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ライバル宣言
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真上に有った太陽が傾く頃まで、浄化の作業は続いた。
「そろそろ魔力が…」
「私もです、もう、限界に近い」
ハリアスも額に汗を滲ませて、それでも周りを励ました。
「聖女様はお一人で浄化魔法をこれだけお使いなのです。我々は協力して結界を張っておるだけ、まだ頑張れるはずですよ!そして、我らの姿を神は見守ってくださっているのです」
空が紫に変わり始める頃、ふと、神の領域にかかる圧が弱まった。
神聖なる慈悲がその威力を失い、神聖印を染めていた輝きも点滅をし、ついには消えた。
「ぐるるぅぅ」
龍が身体を少し動かして隙間を作ると、ユリアがそこに倒れ伏していた。
「聖女様!誰ぞ聖女様をお支えなさい」
ハリアスの言葉で、若い男性神官が数人、弾かれたように駆け出した。
「魔力が極端に減退しておられる。ここまで絞り出せるとは…なんたる献身であられるか」
感心したようにハリアスは呟いた。
魔力を全て失うと命に関わる。
そのため、ある程度になると、身体が本能的に魔力の流出を抑えようとする。
そこを無理して絞り出すと、今のユリアのように気絶するのだ。
「今日の浄化作業は終わりかな?ユリア、迎えに来たよー」
空間転移してきたタイランが場の空気を察して、ユリアに駆け寄る。
「ユリア!大丈夫か?!」
「聖女様は気絶されておいでです、明日からは我らもご無理なさらないよう、もっと進言いたします」
ハリアスの言葉にタイランは食い気味に声を放つ。
「当たり前だ!もし、ユリアに何かあったらっ…!いや、うん、先ずはユリアをゆっくりさせてやらなくちゃだ」
ユリアを支えていた神官から引き離して、抱え上げる。
タイランはそのままユリアだけを連れて、野営基地に引き返した。
「おや?タイラン君、皆さんを迎えに行ったのでは?」
「先生、ユリアがこの通り、頑張り過ぎたみたい。一旦、テントに寝かせて来ます」
誰にもユリアを見せたくないという素振りで、一度も止まらず、リカルドの横を通り抜ける。
しばらくして、ユリアのテントから出てきたタイランはようやく足を止めた。
「とりあえず、聖職者たちを連れて戻ります。それから先生たちを送るんで、もうちょっと待っててください」
「タイラン君、ちょっと待って!」
リカルドが、今にも空間転移を始めようとするタイランを止めた。
「タイラン君、ここ数日ちょっと変ですよ。…上手く表現できませんが、焦っているような、苛立ってるような」
リカルドの言葉に、眉をピクリとさせて、タイランは応える。
「先生が…」
「私が、何かしました?」
「ボク、ユリアが好きです。先生もユリアが好きでしょ?」
リカルドは戸惑い、慎重に言葉を探して口に乗せた。
「大切な、生徒さんですよ。もちろん、君のことも大切に思って…」
「そうやって、生徒と教師って立場で感情を押し殺していいんですか!ボクが言いたい"好き"って感情はそう言うんじゃなくて」
首を傾げるリカルドの表情に、目を見開いたタイランは、ガシガシと頭を掻いて吐き捨てる。
「あー!クソっ、先生、無自覚だった??」
「無自覚…ですか?」
「そう!先生、ユリアのこと絶対好きですよ!愛とか恋とかそっちの方面の意味で、"好き"ね!」
(なんでボクが気づかせてんだよ)
心ではそう思いながら、口はとまらない。
「だって、この前の夜、星よりユリアを大事そうに見てた。昨日だって、ボクがユリアに触るたびに睨んでくるし」
「え?待ってください、え??」
少しずつ時間が経過する度に、顔が赤く染まっていくリカルドを見るに耐えられず、タイランは最後の言葉を残して転移した。
「分かったか!先生のばか。先生、これからはボクのライバルだからね!!」
「そろそろ魔力が…」
「私もです、もう、限界に近い」
ハリアスも額に汗を滲ませて、それでも周りを励ました。
「聖女様はお一人で浄化魔法をこれだけお使いなのです。我々は協力して結界を張っておるだけ、まだ頑張れるはずですよ!そして、我らの姿を神は見守ってくださっているのです」
空が紫に変わり始める頃、ふと、神の領域にかかる圧が弱まった。
神聖なる慈悲がその威力を失い、神聖印を染めていた輝きも点滅をし、ついには消えた。
「ぐるるぅぅ」
龍が身体を少し動かして隙間を作ると、ユリアがそこに倒れ伏していた。
「聖女様!誰ぞ聖女様をお支えなさい」
ハリアスの言葉で、若い男性神官が数人、弾かれたように駆け出した。
「魔力が極端に減退しておられる。ここまで絞り出せるとは…なんたる献身であられるか」
感心したようにハリアスは呟いた。
魔力を全て失うと命に関わる。
そのため、ある程度になると、身体が本能的に魔力の流出を抑えようとする。
そこを無理して絞り出すと、今のユリアのように気絶するのだ。
「今日の浄化作業は終わりかな?ユリア、迎えに来たよー」
空間転移してきたタイランが場の空気を察して、ユリアに駆け寄る。
「ユリア!大丈夫か?!」
「聖女様は気絶されておいでです、明日からは我らもご無理なさらないよう、もっと進言いたします」
ハリアスの言葉にタイランは食い気味に声を放つ。
「当たり前だ!もし、ユリアに何かあったらっ…!いや、うん、先ずはユリアをゆっくりさせてやらなくちゃだ」
ユリアを支えていた神官から引き離して、抱え上げる。
タイランはそのままユリアだけを連れて、野営基地に引き返した。
「おや?タイラン君、皆さんを迎えに行ったのでは?」
「先生、ユリアがこの通り、頑張り過ぎたみたい。一旦、テントに寝かせて来ます」
誰にもユリアを見せたくないという素振りで、一度も止まらず、リカルドの横を通り抜ける。
しばらくして、ユリアのテントから出てきたタイランはようやく足を止めた。
「とりあえず、聖職者たちを連れて戻ります。それから先生たちを送るんで、もうちょっと待っててください」
「タイラン君、ちょっと待って!」
リカルドが、今にも空間転移を始めようとするタイランを止めた。
「タイラン君、ここ数日ちょっと変ですよ。…上手く表現できませんが、焦っているような、苛立ってるような」
リカルドの言葉に、眉をピクリとさせて、タイランは応える。
「先生が…」
「私が、何かしました?」
「ボク、ユリアが好きです。先生もユリアが好きでしょ?」
リカルドは戸惑い、慎重に言葉を探して口に乗せた。
「大切な、生徒さんですよ。もちろん、君のことも大切に思って…」
「そうやって、生徒と教師って立場で感情を押し殺していいんですか!ボクが言いたい"好き"って感情はそう言うんじゃなくて」
首を傾げるリカルドの表情に、目を見開いたタイランは、ガシガシと頭を掻いて吐き捨てる。
「あー!クソっ、先生、無自覚だった??」
「無自覚…ですか?」
「そう!先生、ユリアのこと絶対好きですよ!愛とか恋とかそっちの方面の意味で、"好き"ね!」
(なんでボクが気づかせてんだよ)
心ではそう思いながら、口はとまらない。
「だって、この前の夜、星よりユリアを大事そうに見てた。昨日だって、ボクがユリアに触るたびに睨んでくるし」
「え?待ってください、え??」
少しずつ時間が経過する度に、顔が赤く染まっていくリカルドを見るに耐えられず、タイランは最後の言葉を残して転移した。
「分かったか!先生のばか。先生、これからはボクのライバルだからね!!」
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