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西の森へ
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「おや、こんな所でお会いするなんて奇遇ですね」
艶やかな黒髪、褐色の肌、琥珀色の瞳が印象的な男が微笑んだ。
(ジョシュアはイルミオの従者として学園に出入りしてるから、一緒にいるのは不自然では無いけど…でもなぜ二人がここに?)
「貴方は、確か仕立て屋でお会いした?」
「なんと!一介の商人を覚えておいでですか!」
ジョシュアは驚きをそのままに、少し大袈裟なゼスチャーで表す。
「二人は顔見知りだったのか、少し意外だ」
イルミオが間に入って紹介をする。
「こちらは、ジョシュア・バートランと言って、南方の商人です。今は故あって、俺…私の従者となっております」
「どうぞお見知り置きを!」
と、ジョシュアは南方流のお辞儀をした。
「こちらは、男爵家の令嬢で聖女でもあるユリア・ド・ドルチェラン嬢」
「こちらこそよろしくお願いします」
ユリアも丁寧な礼で応えて、それからイルミオに向き直る。
「それで、お二人は何故こちらに?」
「少し長くなります、場所を変えましょう」
イルミオは自分たちが滞在している宿までユリアを案内した。
「それで、俺…私とジョシュアがここにきた理由ですが」
「ちょっといいですか?」
ユリアは宿屋の喫茶スペースで話を始めたイルミオを遮った。
「あの、俺って言っても大丈夫ですよ、それに、同級生じゃないですか、敬語もいらないです」
「有難いお申し出ですが、ユリア嬢も敬語で話されているじゃないですか、ユリア嬢こそもっとお気軽にお話下さい」
ユリアは少し考えてから頷く。
「じゃあ、そうする。だから、イルミオ様も敬語は使わないでね」
「分かった。正直、猫をかぶるのは得意では無いから助かる」
どちらからともなく笑い合う。
少し場が和んで、イルミオの肩の力が抜けた様子だ。
「端的にいうと、俺とジョシュアはユリア嬢を迎えにきた。西の森の調査に、聖女の力が必要なんだ」
「西の森というと、昔から魔物の出現が絶えないと聞くけれど…」
ユリアの言葉を受けて、今度はジョシュアが話し始める。
「それが、このところ魔物の数が増え、強さも上がっているみたいなんですよね。商人仲間の被害も、随分と出ているんです」
「何か切っ掛けでもあったのかしら」
「それを調査するために、うちの家門に出兵の命が降ったのだ」
「それは以前、イルミオ様が西の森で魔物の討伐に成功したから?」
「それもある、そして、西の森はカリーナの家の領地なんだ」
つまり、お前の嫁(仮)の家が大変らしいな。討伐経験のある息子も居るし、一丁、事態を治めてこいや!という王命である。
「とはいえ、単なる討伐ではなく、魔物が活性化した原因の調査となると門外漢も良いところだからな、魔塔にも協力を依頼した所、聖女の同行を条件に、協力をしても良いと言われたんだ」
イルミオはそこまで説明して、こちらの表情を伺う。
「西の森の調査に聖女の力が必要…イルミオ様、結構端折ったわね」
ただ、西の森に赴くに聖女の力を貸して欲しいのかと思ったら、そうではなかった。
本当は魔塔の力が欲しくて、そのエサとして私が必要だと理解した。
「正直、良い気分はしないけど、イルミオ様の顔を立ててあげる。ジョシュアさんと再開したのも何かの縁かもだしね」
タイランから聞いた、前世の出来事からしても、ここで同行せずとも、どの道森には向かうことになると知っている。
だったら、恩を売っておくのもいいだろう。
「ユリア嬢、恩に着る!必ず貴女のことは私が守るから安心して欲しい」
ホッとした表情で、胸を撫で下ろすイルミオに、ジョシュアが算盤を出して詰め寄る。
「そうと決まれば、ユリア嬢の旅支度の品を揃えないといけませんよ!今回はイルミオ様持ちでご用意なさるでしょ?」
「もちろん、そのつもりだ」
「では、相応のご予算で、この位でどうですか?」
素早い指捌きで金額を弾き出すジョシュアをユリアは止めた。
「必要なものは全て整ってるわ、消耗品を買い足す程度で良いの。それより、この地まで一緒に来ている侍女が居るんだけど、彼女も連れて行って良い?」
「旅の間は構わない。ただ森に入る時の同行は難しいと思うが」
「危険な森の中まで連れて行こうなんて思ってないもの、それで十分よ」
「分かった。では、明日から早速向かおう」
差し出された手を握り返して、新たな旅立ちのスタートに立った。
(学園モノの恋愛ストーリーのはずなのに、全然学園にいないなぁ)
と、頭に過ったが、それで良いのかもしれない。未来は確実に変わっていっているのだから。
艶やかな黒髪、褐色の肌、琥珀色の瞳が印象的な男が微笑んだ。
(ジョシュアはイルミオの従者として学園に出入りしてるから、一緒にいるのは不自然では無いけど…でもなぜ二人がここに?)
「貴方は、確か仕立て屋でお会いした?」
「なんと!一介の商人を覚えておいでですか!」
ジョシュアは驚きをそのままに、少し大袈裟なゼスチャーで表す。
「二人は顔見知りだったのか、少し意外だ」
イルミオが間に入って紹介をする。
「こちらは、ジョシュア・バートランと言って、南方の商人です。今は故あって、俺…私の従者となっております」
「どうぞお見知り置きを!」
と、ジョシュアは南方流のお辞儀をした。
「こちらは、男爵家の令嬢で聖女でもあるユリア・ド・ドルチェラン嬢」
「こちらこそよろしくお願いします」
ユリアも丁寧な礼で応えて、それからイルミオに向き直る。
「それで、お二人は何故こちらに?」
「少し長くなります、場所を変えましょう」
イルミオは自分たちが滞在している宿までユリアを案内した。
「それで、俺…私とジョシュアがここにきた理由ですが」
「ちょっといいですか?」
ユリアは宿屋の喫茶スペースで話を始めたイルミオを遮った。
「あの、俺って言っても大丈夫ですよ、それに、同級生じゃないですか、敬語もいらないです」
「有難いお申し出ですが、ユリア嬢も敬語で話されているじゃないですか、ユリア嬢こそもっとお気軽にお話下さい」
ユリアは少し考えてから頷く。
「じゃあ、そうする。だから、イルミオ様も敬語は使わないでね」
「分かった。正直、猫をかぶるのは得意では無いから助かる」
どちらからともなく笑い合う。
少し場が和んで、イルミオの肩の力が抜けた様子だ。
「端的にいうと、俺とジョシュアはユリア嬢を迎えにきた。西の森の調査に、聖女の力が必要なんだ」
「西の森というと、昔から魔物の出現が絶えないと聞くけれど…」
ユリアの言葉を受けて、今度はジョシュアが話し始める。
「それが、このところ魔物の数が増え、強さも上がっているみたいなんですよね。商人仲間の被害も、随分と出ているんです」
「何か切っ掛けでもあったのかしら」
「それを調査するために、うちの家門に出兵の命が降ったのだ」
「それは以前、イルミオ様が西の森で魔物の討伐に成功したから?」
「それもある、そして、西の森はカリーナの家の領地なんだ」
つまり、お前の嫁(仮)の家が大変らしいな。討伐経験のある息子も居るし、一丁、事態を治めてこいや!という王命である。
「とはいえ、単なる討伐ではなく、魔物が活性化した原因の調査となると門外漢も良いところだからな、魔塔にも協力を依頼した所、聖女の同行を条件に、協力をしても良いと言われたんだ」
イルミオはそこまで説明して、こちらの表情を伺う。
「西の森の調査に聖女の力が必要…イルミオ様、結構端折ったわね」
ただ、西の森に赴くに聖女の力を貸して欲しいのかと思ったら、そうではなかった。
本当は魔塔の力が欲しくて、そのエサとして私が必要だと理解した。
「正直、良い気分はしないけど、イルミオ様の顔を立ててあげる。ジョシュアさんと再開したのも何かの縁かもだしね」
タイランから聞いた、前世の出来事からしても、ここで同行せずとも、どの道森には向かうことになると知っている。
だったら、恩を売っておくのもいいだろう。
「ユリア嬢、恩に着る!必ず貴女のことは私が守るから安心して欲しい」
ホッとした表情で、胸を撫で下ろすイルミオに、ジョシュアが算盤を出して詰め寄る。
「そうと決まれば、ユリア嬢の旅支度の品を揃えないといけませんよ!今回はイルミオ様持ちでご用意なさるでしょ?」
「もちろん、そのつもりだ」
「では、相応のご予算で、この位でどうですか?」
素早い指捌きで金額を弾き出すジョシュアをユリアは止めた。
「必要なものは全て整ってるわ、消耗品を買い足す程度で良いの。それより、この地まで一緒に来ている侍女が居るんだけど、彼女も連れて行って良い?」
「旅の間は構わない。ただ森に入る時の同行は難しいと思うが」
「危険な森の中まで連れて行こうなんて思ってないもの、それで十分よ」
「分かった。では、明日から早速向かおう」
差し出された手を握り返して、新たな旅立ちのスタートに立った。
(学園モノの恋愛ストーリーのはずなのに、全然学園にいないなぁ)
と、頭に過ったが、それで良いのかもしれない。未来は確実に変わっていっているのだから。
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