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おまけ 1

デビュタント

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冬の始まりは社交シーズンの到来。
13歳の冬、私はデビュタントを迎えた。

デビュタントは2日に渡り開催され、身分ごとに会場が異なる。
王族と上流貴族貴族のグループでひと会場。
その他の貴族と騎士家の子供たちのグループでひと会場。
そして、富裕層の平民の子でひと会場と、厳格なボーダーが引かれている。

初日は、真っ白なドレスを身にまとい、会場に集う。
ここでダンスを一曲踊り切ることで初めて社交界に迎え入れられるのだ。

「どうぞ、よろしくお願い致します」
素朴だが、清潔感のある青年がユリアの前で胸に手を当ててお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
慌ててドレスをつまみ、膝を折る。

デビュタントの際に、婚約者のいる者は、その相手をパートナーとして同伴する。また、親族にパートナーとなってもらっても良い。
適当な相手がいない場合は、主催者側に申し出ると、パートナー役を用意してくれる。
ユリアは、手配してもらったパートナーのエスコートを受けてホールへと降り立った。

二度目のデビュタントは緊張もなく、ステップを誤ってパートナーの足を踏むこともなかった。
(一度目の時はガチガチに緊張して、何度もあの人の足を踏んだのよね)
役目を終えて、去って行く背中を見送りながら「前回ではごめんなさい」と、詫びた。

その後、王族からの祝辞を受ける。
前回と同じく、国王の従兄弟に当たる、グナイゼア伯爵が祝辞を代読した。
この際に、ユリアがギフト「聖女」を授かったことが公表された。
(前回は、注目されるかもって期待してたけど、肩透かしを食らったのよね)
それは先に公表された、タイランのギフト「空間転移」に対する衝撃と、伯爵家の令息であるタイラン自身への注目に掻き消されたからだ。
もとから知り合いでもない限り、一介の男爵家の令嬢なんて顔を覚えている人さえいないのだ。

祝辞の後は皆、二日目に備えて早々に帰路に着く。
当事者たちにとっては、明日が本番なのだ。

二日目は、カラードレスの着用が許されている。
令嬢たちは華やかに着飾り、会場を明るく染める。
ホールには始終音楽が鳴り続け、ダンスをする者、それを観覧する者、談笑に耽る者、また、美食に徹する者と皆パーティーの雰囲気をそれぞれに楽しんだ。

ユリアはというと、もちろん、立食コーナーで豪華な料理に舌鼓を打っている。
「あの、失礼ですがお一人でいらっしゃいますか?」
同じくデビュタントを迎えた少年が、ユリアの横に立った。
ユリアが視線を向けると、少し顔を赤らめている。
その背後に、仲間と思われる二人が見守っているのが見えた。
「ええ、そうです」
「そうですか…あのっ!良かったら、一曲お願いできませんか?」
「少々お待ちを」
手にした皿の肉をゆっくり食べ終えてから、ユリアは返事をした。
「構いませんよ、参りましょう」
「はい?あ、はい!」
待っている間、手持ち無沙汰にしていた少年が、慌ててエスコートの体制を取る。
曲の入れ替わりを見計らい、ホールの中程に進んでホールドを組む。
(前回、妃教育を受けたのはムダにならなかったわね)
ユリアのスムーズな足運びとは対照的に、パートナーの少年のリードはおっかなびっくりだ。
なんとか一曲踊りきって、礼をする。
「あ、あの!」
何かを言おうとする少年を掌で制して、ホールの脇まで誘導した。
「お話を聞く前に、先に言わせて欲しいことがあります」
「はい、なんでしょうか」
少年はユリアに素直に従う。
「まず、お皿を手にしている人に話しかけるのはマナー違反です」
(誰にも話しかけられない様に、わざと皿の中身を切らさない様にしていたのに、ビックリしたでしょ)
前世では起きなかった出来事だったために、ユリアは少なからず動揺していた。
「それから、曲中に口説き文句の一つも言えないなら、最初からナンパなんてしない事」
少年はビクッと、身をすくませた。
「す、すみませんでした!その、どうしてもお話ししてみたくて…」
「それで?貴方の仰りたかった事を伺いましょうか」
「いえ?あの、ぼくは…その、出直してきます!」
涙目で逃げ去る少年に「ええ、出直して下さいねー」と手を振った。
(こんな事ばっかり対処が上手くなっちゃったな)
男性に話しかけられるドキドキ感も、恋愛に対するワクワク感も、前世に置いてきてしまったのだと痛感する。

でも、これなら変に攻略対象と恋に落ちて身を焦がすことも無いだろうと思えた。
(私は誰とも恋愛せず、静かに平穏な暮らしを送るんだから)
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