殺してまではいない」
扉を解錠して迎え入れると、何事も無かったようにイルミオは静かに座面に腰掛けた。
「あの人たちは、どうするの?」
車窓から様子を見ていると、ジョシュアはどこから取り出したのか、荒縄で男たちを縛り上げ、道端に転がしていく姿が見えた。
「先に進んだ所に、警備隊の駐屯地がある。到着したらこの件を伝えて、連行してもらう」
「そう、それなら安心ね」
「怖い思いをさせた、以前はこんな所に馬車強盗など出なかったのだが…」
「馬車は無事?」
「ああ、脱輪するように落とし穴を掘ってあったみたいだが、あの程度の浅さなら問題ない」
言葉通り、御者台に戻ったジョシュアの匠な馬捌きで、見事に馬車は立て直された。
また、規則正しい揺れを取り戻した車内で、うつらうつらと眠気に身を任せていると、ポツリとイルミオが呟いた。
「これからも俺が守るから、安心して欲しい」
あんな事があった後なのに、無防備に眠りに落ちそうなヒロインを愛しく思って、イルミオが口にする言葉。
台本通り到来したそれに、ユリアは頭を悩ませた。
(イルミオルートなら、微笑んで「ありがとう、イルミオが居てくれるなら安心ね」の台詞を選択すれば良い)
でも、私はそれを望まない。
だから、ここでの台詞はこうだ。
「うん、旅の間は、よろしくね」
「ーーああ、任せておけ」
何か言いたそうにして、諦めた様子のイルミオが頷いて、会話は途切れた。
夕暮れと共に子爵領に入った。
ジョシュアは馬車強盗のことを伝えに警備隊の駐屯地に行き、イルミオとは宿内で別部屋に分かれた。
明日は子爵邸へ挨拶に向かい、魔塔の魔術師と対面する。その翌日からはいよいよ森へ入ることとなった。
ーーガガガッ!
と、大きな音をたてて、馬車が停止した。
「立派な馬車だな、おい、護衛はなしか?」
「無防備だなぁ、だから、狙われるんだぜ」
「御者の兄ちゃんよぅ?命が惜しけりゃこのままどっかに失せな!」
複数の男に、馬車が囲まれている。
そう気付くまでに時間はかからなかった。
「5、いや…8人、ジョシュア1人だときついか」
対面に座していたイルミオは独り言を呟いて、立ち上がる。
「ユリア嬢、俺が出たら必ずすぐに馬車の扉の内鍵をかけて欲しい。誰の馬車の前に立ちはだかったか、思い知らせてくる」
「分かった、ご武運を」
不安はなかった、イルミオがただの無頼漢ごときに遅れを取るはずがないと知っているからだ。
(イルミオルートの好感度イベントだもの)
「聖女様に祈ってもらったんだ、完全勝利しかないな」
その言葉を車内に残し、イルミオは勢いよく飛び出した。
リノが素早く内鍵をかけ、ユリアに寄り添う。
新たな人物の登場に、外の男たちも反応を示した。
「なんだよ、中にいたのは男かよ」
「お、やり合うつもりか?剣なんか抜いちゃって。金持ちのボンボンに人が切れるかね」
下卑た笑いを気にも留めず、イルミオの低い声が空気を揺るがせる。
ーー火焔一閃!!
轟音とともに、空気を焦がす炎の波状攻撃が敵に襲いかかる。
反応が遅れた3人が、火だるまになって転げ回った。
なんとか掻い潜った残党も、既に間合いを詰めているイルミオの剣に打ち据えられて昏倒する。
ドサッドサ!と、音を立てて4人ほどその場に倒れた。
「くそぉぉぉ!」
馬車に駆け寄る残りの1人をイルミオは見送った。
「そいつの対応は任せた」
「仰せのままに!」
ジョシュアは御者台の手すりを上手く利用し、まるで体操選手があん馬で開脚旋回するようにして、突っ込んで来た男の顎を跳ね上げた。
面白いように、襲撃者は膝から崩れ落ちていく。
「ユリア嬢、終わりましたよ」
「そうみたいね。流石、瞬殺ね」
「殺してまではいない」
扉を解錠して迎え入れると、何事も無かったようにイルミオは静かに座面に腰掛けた。
「あの人たちは、どうするの?」
車窓から様子を見ていると、ジョシュアはどこから取り出したのか、荒縄で男たちを縛り上げ、道端に転がしていく姿が見えた。
「先に進んだ所に、警備隊の駐屯地がある。到着したらこの件を伝えて、連行してもらう」
「そう、それなら安心ね」
「怖い思いをさせた、以前はこんな所に馬車強盗など出なかったのだが…」
「馬車は無事?」
「ああ、脱輪するように落とし穴を掘ってあったみたいだが、あの程度の浅さなら問題ない」
言葉通り、御者台に戻ったジョシュアの匠な馬捌きで、見事に馬車は立て直された。
また、規則正しい揺れを取り戻した車内で、うつらうつらと眠気に身を任せていると、ポツリとイルミオが呟いた。
「これからも俺が守るから、安心して欲しい」
あんな事があった後なのに、無防備に眠りに落ちそうなヒロインを愛しく思って、イルミオが口にする言葉。
台本通り到来したそれに、ユリアは頭を悩ませた。
(イルミオルートなら、微笑んで「ありがとう、イルミオが居てくれるなら安心ね」の台詞を選択すれば良い)
でも、私はそれを望まない。
だから、ここでの台詞はこうだ。
「うん、旅の間は、よろしくね」
「ーーああ、任せておけ」
何か言いたそうにして、諦めた様子のイルミオが頷いて、会話は途切れた。
夕暮れと共に子爵領に入った。
ジョシュアは馬車強盗のことを伝えに警備隊の駐屯地に行き、イルミオとは宿内で別部屋に分かれた。
明日は子爵邸へ挨拶に向かい、魔塔の魔術師と対面する。その翌日からはいよいよ森へ入ることとなった。
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