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聖女と神殿とそして、
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浄化と修復は、日中と夜間に分けて交互に行われる事となった。
ユリアを含む浄化部隊は、日中に力を注ぎ、夜は魔力の回復をする。
リカルドを含む修復部隊は、浄化部隊のいない間に、分断した地脈の流れを修復し、日中は休む。
それぞれの作業を交互にすることで、龍も大地も、みるみる回復していった。
「タイラン、お迎えありがとう。お疲れ様」
「ボクは1日2回頑張れば良いだけだから、疲れてないよ。それより、ユリアこそお疲れ様」
夕方色の空が辺りを柔らかく染めている。
「何だか毎日ギリギリまで魔力を使うからか、また魔力量が増えた気がするの、今日なんかまだ元気よ!」
バシッと胸を叩いてユリアは踏ん反り返ってみせた。
「油断は禁物、リカルド先生に初日に怒られたでしょ?」
「あー、あれは怖かった!二度と馬鹿はやらないって、100回くらい反省させられたもの」
「うへぇ、リカルド先生怒ったら怖い系?」
「思い出したく無いくらいよ、優しい笑顔で言葉責め食らうんだから、トラウマよ、トラウマ!」
「そっか、そっか、ちゃんと肝に銘じてるなら良いんだ。じゃあ、戻ろう」
タイランの術によって、谷底から一瞬で、聖職者たちが野営基地に送り届けられる。
「そういえば、タイランも術の精度が上がってるよね」
「何回も利用してたら、容量が掴めたみたいなんだよね」
今までは、数回往復していたが、今では一度で浄化部隊を転移させることができるようになっていた。
ゲームでいう所の、スキルレベルアップのような事が起きているのかもしれない。
浄化部隊と修復部隊が連絡は、朝食から昼食にかけての数時間の間で行われる。
浄化部隊の報告をハリアスが、修復部隊の報告はリカルドが、自然と行うようになった。
「では、修復は順調ということですな」
「ええ、まだ魔素は堰き止めたままですが、大まかな地脈の流れは繋ぎ終わったところです。後は大地の龍の浄化が終わった後になるかと」
「こちらは、聖女様のお体の具合にもよりますが、この後の浄化作業をもって目処が立つかと。いやはや、聖女様は本当に素晴らしくていらっしゃる。本来なら秋の入りまでかかると見ておりましたのに、まだ中夏ですぞ!」
「ええ、本当に。お陰で修復作業を手がける者たちも、奮起させられましたよ」
「学園の卒業が、待ち遠しいですな。聖女様におかれては、その後、神職の道に進んでいただきますれば…と存じますなあ」
なんの悪気もなくハリアスから出た言葉に、リカルドは苦笑いする。
「さあ、どうでしょう?彼女の進路は彼女自身が決める問題ですからね」
「ふむ、左様ですな。これは私の単なる希望にございます」
「では、我々は休息に入ります。また、夕食の際に」
「ええ、お疲れ様にございました」
テントへと戻ったリカルドは、寝る前の束の間の時間、思いを巡らせた。
(今後、ハリアス殿のように、彼女の未来に関心を持つ者は増えるだろうな…)
強力な聖属性の魔力の持ち主。
ギフト「聖女」を神より賜った物。
今回の功績を持って、神殿からも列聖されるだろう。
名実ともに、まごう事なき聖女となるユリアは、きっと今後、政略に翻弄される事となるだろう。
有力な後ろ盾を持たない彼女では、きっとどうする事もできない。
(タイラン君なら守れるだろうか?)
ふと、そんな考えが浮かび、直ぐに打ち消した。
(いや…伯爵では、まだ弱い。相手が王族や神殿では守りきれない)
魔物の被害に苦しむ国は数多い。
聖女による瘴気の浄化を求めて、国家間での取り合いにでもなれば、伯爵家の力ではどうにもならない。
(ならば、私ならどうだろう?)
母は現国王の異母妹、そもそも父から五代遡れば、アルセイン家は当時の王弟が臣籍降下して開かれた家だ。
王族への発言権も大きい。
「馬鹿なことを…彼女は、大事な生徒だ」
彼女の生きたいように生きれば良い、自分はそれをできるだけ手助けしてあげよう。
ーーそうやって、生徒と教師って立場で感情を押し殺していいんですか!ボクが言いたい"好き"って感情はそう言うんじゃなくてーー
タイランの言葉が思い出される。
(分かっているよ、タイラン君。でも、私はね、そうして生きて行くんだ)
ふぅっと細く長い息を吐いて、そのまま意識を解放した。
思ったより疲れているようで、リカルドはすぐに眠りにつく事ができた。
ユリアを含む浄化部隊は、日中に力を注ぎ、夜は魔力の回復をする。
リカルドを含む修復部隊は、浄化部隊のいない間に、分断した地脈の流れを修復し、日中は休む。
それぞれの作業を交互にすることで、龍も大地も、みるみる回復していった。
「タイラン、お迎えありがとう。お疲れ様」
「ボクは1日2回頑張れば良いだけだから、疲れてないよ。それより、ユリアこそお疲れ様」
夕方色の空が辺りを柔らかく染めている。
「何だか毎日ギリギリまで魔力を使うからか、また魔力量が増えた気がするの、今日なんかまだ元気よ!」
バシッと胸を叩いてユリアは踏ん反り返ってみせた。
「油断は禁物、リカルド先生に初日に怒られたでしょ?」
「あー、あれは怖かった!二度と馬鹿はやらないって、100回くらい反省させられたもの」
「うへぇ、リカルド先生怒ったら怖い系?」
「思い出したく無いくらいよ、優しい笑顔で言葉責め食らうんだから、トラウマよ、トラウマ!」
「そっか、そっか、ちゃんと肝に銘じてるなら良いんだ。じゃあ、戻ろう」
タイランの術によって、谷底から一瞬で、聖職者たちが野営基地に送り届けられる。
「そういえば、タイランも術の精度が上がってるよね」
「何回も利用してたら、容量が掴めたみたいなんだよね」
今までは、数回往復していたが、今では一度で浄化部隊を転移させることができるようになっていた。
ゲームでいう所の、スキルレベルアップのような事が起きているのかもしれない。
浄化部隊と修復部隊が連絡は、朝食から昼食にかけての数時間の間で行われる。
浄化部隊の報告をハリアスが、修復部隊の報告はリカルドが、自然と行うようになった。
「では、修復は順調ということですな」
「ええ、まだ魔素は堰き止めたままですが、大まかな地脈の流れは繋ぎ終わったところです。後は大地の龍の浄化が終わった後になるかと」
「こちらは、聖女様のお体の具合にもよりますが、この後の浄化作業をもって目処が立つかと。いやはや、聖女様は本当に素晴らしくていらっしゃる。本来なら秋の入りまでかかると見ておりましたのに、まだ中夏ですぞ!」
「ええ、本当に。お陰で修復作業を手がける者たちも、奮起させられましたよ」
「学園の卒業が、待ち遠しいですな。聖女様におかれては、その後、神職の道に進んでいただきますれば…と存じますなあ」
なんの悪気もなくハリアスから出た言葉に、リカルドは苦笑いする。
「さあ、どうでしょう?彼女の進路は彼女自身が決める問題ですからね」
「ふむ、左様ですな。これは私の単なる希望にございます」
「では、我々は休息に入ります。また、夕食の際に」
「ええ、お疲れ様にございました」
テントへと戻ったリカルドは、寝る前の束の間の時間、思いを巡らせた。
(今後、ハリアス殿のように、彼女の未来に関心を持つ者は増えるだろうな…)
強力な聖属性の魔力の持ち主。
ギフト「聖女」を神より賜った物。
今回の功績を持って、神殿からも列聖されるだろう。
名実ともに、まごう事なき聖女となるユリアは、きっと今後、政略に翻弄される事となるだろう。
有力な後ろ盾を持たない彼女では、きっとどうする事もできない。
(タイラン君なら守れるだろうか?)
ふと、そんな考えが浮かび、直ぐに打ち消した。
(いや…伯爵では、まだ弱い。相手が王族や神殿では守りきれない)
魔物の被害に苦しむ国は数多い。
聖女による瘴気の浄化を求めて、国家間での取り合いにでもなれば、伯爵家の力ではどうにもならない。
(ならば、私ならどうだろう?)
母は現国王の異母妹、そもそも父から五代遡れば、アルセイン家は当時の王弟が臣籍降下して開かれた家だ。
王族への発言権も大きい。
「馬鹿なことを…彼女は、大事な生徒だ」
彼女の生きたいように生きれば良い、自分はそれをできるだけ手助けしてあげよう。
ーーそうやって、生徒と教師って立場で感情を押し殺していいんですか!ボクが言いたい"好き"って感情はそう言うんじゃなくてーー
タイランの言葉が思い出される。
(分かっているよ、タイラン君。でも、私はね、そうして生きて行くんだ)
ふぅっと細く長い息を吐いて、そのまま意識を解放した。
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